駅のはずれ 『ムラサキの場合』
--- 薄暗い地下室 ---
「な~に、簡単なことさ。
ある男を始末して欲しい。
あんたにとっちゃ、屁みたいなもんだろ?」
アタイが指で挟んだタバコで三度笠の殺し屋を指差す。
「こちらのリスクが大きすぎませんか?」
三度笠の殺し屋が口を開く。
「そうか、分かった。
じゃあ選ばせてあげる。
依頼を受けるか、このまま2人で出て行くか」
「・・・・・。」
「このまま出て行って警察にでも行くといい。
全部話して捜査してもらうといいさ。
けどね、警察は優秀だけど、一つだけ欠点がある」
「欠点?」
「そう、
時間だよ。
手順を踏む捜査には時間が掛かるってことさ。
その点、アタイらには手順なんてもんは無い。
しかも地下にも裏にも情報網がある。
それに今回の件は身内の話だ。
警察が3日かかる所をアタイらなら数十分もあれば情報を得ることが出来るって事だよ。
ここでアタイらを選ぶか。
2人で外に出て警察を選ぶか。
ま、その場合は3日後にあんたらの友達がどういう形で見つかるかは知らないけどね」
「・・・・・。」
「こっちの要件をチャチャっと済ませりゃ、あんたらの知りたい情報を教えてやろうってなわけよ。
今の時代、戦って生き残るには時間と情報をいかに利用するかってことだよ」
「・・・・・。」
「どうする?殺し屋さん?」
さぁどうする?三度笠。
お前が本物だろうが偽物だろうがこの際どうでもいい。
ただ協力してくれれば儲けもの。
ついでに裏切り者もあぶり出せる。
こっちはそれだけの話だ。
どうする?
「わ、わかった・・・」
三度笠の殺し屋がつぶやく。
よし!
アタイとタツノスケは目を合わせて小さくうなずく。
「それじゃ、契約成立ってことで、そのスマホを渡してもらおうかね」
三度笠の殺し屋がスマホをアタイの前の机に置き、尋ねる。
「始末する相手は?」
「ゴンっていう元組長よ」
「元組長?」
「そうよ。詳しいことは省くわ。
簡単に言うと、ギャンブルに狂って組の金にまで手を出して破門された男よ」
「破門されたのなら始末しなくてもいいんじゃないんですか?」
三度笠の殺し屋がボサボサの前髪の中からグッとアタイを見つめてくる。
へ~。
この男、なかなかいい目してるじゃない。
「あのね、
元組長ってのが厄介なのよ。
自分の息のかかってた賭博場に今でも入り浸ってるわけ。
当然借金は膨らみ続けて、こっちとしては迷惑でしかないのよ」
「わかりました・・・
そのゴンって人は今どこに?」
「近くの賭博場よ。
タツノスケに案内させるわ。
それと、あんたのやり方に口を出す気は無いんだけど、顔は隠した方がいいわ。
あんたは若すぎるのよ。
それにこの世界で顔をさらすのは命にかかわるわよ。
タツノスケ、それを取って」
タツノスケが壁に掛けてある仮面を持ってくる。
「これをあげるわ。首狩り族の仮面よ。」
「首狩り族?」
「そう、南米の首狩り族の干し首よ。それを引き伸ばしてつなぎ合わせているのよ」
「干し首?」
「そうよ。この仮面を付けると2日後に呪われるっていういわくつきの仮面よ。すごいでしょ?」
ほんとかウソか知らないけどそれ、強烈に臭いのよ!
旦那がどっかから貰ってきて飾ってたけど、部屋がめちゃくちゃ臭くなるのよ!
しかもすっげー気持ち悪いし!
「あ、それと、その子はここに居てもらうわよ」
アタイが三度笠の殺し屋の横にいる女を指差す。
「え!?」
三度笠の殺し屋が驚く。
「まさかとは思うけど、一応、保険ってことね」
当然でしょ?
あんたを裏切らせない為の用心よ。
「タツノスケ。
あんたは殺し屋さんと一緒に行きな。
しっかり最後まで見届けるんだよ。
それと、あんたの後ろを任せられる、信用できる男を一人呼んでおくれ」
「分かりました姐さん。
すぐにマサを呼びます」
「それじゃ、頼んだよ」
タツノスケと三度笠の殺し屋が部屋から出て行く。
「あ、あの~・・・」
女がつぶやく。
「なんだい?」
「えっと、トイレお借りしてもいいですか?」




