放課後の校舎 4階渡り廊下 『ナジミの場合』
--- トキオの家 ---
「・・・好きな人?
えっと、ハナちゃん・・・」
はぁ!?
何なのこいつ!
トキオの分際で!
おめぇ、諦めたって言ってただろうが!
オレさぁ全然話しかけられないからもうダメだ~とか言ってただろうが!
だいたい幼馴染が「好きな人いるの?」て聞いたら、
「お前だよ」ってのが決まりだろうがぁ!
なめてんのか?
おちょくってんのか?
いいだろう。
そっちがそう出るならアタシにも考えがある。
「トキオ、あんたそろそろ誕生日でしょ。
だからドッキリプレゼントをお見舞いしてやるよ」
「何よドッキリプレゼントって?」
ちっ!
何だトキオ!その興味なさそうな態度は!
よかろう、覚悟しなさい!
「アタシがハナちゃんにラブレターを書いてあげるってわけよッ!」
フハハハハハ!
楽しみしてろよ!トキオッ!
ナジミは一気にオレンジジュースを飲み干す。
--- その夜 ---
さぁまずは紙。
このA4コピー用紙だ!
これにこの油性マジックで、
書く!
おりゃぁ!
全部ひらがなぁ!
後はトキオの名前を!殴り書きぃ!
『あいしてるぜ、ベイビィ!
オレとつきあってくれベイベー!!
3年3組 相田トキオ』
・・・できた。
できたぞ。
このラブレターらしからぬラブレター。
全く愛を感じないラブレター。
玉砕間違いなし!
最高だ。
う!
写った!
机に油性マジックの後が写った!
なんか薄っすら読めるし。
まあいい。
で、これをだ、
絶対にラブレターが入っているとは思えない白い封筒。
このどこにでもある一見なんかの書類が送られて来たかのような白い封筒に、
ざっくり折り曲げて、入れる!
完成だ。
フハハハハハ!
--- 数日後 授業中 ---
「先生!トイレ行ってきていいですかー?」
よし!
楽勝!
まずは授業中に抜け出す事に成功!
アタシは念入りに計画を立てた!
後は実行あるのみ!
ハナのいる3年1組は体育の授業中だ!
よし!
いいぞ、思った通り教室には誰もいない!
そしてこの机がハナの机だ・・・
当然アタシは偵察に来てハナの机の場所は把握している!
抜かりはない!
で、ここからがサプライズの始まりだぜ!!
ハナの後ろの席が成績トップクラスの、何とかって子だ!
この成績トップクラスとハナはいつも一緒にいる大親友!
ふへへ、アタシの調べは完璧!
この成績トップクラスの鞄に、
このラブレターを入れて・・・と、よし!
この相手を間違えちゃった作戦のためにラブレターに宛名は書いていない!
だが、トキオの名前は書いている!
だから悪ふざけなのかどうか分からない!
これで絶対にひと悶着起こること間違いなし!
ぬぉぉ!アタシ最強ッ!!
恐らく成績トップクラスは親友のハナに相談する。
いや絶対する!
そして相談されたハナはこの手紙を見る。
当然ハナのトキオに対する印象は地に落ちる!
奈落の底に!
完璧に!
そう!アタシの計画に狂いはない!
フハハハハハ!
思い知るのだ!トキオッ!
--- 4階渡り廊下 ---
どこまで行くんだトキオ。
4階か?
ほほう、この渡り廊下で話をする気だな?
お!
ハナと成績トップクラスだ!
もう二人は来ている。
思った通りだ!
でもこれ以上近くには寄れない・・・
だがしかーし!
こんな事もあろうかとアタシは放送部から拝借してきたのだぁ!
ガンマイクセット!!
特定の音源をピンポイントで捉える、
テレビの生放送とかで時々映りこむブラックの細長いやつ!
まさに狙った獲物は逃がさないジャガーの様なやつ!!
そしてスゲー重たいその他もろもろの機材。
さらにこの巨大なヘッドホン。
まあいい、
装着。
そして、確かこれをこうして、電源を入れて、
このガンマイクを扉の下の方から3人に向けて、と・・・
お!
やべぇ!
見られたか?
トキオに見られたか!?
まあいい。
さぁ~て、待ちに待った打ち上げ花火のスタートだ!
『相田くん!どういう事か説明してくれる!?』
おお。
聞こえる、
聞こえるぞ!
今まさに青春の導火線に着火しようとしている!
『人の物勝手に触るって!気持ち悪いんですけど!!』
き、来た!来やがった!
打ち上げ花火が!
後はこの青春という大空に大輪の花を咲かせるのだ!
さぁどうするトキオ!
この地獄の舞台からどうきり抜ける!
散れ!
美しく散るのだ!!
『あの・・・いたずらじゃないんですよね・・・手紙』
『あ、えっと・・・いたずらじゃ・・・ないよ』
『だったら・・・
お願いします。
お付き合い・・・』
へ?
口をパカンと開けたナジミが固まる。
巨大ヘッドホンを装着しガンマイクを構えたナジミが固まる。