放課後の校舎 4階渡り廊下 『トキオの場合』
そして、やりやがった・・・
・・・どうすんだよこれ。
何が「ドデカイ花火をお見舞いする」だ!
ハナちゃん、めちゃくちゃ怒ってんじゃねぇかよ!
はぁ・・・
ほとんど話しなんかしたことねぇのに。
憧れのハナちゃんとの最初の会話がこれかよ。
ま、でも怒ったハナちゃんもかわいいなぁ~!
ん!!なっ!
ナジミ!?
あ、あいつ!見てやがる!
あの野郎!奥の扉からチラチラ見てやがる!
ナジミめ!
そんな所に隠れて何やってんだ!
う!?な、何だ!
その巨大なヘッドホンは!
でっかいヘッドホンなんか付けて一体なにをしている!ナジミ!!
ぬぉ!
何だその変な黒い棒は!!
ナジミ!
お前は一体なにをしているんだぁ!!
「相田くん!どういう事か説明してくれる!?」
うわぁ!
ハナちゃんさらに怒ってる!
さらさらのロングヘアーが横風でゆらめいてる!
真っ赤になったハナちゃんかわいい~!
というかカッコイイ!
・・・ふっ。
ま、これで終わりだ。
今まさにオレの一目惚れの恋が終わる。
悲しすぎる結末の2年間の片思い。
時々ハナちゃんと目が合ったかのような感覚を味わい、
ちいさな幸せを感じていたこれまでの日々・・・
へへ、本当に花火のように散りやがったぜ・・・
さようなら・・・ハナちゃん。
そして今までありがとう・・・ハナちゃん・・・
ハナちゃん・・・
「ユイから話を聞いて相田くんを呼び出したのよ!」
ん?
「ユイ、人見知りだから付いてきてって頼まれたの!」
え?
ユイ?誰?
ハナちゃん何言ってんの?
「私は絶対にいたずらだから無視すればいいって言ったんだけど、
ユイが確認したいって言うから一緒についてきたの!」
いたずら?
へ?
どういう事?
隣の下向いてるおさげの子が、ユイ・・・ちゃん?
「ていうか、相田くんあなた3組よね?
違うクラスに入ってユイの鞄を勝手に開けて手紙入れたの?
最低なんだけど!!」
は?
これって・・・あれか?
ナジミが・・・渡す相手間違えてる?
しかも勝手に鞄を開けたことになってる?
相当やばくね?これ・・・
「人の物勝手に触るって!気持ち悪いんですけど!!」
うわぁぁ、
どうすんだよ、これ!
どうすればいいんだよ!
ハナちゃんの目が!
ゴミを見るような目に!
隣のおさげのユイちゃん?は下向いちゃってるし・・・
どうする!
何か言わなきゃ!
「そもそも相田くんって、ほんとにユイのこと好きなわけ?
普通好きな人にこんな手紙書く!?
わけわかんないんだけど!!」
止まらない!ハナちゃんが止まらない!
ハナちゃんの眉間が金剛力士像みたいになってる!
何か言えオレ!
言え!
言うんだ!でも・・・
「なんなの!ベイベーって!!
しかもマジックで!
絶対あたまおかし、」
「あの・・・おねがいします・・・」
金剛力士ハナちゃんの怒りを遮っておさげのユイちゃんがささやいた。
オレと金剛力士ハナちゃんが同時におさげのユイちゃんを見る。
「あ、あの・・・」
おさげのユイちゃんが上目づかいにオレを見つめてつぶやく。
メガネをかけてマスクをしている。
前髪とメガネとマスクで顔の表情はほとんど分からない。
そのメガネ越しに小動物の様な目でオレを見つめてくる。
金剛力士ハナちゃんはおさげのユイちゃんを見たまま動かない。
「い、いたずらじゃないんですよね・・・手紙」
おさげのユイちゃんはささやくような声だが真っ直ぐオレを見つめてくる。
3人の時間が一瞬、止まる。
「あ、えっと・・・いたずらじゃ・・・ないよ」
言えるわけねえ!
言えるかよ!
オレんちの向かいに住んでる女が勝手に人の鞄にラブレター入れたなんて!
しかも違う人の鞄に!!
「だったら・・・
お願いします。
お付き合い・・・」
「えっ!!?」
えぇっ!!!?
金剛力士ハナちゃんがロングヘアーを振り乱して叫ぶと同時に、
オレの心の中でも同じ叫びがこだまする。