駅前のカフェ 『~ モノローグ ~』
駅前のカフェ『強盗の場合』
くっそー!!
どうしてこうも上手くいかないんだ!!
だからワシは強盗なんてやりたくなかったんだよ!!
「あの、小銭もですか?」
店主がレジの金を袋に詰めながらワシに聞いてきた。
「全部だ!!早くしろ!!」
あったりめーだろーが!
こうなったら1円でも多く取らねぇと割に合わねぇだろうが!!
ジャラララシャリイーン!!
店主が小銭をワシに投げつけてきた。
「な、何すんだてめー!!!」
じょ!冗談だろこいつ!
なにさらしやがる!!
てめぇ!ぶっころ、
!!!?
な!
「なんだ!お前は!!」
ワシは目の前の光景を疑った。
ありふれた日常とは到底かけ離れた異様なモノ。
現実とは思えない怪奇極まる空間に吸い込まれた感覚。
ボロボロの服に三度笠。
バスタオルのマント。
左手に野球のグローブ。
口にはストロー。
そしてスッぱい臭い。
現代に蘇りし木枯らしの渡世人。
そう木枯し紋次郎・・・
いや、いや、違う!違うぞ!!
何だ!?
なんでこんな奴がカフェにいるんだ!?
いっつも居るのか!?
用心棒か!?
このカフェの用心棒か!?
「てめぇ!
ふざけやがって!!!」
ワシは銃口を向ける!
「う、う、撃つぞ!!!」
現代に蘇りし木枯しの渡世人が野球のグローブを構えてゆっくりと近づく。
「く、く、来るな!!撃つぞ!!」
カチッ!!
駅前のカフェ『トキオの場合』
「よし!これでいい!トキオ!
さぁ!行って来いッ!!」
ナジミがオレの背中を蹴飛ばす。
ドガッ!!
ぅあああ!!
や!やめろナジミ!!
オレはエビぞりながらヘルメット野郎へと向かう。
「な!!
なんだ!お前は!!」
店主から小銭を浴びたヘルメット野郎がよろめきながら叫ぶ。
・・・おいおいおい。
ヘルメット野郎がオレに銃向けてんじゃねぇか。
野球のグローブなんかでどうすりゃいいんだ?
この銃本物だったらオレ終わるぞ?
「なんだてめぇ!
ふざけやがって!!!」
ヘルメット野郎が叫びながら銃を両手で構える。
銃身が震えている。
・・・うわあ、
なんかこの銃、本物なんじゃねぇの?
いや、本物の銃なんて見たことないけど、
なんか本物っぽくね?
ああ、
オレ、終わる、終わるのか・・・
オレは野球のグローブで銃口を覆う。
銃に対して全く意味の無いせめてもの抵抗だ。
「う、う、撃つぞ!!!」
ヘルメット野郎のわずかに開いたフェイスシールドから汗まみれの震える頬が見える。
おわるのか・・・オレ・・・
好きな子に振られて、
三度笠かぶって、
背中蹴られて、
スッぱい臭いまき散らして、
終わるのか・・・
カララン♪
「うぉおおりゃああああ!!!」
扉のカウベルの音と叫び声がした。
同時に若い警官が飛び込んできた。
駅前のカフェ『年配警察官の場合』
全くこんな時に何で自転車パンクしちまってんだ。
いくら近くのカフェだからってこの年で走るのはこたえるだろ。
『せせ先輩!銃を向けてます!どうぞ!!』クッ
「誰に!?」クッ
『こが、木枯らし紋次郎に!!どうしますか!?突入しますか!?どうぞ!」クッ
さっきから木枯らし、木枯らしって何言ってんだこいつは。
「くそ!今そっちに向かってる!! ちょっと待て新人!!」クッ
ダメだ!早まるなよ新人!!
もう見えてる!すぐそこだ!!
『せ先輩!!ダメです!突入します!どうぞ!』クッ
前方に、カフェの扉を開け低い姿勢で突入する新人が見えた。
「ばか!よせ!新人!!」
駅前のカフェ『新人警察官の場合』
「せ、先輩ダメです!突入します!どうぞ!」クッ
「ばか!よせ!新人!!」
うぉおりゃ突入ぅー!!!
カララン♪
「うぉおおりゃああああ!!!」
飛っべぇぇええー!!!
ヘルメットの男にィ!!
タックルぅぅうー!!
おっわぁあああ!!!
木枯し紋次郎も巻き込んだぁああ!
放すかぁ!!
放してたまるかぁあ!!
ぅ、くせ!
なんかスッぱ臭ぇ!!
駅前のカフェ『トキオの場合』
「く、く、来るな!!撃つぞ!!」
カチッ
ヘルメット野郎が引き金を引いた。
あ、これ・・・
撃針の音だ・・・
不発?・・・
あれ?横から・・・
警官が・・・
飛び込んで・・・
ドガッ
何だ・・・
この衝撃・・・タックル・・・?
うわあオレ、斜めに倒れてる・・
あ、これ、もうすぐ頭を床にしこたま打ち付けるやつだ・・・
痛ったいだろうなあ・・・
あっ、三度笠が外れた・・・
あれだけ固結びでほどけなかったのに・・・
あ、グローブも・・・
ストローも飛んでった・・・
?・・・
え?・・・
あれ?なんか・・・
なんかふんわりする・・・
そうか・・・オレ、おわったのか・・・
駅前のカフェ『ユイの場合』
「あ・・・
妹です」
え?何?
突然トキオくんの横に来て色々やって、
トキオくんの背中を蹴飛ばしたこの子が、
妹?え!?
「どうして・・・ここに?」
「えへへ、
あ、えっと・・・ついて来ちゃいました。
お、お兄ちゃんに」
妹さんは大きめのサングラスを外しながら笑った。
というか、なに笑ってるの!
笑い事じゃないよ!!
ト、トキオくん!!?
え!?
やだ!!拳銃!!
トキオくんが!
撃たれる!!
「だめぇぇえー!!!!」
私は飛び出した。
無我夢中だった。
カララン♪
「うぉおおりゃああああ!!!」
扉から突然現れた警官が、強盗とトキオくんに飛びかかった。
三度笠やグローブが衝撃で吹き飛ぶのが見えた。
私は斜めに引き倒されるトキオくんの下に滑り込んだ。
一心不乱にトキオくんの上半身を抱きかかえた。
軽い衝撃を感じた。
視界の端にトイレから出たハナちゃんが、叫びながら向かって来るのが見えた。




