駅前のファミレス 『 マモルの場合 』
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押してください」
水とメニューを持って来た女性の店員は、そう言うと厨房の方へと帰って行く。
「いいのか?ファミレスで?」
俺がクレナイに聞く。
「それ、どういう意味?」
ごきげんな様子でメニューを見ながらクレナイが言う。
「あ、いや、お前・・・よく来るのか?
こういうところ・・・」
「来ないわよ。
私、ファミレスって久しぶりだから、ワクワクしてるのよ」
クレナイはメニューから目を離さない。
「で、話って何だ?」
俺が聞くとクレナイが、ギロッとにらむ。
「なによ!まだ何も頼んでないじゃない!
まず、注文してからよ!
話しはそれから!いいわね?」
「ああ・・・」
「マモル。あなた全然メニュー見てないけど、決まってるの?」
「ハンバーグ定食だ」
「チーズは?」
「え?」
「チーズ入りじゃなくていいの?」
「いい」
「今日は私のおごりだから遠慮しないでいいのよ?」
何だ、この女。
こんなにもラフな感じで喋るのか・・・
こうして見ると、ごく普通の女性にしか見えない。
だがそれが、目立たない最良の方法でもある。
「いいよ、おごらなくて・・・」
「ダメよ。私が誘ったんだから・・・
あ!そうだ!
それじゃあ、」
「何だ?」
「あなた言ってたわよね。
次に会う時は決着をつけるって」
「そう、だな・・・」
「じゃ、決着をつけましょう」
「え?」
「このボタンを押して、注文を取りにくる店員が、男か女か当てるの。
負けた方が、夕食をおごる。
どう?」
フッ、
何でも勝負にしたがる女ってことか。
「いいだろう」
俺はそう言って店員のいる厨房を見ようとする。
「ダメよ!マモル!見ないで!」
クレナイが俺の視線を戻す。
この女・・・
そうか、なるほど・・・
「お前、店に入ってすぐに、客と店員を確認したのか?」
「しないわよそんな事」
「よく言うだろ?
お前みたいな仕事のヤツは、
店に入ると客と店員の数、それから逃げ道の確認をするって」
「映画の見過ぎよ。
でも、窓のない壁際に座るようにはしてるわね」
「そうか・・・」
確かにクレナイは、窓のない壁際に座っている。
「それじゃ、あなたが先に選んでいいわよ。
男?女?どっち?」
「ちょっと待ってくれ・・・」
最初に水を持って来たのは女性の店員だ。
コース料理の店になるとテーブルごとに専属のウエイターが付くことがある。
だがここはファミリーレストランだ。
恐らく手の空いた店員が来る。
そうなると男と女、どちらでもあり得る。
俺のわずかな記憶の中では、店内の店員は男3人、女1人だったように思う。
人数だけで見ると男の方が多い。
しかし、最初に接客した女の店員が来る確率も高い。
「どう?決まった?」
「・・・女だ」
「そう。本当にそれでいいの?
今ならまだ変えられるわよ」
「変えなくていい。女だ」
「そう、わかったわ。
それじゃ、押すわね」
ピンポーン!
クレナイが俺の目を見たまま微笑む。
俺もクレナイの目から視線を離さない。
店員の足音が近づく。
「ご注文、お決まりでしょうか?」
男性の店員が注文を取りに来た。
--- 注文後 ---
「知ってたのか?」
男性の店員が去った後、俺がクレナイに聞く。
「こっちから見えてたの。
さっきの女の店員が接客してるのが・・・」
「そうか・・・」
「だから言ったでしょ。
変えてもいいって・・・」
「こういうのは変えると後悔することが多い」
「でもチャンスは与えたわよ」
「そうだな。
でも俺は変えない」
「へ~、そうなのね。
ま、とにかくそういう事で、マモル。
今日はあなたのおごりよ」
「分かったよ」
「後で、デザートも頼んでいい?」
「ああ、好きにしろ」
「やった!
男っぷりがいいねぇ!マモル!」
「で、話しってのは何だ?」
「依頼があったの」
「どんな?」
「あなたを殺せって」
え?




