放課後の校舎 4階渡り廊下
4階の渡り廊下。
女子生徒が男子生徒に向かって白い封筒を突き出す。
「これ!本物なの!?」
さながら荒野の決闘である。
「本物と言えば・・・本物・・・」
男子生徒がつぶやく。
ガサガサ!
女子生徒は手荒に封筒から手紙を取り出す。
無表情で手紙を広げると男子生徒に再び突き出した。
『あいしてるぜ、ベイビィ!
オレとつきあってくれベイベー!!
3年3組 相田トキオ』
手紙にはマジックで殴り書きされた巨大な文字が書かれていた。
男子生徒がたじろぐ。
手紙を突き出した女子生徒の視線が突き刺さる。
その隣には静かにうつむく女子生徒。
渡り廊下の扉の奥に潜む人影。
季節は春。
まだ肌寒い日のことである。
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放課後の校舎 4階渡り廊下 『トキオの場合』 前章
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オレの憧れのハナちゃん。
つややかなロングヘアーのハナちゃん。
憧れのあまりほとんど話しなどしたことのないハナちゃん。
高校一年の時、同じクラスになり一目惚れしたハナちゃん。
そのハナちゃんが、鬼の形相でA4コピー用紙に殴り書きされた手紙をオレの顔面に印籠のように突き出している。
『あいしてるぜ、ベイビィ!
オレとつきあってくれベイベー!!
3年3組 相田トキオ』
な!・・・何だ、何だこれは!!
何だこの頭悪そうなラブレターは・・・
全部ひらがな・・・
違う!違うんだハナちゃん!
それはオレが書いたんじゃないんだ!
くそ!あいつめ!あの野郎!
やりやがった・・・
--- 数日前 トキオの家 ---
「トキオあんたさぁ好きな人とかいんの?」
ナジミは、当たり前のように冷蔵庫を開け、
当たり前のように紙パックのオレンジジュースを取り出す。
「は?何だよそれ?」
オレはテレビのゲーム画面を見たままコントローラーをカチャカチャ動かす。
「いや、だから好きな人がいんのか聞いてんのよ」
ナジミは、当たり前のように食器棚からコップを取り出し、
当たり前のように紙パックのオレンジジュースを注ぐ。
ここはオレの家。
ナジミの家は道路を挟んだ向かいにある。
目の前の家だ。
年齢は一つ下で幼稚園の時に知り合った。
そしてその頃からオレの家に入り浸っている。
妹の様なものだ。
妹の様なものなのだが、本人は姉だと思っている。
いや、オレを家来だと思っている。
そして小学校も中学校も高校も同じ。
学年が一つ下なのがせめてもの救いだ。
「・・・好きな人?
いる・・・かな?」
オレはゲームのコントローラーをカチャカチャ動かす。
「え?誰?」
ナジミは紙パックのオレンジジュースを冷蔵庫に戻す。
「1組の、子」
「だから誰よ?」
ナジミは興味津々でジュースを片手にオレの横にちょこんと座る。
オレンジ色のリボンで結んだポニーテールが振り子の様に揺れる。
「えっと、ハナちゃん・・・」
オレがつぶやく。
「ハナちゃん?
へぇ~まだ好きなの?
トキオあんた諦めたんじゃないの?」
ナジミがグイっと覗き込んでくる。
「あ!ミスった!何なんだよ」
オレはゲームのコントローラーを放しナジミから少し距離をとる。
ナジミは不敵な笑みを浮かべる。
「トキオ、あんたそろそろ誕生日でしょ。
だからドッキリプレゼントをお見舞いしてやるよ」
「何よドッキリプレゼントって?」
ナジミはジュースを片手にスクッと仁王立ちになり更に不敵な笑みを浮かべる。
「アタシがハナちゃんにラブレターを書いてあげるってわけよッ!」
ズバッとオレを指差すナジミ。
同時にポニーテールがゆれる。
「トキオ!あと一年であんたのその何の変哲もない青春は終わる!
みじめじゃない?そんなクソみたいな青春!
だからここらでドデカイ花火をお見舞いしてやろうってなわけなのよ!!」
「やめろよ・・・そんな事すんじゃねぇぞ!」
いや・・・
こいつはやる・・・