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【書籍化】錬金術師カレンはもう妥協しません【2巻発売・コミカライズ】  作者: 山梨ネコ
第七章 真なる狩猟祭編

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図南の成り上がり者

「っていうわけで、この度偉くなったので、今この店にいる人はみんなわたしのおごりだー!!」


カレンの言葉に昼時で活況の店内には控えめな歓声が上がった。


「カレンそれ、飲み屋でやるやつだよね……パン屋でやることじゃないよ? あっ、様ってつけるべきかな?」


慌てて口を閉じるフィーネに、カレンはカウンターにもたれて笑った。


「いいよ、ため口で。冒険者街の居酒屋でもみんなにいいよって言ってきたし」


これは成り上がり冒険者がよくやる、成り上がり者ムーブである。

このパン屋だけでやったわけじゃない。

カレンは馴染みの店には大体顔を出してきた後である。


「わたしだけじゃなく、みんないっしょ、ってことだね」

「そういうこと」


これは特別扱いなんかじゃない。

みんな同じ扱いで、特別カレンと親しいから、というわけじゃない。


「カレーパンをたくさんちょうだい! しばらく食べられないの!」

「カレ()パンね。今揚げてるところだから、揚げたてを持ってきてあげる」


すました顔で一部を強調するとフィーネは立ち上がった。


「えっ、動いて大丈夫? わたしが自分で取ってくるよ? そもそも、店番してて平気なの?」

「これくらい大丈夫だよぉ」


カレンの気づかいを笑いながらフィーネがカウンターを離れて奥に引っ込んでいく。

すぐにフィーネはお盆いっぱいのホカホカの揚げパンと――赤子を抱いたリーヌスを連れて戻ってきた。


「あっ! 赤ちゃん!」

「抱いてやってくれよ、カレン」

「……いいの?」


カレンはパン屋に来ることはできた。

だが、二人の子に会いに来てはいけない気がしていた。


新年祭の後ぐらいに生まれたことは風の噂で聞いていた。

けれど、カレンは何のお祝いもしなかった。

躊躇うカレンにフィーネは柔らかく微笑んだ。


「もちろんだよぉ」

「この子もカレンみたいに将来偉くなりますように、なっ!」

「カレンに抱いてもらえたら、あやかれそうだもんねぇ。ただ、偉くなってくれても嬉しいけど、元気でいてくれたらそれだけでいいよねぇ? リーヌス」

「それは当然!」


フィーネにじっと見つめられ、リーヌスは何度もうなずいた。

カレンの出世ぶりにあやかるために我が子を抱かせたいと思うのは、きっと平民として普通の心情だろう、と。

言い訳を用意してくれた二人に甘えて、カレンはそっとリーヌスから赤子を受け取った。


生まれたばかりのはずなのに、毛布にくるまれた二人の子はカレンが思ったよりもずっと重たい。

そして、眠っているからかとても温かい。

髪色はリーヌスの赤毛に似ていて、目の色は閉じているからわからない。

カレンの腕に移されても泣くこともなく、ふにゃふにゃ言いながら眠っている。


その寝顔を見つめて、カレンはぽつりと呟いた。


「かわいい……」

「ふふ、ありがと。抱っこ上手だねぇ、カレン。赤ちゃんは頭を支えないといけないの、よく知ってるねぇ」

「カレンは何でも知ってるよなぁ。おれなんて、まだうっかり頭を支えるのを忘れて怒られててさぁ……本当にごめんなさい」


フィーネにじっと見つめられてリーヌスが謝罪する。

これまではふわふわしているフィーネがへらへらしているリーヌスに押し切られることが多々あったものの、こういう形でまとまったらしい。


「母は強し、ってやつだね」

「本当にそうなんだよ……」

「二人とも何の話をしてるの?」


フィーネ本人はきょとんと目を丸くしている。

カレンはリーヌスと共に吹き出した。

そうやって大人たちが頭の上で会話していても赤子は起きることなく眠っている。


「この子の名前、なんていうの?」

「当ててみて? ちなみに女の子だからねぇ」

「当てる??」

「実はね、この子の名前はナタリアさんに付けてもらったの」

「ナタリアが二人の子の名付け親?? そんなに仲良かったっけ?」


もちろん、カレンは平民学校でナタリアと仲がよかったし、フィーネとも仲がよかったから、二人が話す機会もあった。

だがフィーネはナタリアのきらびやかな家柄に気後れしていたし、ナタリアも自分からぐいぐいと行く性格ではない。


「実はねぇ、うちのパンをよくナタリアさんにお届けしてるんだよね」

「そうなの!?」

「へへ、おれが売り込みに行ったんだ。錬金術ギルドからレシピも購入させてもらってるしさ」


リーヌスが得意げに言う。

そんなリーヌスをフィーネは誇らしげに見上げた。


「そう。リーヌスのおかげでナタリアさんと縁ができたんだよ」

「今日も届けに行ったんだけど……なんか疲れきった顔してたんだよな」

「わたしのせいで色々と大変みたい」


カレンの環境は大きく変わり、その手続きをすべてナタリアが引き受けてくれたためだ。

エーレルトと連携はしているらしいものの、ナタリアが主軸である。

カレン本人はといえば、「あなたは錬金術に集中すればいいのよ! こういう時のために私がいるのっ!!」と血走った目で言うナタリアに圧倒されて荷造りなどしつつ、普段通りに過ごしている。


「おれがパンを届けたら半泣きで、片手で食べられるパァン、って言ってた」

「パァンかぁ。次は一口サイズのサンドイッチとか、作ってあげたら喜ばれそう。野菜を挟んでね」

「なるほどな。野菜入りのサンドイッチか」

「果物とかもいいかもね」


リーヌスがメモを取る。

配達するリーヌスが状況を伝え、フィーネがアイデアを出して、忙しいナタリアを支えているらしい。

三人が仲良くなった様子をある意味目の当たりにしつつ、カレンは赤ちゃんを見下ろして首をひねった。


「ナタリアが付けそうな名前、かぁ」

「由来は、ナタリアさんが担当してる中で、一番出世した錬金術師だそうだよぉ」

「え……?」

「そのままおんなじ名前じゃないけどね。でもね、響きが似てて、とってもきれいな名前なの」


カレンが顔を上げてフィーネとリーヌスを見ると、二人もカレンを見て微笑んでいる。


「まさか……」


カレンはぽかんと赤子を見下ろした。



SQEXノベル様より2月6日『錬金術師カレンはもう妥協しません2』出版されました。

ぜひお手にとっていただけましたら幸いです。

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『錬金術師カレンはもう妥協しません1』小説発売中!
錬金術師カレン1
― 新着の感想 ―
もう、カレーちゃんやな カレイちゃんだと、ヒラメちゃんみたいになりそうやしな
ストレートにカレーパン
ナタリアも、平民学校に入学する頃からすると信じられないくらい変わったんだろうなぁ…。 10年後くらいに、二人で飲みながら「あの時は大変だった」エピソードとして盛り上がって欲しいですねぇ。
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