魔力無しの夢3
「――恐らく、私が接触している者たちはカレン様の言う、賢者の石を作ろうとしている者たちとは違います」
「えー!?」
カレンは思わず声を上げた。
「で、でも! この魔力がマイナスレベルのこのメダル、これは暗夜の子どもたちの作った代物ですよね!?」
「そうなのかもしれません。彼らも明言はしたがりませんが、取引くらいはしているようです。ですが私の接触している方々は、暗夜の子どもたちではないのです」
「暗夜の子どもたちじゃ、ない?」
カレンは目を丸くした。
「虐げられている魔力無したちが身を寄せ合って慎ましく生きている、隠れ里の人々なのです。とてもではありませんが、賢者の石を作ろうなどと大それたことを考えているはずもない素朴な人々です」
「院長先生には言っていないだけかも――」
「カレン様、この世には普通の方々が見て見ぬふりをしているだけで、意外と数多くの魔力の無い人々がいるのですよ。彼らはそれぞれの考えを持ち、いくつかの集落を形成していて、彼ら同士で争い合ってもいるのです」
食い下がろうとしたカレンに、体を起こしたオーガストはきっぱりと言った。
カレンははっとした。
「……魔力のあるわたしたちと、同じように、ってことですか」
「ええ。私が知るのは隠れ里の人々だけです。そして、暗夜の子どもたちとはむしろ敵対しております。彼らは子どもを道具のように扱いますから……」
オーガストはそう言って苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そういえば、暗夜の子どもたちの子どもたちの誘拐を阻止しようとしてるって、以前言ってましたもんね」
「暗夜の子どもたちのことも、カレン様の言う賢者の石のことも存じません」
「そう、ですか……」
「彼らはこのメダルを目印に私を頼ったり、私が保護した行く当てのない魔力無しの子どもたちに居場所を与えるために引き取っていきます。それが子どもたちにとって幸せなことか、彼らの隠れ里に赴く資格のない私にはわかりませんが……それ以外にすべがないのが現実です」
魔力無しにはいくつかのグループがあり、それぞれが独立した目的を持っている。
改めて言われてみれば当然のことだった。
オーガストは行く当てのない子どもたちのために魔力無しの一団と接触を持っていただけで、暗夜の子どもたちと繋がっているわけではないのだ。
つかみかけたと思った賢者の石の手がかりを失ってカレンは脱力した。
暗夜の子どもたちの幹部格と会えたら、聞いてみたかったことがあったのに。
――賢者の石で叶えたい願いとは、何なのか。
「暗夜の子どもたちと関係がないなら、堂々とされていればよかったのに」
「しかし隠れ里については、ホルスト殿に紹介していただいた経緯がございますので、後ろ暗くはあるのです。――それに、多くの人にとって魔力無しであるという一点で、暗夜の子どもたちも隠れ里の人々も同じような存在でしょう」
カレンも、魔力が無くて社会から落ちこぼれてしまったあとに彼らが行きつく先が『暗夜の子どもたち』であると思っていた。
だが、それは違っていて、彼らの世界はカレンが思っているよりもずっと広かったのだ。
「カレン様、私を捕らえないのですか?」
「捕らえませんよ! 元から話をしにきただけですし。まあ、エーレルトの人が知ったらどうなるかはわからないので、わたし一人で来たわけですが……あなたみたいな人は必要でしょう。あなたみたいな人がいなかったら、本当にどこにも行く当てがなくなってしまう子がいるはずです」
カレンが手を差し伸べると、オーガストはそれを掴んで立ち上がる。
オーガストはカレンに向かって神官の礼を取った。
「カレン様の寛大さに感謝申し上げます」
「わたしの場合は寛大というより、目的優先なだけですけどね」
「どのような理由であれ受け入れてくださる方は少ないのです。女神の教えによれば人の価値は魔力の大小によって左右されないとされているのに、Cランク以上の魔力量を持たなければ神官にすらなれないという矛盾を、神殿すらも孕んでいるのですから」
オーガストはそう言って疲れた微笑みを浮かべた。
きっと高潔な意思を持って神官になる道を選んだオーガストが抱えてきた矛盾でもあるのだろう。
「カレン様の試みが成功し、子どもたちが隠れ潜むことがなくとも生きていける未来が来るよう、心からお祈り申し上げます」
「子どもたちをガンガン働かせて上前をはねて稼ぎまくるためにも、確かに成功させたいとこですね!」
カレンが照れて悪口を叩いたその時、戸口からかすかに音が聞こえてカレンもオーガストもそちらを見つめた。
「金、まだもらってなかったから……」
そこにいたのはテレサだった。
カレンは気配を隠すのは最近得意になったものの、察する方はさっぱりである。
息を呑むカレンよりも青ざめていたのはオーガストだった。
「テレサ、どこまで聞いていたんだい?」
「――暗夜の子どもたちって、賢者の石を作ろうとしてるんだって? 賢者の石って、どんな願いでも叶えるっていう、魔法の石だよね」
「彼らは目的のためなら手段を選ばない。決して近づいてはいけない存在だよ、テレサ」
オーガストは厳しい口調でテレサを押しとどめようとする。
カレンたちの話を聞いていたテレサが、まるで暗夜の子どもたちのところに行ってしまうと確信しているかのように。
確かに、この社会に不満を抱き逆転を目論む者たちの目的地は、暗夜の子どもたち以外にないのかもしれない――と思った所で、カレンはふと自分の考えにひっかかる。
逆転、逆さの木――物思いに沈もうとしたカレンをテレサが小突いて目覚めさせた。
「あんたさ、賢者の石について知るために、犯罪者と関わってるかもしれない先生のコト、見逃そうとしたでしょ?」
「うん? まあ、そうかも?」
意外な質問に動揺しつつ,カレンがうなずく。
すると、テレサは大きく息をついた。
「ホントに錬金術のためならなんでもするヤツなんだね、あんた。あたしのことを哀れんでるんじゃなく、マジで真理とやらが知りたいんだ。そのためならなんでもやるってだけ」
テレサはどこか楽しげに、弾んだ口調で言うとカレンを見上げてニコッと笑った。
それはカレンがはじめて見るテレサの子どもらしい笑顔だった。
「どんな手を使っても、ってやつ? すごいじゃん! イカしてるし、イカれてる!」
テレサは夢見るような目つきでカレンの目を見上げて、言った。
「……いいよ。あたしあんたの、カレンの実験動物になってあげる」
「人聞きが悪い! 冒険者になってわたしの援助を受けてね!!」
「キャハハハハ!!」
悪ガキが悪ふざけを叱られて大笑いしてはいるものの、どこか幼い可愛らしさの残る笑顔だった。
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