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秘密の話2 ユリウス視点


すでに、ユリウスは話し終えている。

それを聞けば誰もが顔をしかめる、ユリウスのおぞましい出生の秘密を、カレンも間違いなく聞いていた。


だがカレンは今更、何を言われても耐えてみせると言わんばかりに身構える体勢になり、続くユリウスの言葉を待っていた。


「ここからどう話がつながるとユリウス様との婚約を考え直すようになるのか……想像するのも恐いですが、わたしが聞いていい話なら、聞きますよっ! もしや、犯罪系ですか?」


カレンはごくりと息を呑むと、覚悟を決めた顔つきになる。


「何かやんごとない事情がある系なら全然受け入れられます。ただ、もし、事情がない場合でも……ユリウス様が心から反省されているならわたし、共にその罪を償っていく所存です!!」


ユリウスの生い立ちなど、カレンにとっては婚約を考え直すきっかけであると気づくこともできないほどのことらしい。

取るに足らない、というよりは――カレンにとって、ユリウスが生まれたことは当たり前のようにユリウスの罪ではないのだ。


だから、それが婚約を見直す理由になるとすら思わない。

罪があったとしてすら、カレンはそれを共に償おうと言ってくれている。


そんなカレンに、ユリウスは噛みしめるように答えた。


「……罪を犯したわけではないよ」

「そ、そうですか。よかったー! じゃあ、わたしが婚約を考え直す秘密って何ですか?」


カレンがほっとした顔つきで言う。

ユリウスはまじまじとカレンを見つめた。


罪悪感に蝕まれる幼いユリウスに『おまえは悪くない』と口では言った人もいる。

だが、その顔は、目は、ユリウスという形を成した罪を見つめる嫌悪に歪んでいた。


しかし、カレンは毛筋ほども気にもしていない。

それどころか、呆気に取られるユリウスを見上げ、カレンは優しい顔つきになって付け加えた。


「もし、やっぱり隠したいということであれば、いいんですよ、ユリウス様。わたし、夫婦は秘密を作っちゃいけないだなんて考え方は持ってません。人間、誰しも秘密があるものですからね」


ユリウスに嫌悪を抱くべききっかけとなる秘密を知ったということに、カレンは未だに気づかずに言う。

ウィンクしてみせるカレンの底抜けの明るさにユリウスが思わず微笑むと、カレンは言った。


「かく言うわたしも秘密がありますしねっ」

「カレンに秘密?」


今度はユリウスが身構える番だった。

瞬時に様々な想像が脳裏を過り、ユリウスはその中でもあり得そうかつ、これまで不安に苛まれていた可能性をおそるおそる口にした。


「まさか――実はライオスと深い仲だったことがある、とかかい?」

「えっ!? まっさか~」


カレンが一笑に付したことで、ユリウスは息を吐いた。

平民は貴族ほど貞操を重要視しないので、大いにあり得た可能性だった。


エーレルトの諜報機関がカレンについて調べたが、密室の中で起きたことまでは調べられない。

ユリウスは安堵のままに、軽い口調でカレンに問うた。


「では、君の秘密とは? 私は君にすべてを話したのに、君は教えてくれないのかい?」

「すべてなんて教えてもらいましたっけ?」


カレンはユリウスを不思議そうに見上げながら言う。


「ええっと、なんでわたしには万能薬が作れるのかとか、そういう話ですよ!」

「……なるほど」


確かにカレンの錬金術には何らかの秘密があるだろう。

秘密などない、と言われる方が反応に困る。


その秘密がなんであれ気にせず、問い詰めず、しかし問題が起これば全力で守るという方向性でエーレルトは動いていた。ユリウスもだ。


それゆえに、カレンの持つこの秘密について追及するのをすっかり失念していた。


「言ってもいいんですけど、お伝えするのにちょっと勇気が必要ですね。あっ、ユリウス様こそこの秘密を知ったらわたしとの婚約を考え直すかも……やっぱり言わない方向で!!」


平気で秘密を隠そうとするカレンに、ユリウスは拍子抜けして肩の力が抜けていった。


秘密は、話しても良いし、話さずとも良かったのだ。

たとえこのままカレンが秘密を話さずにいても、気にはなるものの、カレンが話したくないと言うのならユリウスはそれを受け入れることができる。

カレンがどんな秘密を話したとしても、カレン自身が言った通り、それが理由で婚約を取り消すことなど、ユリウスも考えられない。


カレンの立場になってみると、呆れるほどすべてが簡単に思える。


ユリウスにとってカレンがカレンであるだけでいいように。

きっとカレンにとってもユリウスがユリウスであるだけで、よかったのだ。


「あれ……? もしかして、わたしが婚約を考え直すかもしれないユリウス様の秘密って、ユリウス様のお父様が悪さをしたって話ですか? でも、それは別にユリウス様とは関係ないですし……あっ、関係あるって顔してる!!」


ようやく気づいたカレンがユリウスの表情を読んで憤慨した。


「そんなの、ユリウス様は何にも悪くないじゃないですか! そんなことでわたしが別れると思ったんですか!?」


ぷりぷりしながらカレンが食事を再開する。

怒りで食欲が戻ってきたらしい。

猛然と目の前の芋のサラダを食べていくカレンに、ユリウスは目を細めた。


遅ればせながら様々に許された気持ちになったユリウスもまた食欲が湧いてきて、芋のサラダを気づくと二回山盛りでおかわりしていた。


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錬金術師カレン1
― 新着の感想 ―
食欲があるというのは良いことです。生きてる証であり、これからも生きようとする意欲の表れだと思いました。
もりもりお食べ〜(涙
あらためてカレン好きだー!
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