サポーター面接2
「よろしくな、カレンちゃん!」
「うん! セプルおじさんがサポーターなら気楽に無理難題をふっかけやすくて嬉しいよ」
「おいっ」
「あたしのこともよろしく頼むよ、カレン」
「はい!」
ウルテにはお行儀良く返事をするカレンに、ウルテは苦笑した。
「あんたは雇い主なんだから、あたしもそっちのセプルと同じ扱いでいい。敬語はなしで構わないよ。それと、金はきちんと払うから、いずれ万能薬を買わせてもらいたい」
ウルテの言葉に甘えて、カレンは言葉を崩して訊ねてみたいことを口にした。
「ウルテさんは今、いくら持ってるの?」
カレンはウルテの言葉に甘えてざっくばらんに訊ねた。
「あたしの所持金に合わせて値引きなんかしてくれるんじゃないよ? 金貨二枚さ。手持ちの現金はね。あれからまた引っ越しもしたし、色々と物入りでね」
「あれ? 手持ちのってことは、持ち物を売ればもう少しあるってこと?」
「装備品を売りゃあそりゃ多少の金にはなるだろうけど、それがどうかしたのかい?」
「今なら万能薬、金貨五枚だよ? でも、値上げする予定なんだよね。まだ値上げしてないから、今のうちに買っちゃったら?」
「はあ!?」
「カレンったら……」
愕然とするウルテの横で、ナタリアはカレンの企みを理解したようで苦笑する。
だが、ナタリアは苦笑するだけで今度はカレンを止めはしなかった。
「そんな値段で万能薬を売ろうだなんて、ふざけてんのかい? 同情はいらないと言っただろう。あたしたちだって身につけた技術を売る冒険者だよ。己が命がけで磨いた技術を誇りに思う分、あんたの技術を買い叩くような真似もしない」
「直近の万能薬の売り値が金貨五枚なんだよね」
ダンジョン調査隊でカレンは活躍に応じた恩賞ということで、王家から支払いがあった。
計算するに、カレンの万能薬は特大回復ポーション相当の扱いを受けてはいるらしかったものの、あくまで恩賞の内訳はカレンの活躍に対する支払いであったので、万能薬の売り値としては計算しない。
カレンの言葉に、セプルが険しい顔をして首を突っ込んだ。
「おい、カレンちゃん。いたいけなカレンちゃんを騙くらかしたのはどこのどいつだ? 俺がガツンと言ってきてやる」
「セプルの言う通り、抗議するべきだ。あたしにあんたの技術を買い叩いたろくでなしと同じになれってのかい? お断りだね」
「いや、むしろわたしはもっと値切ろうとしたのに、値上げられちゃったんだよね」
「はああ?」
意味がわからない、という顔をするセプルとウルテに、カレンはえへへと頭を掻いた。
「当時はまだFランクの錬金術師だったから、お金をいっぱいもらうのが申し訳ないし、万能薬ができた経緯もよくわからなかったし、そもそも万能薬って書いてあるけどホントかな? という気持ちもあって、必死に値下げ交渉をして、中回復ポーション相当の価格にしてもらったんだよね」
「カレンの言っていることは本当よ」
ナタリアがカレンの言葉を補足してくれる。
「向こうも向こうで必死に値上げをしようとしていたけれど、先方がカレンに恩を感じていたのもあって、最後には折れてしまったのよ。それでも、なんとか小回復ポーション相当の価格は回避したのよ」
ナタリアが言うと、コイツマジか……という二つの視線がカレンに突き刺さった。
今のBランクにまで昇級したカレンだから違和感があるだろうが、当時のカレンはまだFランク錬金術師だったのだ。
胡乱な目で見ないでほしいものである。
「その後も、先方はカレンに敬意をもって事あるごとに補填しようとしてくださっているわ」
「つまり色々あって今なら小万能薬ポーションは、中回復ポーション相当の金貨五枚でお得だよ! ってこと! でも、あちこちから値上げしろって怒られているから、今後売る時には大回復ポーション価格、つまり、白金貨二枚とかになっちゃう」
主にダンジョン調査隊でカレンの実力を知った貴族たちから、万能薬の買取依頼が数多く来ている。
だから、カレンは価格設定に頭を悩ませていた。
エーレルト伯爵家のヘルフリートを筆頭に、誰に相談しても値上げしろとしか言われないので、致し方なく値上げする予定なのだ。
小万能薬ポーションは大回復ポーション価格。
中万能薬ポーションは特大回復ポーション価格。
もっと価格を上げさせようとするナタリアと戦い、普通のポーションと違って保存が利かない料理ポーションであることを理由としてカレンは謎の勝利を収め、見事この価格を勝ち取った。
だが、まだ依頼の手紙をくれた貴族たちにそれを通知していない。
今なら小万能薬を中回復ポーション価格で売っても、誰に対しても不義理にはならないぎりぎりの段階である。
「一応、カレンの言葉には筋が通っているわ。だから、今回だけなら見逃してあげるわよ。とはいえ、これまで以上に恩を感じてほしいものだけれど」
「ぐ……だが、とんでもない価値があるとわかっているものをそんな安価な値段で買うだなんて……っ! あたしの誇りが、プライドが……ッ!」
理性と欲望の狭間でぐらぐら揺れるウルテに近づき、カレンはその耳元でささやいた。
「ねえ、ウルテさん。アーロンさん、気丈に振る舞っていたけれど、体が辛いんだよね? 一日でも早く万能薬を手に入れた方がいいんじゃないかなあ?」
「カレンちゃん、人を悪の道に引きずり込もうとする悪役みたいな顔になってんぞ」
やがて、セプルの突っ込みを受けるようなあくどい顔でささやくカレンに屈したウルテは、即座に質屋に走って手持ちの装備を売り払い、金貨五枚を確保してきた。