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日常

「母さん!ニュースニュース!!」


勢いよくドアを開け、飛び込むように入ってくるワイズ


まったくもう、この子は昔から本当に変わらない


元気さと無鉄砲さだけで世の中を渡ってやしないかと心配になってしまう


「ワイズ、あまり驚かさないでちょうだいね。ビックリして心臓が止まっちゃいそうだわ。あと、ノックもちゃんと、ね?」


「あ、ごめん母さん、っでもホンットに凄いニュースなんだって!もうきっと驚いて腰抜かしちゃうくらいにううんもっとだな。驚いて成層圏まで飛び上がっちゃうくらいにビックリで、そりゃもう驚天動地で四面楚歌で色即是空くらいなビッグ大ニュースなんだよ母さん!」


「あらあら、それは楽しみね。どんな大ニュースなのかしら」


それにしてもこの子は、どこでそんな言葉遣いを覚えてしまったのだろう


心配どころか不安になってしまうわ


「えっとね?今連絡があったんだけどさ。エリアルの奴がファングドリアの海魔、ヴォルケイドを討伐したんだってさ!!」


「あら、あの戦艦を50隻以上沈めたっていうあの竜を?」


「そ~~おなんだよ!ヴォルケイドっていやあれだよ?50隻沈めたってっだけじゃなくてっさ、アングレイス、ラナリア、ブレイドリアとかで散々民間船を襲っててさ、もう被害者的には、数千人とまで言われてて、その上、討伐に出た名のある戦士や魔機兵大隊すら全滅させたってくらいに近隣諸国を荒らしてたっていう海の中の癖に雷なんて帯びた反則急の怪物なんだよ。一部地域ではその、雷を蓄えたらしい輝く鱗で彩られた外見の美麗さから大海の宝竜なんて謳われてるんだけど、あ、知ってる?鱗一枚で100万ガルトもするんだよ、てのはともかく、中にはマニア的に追っかけてる奴がいるっていうドラゴンなんだけど、そんな奴をエリアルってば、たった一人で、しかもあいつらしいっつか、わざわざ水中戦挑んでそれでも勝っちゃうっていうんだからすげぇよね!」


「あらあら、ホントに凄いわね。さすがエリアルちゃん」


きっとあの子の事だ


装備やら何やら、全てを準備万端の上での戦闘に望んだのだろう


それは恐らく自分個人の準備に限ったものではない


数隻の艦との連携によって、敵発見と同時にその周囲に魔機による防壁を展開


完全に包囲した上で叩く、そんなところかしら


あの子は昔から、下準備下調べを完璧にした上で動くタイプで、戦闘データやら何やら全てを集めて分析し行動に出たに違いない


でも、戦闘に限って個人プレーが多いというか


妙な勝気さを持ってるものだから、戦闘はきっと一人でやってしまったのだろう


というよりも、巨獣相手に一人で戦ってみたかったのかもしれない


しかも、相手のもっとも得意とする環境で戦いたがる悪い傾向がある


その上、海中だのに、きっとあの子らしく得意な風系魔術で仕留めたに違いないのだ


まったくもう


いくら体術が得意で、魔術と魔機の力で、全能力を引き上げているといっても無謀過ぎる


そもそもあの子、自分が女の子だということを分かっているのかしら


お顔やらスタイルはモデルさんみたいなのに


はぁ、教育を間違えたかしらね...


「あ、それでさ、あいつ、今度帰ってくるって、母さんに自慢したいんだよ絶対。あ、でもどうせこの戦術でどう?とか、母さんと張り合いたいってのもあるのかな?てか無理だって、んな無茶苦茶な戦い方、戦術なんかじゃないっての。あいつただのバカだもん」


「こらこら、そんなこと言っちゃダメよ?それは確かに私の考案した戦略や訓練方法には、適してないけれど、あれはあれでガラ准将の教えどおりなんだから」


ガラ准将


かつての私の仲間で、4英雄の一人


今では新人の育成に徹している根っからの熱血軍人さんだ


ちなみに、このワイズは、そんなガラのことが苦手らしい


「ガ、ガラ准将の?一騎当千型?最後まで続く集中力と無限の気合と根性で乗り越えやがれ精神?勘弁してよ、んなの時代遅れにも程あんじゃん」


「あ、そんなこと言って、今度ガラに話しちゃうわよ?」


「うぇぇぇ!!止めてよお願いだよ絶対言わないでよ!俺、何か知んないけどあの人に目ぇつけられてる気がするんだからさ~」


「ふふふ、どうしましょうか?」


「ひぇぇぇ…考えただけでも怖いよ。きっと捕まったら一ヶ月徹底合宿だよ!気合と根性で1tの柱を持ち上げながら国内一周全速力コースだよ!ひぇぇぇぇっ!こえぇぇぇぇぇぇっ!!」


あらあらガラったら、そんなことさせてるの?


それで、ちゃんと生徒さん付いてきてるのかしら?


まぁ、確かにエリアルちゃんなら、とっても合った練習方法だと思うけれど


あの子、熱血なもの好きなのよね、なぜか


あ、でもワイズも実は合ってるんじゃないかしら


接近戦だけなら、あのエリアルちゃんに勝ってるくらいなんだから


...というより、ガラってまさか、自分で見本を見せてないわよね?


この前、腰を痛めたって聞いたけれど...


「あ、そうそう。帰ってくるっていえば、一つ言い忘れていたわ。ウィズとアリアも近いうちに帰ってくるそうよ。ふふふ、嬉しいわね。最近みんなして、帰ってくるだなんて言ってくれるだもの」


「ん?そりゃそうさ。俺たちの家はここなんだから。えっと?ってことは、クリフ、ガルシア、レンドリッタ、ホルス、ザイルにカズ、でウィズ、アリアだね。あ、クリフとホルスの奥さん、それとレンドリッタの旦那さんも来るんだっけ?」


「ふふふ、そうね。でも、これだけ人数が来るのならパーティでも開いちゃおうかしら」


いい考えだわ


久しぶりに腕が鳴る


あ、でもだったら、たくさんお買い物しないといけないかしら


それに、少し早めに準備を始めたほうがいいわね


「パーティっ!?いやいやいやいやいやいや、いいよそんなの。ていうか何のお祝いなのさ。別に誰の誕生日とかでもないぜ?」


「なんでもいいじゃない。みんなして各地の魔獣、怪人、ドラゴン、中には復活しそうだった魔王まで倒しちゃってるのだから。むしろこれでお祝いしないほうがおかしいわ」


「いや、そんなのどうでもいいと思うけどな。そんなの年中なんだし」


「ん~~...でも、やっぱりしてあげたいわ。私」


「あ~...でもな~......うん、分かった。だったら俺も手伝うよ。これでも細かい仕事も力仕事もなんでも一通りできるつもりだし、それに今は長期休暇中だしね」


「あらそう?助かるわ。じゃあ、二人でやりましょうか」


「ああ。任せといてくれ...と、あ、やべ。この後、トキ叔父貴に呼ばれてたんだっけ。そろそろいかないとまたどやされちまうっ!」


「あら、そうなの?だったら早くお行なさいな。それとエリアルのことありがとうね」


「いやいや、んなの大したことでもないでしょ。むしろ子供の義務だって、あ、それじゃ行って来るよ」


「ええ、あの子にもよろしくね」


「了解」


そう言って、今度は静かにドアを閉めてから出ていくワイズ


でもきっと、また騒がしくやってくるのだろう


ずっと変わらずにそうだったのだから


「ふぅ...」


それにしても、最近また戦闘が激しくなってきている


何か、悪い予兆なのかもしれない


きっとガラが張り切っているのもそのせいなのだろう


そういっても、今の時代には魔機がある


よほどのことでもない限り、大惨事にはならないはずだ


「魔機、か」


見回せば、あちらこちらに魔機がある


ライトやテレビにエアコン


私は扱えないけれどパソコンなんてものまである


そんな魔機の登場で、世の中は随分と楽になった


戦闘面においては、死者が随分少なくなったし


普段の生活についても、どんどん便利になってきている


世の中は、なんて目まぐるしいものだと感心してしまうほどだ


その原型はアルケイディアの科学技術にある


魔機は、彼の城や他のアジトなどに放棄されていたのを利用したもの


私たちにとってそれは、見事なまでにオーバーテクノロジー


最初は大変だったけれど、今はこうして魔機という形で確立している


アルケイディアの技術、というのが気になりはするけれど、それはそれ


世の中が進歩していくこと自体は悪いことはない


それに、例え悪く使うものがいても、その流れを止めることは出来やしないのだろう


魔機と言えば、ライルは今頃どうしているのかしら


最近連絡を取り合っていない


実は、魔機については、4英雄の一人でもあるライルが第一人者


元々、彼があのアルケイディアとの戦い(今は魔人戦争なんて呼ばれているけれど)に加わったのも、その科学技術を解き明かすことにあった


当時、彼がいなければ、ここまで魔機が発展することもなかったのだろう


「う~ん、どうせまた、何かいい発明でも思いついたのかしらね」


そうだとすれば、当分研究室にこもりきりになるだろう


あの人は昔からそんな感じなのだ


あ、でも、魔術教練についてもちゃんと考えていかないと不味いのではないかしら


ライルは教練にも携わっていたはずだし


私はもう引退したけれど、魔術や魔陣については、その教員数は少ないと聞いている


もしかしたら、私の現場復帰なんてこともありえるかもしれない


「ん~、でも、さすがにもう大丈夫よね」


すぐさま思いついた推論を打ち消す


なにせ、今はあの子たちがいるのだ


私たちの自慢の子供たち


このクラウ孤児院の出であり、戦闘や魔機のエキスパートである彼らが


しかも嬉しいことに、私の考案した戦略や修練方法を今だに採用してくれているらしい


もちろん、私自身もそれについては自信を持っているのだけれど...


いや、そもそもガラが張り切り過ぎなのだろう


いい加減元気過ぎるのも困ったものだと思う


「さて、と」


そろそろ私も出かけることにしよう


今日は、とてもいい天気である


さぞかし夏の風が気持ちいいだろう


今日も、とてもいい日になりそうだ


なんて思いながら、壁に掛けてある大きな白い帽子を手に取った

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