幕間
『ヒロイック・サーガ』
「…ぁ」
不意に、目が覚めた
先程まで本を読んでいたはずなのだが、いつの間か、座ったままで眠っていたらしい
「ふぅ」
ほんの僅かに息を漏らしながらも、そのままの体制で窓の外を眺める
そこには広大な緑の丘があり、空には大きな雲が浮かんでいた
穏やかだった
平和だった
平凡だった
のんびりとしていた
安らかだった
私、エリス・フレシングの人生の大半は、そんな暮らしで彩られている
別段贅沢ではないけれど、物に困ることは、たまにしかないくらいの、そんな暮らし
それはせめて、もう少し買い物が便利だったらいいのに、なんて思いはあるけれど
まぁ、そんなわがままを言っていても始まらないだろう
「ふぅ…」
何気なく、壁にかけられたロッドを見やる
あれを使わなくなってからもう随分経った
いつだったか、私の子供たちが、そのロッドを見て、何度となく聞いてきたことがある
「ねぇ!お母さんって世界を救った英雄なんでしょ!?すごいな~」
「ホントだよ!えっと私もね、絶対にお母さんみたいになるんだ~!」
なんて
それもいい思い出だ
まぁ、私としては、英雄なんかより、他の普通の生き方を選んでほしかったのだけど
「懐かしいわね...」
そう
確かに昔、そんなことがあった
アルケイディア、なんていう科学と魔力の発展のみを考え
世界に独善的とののしられ、世界を破滅させようと目論んだ魔人王
私たちはそんな敵を倒すために協力し、それを打ち倒した
そんな、世界なんてものを救ってしまった4人の英雄のお話
「ふふっ」
つい笑ってしまうほど信じられない
それでも、本当のこと
今でも思い出すことがある
みんなからすれば、あの頃こそが、私にとっての一番のエピソードになるに違いない
数々の冒険とつらい修練の日々
国をなくし
家族をなくし
それでも、復讐のためと努力を続けていたあの頃
敵を倒せ
敵を殺せとせがまれて
仕方なく、最終決戦に挑んでいたあの日
もっとも、そんなのは私にとって、どうしようもなく面白みのないことで
できれば避けたかったくらいの事で
本当は
ええ、本当は
仲間と一緒に世界を周るのが楽しかった
楽しそうな、幸せそうな、嬉しそうな
そんな、みんなの顔を見るのが好きだった
春
花を見て微笑んで
夏
海で遊ぶ子供たちと一緒に遊び
秋
お祭りの中、大きな炎を眺め
冬
雪道ですべる彼を見て、それをみんなして笑って
それが
そんな日常こそが、私たちの本当に望んだエピソード