神化
クラウ・ソラスを掲げ、最後の時を待つ
だが
「......ふ」
「...どうした」
「ふ、ふふふ、ふわっはっはっはっはっ!!ふわあっはっはっはっはっ!!!」
「............」
「何だその剣は!そんな鉄くずで私を倒せるとでも!?」
漫然と笑い続けるアルケイディア
なるほど
そう見るか
…まぁ、確かにわからないでもない
今のクラウ・ソラスには、先ほどまであったはずの魔力の猛りはない
いや、もはやそれは、ただの鉄の塊とさえいえるのだろう
「やれやれ、大層な術まで使っておいて、その結果がその程度の鉄くずだというのか?」
バカらしいと、吐き捨てるアルケイディア
そうだな
確かに俺にとってもバカみたいな話だよ
バカらしくて、自分を哀れみたくなるくらいにはさ
「気にするな。お前が知らないだけだ」
「ふんっ」
そんな俺の皮肉にも、奴は負け惜しみととって、隠すことなく嘲笑っている
確かに
今のこの剣は、奴の言う通りにただの鉄くずだ
ただそれだけでは、何の意味をなさないナマクラでしかない
だが当然
それには理由というものがある
語るにも語れないような、そんな下らない理由が
「おい、アルケイディア」
「ふん、どうした愚か者よ」
「いやなに、大したことじゃない。最後に言って置きたいことがあるだけだ」
「最後、だと?」
「ああ、そうだ」
そういって、俺は剣を構えたまま、奴をにらみつけ言い放つ
「そのまま見ていろ。そしておののけ。今までお前が葬ってきた命の数だけ、圧倒的で絶対的な恐怖を味合わせてやる」
そう
こいつによって、世界は滅びかけ
人間だけでなく、あらゆる命が奪われてきた
しかも、その理由があまりに独善的な、科学技術の発展
魔力と科学の融合における災厄
いや
でもそんなのは、実は関係がないのだろう
そもそも、自分の国を滅ぼされ
俺を育ててくれた家族すら奪われた悲しみ
そんなもの、結局は大した理由になどなりえないのだ
そんなこと...当の昔に分かっていたはずなのに
「...........」
だが、そんなものはただの感傷だ
今この場においては、その復讐心が勝るべき!
「はっ、何を言っているのだ貴様は。まぁよい。貴様こそ消、え....な?」
また笑おうとでもしていたのだろうが、それが出来ずに、途端にその表情を変えた
どうやら、自分の身に何が起きているのか理解できないのだろう
「な、んだ、これ、はっ!?」
奴もようやく、その身の周囲の異変に気づく
いや、その周囲の変化はまさに一瞬だ
おそらく奴も、本当にたった今、気づくより他になかったのだろう
そこには純白の花々
その白き花たちが幾重にも舞い降り、あたかも雪世界といえる幻想的な光景を作り出していた
しかも、その雪の花の描く軌跡によって作られた白い魔糸により、アルケイディアはその身を、身動き一つ取れないまでに絡め取られている
「うご、か、な、い、だとっ!?」
そう
それこそが、たった今展開が完了した陣式の効果
陣の中にある魔力を、問答無用で凍結するという結界能力
結界ということでは、先ほどの「水月」と似ている
「水月」は発動する直後の術式を、強制的に魔力に変換し、かつ我がものとする陣式だ
その陣式は手中で描かれ、一定の魔力を陣ごと地面に放つことで発動される
一人の魔力でも十分に発動可能な陣式の一つ
ちなみに付け加えると、これはクラウ・ソラスの完成とは関係がない
さすがに、その程度のためにあんな苦労をした訳ではない
では、この陣式は何か
「二の型、雪花、成功したな」
そう、みんなに問いかける
「ああ」
「おう」
「...うん」
そう
これは4人により、4方を囲んだことによる陣式
名を「雪花」
雪世界において、対象を拘束し、かつ、その魔力を強制凍結させる結界術
普通の人間にこんなものを使っても、せいぜい一時的な魔術使用の制限をかける程度にしかならない
しかし、魔力生命体であるアルケイディアならば、この効果は全身麻痺以上の意味を持つことになる
最初の4方攻撃は、その奇襲それ自体が目的なのではなく
クラウ・ソラスに魔力を集めることだけでもない
俺たちのシナリオ
それは、奴の周囲全体に陣を張り巡らせること
それこそが、俺たちの真の目的だった
「ふざけるなっ!!」
またも激昂するアルケイディア
「この術は、血統による術だ!それを貴様ら全員が使えるはずなどありえん!!」
ほう
さすが魔人王
この陣式の正体に感づいたか
しかも、先ほどよりも流暢に話せるところを見ると、すでに奴なりの陣式への対抗を構築しつつあるのだろう
「ああ、その通りだ」
だが、ありえないことなんて、世界にはよほど少ない
不可能を可能とするのが人間なのだ
それに貴様も科学者のはしくれなら、そんなことは言葉にすら出来ないはずだろう
ちなみに、その答えは実に簡単なことだ
俺の血をそのまま、みんなに強制移植すればいいだけのこと
確かに通常なら拒絶反応を引き起こす危険性もあるだろう
しかし、それを可能とする技術が、俺にはあった
ただそれだけのことだ
悪魔に伝わる秘術の数々
それが、今回のことに限らず、俺を助けてくれた
いや
俺を英雄にまで押し上げた他でもない全て
本当の父と母の形見
悪魔である俺を、今までずっと支えてきてくれた絆の形
「いい加減話しすぎた。そろそろ終わりにしよう」
奴としては、時間を稼ぎ、身を拘束する陣式の対応策を完成したかったのだろう
だが
時間稼ぎについては、俺も同じこと
そしてたった今、俺自身に対しての、クラウ・ソラスからの魔力侵食が完了した
「目覚めろ、クラウ・ソラス。青き深淵に眠る魔を呼び起こせ」
その言葉と同時に、クラウ・ソラスからおびただしいまでの黒い光が放出される
禍々しい
そんな言葉こそが的確な、聖剣であるものの輝き
「む?」
そんな光に、アルケイディアの顔つきが変わる
だが、いささか受ける印象が違ってもいる
どうやら科学者として興味があるもののようらしい
「それはもしや、魔の開放か」
「そうだ」
「ほう、で、どうするのだ?そんなものを生身で扱う気か?使えるのなら実に興味深いが」
「まさか」
そう
さすがに、そんなことはできない
そんなことをすれば、一瞬にして体が朽ちてしまうだろう
アルケイディアのような魔力生命体であれば可能かもしれないが、今の俺にそんな体はない
故に
だからこそ、時間稼ぎが必要だった
あれほどに手間をかけ、アルケイディアを凍結し
お互いに普通に話せるだけの静寂を有し
その時間において、ひたすらに自分自身を魔に染めることに徹した
全ては
奴を完全に消し去るために
そして俺が
真の悪魔へと変貌を遂げるために
「デモンズ・アヴェンジャー」
これが最後の言葉となる
この言葉により、俺は、敵を消し去るまで決して止まることができなくなる
いや、このアルケイディアを相手にするとなれば
戦いが終わったとしても、今ある理性なんてものは残らないかもしれない
太古の昔、我を失った悪魔が、世界の全てを破壊し尽くしたように
それこそが俺の一族が、悪魔と称された理由
かつて、世界を滅ぼさんとし
そして、自らさえ滅ぼした、哀れな一族
他には類を見ない特殊な秘術により栄え
悪魔のような化け物に、その身を変貌させることで衰退した一族
俺は、そんな馬鹿げたものになろうというのだ
臨界にまで高められた魔法剣を有することで、悪魔といって過言でない力を発揮させ
全てを破滅に導く究極の災厄
そんな化け物は、一族の中でもさらに希少
だがそれ故に、その血と肉、魔力は、大事に厳重に守られてきた
悪魔は滅びたとされているにも関わらず、今俺がこうして存在しているのはそのためだ
おそらくは、そろそろ奴もこの陣式を突破し、自由の身となるだろう
そこからは、もう人の戦いなどではない
例えるなら、そう
神域の戦いだ
ズキイイイイイイイイッ!!!
「うがあっ!」
突然に激痛が走った
しかも全身
まるで、肉体のその全てに剣を突き刺されたかのような死の代弁
「ぐごっ!」
その死は、治まることがない
正直、予想以上だ
むしろ、その痛みが増すばかり
だが、それだけじゃない
それだけのわけがない
「うごおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………..」
筋肉が隆起していく
骨が浮き上がる
肌が乾く
心臓が暴れ出す
血が沸騰する
魔力が猛る
力がみなぎってくるぅっ!
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
俺は
俺は
俺は
俺は
俺は
俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
「...俺が」
き
え
て
い
「ぐががああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
それが、悪魔が光臨した瞬間だった