第七章 8
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通り側の入り口と住宅地側の入り口を通勤の通路に利用している男性だった。幾度か公園の中で遭遇している。
地面を転がるカミクズに興味津々(きょうみしんしん)なのが、塚本にも伝わって来た。
「すいません。これって、どこかで売ってます?」
「いえ、これは、私が商品化まで持っていけたらと思っているものでして。まだ、開発途上です」
塚本は、ポケットから、実質的には何の役割もしないリモコンを取り出した。
「そうなんですか?リモコンで動くわけですよね」
「はい、本体もこのリモコンも試作の段階です」
「すいません。ちょ、ちょっと」
男性は、リモコンに手を伸ばして来た。それが、余りに自然な流れだったので、塚本は、ついリモコンを男性の手に渡してしまった。
「ここを押すんですか」
サラリーマン風の男は言った。
「ええ、どうかな、他人には冷たい態度を示すことがありますから」
塚本は、カミクズが、悪戯心を発揮するような気がしたので先手を打った。
やっぱりだった。
「あれ、動きませんね」
カミクズは、止まったままだった。サラリーマン風の男は尚もボタンを押すが状況は変わらない。
「私が」
塚本は、サラリーマン風の男からリモコンを受け取り、男性が触れたと同じボタンを押した。
すると、カミクズは、転がり始める。
「エエッ」
と驚きの声をあげる男性の声をよそに塚本は「止まれ」と言いながら、隣のボタンを押した。ピタリと止まった。
「すいません、もう一度。さっきの声は関係ないんですよね」
「ありません」
サラリーマン風の男は、再び、塚本からリモコンを受け取りボタンを押すが、やっぱりカミクズは動かない。
少しは転がってやれよ、と思うが反応しない。
「コツがあるんですか」
むきになってサラリーマン風の男は、リモコンのスイッチを押す。
「すいません。まだまだ、開発途上でして、ボタンを押す力加減とか本当に微妙でして」
「そうなんだ」
「実に微妙でして」
男性からリモコンを半ば無理やりに受け取ると、塚本は、スイッチを押した。スムーズに転がり出すカミクズ。
「何か、コツがあるんだろうなあ。スマホで撮影は、だめですよね」
「ごめんなさい。失礼します」
塚本は歩き出した。
「ありがとうございました」
という声が後ろから聞こえた。
ベンチに腰をおろした塚本は、カミクズに語りかける。
「悪戯したな。だけど、冷たいなあ。彼は、必死になっていたぞ」
カミクズが、静かに揺れた。
夕暮れのこの公園を見ることは当分ないだろう。塚本は、向こうの遊具置き場からオムライス山へと視線を移動させ行った。
塚本の視線が、あの日のベンチに止まった。
佐藤百合子の号泣している光景が映像のように記憶の中で浮かびあがった。
カミクズが、佐藤百合子の霊?
まただ。違う。塚本は首を振った。
足もとのカミクズが、数十センチばかり転がった。




