第五章 13
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かくれんぼ、塚本は、それに違いない、と思った。カミクズのちょっとした悪戯は、何度も見て来た。平田さん夫妻が来た時のご主人に対する突然の揺れもそれに違いなかった。
見つけてやるからな。見つけられなければ、突然、足元に転がって来て、驚かせるなんてこともしそうだ。
塚本は、楽観的に考えながら、住宅地側の公園の入り口を出た。
あの家に思える。塚本は、数十メートル先の垣根の家に向かった。
まだ、庭を見渡せる明るさである。塚本は、見える範囲で、隅から隅まで素早く視線を走らせた。見あたらない。
木が何本か植えられている。この前も木の陰から転がり出て来た。塚本は、歩みを進めて木の陰を覗き込むように体を傾けた。
「なんですか?」
突然、鋭い声が投げかけられた。
レジ袋を持った年配の女性が後ろに立っている。
明らかに攻撃的な視線だ。
夕飯時に庭を覗いていたら誰だって怪しむだろう。正直に言うことだ、と塚本は思う。
「すいません。私、リモコンで動くボールみたいな物を開発中なんです。ソフトボール位の大きさで尖がりが何本か出ています」
「リモコンで動くボールみたいな物?聞いたことがあるわね、誰かに」
「実験を兼ねて散歩にそれを動かしながら公園に来ているので、ご近所の方が、ご覧になっているかも知れません」
「それが、私の家の庭に入り込んだんですか?」
「いえ、もしかしたら、お宅のお庭じゃないかと思いまして。スピードあげたら、ダーッと転がっちゃいまして」
「ちょっと見てみますね」
年配の女性は、金属の門を開けて入ると、塚本の位置からは、見えない木の陰など捜してくれた。。
言葉の変化から、怪しい人間の疑いが晴れたらしいのにほっとする。
「ないみたいですよ」
年配の女性は庭の中から言った。
「ありがとうございます。開発費用がかなりかかったものですから、もう少し捜します」
塚本は、年配の奥さんに一礼してその場を離れると道の前後を見、他の家の敷地に視線を移した。人の家を覗くのは嫌だったが、仕方ない。どこにも見あたらない。
本当にいなくなってしまったのか、塚本は焦りの中で、考えを巡らせた。
榊コーポに先に帰っている?それはなさそうな気がする。こちらが、人の敷地に目を投げ捜している間に、さっと公園に戻り、オムライス山をのびのび周回しているか、ベンチに近くでこっちが戻るのを待っている?まだ、ありそうだ。可能性より期待を込めて塚本は東三丁目公園に戻った。
期待外れだった。ベンチに十分も腰かけていただろうか。
立ち上がった塚本の足は、田中君が住むリリックレジデンスの方向に向かっていた。




