第四章 17
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塚本は、ソファに戻る。ハーブティーを飲む。そうして、再び、信号を渡ってからの流れを頭の中で再現させる。
信号を渡ったカミクズは、塚本の呼びかけに反応することなくリズミカルに前へ前へと転がって行く。
塚本は、駅と反対側になるリリックレジデンスへの道を歩いたのは、今日が初めてだった。
ひたすら、カミクズを追いかけていたので、どんな建物があったかほとんど覚えていない。
会計事務所があった。信用金庫もあったが、何信用金庫だったか?それから、三十メートル程先、左側に空き地があった。
空き地の前で転がるスピードを落とした。さらに、カミクズのスピードは落ちた。エネルギー切れというのが、頭に浮かんだのは、空き地の隣のマンションの前だったか。
止まったのは、田中君が、「おじさん」と呼んだ時だ。
やっぱり、田中君に会いたかった?そうでなくても、リリックレジデンスという言葉がカミクズに反乱を起こさせ信号を渡らせたのか。
ひとつの考えが浮かんだ。カミクズは、あの空き地の草陰で生まれた。それから、移動しながら東三丁目公園にたどり着いた。そうなのか?決めつけては、いけない。少なくとも、エネルギー切れではなかった。田中君とママの前で元気よくペット用ケースに飛び込み、保温シートの上でも凄いパフォーマンスをやってのけたではないか。
ああ、カミクズとの間でテレパシーが出来たら。
塚本は目を瞑る。
「聞こえるか?何か言ってくれ」
答えは返って来ない。
もう、寝よう。
ハーブティーの残り香が漂うカップを手にソファから立った塚本だったが、リビングを出る前にパソコンでメールを確認した。
NFCテレビの村田からメールが届いていた。
塚本 様
本日はアポもとっていない急な取材に応じていただきましてありがとうございます。大事な散歩を邪魔したことお詫び申しあげます。
とても面白かったです。
カミクズのスラロームには驚きました。素晴らしいです。
お約束は必ず守ります。絶対、放映いたしません。
今、私が願っているのが、他社にカミクズと一緒にいる塚本様が発見されないことです。
凶暴カラスの件、一日も早く解決され、安全な町が戻って来ること願っております。
NFCテレビ
村田
誠実な男だな、村田に嘘をついた申しわけない気持ちが湧いてくるが、どうしようもないことだった。




