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Ⅱ部 第五章 3

           3

 翌日の午後、塚本さんは、散歩に出た。


 九本のアトランダムの突起がなくなり、横の鋭い「サイの角」以外のほとんどがバラの花模様になった [私]だったが、以前のように十分スピード豊かに転がることが出来た。


 小笠原近海で発生した台風は、本州に近づきつつある。このまま進めば、明後日の夜中に関東地方を直撃することになるだろうと朝の天気予報は言っていた。


 塚本さんから再び逃れる気持ちの苦しさはあったが、牧田昇に「フクシュウ」するために空き地に向かう気持ちは、少しの変化もなかった。


 東三丁目公園に入ると同時に「イクノダ」という声と「フクシュウスルノヨ」という声が重なって聞こえた。不思議な程に低い声と澄んだ声が合っていた。


 [私]は、オムライス山の下の石壁に沿って周回し、塚本さんの前で、留守中にマスターした勢いよく転がった状態から急に止まるという技を披露した。

 塚本さんは、驚き、誉めてくれた。

 嬉しそうな顔を[私]は、短い時間で記憶の中にとどめ、「さようなら」と声にならない言葉を残し、再び、オムライス山の下の石壁に向かった。


 コーナーを曲がる[私]の内部で、「フクシュウスルノヨ」の声が反響する。

 石壁から離れて行く。どんどん離れて行く。東三丁目公園の住宅地側の出入り口に向かって速度をあげる。


 静寂。塚本さんの声は後を追って来ない。

 [私]は、道路に近い家の庭の奥でひっそりと真夜中を待った。


 椋木マンションの隣の空き地への道程は、一回目の「家出」よりたやすい感じがした。経験をしているから、だけではない。かたち的に個性的なアトランダムの尖がりがなくなり、遠目からは、普通の丸めた紙くずに見えそうに思えたからだ。


 空き地の草は、どこも伸びていた。[私]をすっぽりと隠した。


 [私]は、椋木マンションの傍ら近くの草地で、牧田昇が、通勤のために椋木マンションから現れるのを待つことにした。




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