Ⅱ部 第四章 7
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[私]は、無事に朝を迎えることが出来た。
明るくなると草地から出た。
そうして、「あの男」が、現れるのを待った。
歩道と[私]の距離は、二メートルばかりか。時間が経つにつれ、通り過ぎる人は多くなった。少し注意してみれば、単なる紙くずとは違った人工的な形をしていることは分かると思うのだが、誰も気にも留めず通り過ぎて行く。
隣の建物から現れた男性の姿に[私]の焦点が、無意識のうちに合わさった。半袖のピンク色のシャツを着ている。横顔をほんの短い時間見たに過ぎないのだが、「あの男」だ、と思った。
[私]は、「あの男」が、出入り口を出て歩道を東三丁目公園の方向に歩いて行くのだと歩道寄りに転がったのだが、違った。姿を現さないのだった。[私]は、さらに、歩道に近づいた。
「あの男」は、先の横断歩道の前で信号待ちをしている。渡った少し先にバス停がある。信号を渡ると左に歩き、そこに立った。
通り過ぎた男性が、振り向いて[私]を見た。油断していた。拾おうとしたら奥の草地に逃げる。そう自らに言い聞かせたが、男性は姿勢を戻し歩いて行った。私は、一晩を過ごした草の林に戻った。
まずは、分からない距離にあるいつかの過去を思い出すことだ。
「あの男」は、通勤のために、今、あのバス停に立っている。通勤の帰りにしっかり顔を見ればいいのだ。
「あの男」は、[私]が、見かけた日、東三丁目公園の前を通った。
通勤の帰りは、歩いて帰るのだろうか。それでなくてもいい。バスに乗って来るのでも、こちらのバス停は、右側にあるのだ。しかも、昼の時間は短くなりつつある。
この草の林に身を潜め、夕暮れが始まる頃、草の林から出て「あの男」が、街灯の灯の下、歩いて来るのを待てばいい。そう考えた。




