Ⅱ部 第四章 6
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小さいために隠れる場所は、いたるところにあった。家の庭、電柱や自動販売機の陰、などなど。
視野が広いこともよかった。人通りが、少ない道で、けっこうスムーズに進むことが出来た。街灯の灯も[私]を大いに助けてくれた。
車や自転車にぶつけられないように道の端の方を転がるのは塚本さんの散歩の時と同じである。
[私]の広い視野は、十字路で右手に歩道のある広い通りを見た。角の建物、街灯の光りに赤茶けた色を浮かび上がらせている。
いつのことなのか、そこまでの距離が不明な過去の記憶が役立った。
あの角を左に曲がれば、目的の場所までさほど遠くないはずだった。[私]はスピードを上げた。歩道のある広い通りに出た。車が通り過ぎて行く。車のことは余り気にしていなかった。
[私]を見てオヤッと思ってもそれまでだろう、わざわざ車を降りて[私]を捕まえに来る人間がいるとは考えられなかった。
[私]は、目的地である空き地に入ることが出来た。草地がある。奥の方に横に広がった所があるが、他は、整地されていない地面に少しずつの面積で草が生えていた。
歩道よりの一角に二十センチほどの雑草が生えている部分があった。身を隠すには十分な広さがあった。[私]は歩道よりの草のなかに自分の体を紛れさせた。
草の林。誰からも見えない。ちょっと、転がれば、広い通りや隣の建物が見える。
朝になったら、草地から目立たない、それでいて道路の方が見渡せる位置に移動し、「あの男」が、現れるのを待つことにする。
草地の中であっても、塚本さんの家にいるより遥かに危険なのは分かっている。[私]が、心配なのは、やはり、黒い空間のことだった。黒い空間は突然前触れもなくやって来るのだ。
眠りの状態、そこに[私]の意思は働かない。
その時、空を飛んでいた痩せたカラスが、特殊な能力で、草地の中の[私]に気づいたらどうなるだろう。
被膜が、ゴンジロウと共に戦ったあの日のようにならないままに、鋭い爪と嘴の攻撃を受けたらひとたまりもなく[私]はやられるのではないだろうか。
危険に対する本能が[私]を守ってくれるとは思えなかった。
[私]は、きっと破壊される。




