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第二章 3


           3

 家電メーカーの研究員をしていたという経歴が、人に聞かれた際に役立ちそうだった。自信を持って嘘の世界を作り出そうと塚本は思った。ラジコンの自動車や飛行機の高価そうなコントローラーも考えたが、それはやめにした。あえて、コントローラーもいかにも試作品というイメージを前面に出すことにした。


 以前使用していたエアコンのリモコンを利用することにした。

 塚本は、翌日、駅の近くのホームセンターに行き、幾つかの色の塗料を求めた。

 エアコンのリモコンは、黒い長四角の中に、オン、オフのメインスイッチや風向きとか風量とか温度設定のためのボタンなどがついている。

 塚本はフラットの部分をオレンジに塗った。飛び出したボタンを赤や黄色に塗り、「進」、「止」、「カーブ」などの文字を書き込んだ。


 何とも子供騙しの工作に思えるが、人をだますための作業が楽しくもあった。


 果たして、リモコンの動きに合わせて紙くずが動いてくれるかどうか、塚本は訓練することにする。


 ペットを訓練するのだと考えることにした。

「これが、出来なければ散歩には連れて行けないぞ」

左手で手作りリモコンの赤いスイッチを押すところを見せながら、「動け」と右手を振った。紙くずは、転がってくれたが、一メートルで止まってしまう。「動け、動け」塚本は動ボタンを押すのを見せつけながら、手を振った。紙くずは、再び転がってくれた。


「止まる」は、止ボタンを押すところを見せながら、掌を前に突き出す動作をした。


 訓練は、毎日一時間ほどだったが、犬や猫よりも、頭がいいと言われるイルカよりも優秀に違いないと塚本に思わせる動きを紙くずは見せた。塚本の訓練の目的を紙くずは、しっかり理解したに違いなかった。訓練を始めた翌日から塚本の散歩の折、紙くずは玄関のタタキに下りなくなったのだから。


 数日で、言葉だけで、或いは、リモコン装置のボタンを押すところを見せるだけで、正しい動作をしてくれるようになったのである。

それだけではない。大きな進歩があった。

 紙くずは部屋の中を実にスムーズに回れるようになったのである。


 次のステップは自分の散歩の歩調に合わせて、紙くずが転がってくれることである。何度かのテストの後、手作りリモコンの動きに合わせて紙くずはうまく転がった。



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