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野狐妄言(仮)  作者: 茶宇
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第1回

(さて、タイトルは何にするか。リタイアしてから隠者を自認している。ブログを書いてアップする場所は専らモールのフードコートになりそう…「モールの隠者かく語りき」とか? ちょっと偉そうかも。還暦を過ぎれば、誰でも、悟りのようなものを得ているはず。それをつれづれ、綴っていくだけだからなあ。あ、これ、野狐禅か! 好きな言葉である。初めて目にしたとき、子供のころに読んだ児童文学全集にあった『狐物語』、その挿絵の司祭に扮した狐の図が思い浮かんで可笑しくなった。これにしよう、「野狐妄言」。浅はかな独りよがりの理屈を連ねることになるブログにふさわしい。)


  1 自由とか


[本文]

その日、コーヒーを啜りながら野狐の心に去来したのは、あれ、なんか、自由、という思い。モールのフードコートの一人席である。哲学的な意味での自由ではない。どちらかというと、憲法学的な自由に近いかもしれない。自分史上、法律上の義務が最小の時期ではないか、六十歳定年退職で完全リタイア、無為徒食の今の状況は。親はすでに見送り、兄弟姉妹、配偶者、子はいない。契約上の義務といえば、継続的なものはマンションの管理契約にガス・水道・電気、docomoにWi-Fiといった些細な契約に伴う金銭の支払いだけ。何よりもサラリーマン生活から解放されたことが大きい。今のところ、まず健康、特別の贅沢をしなければ天寿をまっとうするまで、貯金と(今後支給される)年金でやっていける。つましい自由ではあるが、野狐は満足である。

とはいえ、身体と頭は確実に老化が進む。今思うと、サラリーマン生活、運動と頭の鍛錬になかなか有益であった。リタイア後の運動は、ほぼ毎日マンション周辺の公園を散歩してモールで一服しているからいいとしよう。頭の鍛錬は読書だけでは心許ない。アウトプットも必要だろう。そうだ、日記のつもりで、つれづれブログを綴っていこう、と野狐は決意してコーヒーを飲み干した。ブラック、サイズはSである。

[覚書:非公開]

SNS一般を好まない。ブログをアップした経験はないが、日記をつけるだけより公開した方が緊張感があって文章に気を使う。頭の鍛錬に効果的だろう。ただ、この内容、お気楽、身勝手であるなあ。反発もあるかも。コメントは受け付けないことにしよう。って、誰も読まないか。平日の昼下がり、フードコートの席の埋まり具合は三割くらい。ちょっと足を伸ばせばカフェもあるけど、こっちの方が落ち着いてiPadに向かえる。学生時代に住んでいたアパートの最寄りのJR駅前に、山林に自由存す、と刻んだ碑があったけれど、群衆の中に自由存す、である。まあ、群衆は大げさな地方都市である。

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