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ソード・ミーツ・ガール  作者: 埴輪庭


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訓練の日々

 ■


 サイラスはリラを殴ったりはしなかった。


 ただただ只管に走らせた。


 迷宮都市は巨大な円形都市で、形状に沿って外壁が建てられているのだが、その外壁に沿ってリラを走らせたのだ。


 迷宮都市リベルタの外壁は、その頑強さと繁栄を示すとともに、外界からの危険から住民を守る盾となっている。


 ただ、迷宮都市リベルタにとっての危険とは他国やそれに準じた侵略者だけを意味するのではなく、もっと危険で悍ましいモノをも想定していたが……。


 また、都市の外部には迷宮の入口がある。


 街の者たちはこれを"街外れ"と呼んでいる。


 まるで洞窟の様な外観だが、巨大な鋼鉄の扉が据え付けられており、探索者ギルドの実戦部隊に所属する職員、通称"白バケツ"が常に二名見張りについていた。


 無論白バケツというのはギルドの犬である彼等に対しての蔑称だ。


 白バケツは白銀一色の重装鎧を身に纏っているのだが、兜の形状がやや個性的で、まるでバケツのような形をしていた。


 それが彼等に対する蔑称の由来だ。


 しかし陰口を叩くだけで、直接彼等に対して実力行使をしようというものはいない。


 いや、いないというのは語弊があるかもしれない。いないのではなく、居なくなるというのが正しい。


 彼等白バケツは探索者が迷宮の入口を訪れると扉を開き、そして閉める。だが彼等は単なる門番ではない。


 単なる門番が邪悪に対して強い抵抗力を持つという白光銀の全身鎧などを身に着けるだろうか? 


 また単なる門番の業前が、小国とはいえ元騎士団長であるサイラスをして死を覚悟して、1対1なら或いはと言わしめるほどに鋭いものだろうか? 


 探索者達の間では彼等"白バケツ"は何に備えているのだと言う話が広がっている。


 しかし何に備えているのか? という話になるとそれ以上話が進まない。


 それは殆どの者が知らないからだが、ごく少数の事情を知っている者は決して真相を口にしないでもある。


 ■


「ほら、走れ走れ。メシを喰いながら走れ、水を飲みながら走れ。小便がしたければ走りながらしろ。でかいほうなら……まあその時は言え」


 サイラスとリラが出会ってから一週間目。


 サイラスはリラを毎日走らせていた。


 10キロ20キロの話ではない。


 リラが失神してその場に倒れるまで走らせていた。


 リラは農村の出という事で基礎体力はあるのだが、それでも異常なまでの走り込みの密度の前では基礎体力などというしゃらくさいモノは糞の役にも立たなかった。


 リラは苦しくても辛くても決して立ち止まらなかった。


 いや、立ち止まれなかった。


 というのも、くじけそうになると、サイラスが真横に走ってきて彼女の瞳をのぞき込むのだ。


 その視線は何かを見定めているようにリラには見えた。


 汗に塗れたリラは上衣が濡れ、その下が透けて見えるという破廉恥ぶりなのだが、サイラスの視線には好色の光は一切宿っていない。


 例えるならば何かしらの玩具を前にして、それがもう不要なゴミなのか、それともまだ使えるのかを見定めるかのような。


 しかし、その無機質な視線がリラには心地よかった。


 リラは彼女の知る限り、女で居て良かったことなど一つもなかったからだ。


 サイラスは常に気だるそうで、それでいてこちらに気を許そうとしていない事がアリアリと分かるような態度だが、それでも口に出した事は守ってくれるらしい……そうリラは解釈し、サイラスへの信頼感を強めていった。


 自分は不要なゴミではない、そう奮起するリラは体力の限りをつくしてサイラスの指示に従おうと賢明に脚を動かす。


 だが、それでも小娘の体力などはたかが知れている。


 体力の非常な酷使に堪え兼ねてリラが気を失うと、次に目を覚ました時には柔らかい寝床の上に寝かされて、体の各所には薬草の軟膏のようなものが塗られていたりした。


 そして決まって部屋の隅の椅子にはサイラスが座っていて本を読んで居たりするのだ。


 当初、自身が気を失っている隙にサイラスがいかがわしい事をしてきたんじゃないかと勘ぐったリラだが、あれだけ体を酷使してもそこまで厳しい筋肉痛がない事に気付くと疑念も消えた。


 サイラス曰く「筋肉の再構築を早める迷宮都市限定の薬だ。それなりに高いが、お前さんを鍛えると約束した。これで明日も休むことなく走る事ができるぞ。吐きながらでも走ってもらうから覚悟しておけよ」 との事だった。


 ・

 ・

 ・


 そんな日々を幾つも重ね、気付けばリラは失神せずに迷宮都市を一周できる程度には体力がついていた。


 この時には両者は名前で呼び合い、比較的良好な人間関係が築かれていた。


「私、ちゃんと出来ているかな」


 ある日、いつもの走り込みの後、リラがおずおずとサイラスに尋ねた。場所は寝床ではない。


 食堂である。


 サイラスはリラが失神しないようになると、彼女の胃袋がはちきれんばかりの食事を食べさせた。


 よく運動させ、よく食べさせ……残るは当然睡眠である。


「おう、リラくらいの年齢にしては上出来だ。だがまだまだだな。食ったら朝まで寝ろ。寝ると決めた瞬間寝れるようにするのも訓練のうちだ」


 リラはとたんにジト目となり、サイラスを睨むも言う事に逆らったりはしない。


 サイラスはやるべき事を一方的に命じるのではなく、説明とその結果をリラに伝える事を怠らなかった。


 これだけ走り込めばこの頃にはこの程度の体力はついている、その程度の体力があればこれこれこういう訓練に進む事が出来る……といった論理的な説明はリラを納得させた。


 ゴールの見えない努力は苦痛を伴い、やる気を減退させるという事をサイラスは良く知っている。


 この辺りの指導の上手さは彼の元騎士団長という前歴が関係しているのだろう。


 とはいえ、リラも不満が無かったわけではないが


 この頃のリラにとっては走り込みよりもむしろ食事と睡眠のほうが大変だったからだ。


 ■


 ある日、サイラスがリラを迷宮の第一層へと連れてきた。


 そこは長く伸びる一本道の通路で、側壁の岩壁には等間隔で明かりが設置してある。


 ギルドが設置したわけではなく、奇特な探索者が設置したわけでもないその明かりは、"消えない松明"と呼ばれていた。


 見た目は松明で、触れば熱い。


 しかし消えない。


 多くの新米がその松明を持ち帰ろうとしたが、皆諦めた。


 壁から決して外れないからだ。


「この通路を真っ直ぐ歩け。暫く歩いていると正面に蝙蝠の石像が置いてある。それをしっかりと観察しろ。触るなよ。見るだけでいい。そうしたら来た道を真っ直ぐ戻って来い。簡単だろ? 魔物は出ないから安心しろ。ただし……何も出てこないからって、何も起こらないわけじゃない。常に注意を払う事だ、床に、壁に、天井に」


 サイラスの言葉にリラは頷き、同時に"過保護だな"と可笑しくもなった。


 サイラスが罠の存在を強く示唆しているのは流石にリラでも気付く。


「分かった。気を付ける」


 リラは短く答え、通路の奥へと進んでいった。


 ・

 ・

 ・


 この通路は通称"試しの道"という。


 試し道がどういう道なのかといえば、雑に言ってしまうと初心者育成用の通路である。


 この道中はいくつもの非致死性の罠が張り巡らされており、これは罠のあしらいを身に着けるのにはうってつけであった。


 さらに通路の最奥には巨大な蝙蝠の石像が鎮座しているが、こちらは触れると像にかけられている石化の呪いが解け、巨大な吸血蝙蝠と化して襲われるという代物だ。


 だがこの蝙蝠は何度も斃しても再び迷宮を訪れる時には元の石像へと戻っており、初心者が戦闘経験を積むのに使われていたりする。


 ただ、探索者目線からすればこれらは初心者育成用の都合の良い設備でしかないのだが、一般人などからすれば十分脅威だ。


 迷宮とはそもそも古代王国の墳墓である、という点を鑑みれば、これらは都合の良い育成設備ではなく木っ端盗掘者除けの罠の数々だと考える方が自然……と、探索者ギルドの職員などは言う。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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