8話 暗闇の男
足音……?
俺が忍び込んだのがバレたのか……?
いや、周囲に人影はなかったしあの地下通路もすぐに閉まる仕組みのはずだけどな……。
カツカツカツ
徐々に大きくなる足音。
足元の蝋燭を静かに吹き消し、暗闇に身を潜める。
全クリ後に出現するはずの激レア隠し部屋に、執事見習いである子供が居ていいはずがないのだ。
とりあえずさっき習得したあれを使うか。
「魔法詳細スクリーンON」
【不可視擬 消費MP2】
【対象の物体の姿を使用者以外の人間から一時的に見えなくさせる】
「よし……俺の体に」
「不可思議」
その瞬間、古びた扉が何者かによって開かれる。
何者かが持つ蝋燭の火だけでは顔の全貌までは見えない。
その人物はぶつぶつと何かを呟きながら、乱暴に部屋を漁る。
「くそっ……! あの餓鬼共さえ生まれてこなければ……!! 無能なヴァニラだけならまだしもアイツらの双子の存在は誤算だ……」
双子……?
デビスとファナの事か?
声は聞こえるが天井が高いからか音が反響して声質がイマイチ分からない。
しかし、体格的に考えてもおそらくは成人男性だろう。
何故かイライラしている男は、足元の巻物を思い切り蹴り上げる。
そしてあろうことかその巻物は、隠蔽魔法で隠れていた俺のみぞおちにクリーンヒットする。
「――いたっ……」
やば。
「――!! 誰だ!!?」
男は持っていた蝋燭灯を慌てて俺の方向に向ける。
「……。気のせいか」
あっぶねぇぇ。
でも【不可思議】の効果がしっかり発揮された証拠でもあるな。
それにしてもこいつは何にここまでキレているんだ?
男はイライラした様子で捜索を再開する。
そのまま俺は身を潜めたまま5分程度が経過する。
「くそっ……! エリクスに在処を聞き出してから出直すか……」
おそらく蝋燭灯の残量から今日中の捜索は厳しいと判断したのだろう。
イライラした男は乱暴に扉を開けるとそのままスタスタと帰っていった。
「――ゴホッゴホッ! あーーー。あ、あ。息潜めるのも楽じゃないな」
男が撒き散らした多量の埃を体外に排出する。
「それにしてもなんでアイツはあんなに焦っている? デビスとファナに何か関係ありそうだったけど……まだ5歳の子供だぞ」
デビスとファナの意地悪双子コンビ。
魔導の天才ではあるが醜悪な心の持ち主の二人は、俺が居たリアル世界で行われたヴァニラファンへのキャラアンケートでは毎回ぶっちぎりの最下位だった。
「まぁアイツらなら嫌われてもしかたないかも……」
一人苦笑いした俺は不可解な男との遭遇に肝を冷やしながらも、この日なんとか目当ての最上級アイテムを手に入れることに成功した。
「これでヴァニラを救える……はず」
見えない杖をしっかり握りしめ、俺は地下室を後にする。