50話 決戦の終焉へ
「――がはっ!!」
「デビス!! な、なんでこんな事に……」
こんな事か。
それもこれもダンテ……いや『フォルクス・ノーデンターク』が仕組んだ屋敷組の仕業だ。
《治癒を使用しますか? 消費MP5》
YES
優しい光がデビスの小さな体を包む。
「応急処置はしました……しかし治癒では治しきれない内臓の損傷などが見受けられます。旦那様がお帰りになられたら直ぐに『完全治癒』をしていただいてください」
「旦那様がもう帰ってくるの? 今日の昼前にエリーモアに向けて出発なさったのに……?」
応急処置でなんとか一命を取り留めたデビスの額に軽くキスをした後、エマが質問してくる。
「はい。今説明するには時間がかかりすぎますので省略しますが、旦那様は必ずお帰りになられます」
「では、奥様はデビス様をお部屋のベッドまで連れて行き絶対安静で待っていてください。ファナ様とヴァニラ様は屋敷の敷地内に居る使用人の方々にこのことの説明をお願いします。おそらく呪い効果は無くなっているはずです」
流星の効力……。
改めて考えると凄まじい。
莫大な魔導力で発動された今回の呪縁魔法と、屋敷にかけられていた元々の呪いまで取り払ってしまうとはな。
「分かりました」
「う、うん。シュントはどうするの?」
《方位磁針を使用しますか? 消費MP4》
YES
《残留魔導思念から探索を試みますか?》
YES
《探索成功 方角無し 半径100メートル以内に反応あり》
やっぱりな。
「私は少し気になることがあるので終わったらお二人に合流します」
「――そう……。でも無茶なことはしないでね……?」
その後、それぞれは自分の役割を果たすべくバラバラに行動を始める。
「それじゃあシュント君、ヴァニラちゃんも言ってたけど気をつけてね……。全てが終わったら色々聞きたいこと、謝りたいことも沢山あるから……」
この感じからおそらくエマは自分の意識外のところでヴァニラや俺たちを傷つけた事を自覚している。
「ええ分かりました」
エマはデビスをおぶると階段の方に歩いていった。
「シュント君……頼みましたよ」
この中で唯一俺の力を知る人物であり、この戦いでもっとも心強かった人物からのエールは心に来る物があった。
「ああ。ファナも皆を頼む」
心配そうに見つめるヴァニラに俺は笑顔で返す。
「ヴァニラ様。デビス様の攻撃から私を命懸けで助けようとしてくださってありがとうございます! 正直すっごく嬉しかったです!」
「うん……うん! だってシュントはヴァニラが守るって決めてるもん!」
「ではお姉様。行きましょうか」
にかっと笑ったヴァニラはファナと共に正面玄関に消えていった。
俺は【沈黙魔杖】を力強く握りしめる。
「――ぶっ潰してやる……」
粉々になった3番目の本棚。
それに隠れるように存在していたはずの秘密のスイッチ。
スイッチを押すと石畳が擦れる嫌な音を立てながら地下通路が姿を現す。
蝋燭ランプ手にじめっとした地下通路を進む。
地下階段を降りきると黄金に輝く二つの部屋の扉がある。
「まずはこっちにするか……」
一つ目に選んだのは【沈黙魔杖】を入手した方の部屋。
音を立てないよう慎重に錆びた扉を開ける。
積み上げられた貴重な巻物や宝物は相変わらず無造作に置かれている。
しかしカビ臭い部屋に俺のターゲットである人影は見当たらない。
「……! ここには居ないか……」
そのまま振り返り扉に手をかけようとする。
「一発で仕留めたいってのが丸見えだな……」
乾いた破裂音と床に落ちる薬莢の金属音が地下室に響く。
「――避けた……!? こんな餓鬼が俺の弾を……!?」
暗闇に響く声はあの日この地下室で聞いた声と全く同じだった。
「左利きのお前はたまに弾丸の射線が右によれる癖がある……それを補うため背後からの奇襲では確実にターゲットを狙撃出来るよう左上半身を狙う」