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47話 誰かの記憶



 その瞬間。

 ファナ、デビス、エマは今までの聞いたことのない大声で叫ぶ。


 それは到底人間のものとは考えにくく、まるでアマゾンのジャングルに一人彷徨ったと聞かされた方がまだ納得できるほどだった。


「ど、どうした!!? ファナ!! しっかりしろ!!」


「な、なに!? エマさん!! どこか痛いの??」


 平静を保った俺、ヴァニラの声は3人の叫び声にあっさりとかき消された。


「――に、げ……て。の、のろ……。い」



「ああああぁぁあ!!!」


 呪縁魔法の二発目がもう来たのか!?


 にしても早すぎる……。


 屋敷の人間全員に効力を発揮する呪縁魔法をこのスパンで打てるはずが……!


「あああぁ……。ヴァニラ……アイツさえいなければ……」


 ファナの琥珀の瞳はまるでルビーを埋め込まれたように真っ赤に染まり、エマやデビス同様ヴァニラへの憎悪に精神を乗っ取られている。


「ヴァニラ様! そちらは大丈夫ですか!?」


「う、うん!


 幸いエマはHP残量が残りわずかな為に動けそうにない。


「ああああぁぁ……ヴァニラを……殺さないと……」


 まるでSF映画に出てくるゾンビのように立ち上がるファナは足を引きずりながらヴァニラの方に向かっていく。


 おそらく『魔力贈与マジックセント』の代償が今になって現れたのだろう。


「ファナ思い出せ! お前は……お前達親子はみんなヴァニラの事を愛していたんじゃないのか!? このままだと呪縁魔法の術者と同じだぞ!!」


「ぅぅうう……」


 俺は後ろから抱きしめるようにファナの進行を止める。


 だめだ……!

 完全に自我を失ってる……。


「――双刀流そうとうりゅう 水砲錬刃すいほうれんじん


 デビスの双剣から放たれる水刃波は空気を切り裂きながら俺目がけて飛んでくる。


「――! うおっっ!!」


 ファナをホールドしていた腕を解除しなんとか2本の水刃を避けた。

 が、しかしその時ファナの言葉が頭によぎった。


 ――「ファナ達双子は二人でひとつです」――


「弾けろ……」


 避けたはずのデビスの水刃は突然360度方向に全てに弾け飛ぶように爆発。

 当然俺にも霧雨のように細かい粒子になった大量の水がかかった。


「――水発瞬牢ウォータープリズン……」


「――!! やばっ……!!」


 空気中に離散した水滴は俺を囲むように氷の牢獄となって顕現。


 一方で俺の体に付着した水滴は衣服はもちろん、素肌までもを一瞬で凍結させた。


 天才双子の連携プレーにはめられ氷の牢獄に閉じ込められた俺はまんまと身体の自由を失ってしまう。


「――シュント!!」


 ヴァニラは急いで立ち上がると俺の方に駆け出す。


「ヴァニラ様!! こちらに来ては危険です!! 戻ってください!!」


「イヤだ! ヴァニラはシュントを守るって決めた……『ともだち』を守るって決めたの!!」


 その瞬間、デビスは双剣を再度構え直す。

 しかし、双剣の刃の向く方向は俺が予想したものではなかった。


 ターゲットは氷漬けにされ動くことすら許されない無防備な俺ではなく、こちらに向かって全速力で走る小さな女の子。


 俺はこの時ヴァニラの姿がスローモーションに見えていた。


「――はぁはぁはぁ。シュントは……ヴァニラが守らないと……。初めて……出来た……お友達なんだもん……!!」


 ヴァニラは短い腕を全力で振りながら走る。

 短い足を全力で回す。


 綺麗な顔を歪ませながら。




「――ヴァニラ様!! 横です!!!」


双刀流そうとうりゅう 龍炎虎徹りゅうえんこてつ……」


 俺の叫びの足は遅すぎた。


 俺が発した音波がヴァニラの鼓膜を揺らす間も無く、燃え盛る龍虎は轟音靡かせながらターゲットに食らいつこうと大きく口を開けた。



「ヴヴァァニラァァ!!!!」


 激突した龍虎による灼熱の爆風と爆音はまるで屋敷中、いやノーデンターク領全土に響き渡らんとするほどの勢いでエネルギーを拡散していく。


 大広間を支える6本の大理石で出来た大黒柱以外全ての物体が薙ぎ倒されていく。


「――がはぁっ!!!


 その瞬間、爆風に投げられた石の破片が俺の側頭部に直撃した。


「――ヴァ……。ニ……ラ……」


 吹き荒れる爆風の中、俺は意識を失った。





「――キルラ。貴様今日も《《神嬰の子》》の元に行っておったのか?」


 ……なんだ? 

 この禍々しいオーラを放つ声は……どこかで聞いたことがあるような……。


 目が思うように開かない。


 俺はベッドに横たわっているのか……?

 奴の腰から下しか見えない。


 辺りは……洞窟?

 灯一つの寂しく暗い部屋。


「キルラよ。貴様はこの世界を統べるに値する才を持つ。それなのになぜ人間にこだわる」


 キルラ……?

 聞いたこともないが、おそらく俺に言っているのだろうか。


「人間を信じるな。信じることができるのは己だけだ」



 そう言うと目の前の奴は姿を消した。


 ……。


 ……。かわいそうな奴だな。





 ――「今日はなんでお庭にいるの?」――


 あの言葉って……。

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