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44話 屋敷に舞う花火



 大広間にて対峙するエマは向かって右に、そして左に見えるデビスは荒い呼吸で己の心臓付近を押さえながらも俺たちの様子をなんとか窺っている。


 対して俺たちは縦列隊列を取る。

 シュント、ファナ、ヴァニラの順に縦に並んだ3人。


 月が高くなりステンドグラスから差し込む月光の量も増えてきた大広間は静かにその時を待っていた。


 俺は一度大きく息を吸い込んで作戦の成功を神とやらに祈ってみる。


「ふぅ……。それじゃあ……」



「――行くぞ!!」


 俺の号令を合図に俺たちは一斉にエマが居る右方向目がけて走り出し間合いを詰める。


「エマの懐に走り込め!! 鞭攻撃は相手との距離が近すぎれば遠心力が弱まる分攻撃力も減少する!! デビスはエマを倒した後だ!!」


「うん!」


「――行きます! 『粉塵の霧』!!」


 ファナが放出する大量の灰粉塵はエマに向けて全力疾走する俺たちを覆い隠しながら瞬間的に大広間中を埋め尽くす。


「くそ!! これでは【雷電鞭スパークニクス】を使おうにも標準が定まらない……!!」


 しかし、エマの鼓膜は灰色の世界からは発せられる三つの足音を確かに捉えていた。


「どこから来る……! なぜ貴様らはこの視界で走れるのだ!!」


 その瞬間、ファナは俺の背中を軽く叩いた。




「くそっ……。――なーんて私が言うとでも思ったのかしら?」


 灰色の粉塵の中から不敵な女の声が聞こえた。


「――そこでしょ? ファナ」


「『雷光滅エレキトリス』!!」


「――!! 『サラビアの盾』!!」


 ファナは咄嗟に背後から迫り来る『雷滅光エレキトリス』を『サラビアの盾』でいなす。

 灰の中でも確実にファナの背後を狙ったエマの鞭攻撃だった。


「ふん。『粉塵の霧』の使用前にあえて私に向けて走る姿を見せたのはこうゆうことね。でも残念……シュント君。アナタは必ずデビスを救うためにまずは左から攻めてくると思っていたわ!」


 エマには俺たちの先制攻撃目標がデビスだと筒抜けだった。


「視界ゼロのこの状況ではデビスは『龍炎虎徹りゅうえんこてつ』や『二閃風刀にせんふうじん』は打てない。それを見逃すはずがないもの」


『粉塵の霧』の術者であるファナはこの状況で唯一自由に行動出来る。

 そのアドバンテージを利用したのが逆にバレたのか。


「ファナ……唯一この大広間で視界を保つアナタの指示で前後の二人に左へ向かう指示を出していたんでしょ?」


 灰色の世界にはエマの勝ち誇った声のみが響いていた。


「――さすがお母様、ファナの完敗です……。ですが――」



「ファナ『達』の勝利です!!」


「何を今更戯言を……」


 次の瞬間。

 エマは鳴り続ける一つの足音にやっと気づく。


 しかしそれに気づくにはあまりに遅すぎたのだった。


「――!! な、なんでお前がぁぁぁ!!」


 灰色の世界に突如発光したロッドが現れる。

 そのロッドは小刻みに震えながらもエマの方向にしっかりと向けられていた。


「ごめんね。エマさん……でも弟と妹を守るのはお姉ちゃんの仕事なの……!」


「くそっっ!! 『雷滅エレキ――』」


 突然正面間近に現れたヴァニラにロングリーチを必要とするエマの鞭攻撃が間に合うはずもない。


「――火散弾モアフレア!!」


 震えたロッドから射出される火の玉達。


「きゃゃゃああああぁぁ!!」


 無数の火弾が照らすエマの赤髪と美しい体型のシルエット。

 ゼロ距離で放たれた火炎攻撃が灰色の世界を一時的に紅へ染め上げる様はまるで、夏夜空を散開する花火のようだった。


「す、すげぇ。あのヴァニラが……」


 大広間に散り舞う火花に思わず主人への敬称を忘れてしまう。




「――シュント君!! 前です!!」


 その瞬間、火散弾の輝きで視界にヴァニラを捉えたデビスは自動的にヴァニラに向けて【怨刀対子えんとうといつ】を構える。


龍炎虎徹りゅうえんこてつ……!!」


 前を向くと微かな視界に火炎を纏った双刀が振り上げられているのが分かった。


風突ウィンドを使用しますか?  消費MP5》


 YES


《隠蔽魔法は付与しますか?》


 YES



「――おい。今俺のヒロインが珍しくご活躍中なんだ……。」



「だから邪魔すんなぁぁ!!!」


風突ウィンド!!」


 姿なき剛風はデビス渾身の龍虎を吹き消しながら灰色の世界をも消し去った。

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