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4話 ヴァニラの傷跡

「――よーし。こんなもんかね! どうだい坊主、案外疲れたんじゃないかい?」


 100枚はあった皿をなんとか洗い終え、俺はキッチンの床に座り込む。


 あ、ん、が、い!!!???

 このババア俺を殺す気か!!

 こちとらろくに就職もバイトもしたことないんだぞ!!


 学生時代なんてスポーツ×、勉強×、顔×の『人生三罰』として名高かった俺だ!

 そんな俺にこの仕事量を押し付けるのは馬鹿げている。


「でもヴァニラ様があんたにだけ懐いているのは面白いねー。やっぱり同年代ってのが大きいのかねー」


「――! ヴァニラ様はあまり人と関わらないのですか?」


「うーん。これを使用人であるあたしの口から言うのは心苦しいんだけど……」



「3年前、前妻のアクリシア様が亡くなられて、エマ様とエリクス様が再婚してから人と距離を置くようになられてね……」


 父エリクスの前妻にしてヴァニラの本当の母親であるアクリシアは、ヴァニラが5歳になった頃に他界している。


 そして現在エリクスにはエマという新しい妻がおり、その間には魔導の才に恵まれた長男のデビスと次女ファナという二人の子供も授かっている。


 しかし、この二人の弟妹は将来どうしようもない程のクズに成長してしまう。


 才能が無いのにノーデンターク家の後継者とされていたヴァニラを恨み、様々な嫌がらせをしてくる最低の奴ら。


 原作では弟妹や屋敷の人間から酷い迫害を受け、一人草原で泣いていたヴァニラをたまたまノーデンターク領を訪れていた主人公が慰めるというのが二人の出会いだった。


 ああ、訓練と称してヴァニラに攻撃魔導を打ち込んでたあいつらを青炎剣エクソシストでギャフンと言わせた時は最高にスカッとしたなぁ。

 懐かしい。



「――使用人風情が何をくっちゃべっている」


 キッチンの奥から聞こえる男性の低い声。

 入ってきたのは黒髪を後ろで縛った眼鏡の男性。


「これはロリス様。申し訳ございません。新人の執事見習いに屋敷の説明をしていましたところです」


 コイツはエリクスの秘書でこれまた性格が悪い銃砲使い。

 原作では無才なヴァニラを毛嫌いしデビス、ファナと共にクーデターを策略したクソ野郎。

 

 でもたしかクーデターを阻止したときに『スレイブ・フロンティア』でも屈指の攻撃力を誇る名銃 【ガトリング】をドロップしたはず……。


「ふん。ミルボナ、エリクス様はヴァニラ様との魔導訓練を延長されるそうなので今日の二人の夕飯は必要無い」


 ――!

 エリクスの奴……いくら娘でもやりすぎだろ……。

 現代の日本だったら確実に児童虐待で通報ものだ。


「かしこまりました。ほらシュントも挨拶なさい」


「シュントと申します。本日よりヴァニラ様の執事見習いとして働かせていただきます」


「お前がヴァニラ様が拾ってきた雑巾小僧か。得体も知れぬ人間をこの屋敷入れるなどエリクス様も何を考えておられるのか……」


 は? 

 おいおい。こんな可愛い8歳児に向かって言うセリフか?


「話は終わりだ仕事に戻れ」


 そう言い残し、嫌味眼鏡はキッチンを去る。


 ……やっぱりあいつ嫌いだ……!!


「じゃああたしは夕飯の材料取ってくるから、キッチン整理しといてちょうだい」


「はい」





「はぁ。やっと終わった……」


 狭い自室に戻ったヘトヘトの俺はそのままベッドにダイブし、仰向けで天井をぼーっと眺める。


 ――「じゃシュント君……また夜ご飯のときにおはなししよ」――


「ヴァニラ……やっぱり夕飯食べにこなかったな……」


 コンコンコンコン


「――!」


 優しく叩かれた4回のノック。


「……ヴァニラ様ですか?」


「うん。入っていい?」


「どうぞ」


 今朝同様、ぬいぐるみを抱えた少女がひょっこりと顔を出す。


 しかし、覗いた可愛らしいはずの顔には今朝までなかった無数のアザがあった。


「ヴァニラ様……その顔……」


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