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38話 怨奏剣対子


「貴様……デビスに続きファナにまで手を出すとは……必ずあの娘と同じく絶望を見せてやる」


 呪縁魔法にかけられているとはいえ、赤髪を振り乱すように鞭打つエマの姿に俺は狂気すら覚えた。


「――ファナ大丈夫? 今お母さんがこのクズ執事から解放してあげるからね」


 うって変わって自分の娘には優しい口調で話すのが尚更怖い。


「――ええ。お母様早くこの出来損ない執事を懲らしめていただきませんと……。ノーデンタークの名にかけて」


 えええ。

 演技だとはいえんなんかショックだな……。


「――シュント君。私をお母様の方向に突き飛ばしていただけませんか?」


 ファナはエマに聞こえない音量でぼそっと呟く。


「――! いいのか? 俺は出来損ないの役立たずなのに」


 自分でも憎たらしい口調でファナをからかう。


「拗ねてるんですか……? 5歳児相手に拗ねるなんて男らしくも大人げもないですね」


 実は28歳なんて口が裂けても言えない俺はファナの作戦に素直に従う。


「エマ! こいつが返して欲しけりゃくれてやる! デビスと同じく全くの役立たずだったんでな!」


 ファナの首根っこを掴んでエマに向かって放り投げる瞬間、膨れたファナと目が合った。


「――シュント君酷いです」

「お互い様だ」



 放り投げられたファナは書斎に綺麗な放物線を描きながらエマの胸元に着地する。


「き、貴様! 高貴であるノーデンタークの人間を投げるとはなんと無礼な……!」


 キッと睨む目にはあのパーティーの時の優しさは微塵も無く、ただただ憎むべきヴァニラの側近である俺を蔑視していた。


 エマは電流を帯びた鞭を構えて攻撃体勢に入る。


 まずい。

 さっきの攻撃で腕が痺れて【沈黙魔杖サイレンス】の照準がうまく定まらない……。


 その瞬間エマの後ろに立つファナと再度目線が合致した。


「――シュント君! 窓から飛び降りて大広間に逃げてください!」

氷層結止アイスクロック!!」


 詠唱と共にエマの足元1メートル四方は瞬時に凍てつく氷で固められる。


「――な!! ファナあなた何を!?」


 突然愛する娘からの制限魔法をかけられたエマは動揺を隠せない。


「ごめんなさいお母様。全てにけりがついたら何度でも謝罪いたします。ですがファナは……いえ、《《ファナ達》》はお姉様を愛しています……!」


「あ、あなたなんで!」


「シュント君早く!」


 俺は指示通り2階の窓を突き破って地上に着地。


《高濃度MPポーションを使用しますか?》


 YES


 やっとMPを回復できた俺は、痺れた右腕を押さえながらファナに言われた通り大広間に向かって走り出す。




「――ファナ!」


「シュント君。ファナの『氷層結止アイスクロック』ではお母様を足止めできる時間はせいぜい1分です。そのうちに傷の手当てを」


 いつも食事をしている巨大な長机がある大広間。

 その机を囲むように大理石で出来た骨董品置きがあり、様々な美術品が並ぶ。


「障害物が多数あるここならばお母様の【雷電鞭スパークニクス】によるロングリーチ攻撃に多少制限がかけることが出来ます」


「ああ。たしかにそうだな」


 さすがはファナ。

『スレイブ・フロンティア』において重要なのはいかに相手の土俵では無く自分達に有利な環境で戦闘が行えるかが重要になってくる。

 エマの書斎のように障害物がなく逃げ道が少ない場所での戦闘では攻撃力が勝る俺でも苦戦を強いられるのだ。


異常解除アリスト


 ファナの状態回復魔法で腕の痺れは完全に消え去った。


「よし。サンキュー」

「どうです? 全くの役立たずに治療される気分は」


 ニヤリと笑うファナ。


「はいはい。すげーよお前は」

「あ、また……!」


 しかし、この時俺は階段をツカツカと降りてくる小さな足音に集中していた。


 一歩また一歩と足音が大きくなっていき、俺達が隠れる大広間でピタッと歩を止める。


 足音の主は明かりのない暗闇でも邪悪なオーラを放つ双剣を両手に持ちながら項垂れるように立っていた。



「あ、あのk……怨奏剣対子えんそうといつ……!」


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