24話 絶望の始まり
「――おお。これはこれはまた派手にやられたのぉー」
まだ日が顔を見せていない夜明け前、俺たちは町長の屋敷に戻った。
雨はおさまったが、泥だらけで帰宅した俺たちに驚いている様子のダンテ。
「ええ……しかしターゲットのイノディクトを仕留めることに成功致しました。これがドロップした戦利品です」
マリナはドロップアイテムの【大猪の牙】を手渡した。
「うむ、たしかに受けとった。子供二人は風呂でも入って体を温めてきなさい。メイドさんは医者をここに呼んでおいたからちょいと待っててくれんか」
「ありがとうございます」
ダンテが手を2回叩くと使用人二人が俺とヴァニラをそれぞれの風呂場に案内する。
ああ、服や下着の間に入った泥が気持ち悪い……。
「……。あれ?」
泥を軽く払っているとポーションなどを入れていた道具袋を応接間に忘れていることに気づいた。
「あ、ヴァニラ様。私は大広間に忘れ物をしたので一度戻ります。ヴァニラ様先に行っててください」
「うん。でも早くしないとシュント風邪ひいちゃうよ?」
「ええ。すぐ戻ります」
――再度煌びやかな骨董品がずらりと並ぶ廊下を一人で戻る。
「くっそー。早く風呂入りてー。でもニート時代は三日に一回でもなんとも思わなかったのにこの世界に来てからはほぼ毎日入ってる俺偉いかもな」
なんの自慢にもならない独り言を呟きながら廊下を進むと応接間に着いた。
しかし、目的の応接間からなにやらヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
マリナさんと医者が話しているのか……?
いやでもこっそり話す理由が見当たらないしな……。
「……。とりあえず覗くか」
野次馬根性とでもいうのか、人の秘密ごとが大好物な俺はドアとドアの僅かな隙間に右目を当てながら静かに耳を澄ます。
目を凝らすと腰が曲がっていたはずのダンテは真っ直ぐ綺麗に立ち上がっており、マリナは跪きながら負傷した右腕を差し出している。
「――完全治癒。これで《《貴様》》の右腕は治ったはずだ」
「感謝いたします、ダンテ様」
完全治癒……!?
『スレイブ・フロンティア』のゲーム内で対個人において最強の回復魔法をなんでたかが小さな町の町長が使用出来ている……?
しかしそんなことよりもダンテの今までと全く違う口調、佇まいなにより醸し出している雰囲気に大きな違和感がある。
「――イノディクトとの視感覚共有で貴様らの戦いは見させてもらったが……」
その瞬間、ダンテは目の前に跪くマリナの頬を思いっきり叩き、マリナの体は慣性の法則通りに応接間の物品を薙ぎ倒しながら吹っ飛ぶ。
「たしかに貴様にはあの戦いをガキどもに任せるように誘導する指示を出した……。しかしそれが本当に骨を折ってくるとはなんと情けない……」
「も、申し訳ございませんダンテ様……いえ……」
「――フォルクス・ノーデンターク様」