18話 エリーモア港町
翌朝、晴れわたる空の下青々とした草原をひたすら歩く。
「ねぇねぇ。なんで昨日は同じテントじゃなかったのー?」
膨れ面のヴァニラは何度も俺の脇腹をツンツンしてくる。
「ええぇとー。それはまぁ男女が同じテントで一緒に寝るというのもいかがなものかと……」
俺は際どい質問が来る前にこの話題を終わらせようと苦笑いに徹する。
しかし、そんな気遣いが8歳児に通用するはずもなく、純粋無垢がゆえに答えにくい質問が俺を襲う。
「――? なんで男の子と女の子が一緒にねたらダメなの?」
きたー。
お母さんが答えづらい質問ランキングで「子供はどうやってできるの?」と「そういえば預けたお年玉ってどうなったの?」に次ぐランクインを果たす質問……!
「ダメと言いますか……。ええっと。ねぇ! マリナさん!」
「はぁ。アナタはお嬢様の前で何を言わせようとしているんですか?」
細くした目で若干引き気味に答えるメイドさん。
ええぇこれは俺が悪いのか……!?
冤罪セクハラとかで訴えられた人の気持ちが少しは分かるかもしれない……。
「――着きました。ここがエリーモアです」
太陽が降り注ぐ草原を抜け高台から見下ろす美しい港町。
吹き抜ける海風に運ばれる磯の香りは地球のそれと同じく無性にテンションが上がるものだ。
多くの帆船が停泊し荷下ろしをしていたり、漁師が屋台市場で魚を売っていたりと非常に活気があるこの街にモンスターが現れたりしたらそれは大騒ぎになる。
「さぁ行きましょう。町長様のお屋敷で詳しいお話が聞けると思いますが、まだ約束の時間より早いので少し街を散策いたしますか」
マリナは懐中時計をパタリと閉め歩き始める。
「ヴァニラ様はエリーモアに来た事はあるのですか?」
「うーん。一回だけあるみたいだけど赤ちゃんだったから覚えてないの。でもなんだか幸せだったなっていうのは覚えてるかも……?」
俺たちは高台から降り、ガヤガヤとしたエリーモアの港町に入る。
「――らっしゃーい! 今ならの冷たーいアイスクリームがなんと10リンクで食べれるぜぇー! おっそこの可愛いメイドのお姉ちゃん! 弟君と妹ちゃんにどうだい?」
マリナは人差し指で自分の顔を指しながらフリーズした後、顔を真っ赤にしながら機嫌良く俺たちにアイスを買ってくれた。
もしかして……。この世界の女性ってチョロいのか……?
「おいしー! シュントのオレンジ味もおいしー?」
「ええ。ヴァニラ様のイチゴ味も美味しそうですね」
「でしたらシュント君のアイスを一口頂いたらどうですか?」
「そうですね……あれっスプーンをもらったはず……」
俺はローブのポケットに手を入れるが、それらしき感触は無い。
あの店主おべんちゃらに夢中で俺の分のスプーン渡し忘れやがったか?
その時、手に持っていた物体が微かに揺れた。
それも人工的に。
「えへへ。これならスプーン要らないよ?」
イチゴのクリームを口元につけた少女は優しく笑いかける。
太陽を反射した白銀のロングヘアーが尚更この子を光り輝かせる。
「……推しが……可愛すぎる件について……」
俺は可愛いの過剰摂取と人生初の関節キッスの感動から膝から崩れ落ちるのだった。
「おやおや。こりゃー元気な子供達がご一緒でぇー」
顔を上げるとミルボナさんより腰を曲げたお爺さんがこちらに向かって微笑んでいた。
「――あら町長様」