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1話 ヒロイン論争と死

「くそ……始発で並んで買えないなんて……あの作者もっと増版してもよかっただろうよ。昼で作品を切らすなんて同人作者失格だ」


 俺は一人イベント会場から二つほど歩いた駅の改札エスカレーターに乗り、同人作家の品揃えの拙さに対し文句を垂れる。


 そしてさらには自身の不運と作者の愚痴をSNSに放出しイライラを発散させる情けなさ。


 え? 

 恥ずかしくないかって?


 確かに社会人をしながら同人作品を作る方々に常に尊敬の念を忘れない俺だが、今日の獲物に関してはそうも言ってられない。



 3ヶ月前に発売され、瞬く間に大人気RPGとなった『スレイブ・フロンティア』


 ざっくり説明すると、先代勇者が封印した魔王『アルカディウス』の封印が何者かによって放たれてしまい世界に危機が迫る。

 しかし、その危機に立ち向かうべく先代勇者の子孫である主人公は仲間を集めながら、共に切磋琢磨し魔王討伐に向かうと言うストーリー。


 正直ありきたりな物語構成だし、発売前の評価は軒並み低評価のものばかりだった。



 では何故そのゲームがここまでの人気を勝ち得たのか。



 それは、登場人物一人一人の生い立ちや隠された過去、目指している目標との交錯や衝突の描写が素晴らしかったに他ならない。


 特に物語中、結婚相手として選択出来る二人のヒロイン論争は全世界を巻き込む規模で今なお熾烈な戦いを繰り広げている。


 さっきも物販行列の中、俺から見ても激イタな論破厨オタク達が二人のヒロインの魅力にについて舌戦していた。


 


 その論調の渦の中心にいる二人のヒロイン。


 一人は勇者である主人公の幼馴染『アスナカーレ・グランフィリア』


 主人公とは幼少期から出会い、主人公の魔法の先生として活躍。

 真面目、優秀、美人と三拍子揃ったオールラウンダーヒロイン。


 さらには青年期に見せる成長したダイナマイトボディーにメロメロになる男性が多数。



 そしてもう一人が俺の最推しであるキャラクター。


『ヴァニラリア・サラ・ノーデンターク』


 主人公の青年期から登場する彼女は、由緒正しきノーデンターク貴族出身でありながらも、戦闘・魔法の才能に恵まれず一族から半分見放された悲しい女性。


 しかし、一族から目の敵にされながらもノーデンタークの後継者として土地を愛し、民を愛する素晴らしい御心の持ち主だった。

 

 そんな優しき責任感と何が起きても諦めない鋼の精神を持つ彼女に、俺は生まれて初めて恋をした。


 こんな女性と過ごせたら何て幸せだろうと……。


 

 まぁこの説明だけで飯うまなわけだが、今日はそのヴァニラリアの同人作品が買えなかったのだ!


 なんと腹立たしい。


ピコン


 さっき投稿したツイートにリプライが飛んでくる。



「乙です」

「ワイもそんな感じだ」

「現地参戦裏山」


 次々飛び交うオタク仲間の反応を見て、少しは気が紛れてくる。


 しかし肯定意見的だけではないのが現代のネットワーク社会の闇。


「それは君のリサーチ不足でしょ、何でもかんでも人のせいにするな」

「こいつ絶対友達いないだろ。インキャ確定演出すぎるネタ投稿ありがと」


 はぁ!?

 この日のために俺がどんだけ苦労したかも知らない隠キャ共が!



「間もなく 電車が 通過します 黄色い点字ブロックの内側に お下がりください」



 はぁ。

 こんな奴ら相手にしてたらイライラが増すだけだ。

 今日は何とか勝ち取ったアニメの同人誌が手に入っただけいいと思おう。



 プルルルルル


「お、電車きた。2駅歩いたから全然人居ないのラッキーだな」


 大量の戦利品を両手に抱えながら京葉線最終電車に乗り込もうと、点字ブロックの向こうに歩いていく。



 その瞬間、運動不足が祟ったのか思い切りけつまづく。


 俺の手から飛んでいく戦利品がスローモーションに見える。


「やべ! 3時間かけて買ったのに!」


 勢い良く射出された戦利品を何とか掴もうと点字ブロックを大きく踏み越える。



 プゥゥーー!!!!


 轟音と汽笛を響かせ全速力でホームに侵入する鉄の塊。



「は?」



 俺、佐々ささき 隼斗しゅんとはこの日、肉塊となってこの世とおさらばした。








「だいじょうぶ?」


 耳元で聞こえる幼女のふわふわした声。

 柔らかい口調にどこか懐かしさも感じる。


「……え?」


 目を開けるとそこにはぬいぐるみを大事そうに抱え、泥だらけになった白いワンピース姿の女の子が俺を見つめていた。




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