整備とプール
8月のある日、俺はナツミとルンボーと買い出しに行った帰りだった。
「白魔を殺すべきでないっ!!」
「白魔と共生をっ!!」
「人類は傲慢であるっ!!」
白い服を着た連中がデモを行っていた。
「『白魔教』の連中かぁ」
「隊服を着てなくてよかったね」
俺達は今はツナギを着ていた。
「ああいう連中が増えたのは、それだけニョ区が安定している証拠だ。社会の上澄みだけ吸っている輩だがなっ」
俺達は目を付けられない内にその場を立ち去りに掛かった。
と、デモが騒いでる通りの脇道に見知った顔を見付けた。左目に眼帯を付けて随分老け込んだけど間違いない、ラバタだ。
俺とナツミのホールが襲われた時、駆け付けて来てくれたニョ区とは別の区の1級公社兵。
母さんを亡くしたあの時以来、初めて見た。
「・・ラバタだね」
「うん」
「知り合いか? アレは素人じゃないな」
ラバタをこちらを一瞥して、脇道に去ってしまった。
「ラバタは公社を止めた、って聞いたよ?」
「そうなんだ・・」
除隊後も一般職をしているワケでは無さそうだった。
俺達は公社がいくつか所有している多目的キャタピラ車のドッグの1つに戻ってきた。
「買い出し済んだよー」
「あんまいいのなかった」
「腹に入れば同じだ。贅沢言うなよ?」
ドッグの端の休憩スペースに買ってきた物をドサドサ置くと、タンクの整備をしていたナッシド、ノッカ、エミソン、ボグが手を止めて寄ってきた。
全員油まみれだ。
「炭酸あるか? 炭酸っ!」
「はぁ~っ、お腹空いたぁ~」
「皆、手を洗いましょうっ!」
「もうちょっと本館に近いとこならジムコに宅配頼みたいけどね」
休憩スペースは一気に騒がしくなった。
「何もタンクの整備させなくてもな」
俺はコーラの瓶を開けながら、整備途中のタンクを見ながらいった。
8月の公社兵はわりと暇だった。特に2級は派手な仕事がないと『待機』になりがちだ。
1級も多少は手が空くらしいが、詳しいスケジュールはちょっとよくわからなかった。
「いざとなったら自分達でも直せ、ってことでしょ?」
『豆系』の食品を注意深く選り分けてるナツミ。
「このサイズなら普通ドライバーが2人乗り込むから、いざとなっても出番さ無さそうだが」
手近な物を適当に取って口に入れてるルンボー。
「あのさぁ」
洗った手を拭きつつ、ノッカが何気なく切り出した。
「あたしこの間の仕事でちょっと高いプールのチケットもらったんだよ、コレ」
着崩したツナギのポケットからチケットを取り出すノッカ。
「今日、『今度行こうね』って皆、誘おうと思ってたんだけど、よく見たら使用期限今日までだったよぉ」
ノッカ的だな。と、いうことは・・
「だから、コレ、終わったら皆でプール行かない?」
これに、ナツミとエミソン思ったより激しい反応を示したっ。
「えーっ?! 今日なの?!」
「『準備』が必要ですっ!」
「1回、寮に戻ればいいじゃーん。男子もいいでしょ?」
俺達は顔を見合せた。
「ひゃっほーっ!!!」
「とりゃっ!」
「プール2年ぶりだっ!」
「別に来たくもなかったが・・」
ナッシド、俺、ボグ、ルンボーはプールに飛び込んだ。時間も午後7時も過ぎたお高いプールなのでそんな混んでない。
なんか照明の組み方がムーディーな感じだった。俺の知ってる『プール』じゃないっ。
客層的に、はしゃいで飛び込むのも俺達くらいだ。
「男子っ、ちょっといいとこなんだからあんまワーワーしないでねっ、恥ずかしいからっ」
ナツミは色味は地味だが、結構大胆なビキニを着ていた。パレオで隠そうとし過ぎてミニスカみたいになってる。
「ノッカは本当にっ、事前に言ってくれたら用意しましたのにっ!!」
エミソンは教練所のスカート付き競泳水着を着て、亀型の浮き輪も装備していた。
「だからゴメンって言ってるじゃーん」
コレはなんと言うべきか?? ノッカは特殊な形をした露出の多いビキニを着ていた。
「まぁ、タダでお高いとこ来れてラッキーだったけどね!」
ジムコも参戦していたっ! 下にシンプルなビキニを着ているようだが、上半身は肩出しラッシュガード、下半身はショートパンツを着込んでいた。
戦闘員ではないことを差し引いても華奢で色白だっ!! うーむ・・
「よ~しっ、取り敢えず全員『流れるプールで無意味に流され続ける件』をやっとくかっ?!」
ナッシドの身も蓋も無い提案だったが、プールに来たからにはやらねばなるまいっ。
「いいねっ! このプールと繋がってるみたいだし、女子も入れよっ、ほらっ、ナツミっ!」
「・・いや、入るけどね」
照れ臭そうなナツミ。
「とぉーっ!」
入るとなったら思い切りよく飛び込んでくるエミソン。
「うっひょーっ!!」
水着と体型はセクシーでもコミカルな挙動で飛び込んでくるノッカ。
「じゃ、ボクも・・」
静かに着水するジムコ。
「では、いざっ! 流れるプールへっ」
ルンボーは鍛えた『本気の速度』で流れるプールに泳ぎだし、周囲の一般客を驚かせ、俺達も続いた。
「あっ? 待ってぇー」
当然ジムコは遅れたが、
「しょうがないねっ」
ナツミが抱えて運んでやっていた。
「・・『貸し』だからね」
「はいはい」
全員、流れるプールへと侵入していったっ!!
・・
・・・・この氣、呑気な声はっ?!
「どしたのフツネ?」
「知り合いでもいた?」
私、フツネ・シズモリは元公社兵で今は公社の事務方で働いているリョーコと、結婚後に公社兵を引退したミコに誘われ、久し振りにプールに着ていた。
プールと言えば、流れるプールで無意味に流され続けられなければないと、友人2人と無意味に流されながら、2人の世間話に相槌を打っていたのだが・・
「一番乗りだっ!!」
「俺、2番~っ」
ルンボー・ミネータっ! ユキヒコ・グランピクシーっ!! 他の子達も次々とっ! 来るなり、弛緩して、流れるプールに流されるに任せ始めた。くっ! 遊び方は心得ているなっ。
「・・今年入った2級の子達と、食堂のウサギの子だ」
「あ、知ってる子達だわ。へぇ~、何かこうして見ると可愛いね」
「合流しちゃう?」
「止してくれっ、私はこのまま『忍んで』帰ろうと思う・・」
マカを絶って、沈んでこの場を離れようとしたが、
ガッッッ!!!!
神速でっ! リョーコとミコに両腕を掴まれて捕獲されたっ。
「っぬ?!」
2人とも元1級兵っ! 速いっ。
「フツネ、あんたそういうとこだからね?」
「コミュニケーション大事よぉ?」
「ま、待てっ。帰りはしないっ。合流は勘弁してくれっ!」
私は誠意を込めて嘆願した。
「・・しょうがないなぁ」
リョーコとミコは顔を見合せ、ニヤリとした。っ!! この流れはっっ
「君達ぃ~~~っ!!!」
「御姐さん達も混ざってい~いぃ?!」
「ぐっ?! ぬぅぅっっ」
私はリョーコとミコに連行され、ギョッとしている2級とウサギの子達の元へ連行されてしまった。
なんということだ・・・
「えーっ??!!! シズモリさんっ?!」
フツネさんが、同年代の女性2人に流れるプールの水の流れに逆らって連れて来られたっ?! どういう状況だ??
「エレガントな水着ですっ!!!」
勢いづくルンボーっ! フツネさんは黒いシックなワンピース水着をしていた。鍛え抜いて傷痕の多い身体が確かに眩しい・・
「私の着衣の記憶を消せっ!!」
ちょっと赤面しているフツネさん。カワっ!
「っ?! はいっ、抹消しますっ!!」
水中で直立不動すふルンボー。絶対嘘だろお前っ。
「私はリョーコ・ラジン。本館の事務で働いてるんだよ?」
「あ、お見掛けしたことあります」
ジムコは戸惑いつつも軽く会釈していた。
「あたしはミコ・ネコヤン! OGさっ。リョーコも元公社兵だったのよぉ?」
「へぇ~っ」
感心する俺達だったが、ナツミだけ、バチバチにフツネさんを警戒していた。
「ほらっ、あんたもっ!」
「今さらだっ」
「話の流れでしょうがっ」
「ううっ」
リョーコさんとミコさんに促され、もう真っ赤に赤面しているフツネさん。
「・・・フツネ・シズモリだ」
「知ってるよぉっ!」
「シズモリさん、普通に喋ってるの初めて見ましたっ」
反応が強いノッカとエミソンっ!
「私も、会話くらいするっ!」
ここでナツミがグイっ、とフツネの前に進み出たっ。
フツネさんは女性としても小柄な方なので、俺と身長変わらないくらいのナツミとは結構身長差があった。
「ナツミ・ウッドハープです。ユキヒコとは同じホール出身で幼馴染みですっ!」
これをリョーコさんとミコさんは面白がって、「どうする?」「この子、設定強いよっ?」とフツネさんを煽りだした。何を仰ってるんだかっ。
フツネさんはリョーコさんとミコさんの腕を静かに解いて、真っ直ぐナツミを見据えた。
「?!」
互いのマカとマカがぶつかり合うっ!! って、なんで?? マカ出すの必要っ???
「私、フツネ・シズモリはユキヒコ・グランピクシーの辺境研修指導官であったがっ、思うところは何も無いっ!!! そしてっ!」
ドォンッッッ!!!!
「くっ?!」
フツネさんのマカがナツミのマカを吹き飛ばし、流れるプールの中にフツネさんとナツミを中心として円柱状の水の無い空間を造りだしたっ!
「何っ?! これはっ! フツネのマカによる。『フツネの支配域』っ!!!」
「この空間に流れるプールの水は一切干渉できないっ!!!」
急に『解説役』に回るリョーコさんとミコさん。なんなんですか貴女達はっ??
「私は・・ユキヒコ・グランピクシーのっっ!!!」
「なんですかっ?! シズモリさんっ! 貴女はユキヒコのなんだっていうんですかっ?!!」
もう半泣きなナツミ。周囲の客もプールの監視員の人なんかも騒然としているっ。
「『母』ではなーーーいっ!!!!」
・・・????
「え?」
いや、それはそうですけど??
・・母さん、この後、フツネさんは1人、帰ってしまい。俺達もプールの運営会社の人に「帰って下さい」と言われて帰るハメになってしまいました。
まったく『ゆっくり』できませんっ! その後、リョーコさんとミコさんに美味しいバーガーショップで奢ってもらいましたが、何が何やらでした。
取り敢えずナツミが謎に落ち込んでしまったのも気掛かりです。
しかし、フツネ・シズモリさん。なんだか、凄い人だと改めて認識させられました。いやはや・・