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サファイアと墓標

・・気象宮が崩れ、雲に大穴が空いて日が差してる。眩しい。爽やかなんじゃないの?

アイスドラゴンの処理もなんとかなったようだし、地上の白魔達はなんとかなりそうだね。

オレは両手で抱える『荷物』があるから、折れたククノチから蔓を発生させて落下傘を操った。


「こらっ! ミラード! 普通に篝所の近くに着地しようとするなっ。それ以前にのんびりフワフワ降下していては飛翔船に救出されてしまう(・・・・・・・・)であろうがっ!!」


無理矢理マスクとゴーグルを付けさせて、マカを込めた植物の綿毛でも保護してやってる荷物が、オレの腕の中でワーワー言ってくるんだよ。

コイツは青と白の布で包まれた『赤ん坊』っ! 普通に喋ってる・・それも上からな感じでっ。

額には淡く光る鉱物が埋め込まれていた。銀水晶だ。銀水晶の周辺にはよくわかんない紋様も刻まれてる。

分派が色々込み入ってる感じだっけど、とにかく過激派のニーベルング達の仕業さ。正気の沙汰じゃないね。

コイツを発見した部屋には失敗したらしい100人以上のニーベルングの赤子の死体があった。正気の、沙汰じゃないねっ!


「え? オレが君のプランに乗る理由、ある?」


「余がニシパの手に渡ればどうなるか? ニシパに限らず世界中の『古き商人』どもは連携しておるっ! ニョ区の傭兵公社ごときでは対抗しきれんっ!! 今は遁走あるのみなのだっ!!」


「え~? オレ、この間、カッコイイ車買ったばかりだよ? 水晶機器内蔵でホバーモードに変形できるヤツっ! 今の部屋気に入ってるし、貯金も」


「俗物かぁーっ?!! 世界のピンチなのだっ!『よっしっ、いっちょオイラが世界救ったるかっ!!』みたいなノリはないのか?!」


「無いよ。何、そのキモいノリ? 無理なんだけど?」


「かぁーっ!!! 人選ミスっ! チェンジっ! チェンジしてくれっ、勇者っぽいヤツとチェンジしてくれぇいっ!! もっとスレてないっ、フレッシュなヤツがいいのだぁーっ!!!」


厄介な風俗の客みたいになってるね、このベイビー。ま、しょうがないか。マジ、貧乏くじ引いちゃったけど。


「・・わかったよ。うっかりオレが『天才』だから、対応してやんよ。はぁ~、なんでオレってば天才なんだろなぁ」


オレはボヤきつつ、ククノチの『秘匿特性』を開放した。ククノチが再現できるのは『普通の植物』だけじゃないっ!!


「おおっ? こんな『程度の低い水晶武器』でっ!」


「なんか言った?」


オレはククノチで、蜃気楼を操る紫陽花型白魔『アカリカクシ』の身体の一部と、風を操る朝顔型の白魔『ショウキクグツ』の身体の一部を発生させた。

アカリカクシの蜃気楼で落下傘と俺達の姿を隠し、ショウキクグツの風操作で落下傘を操り、この空域から離脱を始めた。


「うむうむっ! よいのっ、よいのっ!!」


機嫌好くなったベイビー。こんな子が、産まれちまったことを無意味にはしたくないね。

俺はインカムで通信を繋いだ。


「あ、ヒロシ司令ですか? ミラードです。気象宮の残骸は色々ヤバいんで、ニシパが調査する前にナパームかなんかで焼いといてもらえます? ああ、はいはい。それと、オレ、公社辞めるんで。資産は福祉とかホールの補修とかに適当に使っといて下さい。えー? 理由? まぁ、そうですね。『育休』みたいな! へへへっ。それじゃ、ミラード・ベラでしたっ。はーい」


オレは通信を切り、蔓を操ってインカムも外し捨て、蜃気楼の中、風を起こし、ベイビーを抱えて空の大穴の外の豪雪の空へと飛び込んでいった。

まぁ普通に考えたら自殺的だけど、オレ、天才だし、なんとかなるでしょ?



・・久し振りに午後から丸々時間が取れている。俺は人で賑わう『マーケットフロア』の宝飾専門の古道具屋『ロミーナ』に入った。

目立つので被っていたフードを取る、


「あら、1級兵の! いらっしゃい」


入ったのは初めてだったが、褐色の肌の小柄な店主はフランクな様子だった。


「これと、等価くらいのネックレスは無いかな? 素朴な物がいいんだけれど」


俺はケースを開けてティアラを見せた。


「可愛いね。随分、若いデザインだけど? 年下? ふふっ」


俺は苦笑した。


「いや、もう4年以上も前にフラれたから」


「へぇ? まぁ、いいわ。ちょっと見せてくれる?」


「ええ」


布手袋をして、鏡筒を掛けて店主はティアラを確認した。


「状態もいい。そうね・・ちょっと待ってね」


店主はティアラをカウンターに敷いた布の上に置いて、店の奥にゆき、布でくるむようにして一つの簡素な装飾のネックレスを持ってきた。

青い宝石だった。


「サファイアよ。『ギルド』の上級兵に売るのもなんだけど、これはニーベルングの遊牧民が継承していたんだって。加工に水晶は入ってない」


俺はハンカチ越しに店主から受け取って、見た。星の欠片みたいだ。


「大昔、ニーベルング達が南部大陸に逃れるのをアカエ区の公社の前身組織が手伝ったらしくて、そのお礼に渡された物が流れ流れてここに来たわけ。どう?」


「・・ティアラは既製品で、学生同士の事故みたいな話のオマケだよ? ちょっと釣り合いが」


「いいって、いいって! パッと見でっ、貴方のイメージでコレだっ! って直感したからっ」


「俺じゃなくて妻にだよ?」


「貴方の『家』の物になるならバッチリ! それは非売品みたいな物だったから、すぐ売れそうなキャッチーなティアラと交換できるなら、私の店の経営的にも助かるっ!!」


「ええ?」


結局、店主に押し切られて交換してしまった。

マーケットフロアを出て、待たせていたオープンカー仕様の小型の電気動力式の艦内タクシーで移動する。

近道してもらったので『機動要塞船(きどうようさいせん)』の外壁近くの通路を通り、窓から外が見えた。

今は南部大陸のナズナ区の端辺りの上空を航行していた。ニョ区4番ホールから発掘された地下要塞は補修してみると『飛べた』ので、こうして活用していた。

今や世界中の区の傭兵公社はギルドを組んで連帯し、銀水晶を悪用しようする独裁ホールや過激派のニーベルングに対抗していた。

俺はそこの1級兵の1人になっていた。那須丸は打ち刀型に精製し直してる。


「この区も『獣魔(じゅうま)』が増えたな・・」


俺は窓から見下ろせる春先でもまったく雪の積もらない巨木の密林地帯の丘に見えた、猿型獣魔『アバレテンサン』の群れを見ながら呟いた。

ナズナ区に限らず、たった4年あまりの間に、世界の7割のエリアが完全開放され、そのエリアで白魔は滅びた。

が、代わって現れたのが日光も月光も非低温環境も通用せず、主不在でも影響を受けない自然の獣と同じような魔物、獣魔が現れだした。

病虫害の多発や海面上昇による水没に多くのエリアは悩まされもしたが、ニシパコーポレーションのような各地の老舗大財閥企業が私財と技術を提供して救済に当たっていた。

結果、社会の財閥依存は益々深刻化はしていたが・・

『士官フロア』の入り口まで来た。

俺はタクシーを降りて、手続きを済ませ、フロアに入った。

自分の部屋の前まで来て、コードを入力して鍵を差し、扉を開ける。中はまず疑似日光灯が灯る『前庭通路』になっていて、植物が植えられている。

妻がマメに手入れするので、どんどん増えてる。ただ、もうすぐ臨月だから、前庭の手入れはしばらく家政婦さんに全て頼んだ方がいい気がした。


「箱入り扱いするな」


と、また怒られそうだけど、


「ただいま」


俺は家に入った。妻はソファで編み物の途中で居眠りをしていたようで、重たいお腹で億劫そうに起きてこちらを見た。

ハボリムは手入れはされていたが、壁に掛けられている。

中々産休を取ってくれないから、最終手段でニョ区からリョーコさんとミコさんに来てもらって説得してもらって、約2ヶ月前にようやく休みに入ってくれた。

まず危ないし、ニョ区選抜隊の副隊長をしているワージャさんから『隊長が大きなお腹で前線に来ちゃう、作戦どころじゃないっ』とクレームが凄いぞ? と散々言われてもいて、俺は一安心だった。


「お帰り、ユキヒコ。こんなに退屈なのは子供の頃、以来だ。編み物は性に合わない」


「うん。すぐ復職できるよ。それと・・退屈は変わらないけど」


俺はケースだけで、包んでもらわず受け取っていたサファイアのネックレスを取り出し、妻の、フツネさんの首に掛けた。


「ティアラと交換してきたんだ。ニーベルングの遊牧民の物らしいよ。あ、盗品じゃないから」


「・・うん。ようやくアレを始末したか。臨月になっても持っていたら、一回ナツミに電報を打ってから家出しようかと思っていた」


「いやっ、なんで一回ナツミに電報を打つのっ?! やめてっ、フツネさんっ!」


俺は焦った。


「私だって、ヘソを曲げればどこかへ行ってしまうとわかっておくことだ」


フツネさんは満足そうにサファイアのネックレスを見詰めながらいった。


「綺麗だな、星の欠片のようだ」


「さっき俺もそう思ったよ?」


「・・真似をするな」


少し顔を紅潮させて首から提げたサファイアを手にしたままそっぽ向いてしまうフツネさんだった。



・・ホールの短大終わりに友達とキャンパスから出てくると、クラクションが鳴った。まさかのニシパコーポレーションの車っ。レンタルするの面倒臭がったなっ? 運転席からジガが顔を出して片手を上げた。


「・・・」


数分後、あたしはジガが運転する車の助手席に座っていた。


「ジガ、何回か言ってるけど、クラクションの鳴らし方が強いっ。それから、あんたよくニシパなんかに就職したもんねっ」


ニーベルング狩りは解散したので、ジガは3ヶ月程前まではギルドにいた。


「財閥の中じゃニシパは穏健派だ。それに中に入らなきゃわからないこともある。俺の心は今でもニーベルング狩りだぜっ。ギルドのヤツらは結局ヌルいからなっ!」


「この車、盗聴されてない?」


落ち着かないっ。


「検査済みだ。大学どうだ?」


「え? まぁ、普通よ」


あたしは結構前に公社兵から事務に転属してたけど、春から休職して大学に通っていた。


「フツネ隊長に対抗してんのか? やめとけやめとけ」


「ちーがーうっ! 今があたしの人生の折り返し地点なんだよっ」


「お前、ナツミ。ちょっと前に公社兵辞めて事務に移る時もそんなこと言ってただろ? お前、『折り返し』多いな。蛇腹みたいになるぜ? ハハッ」


コイツ、うるさいっ!


「いいからっ、あ、花屋寄るから次右に曲がって」


「チッ、言うのが遅いんだよ」


「舌打ちもやめて、って1億回は言ってるからね?」


「チッ」


ジガは不服そうに交差点を右折させた。

誘ったけど、あっさり断られジガは公社の墓の駐車場で去ってしまった。ま、そういうヤツだよ。

あたしは花束を持って、丘になった緩やかな坂道を登っていった。

ホールの疑似日光灯も6月の日差しに光量を合わせてる。さすがに4番ホールの外の梅雨の長雨までは再現しないけど。

ユキヒコとフツネさんの子供が大人になる頃には、ホールの外で暮らすことが当たり前になってるのかな? きっと私達の暮らしはお伽噺みたいになってゆくんだろう。

皆、来ていた。別に命日でもなんでもないけど、今日、皆の予定が合った。全員揃うのは何年ぶりだろう?


「ナツミ!」


「遅いわぁ」


「貴女はそんなところがありますねっ」


「ボクも来たよ?」


「パンあるぜ?」


「遅刻は掛け声『サイファ』で罰走2周だ」


「ごめん、って!」


私は、皆のいるボグの墓まで走った。



・・南限の絶対凍結地帯はまだ開放されていない。

余は、新調した『カッコイイ団長服』のマントを翻し、団服を着たミラードに手を取ってもらいながら氷の階段を登って氷の台座の上に立った。

余は4歳になったが、まだ身体が小さいからなっ!!

団服を着た『大幹部』達を見下ろすっ! 大半はフードを被っていたが、取っている物も何人かいたっ。


「もぅ、召集急過ぎぃっ。友達のお墓参りだったのにぃ」


戦慄のHカップっ!『粉砕のノッカ』っ!!


「ようやくウキツグ君に引き継ぎが済んだ。我が輩もこれから全力で協力致しますっ!!」


元ニョ区司令っ!『挽き肉生造機のヒロシ』っ!!


「ニーベルングの過激派は粗方抑え終わった。ここからが本番だね」


穏健派ニーベルングの元リーダーっ!『閃光のセキレイ』っ!!


「ニョ区出身率高めだけど、別に派閥とかないよー?」


余のパパにしてママっ!『世界樹のミラード』っ!!


「よく揃ってくれたっ!! 直に全ての独裁ホールもギルドによって駆逐されるっ! だが、世界に分散していた銀水晶の7割は古き商人達の手にあるっ。環境が激変する世界のインフラもヤツら完全に握られたっ!!」


この演説、2ヶ月前から熟考し、1週間前からミラード相手に練習してきたっ。


「今は、この星の支配権はヤツらの物となったと見ていいだろう! しかしっ」


カッと顔を上げる。ここすごく練習した。


「そもそも古代、銀水晶を開発し、結果的にこの星を完全凍結させて世界を滅ぼしかけたのはヤツらの祖先だっ。単に血統の話ではないっ! ヤツらは技術と思想を継承しているっ。世界の急激な『改変』もヤツらが引き金だった!!」


余は余になる為に地獄を越えてきた。為さねばならないっ!


「どのような経緯にせよ始まった世界の夜明けをっ、旧時代の焼き直しにしてはならないっ! 今こそ全てを奪い返そうっ、この」


余な額の銀水晶を発光させ、背後に数十体の白魔の主達を召喚した!!

吠える主達っ!


「『星の怪盗団』がっ!!!」


大幹部達も『超越型水晶武器』を掲げ、マカを迸らせた。

この極南の地からっ、余達の解放の戦いは始まるのだっ!!!!

読んでくれてありがとうございました!!

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