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気象宮と幻 後編

我輩、ニョ区傭兵公社司令『ヒロシ・ピョン・ムシーノ』は高性能大型飛翔船のブリッジにいた。

地上では大気を調整する管理塔群を目指して群がる白魔の混乱はあったが、上空の白魔は片付いている。

障壁を失った後も前方に浮遊する気象宮の様子に徐々に発光現象が見られた。


「気象宮の出力上がっていますっ!」


「補修未完のまま一矢報いるつもりではっ?!」


どうやって出力を上げたかわからないが、上空の寒気が急速に勢いを増しだしていた。マズいな。


「篝所周辺以外の地上の管理塔の上空への干渉出力を上げろ。作戦中持てばいい。避難が必要な者は下げろ。地上の白魔対策はフェロモン剤誘導に切り替える」


「了解っ!」


地上にいくつも立てられた管理塔が、発光する程出力を上げて急寒冷化を押さえ込みだした。

合わせて方々でフェロモン散布弾が撃たれた。上手く共喰いを誘えない場合、返って白魔を寄せる可能性はある。


「ニシパのパイロット達は予定時間前に爆撃する可能性が高い、同行者に爆撃操作系を今から奪っておくよう伝えろ。手荒になって構わん」


「・・了解っ!」


大型飛翔船は旧型機や類型機を扱える乗員をかき集めて公社系だけで固めていたが、高度な戦闘に対応できるレベルではない。

機内の連中の配置近くの武器ラックの弾倉は空にしておいたが、これも目付け役の公社兵が始末されてしまえば、ニシパの飛行士達に反逆される可能性はあった。


「野生の白魔を牧歌的に間引きする時代は終わった。確実に今後もこの種の争いは続く。ノウハウを知った構成員の帰還率を上げるっ! ニーベルング達の白昼夢もっ、統制者気取りの商人達もっ、我らの『実行』を持って突破するっ!!」


「サイファっ!!!」


気象宮と地上の管理塔群の力の鬩ぎ合いで、擬似マカが中空で激しくと弾ける中、ブリッジ内はある種の熱気に包まれた。

因みに今の口上の大部分は若い頃に見たモノクロ映画の名将軍が演説するシーンから丸パクりしているが、結果が良ければなんの問題も無い。ふっふっふっ・・



「ユキヒコっ、二刀は無理だっ! まず武器を狙えっ、聴こえてたっていいっ!!」


インカムも壊れ、負傷した腕で発砲しながらナッシドが叫んできた。


「やってみるっ」


俺は冷気を纏った女のニーベルングのレイピア二刀流の猛攻にタジタジになっていた。マスクは斬り飛ばされて凍り付けにされ、ヒビの入ったゴーグルだけになってるっ。

後ろに下がったナッシドが援護射撃に専念していなかったらとっくにまた霜まみれにされているっ。

だが、水晶のコインはギリギリまで温存したかった。

ウキツグさんは甲殻種のトロルを残り2体まで減らしていたが、カンナが破損していて、電撃の出力が落ちているようだった。

水晶含有のハチェットと那須丸の二刀流で対応しているけど、相手のラッシュが激し過ぎて那須丸で霧の力を練る暇がないっ。

どうする? ウキツグさんがトロルを倒すまで状況をキープするか? いや、ナッシドの腕の出血を早くどうにかすべきだっ。

ううっ、思い付けっ! 霧は自在だっ。攻撃に固執しなければやりようがあるっ。


「ふぅぅぅっ」


大きく息を吐く。『やる気』とバレバレだって知るもんかっ! 相手の連撃の隙間っ。それを突いて、ハチェットを捨て、右手も那須丸の峰に添えて集中するっ!!


「っ?!」


格上相手に戦ってどうこうする発想を改めたっ! 俺は踏み込んできた女のニーベルングの足元から霧で包み込むように真上に吹っ飛ばした!! そこへ、


タァンッ! タァンッ!!


ナッシドがマカを込めた弾丸を撃ったっ。

女のニーベルングは2本のレイピアで軌道を逸らす形で受けたが、左の1本を砕かれた。破片が仮面を傷付ける。

右のレイピアで氷片をナッシドに放つ女のニーベルング。


「セェアアァーーッ!!!」


俺は霧を巻き込み足場の悪さを越え、引き寄せたハチェットを構え直し、女のニーベルングの着地点に突進した。

女のニーベルングは右のレイピアで氷片を放とうとしたが、ウキツグさんが最後の1体のトロルと交戦しながら放った帯電するダガーを掠るように受けて軽く通電し、動きを封じられた。

俺はハチェットを振り下ろした。女のニーベルングは半端なマカの練りで攻撃を右手のレイピアで受けた。

バキィッ!! 受け切れずレイピア砕けた。

俺はもう1歩踏み込み、女のニーベルングの喉元にハチェットを突き付けた。


「大人しく投降」


女のニーベルングは躊躇無く、折れた2本のレイピアを暴走させて大きな霜柱を大量に発生させて俺と『自分』を吹っ飛ばした。


「だぁあーっ?!」


霧で身を守りながら、なんとか着地する。女のニーベルングは動力フロア側の出入口近くに着地した。が、


「っ!」


女の仮面が、割れた!!!


「なっ??!!!」


厳しい表情にはなっていた。けど、その顔、間違いなかった。そういえば、姿勢や体型や仕草も、マカの気配も・・


「母さん」


「・・ユキヒコ、これは私の戦い。貴方を巻き込みたくはなかった」


「母さ」


母さんは身を翻し、動力フロアの方へと走り去っていった。


「ユキヒコ、どうなってんだ??」


凍傷まみれにされたナッシドがヨロヨロ近付いてきたが、上手く反応できない。


「母親に『よく似た人物』を見た。それでいいですね?」


カンナの穂先は砕けたが、すべてのトロルを仕止めたウキツグさんが言った。


「あ・・はい」


どうにか返事はできた。だが、なんだ? 母さんが生きてた?? ニーベルングだとはコミュティーで知ったけど、なんで??



あたしはノッカと2人で動力フロアへの通路を走っていた。ミラードさんとまではぐれちゃったよ!


「なんかぁ、ウチら超先行してない?」


「それ! あたしも思ったっ。え? 後続待った方がいいのかな??」


「え~? ナツミが自信満々で進むからなんかプランあるのかと思ったぁ」


「無いよっ?! プランっ!」


「え~っ?? あっ」


勘のいいノッカが先に気付いて、私も気付いた。

向かって左手上段の凍り付いた通路の上を動力フロアに向かって走る女のニーベルングがいたけど、仮面をしていない。

・・え? ええっ?! ええーーーっ??!!!


「ミフユさんっ?!」


「何? 知り合い?! 撃っちゃダメ??」


即、銃撃の構えを取っていたノッカ。ミフユさんは、ミフユさんだよね? 立ち止まって、こちらを見下ろしてきた。

私は慌ててマスクとゴーグルを取った。


「ナツミですっ!」


「・・もう直、この気象宮は墜ちる。ナツミちゃんはユキヒコと脱出しなさい」


ミフユさんはそのまま動力フロアへと走り去ろうもしたが、いやいやっ! ちょっとちょっとっ!!


「待って下さいっ! ユキヒコはミフユさんが生きてること」


「さっき会ったよ」


ミフユさんは少しだけ表情を緩めた。


「またこてんぱんにして追い返してやろうと思ったけど、強くなってたね・・」


あたしは頭の中がグルグルした。

ニーベルングのテロに加担したのか? なんで今まで黙っていたのか? ユキヒコもニーベルングなのか? 一体なんのつもりなのか? あたしは倒れそうなくらい瞬間的に考えて、口から出たのは、


「あたしっ! ユキヒコと付き合ったけど別れましたっ!! 他に好きになれそうな人もすぐできちゃってっ! なんか・・自分にガッカリですっ!!!」


泣けてきたっ。ミフユさんは目を見開いてから、昔みたいに柔らかく笑ってくれた。


「ずっとユキヒコの側にいてくれたのね。ありがとう、ナツミちゃん。あの子、ぼんやりしたところがあるから、友達ではいてあげてね」


「はい~っ」


ノッカが明らかにドン引きしているのはわかったけど、ギャン泣きしてしまった。やっと、やっとっ!『ユキヒコのお母さんみたいにはなれなかった』鬱屈から解放された気がするっ!!


「・・これを」


ミフユさんは指輪を指から1つ取ってあたしに投げ渡した。


「ある程度は白魔を避けられます。私の来た通路の後ろにユキヒコ達はいます。あとは貴女達の思うままにしなさい」


ミフユさんは今度こそ走り去っていった。


「どーすんのよぉ?」


「・・・」


あたしは古びた、冬鬼花が図案化された指輪を見て、



スノー・トレントがその巨体で吹雪を撒き散らしながら暴れ回る。私のハボリムと相性のいい相手ではあるが、フロアの低温化がそろそろ限界だった。


「フツネ君っ! 腰が引けてないかっ?」


とうとうスノー・トレントの巨大な右腕を切断しながら! ラバタが言ってきた。よく近接を挑めるっ。


「蛮勇が過ぎるっ! ラバタっ!!」


たった2人で、主の仔にこれだけ善戦しただけでも驚異的なことだった。

いずれにせよ、これ以上の交戦は無謀だ。直にマスクが凍り付いて呼吸が困難になる。


「このルートは放棄し」


言い掛けたところでっ、やや高所、周囲に多数の人の気配を感じた。いずれの氷のマカも感じる。ニーベルングっ?


「っ!」


私が振り向くと、同時に吹き抜けになっているフロアを囲んで2階になる通路から、一斉にライフルでマカを込めた銃弾がスノー・トレントの顔面に撃ち込まれた。

青い揃いの隊服を来た者達で、仮面は付けていない。ニーベルングではあるはず?

なんだ? なぜ主の仔を攻撃する??


「ファア・・・ッッゴォオオッッ!!!」


木の巨大な顔面を崩壊させて吹雪を噴出させながら仰け反るスノー・トレントっ!

ラバタと、2階から飛び込んできた者がスノー・トレントに迫る。

私は疑問は一旦置いて、2人を払いに掛かった巨大なスノー・トレントの左腕に火炎弾を撃ち込んで弾いた。

ラバタのスピンキャリバーの風の刃と飛び込んできたニーベルングの突槍型の水晶武器の無属性のマカの刺突の衝撃がスノー・トレントの崩壊した顔面に打ち込まれ、その背まで撃ち抜いたっ!!

スノー・トレントは自重を支えられなくなり、身体に空いた大穴から二つに身体が裂け、地響きを立てて倒れ、凍り付きながら萎れていった。


「以前に増して命を軽く見た戦い方をしていますね、義兄さん」


「義務を棄てて生きてきたからな、重くはないよ」


私は氷解やトレントの欠片を跳んで渡って2人の元に近付き、突槍を持つニーベルングに燃える銃口を向けた。


「手短に話を聞こうか?」


おっとりと振り返ったニーベルングの男までどこか誰かに面影があるようで、私は益々困惑した。



ウチとナツミは『ニーベルングの指輪』のおかげでわりと安全に動力フロアまでたどり着けた。

ぶっちゃけユキヒコ達と合流した方が固い、って思ったけど、ナツミの覚悟が決まってたから来ちゃった。でも・・


「ええぇっっ・・・・????」


動力フロアはたぶん水晶を含有している輝く氷で覆われていたけど、合わせて数百の氷の棺でも覆われていたんだよっ。

中には仮面を付けたニーベルング達が納められていた。既に命の(マカ)を感じない!


「・・足りない銀水晶を補う必要があったの。まぁ、銀水晶の『製造法』を模しただけだよ」


氷の祭壇の造られた動力炉の前にミフユさん、ユキヒコのママンがいたっ! 祭壇に置かれていた水晶製の古風な腕輪と王冠を手に取ってる。


「ナツミちゃん、戦うことを選んだのね」


「ミフユさんっ、こんなことをしてまでニョ区に被害を与えたいのですか? 私が、子供の頃見てた、貴女はなんだったんですか?!」


はわわっ? これ、絶対『配置』オカシイっ! ここにいるのウチじゃなくてユキヒコでしょ普通っ!!


「幻よ」


ミフユさんが王冠を被ると、すんごいマカを含んだ吹雪が起こってミフユさんは浮き上がった。

銀色になった髪が足先より伸びて、身体中に複雑な紋様が刻まれて、氷のローブを纏った。肌も雪のように白くなったっ!

爆発的なマカを纏ってるっ! 主の仔・・いや、これって、主その物っ!! 命のマカも人の物じゃなくなっちゃったっ。


「気象宮の運用法とその改善点はニシパを通じて世界のニーベルングに伝わる。我々が敗れても、決起は止まらないわ」


「どうしてっ!」


会話が通じてる内に、離脱した方がいいかも?


「・・ヒムロ区7番ホールの崩壊は、ニーベルング達の弱った主の使役実験の失敗によるものだった」


「っ?!」


っ??? め~っちゃっ、席外したいっ!!


「けど、その成果はあったようね」


ミフユさんは身に付けた腕輪を発光させて・・


「ザァアアアーーーッッッ!!!!」


咆哮を上げて出現したのは氷竜(アイスドラゴン)っ!!! 主、その物ーーっ?!


「大きな流れからは逃れられないとわかったっ。私は運命を受け入れるっ!!」


「ミフ」


ナツミがさらに呼び掛ける前に前に、


ドゴォオオオオーーーンッッッ!!!!


壁を撃ち抜いて、主級白魔銀龍(シルバーナーガ)が動力フロアに乱入し、アイスドラゴンに喰い付いて打ち上げ、天井を突き破ってアイスドラゴン共々上空に飛び去っていったっ!

もう主だらけっ!!! なんで主が主に攻撃したしっ??


「ナツミっ!! 母さんっ?! ・・あ、ノッカ」


続けてフロアに入ってきたのはユキヒコとウキツグさんと、めちゃくちゃ具合悪そうなナッシドだった。ナッシドちょいちょいフラグ立ててくるから怖いっ。

というかユキヒコ的なウチの存在の軽さっ!! Hカップあるんだよぉっ?! マザコンなのにオッパイ興味無いって、ヨーグルト好きだけど牛乳飲まないみたいじゃんかっ?!

て、ウキツグさんが無言で強化爆雷をミフユさんに投げ付けたっ! ドォンッッ!!! 躊躇無いよねぇっ?!


「アレは勝てませんっ! 引き付けるので動力炉をっ!!」


ウキツグさんは壊れてるカンナで、爆雷を受けても平然としているっ! ミフユさんに飛び掛かっていった。



「ユキヒコっ! 状況変えねーと、こりゃダメだぜ。行こうっ」


「・・わかった」


「ユキヒコ」


「うん」


俺達はナツミとノッカと合流した。


「ウチ、ナッシドフォローするわぁ。フラグ立てるからっ」


「立ててねーよっ」


ウキツグさんは命のマカを燃やすように力を高め、残る爆雷を駆使して様子の変わった王冠を被る母さんと交戦していた。母さんは無数の氷の斧を中空に発生させて操って攻撃している。

と、母さんは指を鳴らした。すると氷の棺が開いて、死んでいるように見えた仮面のニーベルング達が氷の武器を手に襲掛かってきた。 乱戦になるっ!


「指輪も効かないっ、ユキヒコは霧で抜けてっ!」


「・・わかった!!」


俺は那須丸の霧を纏って屍のニーベルング達を飛び越え、動力炉の前方に降り立った。

すぐに残る全ての爆雷を取り出したけど、一陣の冷たい風が吹き抜け、目の前に母さんが現れたっ!

俺は咄嗟に飛び退き、半身になって横目で後方を確認した。カンナを砕かれたウキツグさんが氷で磔にされて昏倒しているっ。


「ユキヒコ、もう30年は前から有力なセントラルホールは銀水晶遺跡を発掘し、今では銀水晶の『再生産実験』すら始めている。あのような者達が世界を統べればどうなるか? 我々ニーベルングがっ、人類を導かなくてはならないのっ!!」


そんな・・でもっ!


「わからないよ母さんっ! もっと他に」


銃声っ!! 火炎弾が連打で母さんの氷のマカ障壁に撃ち込まれ、同時に両脇を駆け抜けたラバタさんとセキレイさんがスピンキャリバーと水晶の突槍で母さんの障壁に打ち掛かって相殺したっ!

反動で2人のマスクが弾け、隊服や皮膚に傷が付き、ゴーグルにもヒビが入った。

同時に、無数のライフルの銃声が鳴ってマカが込められた銃弾が動力炉に撃ち込まれたっ!!

放電し、炸裂しだし、冷気を吹きだし始める。


「ここまでです、姉さん」


「・・・」


「ユキヒコ!」


フツネさんが駆け寄ってきて俺の前に立ってハボリムを構え直した。

屍のニーベルング達もセキレイさん同じ青い隊服を着たニーベルング達の一斉掃射で倒されてゆく。

母さんは、俺を見て、続けてラバタさんを見てから、また一陣の吹雪にとなって暴走しだした突入したっ!


ビキビキビキィイイーーーッッッ!!!!


母さんは巨大な氷柱と化して動力炉と一体化した。


「母さんっ!!!」


「ダメだっ、ユキヒコっ!」


フツネさんに押し留められるっ。安定化し、発光しだす動力炉っ!!!

ラバタさんはゴーグルと眼帯を取り、左目から銀色の義眼を取り出した。それは輝いて、一振りの小剣に変わった。

銀水晶の小剣だった。


「・・あとは、俺がやる。お前らは脱出しろ。ユキヒコ! 外の竜はなんとかしろ」


「だけどっ!」


「ミフユはっ!!」


ラバタさんは振り返った。


「俺の女だ。・・行けっ!」


俺は呆然とした。


「行くぞっ! 誰かウキツグを回収してやってくれっ」


「ユキヒコ君っ」


「ユキヒコっ!」


「ユキヒコぉ」


「ユキヒコ」


「・・わかったよっ!」


俺は、涙が凍るのを感じながら、身体を向き直し、皆と一緒に走りだした。



・・抗う屍達もただの屍に還り、人気の無くなった、時折天井から竜と龍の争う声の響く、氷のマカの粒子が発光して弾ける動力フロアで、ミフユはいつかの歌を歌っていた。



夏は焦がれるばかり、秋の実りも幻。

今年もまた冷たい風が吹く。厚い雲。眠る魚。誰もが雪の下。踊っているのは私達だけ。

さぁ、吹雪が逆巻いて、何もかも、本当の、冬が来る。


暗い小路、灯りを持って、骨の先へ、

苦いベリーを食べて、おいで、

輝く湖の仔よ、輝く湖の仔よ、お前達の季節が来た。

長い長い冬、夜も来ない。私達は踊るだけ。私達は踊るだけ。


星のダイアモンド、月の石の影、

立ち去った子供達。忘れさり、知らぬ顔。秘密の道を忘れた。踊っているのは私達だけ。

さぁ、吹雪が逆巻いて、何もかも、本当の、冬が来る。



俺は銀水晶の小剣にマカを込め、浮き上がって動力炉の中心部辺りで氷柱と化したミフユの前に身体を寄せた。


「やるだけやったか? 無駄とは思わないぜ。上手いやり方だったとも思わねぇけどな」


「・・ホールの外で、年に何度も無い冬の晴れ間に貴方と出逢って、木もれ日みたいに過ごした日々が遠い。私は何も素直でいられなかった。きっと、母親にもなりきれていなかった」


「じゃあ夢だったな。いい夢見たな、俺達」


「ラバタ」


俺達は懐かしく微笑みあった。



激しい衝撃っ!!! 閃光っ!!! たちまち気象宮は崩壊を始めましたっ。


「これは爆撃じゃないぞっ?! 誰かが任務達成したんだぞっ!!」


「るーと変更ヲ提案シマスッ! 離脱っ! 離脱っ!!」


筒状情報体が『乗っ取った』ジャンクアーマー系の機械兵器の上に私達は1人ずつ乗っていました。


「上上っ! 取り敢えず上だっ!!」


ジガは気前よく残りの爆雷を投げ付けて進路を開き始めました。人当たりの悪いヤツですが、判断は早いですね。


「もう離脱かっ! グルグル迷ってるだけでいいとこ無しだぞっ? 俺達っ」


近接戦も殆んど無くて消化不良らしいルンボー。公社兵になっていなかったらただの変質者ですね。


「行きましょうっ!!」


ワージャさんは油断すると自分が隊長だと忘れがちなのでなんとなく促し、私達ワージャ隊は機械兵器に乗って、ジガが空けた穴から上階の通路に出ました。すると、


「ワージャっ!!」


フツネさん達がいました。他にユキヒコ、ナツミ、ノッカ、あと、青い隊服のニーベルング? 5人は白魔の大群と交戦していましたっ。


「負傷しているウキツグとナッシドは、セキレイの手勢と一緒に先に逃がしたっ!」


『セキレイの手勢』??


「わかったぞっ!!」


わかったんですかっ?? ワージャさんは即応して、レイスパイダーの熱線と乗ってる機械兵器の機銃を白魔達に掃射しだした。私達も続きました。

この機械兵器とレイスパイダーは群体向きの兵器です。わりと簡単に撃退できました。


「すんごいの乗ってるねっ、エミソンっ!」


「でしょう? でもコクピットのロックは解除できなくて、中には入れないのです」


「ああ~」


まぁ拾い物ですからね。


「乗せてもらうよっ?」


手近にいた青い隊服のニーベルングの人が私の機体に乗ってきました。ホント、誰ですか?? ちょっとイケメンですが。

他の人達もそれぞれワージャ隊の機体に乗り、私達は壁や天井を破壊しながら、神殿の外周部の地表に出ました。


「ザァアアーーッッッ!!!!」


「コォオオオーーーッッッ!!!!」


いきなり神殿上空でアイスドラゴンとシルバーナーガが争っています。主級個体ですよねっ?!


「ユキヒコっ! 操れるかっ?!」


「はいっ!!」


フツネさんに促されてシルバーナーガを操りだすユキヒコっ!! 急にどうしたんですっ???

シルバーナーガは見違えて動きが加速し、全身にマカを漲らせ、あっという間にアイスドラゴンを削り押し、止めの無属性ブレスで胸部から頭部を吹き飛ばして打ち倒しましたっ! 強っ!! というかユキヒコっ?!

落下するアイスドラゴンの死骸を飛翔船が爆撃して焼き尽くしに掛かりました。地上で白魔が捕食して強化されるのを阻止するつもりでしょう。


「コォオオオーーーッッ!!!!」


シルバーナーガは一声咆哮を上げ、いずこかへ飛び去ってしまいました。帰っちゃうんですね。乗せて、地上まで降ろしてくれたりはしないんですねっ!


「オーイっ!! 速くグライダー乗れっ!! 船はとても降りられんっ!!」


待機隊の車両の乗員が爆走して近くに横付けしながら窓から叫んできました。まだ残っててくれてたんですねっ。


「急ぐんだぞぉ~っ?!」


ワージャさんが筒状情報体を機械兵器から引っこ抜きながらいいました。あの外し方で合ってるのでしょうか??

とにかく私達は慌てて機械兵器から降りて数が足りないので2人1組でモーターグライダーを装備して、崩壊する気象宮から離脱しました。マスクとゴーグルを失っていた人は簡易マスクとゴーグルを装備し直してます。

私はノッカと組もうと思ったのですが、『イケメンセンサー』を発動させたノッカが素早く青い隊服のニーベルングの人と組んでしまったのでルンボーと組むことになりました。


「結局、俺達は何が何やらだったな」


「ですね。ま、終わったので帰りましょう」


遅れた隊員がいくから落下傘で離脱してゆくのも見えました。あ、ミラードさんだ。ん? なんか、持ってますか?? よく見えませんね。なんにせよ、管理塔の干渉範囲外に出ると危険です。落下傘組は保護が必要でしょうっ!



「ユキヒコ、大丈夫か?」


「わかりません」


私はユキヒコと同じグライダーだ。放っておけない。インカムは通じてるようだ。気象宮と管理塔の干渉の影響で真冬の空の厚い雲に大穴が空いて、晴れだしていた。まだ昼間だったから、眩しい。


「・・お前の話を聞きたい。今に限らずだ」


「どういうことですか?」


鈍いというよりも、私を『範囲外のナニカ』と認識しているなっ。少なからずムッとした。


「私も出身のホールを白魔の争いで無くしている。1人になった。そんなつもりはなかったが、スネていたんだろう。お前を見ていて、思い出した。少し苛立っていたのかもしれない」


「・・俺、スネてます?」


「全体的にな。以前、第3食堂等でたまに見た。ナツミを傷付けているのに気付かない様子も。お前は平然としていたが、自分の足元や、思い出や、思い込みに夢中のようだった」


「・・かもしれないですね」


話しながら言葉を整理する。


「私はお前と違い、内にしまっていたんだろうな。それがお前によく似ていた」


「フツネさん」


「お前もきっと、私を見ていて落ち着かなくなるだろう」


「・・・ゆっくりは、できない? ですか」


「そうだな。それは諦めて、私の近くにいてくれないか?」


「そう・・ですね。ふふふっ」


ユキヒコは笑いだした。ん?


「すっきりしました」


「何がだ?」


「母親の、思った通りにはならないものですよ」


「よくわからないが?」


「そういうことです」


ユキヒコは、何やら満足気だ。詳しくはこれから聞き出してやろう。これから・・

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