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豆タンクとニーベルングの剣

マスクにゴーグルもした俺とナツミは爆走する小型タンク、通称『豆タンク』の上部に2基ある機銃の座席に付いて要塞通路内で次々と飛来してくる『素焼き』達を撃ちまくって撃墜していた。


「うおおおぉっっ!!!」


「どんだけ涌いてくんのっ?!」


向こうも『熱弾』をバンバン撃ってくる! 熱弾を撃つ白魔はレアだからある意味新鮮だったけど、言ってる場合じゃないっ。

豆タンクは『電気式円形疑似マカ障壁』を2枚展開できるので、操作担当者がある程度は防いでくれる。

豆タンク自体も回避はするし、何しろ爆走しているので直撃は早々無いが、基本的には『撃たれたくなかったら先に落とせっ!』だった。

と、中で主砲と指揮を担当しているウキツグさんから通信が入った。


「後続車は3級主体です。もっとフォローするとよいでしょう」


「そう言われてもっ」


地下要塞突入は2両で1つの隊を組んで行われ、後続車には学者と技師とその護衛が乗っている。

殿になってしまうが、かといってそちらを先頭にして突破口を開いてもらうというのも無理があった。

それに後続の豆タンクは護送タイプのタンクで、砲は少ないが障壁を4枚張れる。


「ユキヒコっ、前はあたしがやるからっ!」


「悪いっ、ナツミっ! このっっ」


俺は迎撃が甘く、後方に溜まってしまっている素焼き達を纏めて墜としに掛かった。

豆タンクが通れる幅があってもそう広くも高くもないっ。固まった相手ならいけるっ!!


ドドドドドドドドッッッ!!!!!!


片っ端から後方の素焼き達を落としていった。


「よしっ!!」


ナツミに任せていた前方の、俺達の車両に集る素焼きに対処しようとすると、


「迎撃継続」


ウキツグさんの短い通信の後、豆タンクが後部の補助バーニアを吹かして、飛び上がったっ!!

素焼き達の攻撃は続くので機銃は撃ち続けるっ。


「んがっ」


「もうっっ」


見れば、通路が途中まで崩落して底が知れない大穴になっていたっ。

豆タンクは後部バーニアと下部バーニアも吹かしたが、先の通路が坂になっていた為に高さが足りないっ!

勢いが付き過ぎて十分上昇する前に段差に激突してしまうっ。


「っちょっ?!」


「ヤバっ!!」


「・・登れ」


ウキツグの短い指示で、豆タンクは下部の前側のバーニアのみ吹かして減速しつつ段差に対して垂直に機底を向ける姿勢を取り、下部後ろ側のバーニアも吹かしてさらに減速しながら段差に接地したっ。


「おおっ?!」


「いいっ?!」


そのまま後部バーニアを吹かし、キャタピラも回転させて垂直に段差を昇り切り、飛び上がると今度は下部バーニのみ吹かして通路に平行に機底を向け着地したっ!


「反転っ、援護っ!!」


後続車は既に崩落地点から飛び上がって段差に垂直に取り付くところだった。また素焼きが溜まってきてるっ。

俺達の車両は反転して主砲を後ろに向け、回避行動しつつ援護射撃しだした。

こっちもこっちで爆走はできないので、さっきより狙われるし、回避行動が増えて『上』に乗っている俺達はより激しく揺さぶられるっ。

後続車はすぐに段差を駆け昇り、合流して再び並んで爆走できたが、俺とナツミはぐでんぐでんになってしまった。


「弾幕どうしましたっ?! 死にたいのですかっ!!」


ウキツグさんの通信が厳しいっ。


「・・頑張ります」


「うっ、マスクしてるから吐いたら窒息しちゃう・・」


「頑張れっ! 凄い頑張れっ!! ナツミっ」


俺達は散々な目に遭いながら、タンクで侵入できるギリギリまで爆走を続けた・・



「ここは素焼きがいないんですね」


俺達が豆タンクを停めて、『迷彩障壁モード』した場所は素焼き達の気配が無かった。


「来ないワケでもないですよ? ただ彼らは要塞の中枢部に直接繋がるルートを守護しているので、そこ外れると関心が薄れるようです」


ウキツグさんは素焼き相手には意味無さそうな速射式の麻酔拳銃2丁の調整をしていた。ん?

ナツミはここの空気には問題無さそうだったので、マスクを外して思う存分吐いた後に、さっき渡したパック入りの携帯経口補水液を飲んでいた。


「・・・」


同行している3級らしい通信兵に異様な装備をしている人がいたので目立ってる。

まず背負っている通信装備がデカ過ぎるし、カバーで覆われている。マスクも顔全体を覆う物で、やたら幅のある法衣(ローブ)のような物を隊服の上から着込んでいて、喋らないこともあって性別も年齢も不詳。

身長157センチ程度か? 恰幅のいい人なのか??


「あの者は民間に出向していましてね。新型の通信機のテストも兼ねて参加しています。動けはするが戦力外と思っていいでしょう」


俺が見ていると、速射麻酔拳銃の調整を終えたウキツグさんが言ってきた。


「はぁ・・」


何もこの任務でテストしなくてもさ。他にも2人も通信兵いるし。



それから約2時間後、俺達は他の隊とも連絡を取りつつなるべく素焼き達の配置されたルートを避けながら、め~~~っちゃ遠回りしたけど、地下要塞の中枢にたどり着いた。

ここは別に迷路ではなく大昔の人が軍事利用していた施設なので構造の概要を初期調査で把握していれば特に迷うことはなかった。

まぁ素焼きは邪魔だったし、あちこち崩落したり開くはずの隔壁や扉が開かなかったりはしたけど。


「これは・・驚きましたね」


空気には問題が無かったのでマスクとゴーグルを取りながら、ウキツグさんは珍しく驚愕していた。

そこには奇妙な装置の上に浮遊する古風な造りの大剣があった。銀色に鈍く輝くこの材質はっ!


「水晶、だな。それも『銀水晶(ぎんすいしょう)』だ。概念状の物質だと思っていたが・・」


同行していた学者が言った。銀水晶は『水晶を越えた水晶』。どっちかというと、宗教や哲学の用語だった。


「綺麗」


見惚れるナツミ。


「アレは剣の形をしていますが?」


「いや、ありゃ全部銀水晶の結晶だ。便宜上? 剣の形に固めただけだろう? 要塞の動力に使っていたのか??」


同行していた技師は周辺機器を調べ始めていた。


「『ニーベルング剣』だろうね。ニーベルング達の神民信仰等、終末論を説く宗教や、各地の叙事詩にもしばしば登場する世界に終わりをもたらす剣だよ。こんな工学的、いや、軍事的に利用されていたとは・・」


「電信を。近くまで来てる隊には無線も通じるでしょう。隊員は不足の事態に備えなさい。マスクは再装備っ!」


ウキツグは自身もマスクを付け直しながらハルベルト・カンナを構えた。

俺達も中量ライフルを構えて警戒する。他の隊と合流するまでさ油断できない、ってことだろう。


「ナツミ、調子悪くないか?」


俺は小声で個人回線で話し掛けた。


「吐いた後、経口補水液と水筒のハーブ水しか飲んでないからお腹空いてきたっ」


「元気そうじゃん?」


「ふふっ」


「明後日の休み、カラー付きの映画観に行かない?」


「・・というか、どっか泊まらない?」


「おおっ?」


「もう凍傷はいいんでしょ? 星神祭からずっと宙ぶらりんなんだけど?」


そういえば・・なんか、仕事や那須丸のトレーニングやラバタから聞いた『女論』やなんだか落ち着かない奇妙な『予感』みたいな物で手一杯で、『その件』がすっかり頭から離れていた。


「わかった。今度は、普通のホテルにしよう。もう取れるんじゃないかな?」


「うん・・温泉でもいいよ。南部の端の方に内風呂のある旅館があってさ、その、そこがサービスで『お肌にいいほぐし水』を」


「私語は程々にしなさい」


「っ?!」


突然、ウキツグさんから通信が入った。


「1級兵は耳が良いということをお知らせしておきましょうか?」


「すいませんっ!!」


俺達は声を揃えて平謝りした。と、


「神民の再誕をっ!!」


突如叫んだ、3級兵2人が隠し持っていた左の腕輪を発光させて周囲に鱗状のマカ障壁を発生させたっ。ニーベルングっ?!

躊躇無くウキツグさんが、放電するハルベルト・カンナの一薙ぎして鱗状障壁を破壊したが、その隙に右の腕輪を発動させて大量の白魔を出現させたっ!

たちまち乱戦になるっ。俺とナツミはそれぞれ学者と技師をフォローしに掛かった。

ウキツグさんは左手でハルベルト・カンナを振るって白魔を薙ぎ払い、右手で速射麻酔拳銃を2人の内の1人に撃って昏倒させるっ。

もう1人はマスクを取って、青と白の装飾それたマフラーを首に巻きながら障壁を張る特性の亀型白魔『カガミゴウラ』と浮遊する特性の蜻蛉と蛇の中間のような白魔『ナラクフネ』に乗り、銀水晶の剣に迫る。

ウキツグさんには白魔が殺到したっ!


「星はあるべき姿に戻るっ!!」


銀水晶の剣を前にしたニーベルングはテレポート特性を持つ歯車の形状を持つ希少な白魔『トコヨワタリ』を引き寄せた。ヤバいっ! ここで、


「眩しいよぉーーーっ?!!!」


突然、新型通信機の試験で来ているはずの通信兵がマスクとローブと通信機のカバーを取り去り、露出した8機の筒状砲身を持つ多間接型水晶高含有武器『レイスパイダー』を発動させた。

1級公社兵のワージャ・パーカーさんだっ。

いきなりフルパワー放たれた8本の熱線は射線上の白魔達を滅ぼしながら、ニーベルングとナラクフネとトコヨワタリと銀水晶の剣を襲った。

ナラクフネは撃ち抜かれ銀水晶の剣も砕けてしまったが、ニーベルングはカガミゴウラで防ぎ、トコヨワタリも空間を歪曲させて熱線を曲げて逸らしたっ!


「くっ」


ニーベルングは右の腕輪を光らせワージャさんに白魔を殺到させ、自身は別の白魔に乗り替え、トコヨワタリに念力? で砕けた銀水晶の欠片を拾わせだしたっ。


「渡してはならないっ。再凍結が絵空事ではなくなってしまうっ」


保護した学者が叫ぶっ。


「了解っ! ナツミっ」


「サイファっ」


俺は学者をナツミに託した。

ライフルはまず利かない。出遅れてもいる。となればっ!


「那須丸っ!!」


俺はナツミから駆けて離れながら、霧の特性の水晶高含有武器、短刀・那須丸を抜いて大量の霧を発生させた。

その霧を圧縮させて『霧の巨人の腕』にして、トコヨワタリが未回収の銀水晶の欠片の7割近くを強奪して足元に転がすっ!


「おのれっ!」


ニーベルングは俺に白魔を殺到させたが、


ガガガガガガッッッ!!!!!


烈風を纏う剣を閃かせ、ラバタが飛び込んできて白魔達を蹴散らした。


「後先は考えろ、ユキヒコっ」


「うッス」


続けて、他のニーベルング狩りとフツネ隊

が中枢の間に突貫してきたっ!

ニーベルングにはルンボーとエミソンと囲みを解いたワージャさんが付き、トコヨワタリにはフツネさんとこっちも囲みを解いたウキツグさんが付いた。

トコヨワタリはあっという間に所持した約3割の銀水晶の1割を弾かれ、トコヨワタリ本体も範囲攻撃できるフツネさんの炎とウキツグさんの雷を逸らし切れずに削られだした。


「わずかでも持ち帰れっ!! 白魔にも福音は与えられるっ!」


カガミゴウラをワージャさんに収束させた熱線で破壊されて詰められゆくニーベルングが叫び、トコヨワタリは2割弱の銀水晶の欠片のみを所持していずこかへとテレポートしていった。


「素焼きより斬り応えありっ!」


ニーベルングの乗っていた中型白魔を水晶含有の太刀で両断するルンボーっ。


「失礼っ」


空中でペンシル型麻酔を背後からニーベルングに射ち込むエミソン。

昏倒したニーベルングはルンボーが雑に受け止めて、すぐに床に転がした。

他の白魔達も程無く掃討された・・



それからの10日間は激務だった。温泉どころじゃないっ!

同期に限らず、2級兵は交代でこの時期の通常任務に対応しつつ、地下要塞の残存素焼きの始末、そして4番ホール以外のニョ区内の調査活動に駆り出され続けた。

本来ならもうナッシドは民間警備会社に移っているはずだったが、人手が足りなさ過ぎて降級を含め先延ばしにされたくらいだった。

そんな中、俺達2級同期生は公社本館の会議室に呼ばれた。

全員、疲労の色が濃い顔をしている。ナツミはそれプラス『不機嫌』でもあった。まぁ、温泉とか温泉とか温泉とか・・

会議室には補佐役の人達も何人かいたけど、リョーコ・ラジンさんとワージャさん、それから見たことあるような無いような? 軍服を着たニーベルング狩りらしい俺らとそう変わらない歳くらいの男がいた。

ワージャさんはレイスパイダーを身に付けておらず、随分簡素にアレンジした隊服を着て褐色の肌の露出が多かったが、ノッカと違って凹凸があまり無く、フツネさん程じゃないけど小柄で、何より俺が疲れ過ぎていたのでセクシーな印象は特に無かった。


「よっ、皆! 顔付きが殺伐としてるねー。何年かに一回はこんなターンもある業界だから折り合いつけてねぇ」


リョーコさんはいつもの調子だったが、目の下にクマができていた。事務方も大変なんだろな。なんなら年末のシミウオ騒動の後処理も終わってないだろうし・・


「色々情報を精査した結果、ニョ区の9番ホールにニーベルングの後援者がいるっぽいことが判明しましたぁ。コイツねっ!」


補佐役の人達が俺達の前に資料を配った。変な髪型の冬なのに日焼けした青年実業家風の男の写真が貼ってある。


「相性良さそうだし、君達同期6人は現地で潜入捜査をやってもらいますっ!」


「潜入捜査・・」


一応、警察的な任務もやらないではなかったが、正直複雑な捜査対応はこれまでやってきてない。


「まだるっこしいな」


早くもボヤくルンボー。


「9番ホールって、真冬に移動するだけで大変そうだぜ」


「メンドクサぁ」


ナッシドとノッカも乗り気ではない。


「はい、露骨に文句言わないっ。もそっとオブラート使って! とにかく、行ってちょうだいねっ? フツネとミラード君にも先行してもらってるけど、ワージャちゃんとニーベルング狩りの少年も1人付けるからさっ」


「9番ホールでは名物食べまくるぞっ?!」


「俺は『少年』じゃないっ!『青年』だっ!」


「・・・」


なんか、人選ビミョ~っ。

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