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聖夜と魚達 後編

部屋の外に出て(結局、下着は着てないっ!)確認してみると、

公社はホール内上空に大量出現したシミウオに対して白魔の嫌う、水晶含有ガスを散布を開始。

それからシミウオの侵入経路はホール西部の再開発休止中の封鎖エリアと特定。

取り敢えずそんなところだったが、今、ガウン1丁の俺とナツミは廊下で1級公社兵『3人』の前に立っていたっ!

なぜならこの通路の部屋の並びは『1級兵専用』だったから。知ってたっ。


「ぷっ、・・いや笑ってないけど? 取り敢えず待機室で予備の装備借りてきたら? 特別手当ても付くよ? ぷぷっ」


ミラード・ベラさんは笑い堪えるので必死だった。


「どうでもいいですね。それよりいつまで待機させるのですかっ?! ワタシはもう西部にゆきますっ!!」


教練所の実習ではシゴかれたけど、俺達と直接的には特に接点が無い、痩せた1級兵『ウキツグ・ジンドウ』さんは手勢とさっさと去ってしまった。そして・・


「・・お前達は、ミラードに付け」


なぜかずっとハンカチを鼻に当てて眉をひそめているフツネ・シズモリさんっ。ん??


「えっ? なんでオレ?『腑抜けてる』カップルなんて勘弁だよっ?」


酷い言われようだが、反論できないっ。


「すまない。無理、なのだ・・」


フツネさんはハンカチを鼻に当てたまま手勢と去ってしまうフツネさん。なんか臭う?


「あーちょっとぉっ、たくっ、こういうとこ大人気ないよなっ、フツネさん!」


「あたし達、何かニオイますかっ?」


困惑してミラードさんに聞くナツミ。まだティアラ付けてる。


「オレ達、鍛えてるからマカ使わなくても感覚が鋭いんだ。嗅覚も利くっ! ま、利いても普通、スルーするもんだけどねっ」


ことさら意地悪そうな顔で、明後日の方を見て答えるミラードに、ナツミは一瞬怪訝な顔をして、思い至ってすぐに真っ赤になった。そのまま倒れそうなくらいだっ。これはマズいっ!


「一度部屋に戻ってから待機室に向かいますっ!! 失礼しますっ」


「別に待ってないけどね?」


俺は羞恥で昏倒しそうなナツミを連れて、慌てて部屋に引き返しだしたっ。

厳密には俺も『完全にクリーン』ではなかった気がするっ!



俺達とナツミは他の隊員と共に建物の屋根や屋上伝いに走っていた。

後発になったから使える鳴き鹿は既に無く、車両は一連の騒動で道路状況がメチャクチャで使えなかった。

急いで身支度を整え直し、「今、一番退職したいっ」とヘコむナツミを励まし、隊に合流すると、ミラードさんはとっくにホテルを出ていて、状況も進んでいた。

早期のガス散布の効果で、3割のシミウオは気温の高いホール内で生きていられなくなって身体を崩壊させ、残り7割の弱体化。人的被害はホテルを出た時点で10名前後。

西部閉鎖エリアでは『ニーベルング』とみられる勢力とウキツグ隊が交戦を始めていた。ニーベルングと交戦?? 俺達はここに向かっている。


「遠いよねっ!」


内心はともかく切り替えはできたたらしく、冷静な顔に戻ってるナツミ。


「脚にくるよなっ。おっ!」


シミウオの生き残りが俺達に襲い掛かってきたので、俺は水晶含有のハチェットで斬り払ったっ。氷片になって散るシミウオ。

ナツミや他の隊員も撃退できていた。


「ユキヒコ大丈夫っ?」


「ああっ。けど、これ、西部の封鎖エリアに残りのシミウオが集まりだしてるよな・・」


水晶ガスが籠るホールの天井近くを滑るように飛ぶシミウオ達が西部の封鎖エリアに吸い寄せられるに向かってゆく。


「急いだ方がいい感じっ!」


「だなっ」


俺達は脚にマカを込め、先を急いだ。



現地に着くと、エリア上空で逆巻くシミウオの群れが、命を削って『猛吹雪』を巻き起こし大混乱になっていた。


「防寒装備の無い4級以下や民間は下がれっ!」


「どーなってるっ?!」


「指揮系はっ?!」


「オイっ、記者は入るなっ! 死ぬぞっ」


「やはりニーベルング達の犯行なのですかっ?!」


「広報通せっ!!」


「頭上の疑似日光灯の出力を上げてっ! ここだけ『昼』にするんだよっ!」


「白魔教徒のデモ隊が接近してますっ!」


「何しに来たっ?!」


俺達は先行しているはずのミラード隊だったが、ミラードさんの姿等どこにもなく、途方に暮れてしまった。


「来た中じゃ2級は俺達だけか」


「防寒装備誰も持ってないけど?」


俺とナツミは少し話し合って、一緒に来た戸惑っている3級以下の隊員を振り返った。


「4級兵は白魔教徒のデモ隊対応に加勢して下さい。3級は上空のシミウオの頭数を減らしつつ、体温が下がり過ぎたら一旦撤収して下さい! 我々は内部に潜入しますっ」


「防寒装備を獲得しても指揮の無い状況で無理はしないで下さいね!」


投げっぱなし気味だが、何も命じられていないのにこの場に残って『周辺処理』に専念する、というのはちょっと違う気がした。



封鎖エリア、といっても単に再開発が止まって放置されていただけだ。マカの障壁装置も無く、フェンスのみ。

照明が昼に切り替わる中、フェンスを越えると、若い連中の落書きや散らかしたゴミなんかの上に吹雪の雪が積もりつつあった。

視界は悪いが、エリアの中心辺りから交戦音や光、争う多数のマカ気配がした。

俺とナツミは頷き合って先へ進んだ。

と、気配がして、吹雪の中、前方から小隊らしい人影が見えた。

向こうも気付いて、先頭の者が周囲を照らす発光灯(はっこうとう)を高出力で点けた。

こちらを照らすのではなく、自分達を照らして同士打ちを避けている。つまり、対人戦が行われている。

過激派ニーベルングと交戦、というのは正直現実感の無い報せだったけど、マジらしい。

でもって、発光灯を点けたのは、


「ナッシドっ!」


ナッシドだった。ナッシド達の隊の半数以上は怪我人を背負っていた。


「へへっ! やっぱ引っ張り出されちまったか、つーか薄着だろ? オイっ」


互いに近くまでゆくと、ナッシドは自分と護衛役の3級女性隊員の1人からコートを融通して渡してくれた。

他の隊員は先を急いだ。


「この先はニーベルングの連中と戦闘になってるが、全員水晶の武器を使う上に白魔を手懐けてやがるっ」


「なんでニーベルングの人達がそんなことを??」


ナツミは比較的ニーベルング達に友好的な方だ。


「わからねぇな・・だが、無理すんなよ? 俺も体温戻したらピックアップ隊に入り直すつもりだからよ」


ナッシドは青い顔をしていた。


「そっちこそ無理すんなよ」


「気を付けなよ」


「おうっ、じゃなっ!」


コートを着込んだ俺とナツミはナッシドと別れ、さらに先へと進んでいった。



閉鎖エリア中心部の低温化と吹雪の勢いは相当な物だった。地上の工事用照明も点け蘿れていなかったら視界の確保にかなり苦労させられたに違いない。

周囲のあちこちで公社兵と仮面を被り白と青で彩られたフード付きローブを着た者達やその者達に使役されてるらしい白魔達が交戦していた。

ミラードさんは樹木の力を持つグレイブ・ククノキで大型の白魔と交戦し、ウキツグさんは雷の力を持つ水晶高含有武器の『ハルベルト・カンナ』でニーベルングらしい者3人と交戦していた。

フツネさんは見当たらない。


「・・あたし達、一応ミラードさんの隊だよね?」


「いきなり対人じゃなくて、よかったっ、かもなっ!」


俺とナツミはミラードさんの加勢に入ろうとしたが、


ガガガッッッ!!!!


猛吹雪に紛れ、大蛇型白魔『トリイダチ』が刃のような背鰭で斬り掛かってきた。

俺とナツミは回避してライフルでマカを込めた弾丸を撃って牽制したが、トリイダチは構わずにナツミに突進して吹っ飛ばしたっ。


「うっ」


「ナツミっ!」


俺は即、フォローに入ろうとしたが、鋭い殺意のマカを感じて振り返ると、仮面のニーベルングの女が冷気を纏った細剣(レイピア)で俺に連撃を打ち込んできた。

中量ライフルの弾丸の装填部位を避けてなんとか捌くが、何しろ冷気を纏ってるっ! ライフルはあっという間に凍結し、指を凍り付けにされそうになって慌てて離して飛び退いた。

が、凍ったライフルを蹴って顔面に向けて弾かれ、それを腕で受け一瞬視界が利かなくなったところを、腹にレイピアの柄頭を冷気と共に打ち込まれたっ。

衝撃と同時に全身が霜で覆われた。力が、入らない。俺は膝を突いてしまった。

仮面の女のニーベルングは吹雪の中、歩み寄り、レイピアの切っ先を俺の胸の前に向けた。


「・・ニョ区は『再凍結(さいとうけつ)』される。離れなさい」


仮面は音声を加工する効果があるらしく、異様な声だったが、女は確かにそう言った。


「貴女は?」


「この『星』その物の再凍結が既に確定している。我々ニーベルングが比護しないと、『旧人類』は滅びてしまう」


求めていた回答じゃないっ! 俺がさらに話し掛けようとすると、


ゴォオオオォッッッ!!!!!


炎の水晶高含有武器ガンナイフ・ハボリムの燃え盛る火炎の刃で、フツネさんが仮面のニーベルングの女に斬り掛かった。

ニーベルングの女は躱したが、立て続けに炎の弾丸を撃たれ、退散していった。

これに呼応するように、黒と赤の軍服を着た者達が一斉にニーベルングと白魔達に襲い掛かり、ニーベルングた白魔達は撤収を始め、上空のシミウオの渦も止んだ。

シミウオ達は力を使い果たし、雹や霙に変わって、出力を高められた疑似日光灯に照らされながら地に落ち始めた。

 途端、ホール照明が『夜』に切り替わり、代わりに水晶ガスが充満しだした。壊れていない工事灯は点いたままだ。


「・・・」


フツネさんは自分のコートを脱いで霜で動けない俺に掛けた。


「血液にマカを集中して徐々に体温を上げろ」


「あ、はい。ありがとうございましたっ」


「・・彼女のことを心配しろ」


「っ! ナツミっ」


ヤバっ、急に色々あり過ぎて追い付かないっ。動き難い身体でどうにか振り向くと、ナツミは赤と黒の軍服の者達に助けられていた。大きな負傷は無さそう立った。

ため息をつく俺。


「あの者達はニーベルング狩りの『実行部隊』だ。状況を鑑みて共闘をした」


見れば、ミラードさんも左目に眼帯をしたニーベルング狩りの援護で大型の白魔を倒していた。見覚えがある。


「ラバタ、さん。ですね」


「これから状況が変わるだろう。何か話していたが、お前は惑わされてはならないぞ? ユキヒコ」


「・・はい」


それにしてもあのニーベルングの女、一体・・・

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