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聖夜と魚達 前編

「じゃあなーっ」


「また明日ね!」


「明日、気まずいんですけどぉ?」


「ノッカ! やめておきなさいっ」


「う~っっ、ボク達4人は二次会だよっ?!」


「俺は明日の任務が早いからもう帰りたいのだが・・」


星神祭の夜、俺とナツミは店の前で同期メン4人とジムコと別れた。


「じゃあ・・」


「行こっか?」


俺たナツミは慎重に、手を繋ぎ、イルミネーションで彩られた聖夜の街の中、歩きだした。



「ユキヒコ・グランピクシー様とナツミ・ウッドハープ様ですね」


ホテルのフロントは表情一つ動かさない。一般人だが、全く(マカ)が乱れない。プロだっ。

俺達はルームキーを受け取り、エレベーターボーイが付いたエレベーターでホテル上階の、事実上公社が買い上げてるフロアに向かった。


「・・知ってる顔に見付かる確率100パーセント、だぜ?」


「お金払うんだし、堂々としてりゃいいんだよ」


フロント対応する時に繋いでいた手を離してしまってそのままだ。

目当てのフロアに着いた。エレベーターから出ると、隊服を着たナッシドが腕を組んで待ち構えていた。


「どぅあっ?! ナッシドっ」


「おう」


「どうしたの?」


「お前ら西側端の3級以下用の待機室取っただろ?」


「なんで知ってんだよっ?!」


なんだ? なぜナッシドが??


「このフロアは公社管理だぜ? こんな目立つ日に予約入れたらバレるだろ? ノッカ達から話も聞いてたしな。で、コレだ」


ナッシドは黒い、ゴージャスな感じのルームキーを差し出してきた。


「え?」


「何?」


「空きになってた1級兵用の待機室だ。スィートルームだぜ? 管理担当のヤツに『貸し』があってな。へへっ」


「いいのか?」


と言いつつ受け取っている俺。


「ルームサービスは使えねぇし、他の部屋に詰めてる1級の人と顔合わせねぇ方がいいだろから、裏から回ることになっちまうがな。つーか、3級用の部屋なんて壁薄いし、狭ぇし、ベッド硬ぇし、今日は人の出入りも多いぞ?」


「詳しそうね?」


「・・・」


軽く赤面するナッシドだったが、すぐに真面目な顔になって俺達の方を向き直った。


「年内、お前らとは日程合いそうにないから今、言っちまうが、俺、降格受け入れて、民間に移ることにした。ウダウダやってると、ボグに笑われるし、ジロモンのオッサンにもカッコつかねーからな」


「ナッシド」


「そう・・それがいいよ」


ナツミは少し泣いてしまっていた。


「つーワケでっ、今夜もチョロい手当て目当てで歳末警戒任務だ。別にお前らにお節介するつもりで仕事入れたんじゃねーけどなっ! ・・じゃ、な」


ナッシドは1級兵用の部屋とは別の方へ歩き去りだした。


「ありがとっ、ナッシド!」


「おう」


「今日、モチヨさんは?」


「俺、今日、夜勤っ!」


「ああ~」


タフな男だっ、ナッシドっ!

俺達は有り難く、廊下でカチ合わせた他の見知った隊員や公社職員と微妙な感じなりつつ、エレベーターから見て裏側の非常口の方の廊下から、角を曲がった一番奥の1級兵用のスィートルームに無事侵入したっ!


「・・・」


「・・あ、冷蔵庫になんか貼ってるよっ」


言ってみると、ゴツい冷蔵庫にメモが貼ってあった。


『ドリンクとツマミ。出世払いしろっ!』


とナッシドの字で走り書きしてある。俺達は笑ってしまった。ルームサービスが使えないことや、たぶん冷蔵庫が空になっていたことを気にしてくれたんだろう。

開けてみると、ホテルのメニューではなく、公社の売店で売ってる物がどっさり入っていた。


「いつか、ナッシドとモチヨさんのパン屋が開店したらたくさん買わないとね」


「だな」


俺達は適当に飲み物とツマミを取って、取り敢えずソファに移動した。


「・・・」


「・・・」


しばらく無言で飲み食いをしてた。


「ラジオつけるか?」


「いい」


部屋にはレコードの立派なプレーヤーがあって、渋そうな盤もラックに結構入っていたがお呼びじゃないか。


「・・シャワー先に浴びてきたら?」


「っ?! わかったっ。このポテト、結構美味しい」


「うん」


俺は食べ掛けの『ワイルドコンソメソバット味』のポテトチップスをナツミに託し、シャワーに入った。

・・うむ、ちゃんとお湯が出る。アメニティもしっかりしてた。さすがスィートルーム。

タオル、シャンプー、リンス、石鹸、歯ブラシ、ガウン、これはなんだ? ガム? 風船??


「ふぅあっ?!」


パッケージが『奥ゆかしいデザイン』過ぎて気付かなかったっ!『ゴム製品』じゃあないかっ?! これはホテルのアメニティではないっっ、ナッシドかっ!

いや、俺も一応販売機で買っておいたし、なんなら今日、ノッカからこっそり渡されもしたがっ。しかし、


3箱所持っ!!!!


いかんっ、これはいかん! ナツミに誤解されてはいかん。ここは1つ、ナッシドが用意してくれたらしい奥ゆかしいパッケージの物以外は隠しておこう・・。

この状況で長風呂も間抜けなので素早く、だが清潔にシャワーを済ませ、歯磨きも済ませ、少し迷ったが、ガウンを着て、部屋に戻った。


「お先」


「フフっ」


俺のガウン姿にウケるナツミっ。


「いやっ、置いてあったからっ」


「ユキヒコ」


「ん?」


「私がシャワーに入ったら、脱衣場に椅子を持ってってさ」


「椅子?」


「私が入ってる間、話しようよ?」


「・・わかった」


正直浮かれていたが、『それどころじゃない』と理解した。ナツミは幼馴染みであり、この歳までついてきてくれた人だ。

奥ゆかしいパッケージ云々はこの際、問題じゃない。


「いーよ!」


シャワー室からナツミの声がすると、俺は部屋の書き物机の椅子を脱衣場に持ち込んで座った。

曇りガラスの向こうにナツミがいる。


「なんか、話し掛けてよ」


「・・最近、豆の食料プラントの効率が」


「話題のチョイスっ!」


俺は苦笑して、少し考えてから話しだした。


「子供の頃、俺らの住んでた区画の端のホールの割れ目みたいなとこに、ニーベルングの爺さんが住んでたよな」


「いたいたっ! 食べ物持ってくと、白魔や外の世界の話してくれた」


「あの爺さん、いつの間にかいなくなったなぁ」


「きっと、誰かが通報したんだよ」


「なぁ」


それから子供の頃の話の後、少し飛ばして、勤労福祉隊の頃の話になって流れで教練所の話になると、ナツミは急の切り上げた。


「フツネさんとなんかあった? ティアラくれたくらいから、変わった、って思ってた」


「そんな、面白くない話だけど」


「話して」


ナツミの声は淡々としていた。


「・・フィボルクが出た任務の後、たまたま落ち込んでるフツネさんと話す機会があったんだ」


「うん」


「母の幻影を探して戦いに来たのか? 人の好い幼馴染みを連れて公社を出ろ、みたいなこと言われたよ」


「・・うん」


「お前は短慮に死んでみせた母を憎んでいるのではないか? その憎しみを恐れている、とも言われた」


ナツミは間を置いてから話し出した。


「ユキヒコのことを客観的に見れるのは、羨ましい。ああいう人がそれだけ話すのは、気持ちが弱ってる時でも、特別なことだよ」


「・・間が悪かったんだよ」


ナツミは唐突に風呂場のドアを開けた。おおおおおっ????

湯に濡れた泡も付いた鍛え抜いた身体は、左頬の痕より新しい、いくつかの傷痕が付いていた。


「そんな偶然無いから」


「・・うん。フツネさんは・・少し俺に気を許してる。でもそれは近所の、ちょっと可哀想な野良犬に懐かれたとか、そんなんだよ」


「・・かもね。もういいから、ベッドで待ってて、あと」


「お?」


風呂場のドアを閉めながら、赤面してナツミは言った。


「『ハミ出し方』が、雑っ!」


「?? あっ!」


俺の『鉄塔』がっ、ガウンから垂直に露出していたっ!!


「悪いっ!」


俺は慌てて、鉄塔をガウンにしまい、椅子を持って脱衣場から退散した。



約5分後、ナツミはガウン一枚だけ着て部屋に来て、ベッドの端の俺の隣に座った。

石鹸とシャンプーとリンスと歯磨き粉とナツミの匂いが混ざってる。湯気と体温の近さも感じた。


「これ、飲み物」


「ありがと」


俺も飲んでる瓶入りの紫蘇の微炭酸水を飲むナツミを横目で見る。

正直、湯冷めしかけていたけれど一気に吹っ飛んだ。同時に鉄塔が再起動しかけたが、俺は最大のマカを鉄塔の『基礎』に込めてこれを封じたっ!!

ここは平原っ! どこまでも続く平らな草の海・・『突起』等、無いっ。イメージだ。イメージで勝てっ!! ユキヒコよっ、お前はお前の内なるマカを信じるのだっ!!!


「ユキヒコがお母さんの幻想を探しにきたみたいに、私は家族とか、普通に過ごせたかもしれない暮らし、みたいなのを探しにきたのかもしれない」


「ナツミ」


「無い物ばっかり探してるね、あたし達」


そう言って微笑み掛けてくるから、俺は咄嗟に最初、口にキスをしようとしたらナツミが少し身を固くした。

前もそうだった。勝手過ぎたんだな。俺は、ナツミの額にキスをして、それから左頬の傷痕にキスをした。


「俺じゃないかもしれないけど」


「いい。私も幻じゃないから」


俺達は改めてキスをした。


「・・!」


「・・っっ」


長くなったっ。ヤバいっ。炭酸水の瓶同士がカチンっ、と当たった。スィートで溢すのマズいっ!

俺達はどうにか口を離した。2人とも呼吸を整える。鉄塔は・・ハミ出してはいないから、よしっ。


「瓶、置こう」


「うん」


俺達は手近なテーブルに瓶を置いた。


「あっ、あれを持ってきたんだ」


ナツミはソファに置いた鞄の方にゆき、いつかのティアラを取り出すと、「こうかな?」と呟きながら頭に取り付けた。


「2回目だけど、どう?」


「姫だ」


「ふふっ、ナツミ姫だよ」


俺達はベッドの前でまたキスをした。


「んっ、ティアラ付けたまましちゃおっか」


「俺はいいけど、ちょっと変な感じ」


「どんな感じ? 苦しゅうないぞ? ふふっ」


俺達はじゃれながら、ベッドに・・と、


ドドドドドドドッッッッ!!!!!


ホテル全体が揺れたっ!! 続けて警報っ! 窓の外に、『多数の飛び回るような白魔のマカ』を感じたっ。


「っ?!」


俺達は慌てて身を起こしてカーテン越しにマカの探知を試みた。


「『シミウオ』かな?」


シミウオは実体希薄な浮遊飛行する魚型の白魔で、冷気を纏っている。単体なら一般人でも棒切れを振り回して撃退できる程度だが、群れで現れる。


「だよねっ! なんでホールの中に、凄い数の気配だよ?」


俺達は意を決して、窓のカーテンの方に歩いていったが、2人ともハッと気付いてガウンを整え直した。色々おっ広げていた・・


「せーのっ!!」


2人で一気にカーテンを開けた。


「っ!!」


「嘘・・」


ホール内の天井付近全てを覆うのうにシミウオが大量に飛び交っていたっ! 1体がこちらに突進してきて、窓にぶつかりヒビを入れながら砕け散り、接触した周辺を凍り付かせた。


「普通の侵入じゃないなっ! だが、ホールの障壁が破られてるなら『こんなもんじゃ済まない』っ!!」


「部屋の外で公社の人間に確認した方が早いよねっ?」


俺達はそのまま、部屋から飛び出そうとしたが、また自分達の格好に思い至った。


「取り敢えず、下着だけでも着とくか?」


「・・あたし、替えを一組しか持ってないよ」


赤面するナツミ。


「?」


替えが一組あるなら着ればいいんじゃないか? わからなかった俺は考えた。


「・・あ、濡れ」


「バカぁっ!!」


バチンっ!! 俺はナツミに思い切りビンタされてしまった。いや、ナツミ。マカ抜きでも今のお前は凄いパワーだからねっ?!

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