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19.お馬さんのお嫁さん_08

「千歳も嫁に貰った事だしよ、これからは友好国として仲良くやっていこうじゃあねえか」

「あっはは、そうで……ああっ、あ~~~っ!!」


 スリクさんの発言を聞いて素っ頓狂な声を上げて頭を抱えるアタシ。


「嫁!?千歳姉様を!?上げません!!」


 同じくスリクさんの発言を聞くやいなや、ササッと正面からアタシの身体に抱き着き、スリクさんを睨みながらお前には渡さないぞ、と自己主張するマース。


(言われて思い出したっ!アタシっ、ついさっきスリクさんのお嫁さんになる宣言を思いっきりしてたっけぇぇ!!別にスリクさんは嫌いじゃないから嫁になるのはやぶさかじゃないですけど!流れとか!ムードとか!あるでしょ!?っていうかアタシそれより先にメグ救出しないといけないんですけど!!??これどうしよう?どうしよう?マース!!)


 ポロッと嫁になると言ってしまった自分の口の軽さに後悔しつつ、アタシに抱き着くマースに視線を送り助けを求める。

 するとマースがアタシをぎゅーっと抱きしめつつ、スリクさんに臆せず思いっきり叫ぶ。


「ダメです!!千歳姉様は僕のお嫁さんになるんです!!!!」

「なんだとぉマース!?おまっ、千歳はお前の姉貴だろぉ!?自分の姉貴嫁にするのなんかおかしくねえか!?」

「姉じゃないです!!従姉です!!」

「そんなんほとんど変わんねえだろぉが!?」

「大分変わります!!!!」

「ちょっと待て!お前今何歳だ!?まだ子どもだろぉぉ!?」

「14です!!ちょっと待って貰えればすぐに大人になります!!!」

「だああ!!でも千歳は俺に嫁になるって言ったからなぁ!?」

「そんなのダメです!!どうせ力で脅したんでしょう!?ノーカウントです!!そんなのノーカウント!!!!」


 なんかマースとスリクさんでアタシの取り合いで口論が始まった。


「脅してねえ!!俺は脅してねえぞ!!なあ千歳!!??」

「千歳姉様!!脅されたんでしょう!!??」


 二人の視線がアタシに突き刺さる。何故か巻き込まれ始めたアタシ。


「あ、いや、その、アタシは脅されたワケじゃ……」

「ほら!!千歳姉様は脅されたって言ってます!!ノーカウントです!!」


 アタシはスリクさんとの圧倒的力量差にビビッて居たモノの、脅されたかと言われたら結局は自分から嫁になる事を言いだしたので、ちょっと違うなと思い脅された部分は否定しようとした。が、マースが発言途中のアタシの言動を遮り、アタシが脅されていた事にしてしまう。


「おまっ!?えっ!?千歳!?俺脅してた!!??強いヤツが好きって!?俺脅しちゃってた!!??」

「えっと、あの、これは……」

「ノーカウントです!!ノーカウント!!ノーカウント!!」

「うぉいコラマース!!だが俺ぁ千歳と熱い接吻までしたんだぞ!!」

「それぐらい!!僕は千歳姉様と契りを交わしました!!!!」

「んぎゃーー!!??」


 暴走を始めたマースのキラーパスでアタシは恥ずかしさにテンパり悲鳴を上げる。


「なんだとぉぉぉぉぉ!?ち、千歳!本当なのか!!??」

「未遂!!未遂です!!肉体関係は未遂!!!!」


 スリクさんの必死の質問に、顔を真っ赤にして弁解するアタシ。


「でも昨日の夜!!"しよっか?"って千歳姉様言いましたよ!!!」

「ひゃああーーっ!?言ったけど!!言ったけど!!」


 マースがアタシの谷間から顔を上げてアタシに言い放つ。これは実際言ったので全く否定できない。我ながらなんであんなことを口走ったのやら。


「互いに愛の確認もし合いました!!」

「んんんーーっっ!?それもしたけど!!したけど!!」


 モノは言い様だけど、マスターリングとサーヴァントチョーカーの力で互いに心を通じ合わせた。なのでこれも否定できない。


「千歳姉様のお胸はいつも柔らかいです!!」

「そうだね!?今言う事ぉ!!??」


 アタシの胸の谷間にぽふっと顔を埋めて叫ぶマース。アタシも割と意図的にマースに押し付けて来たところもあるのでこれも否定しづらい。


「あとは!そう!!僕が千歳姉様をいっぱい泣かせちゃいましたからぁぁっ!!!!」

「泣いたねぇぇっ!!けど!!泣いたけど!!マース言い方ァ!!」


 マースがトドメと言わんばかりにスリクさんの方に向けて叫ぶ。昨日マースの覚悟を聞いて嬉しくて泣いちゃったのでこれも否定できない。実際他にも泣いたり泣かされているので否定できないんだけど、んだけど言い方ってモンがあるでしょうよ。


「それにそれに千歳姉様は"ずっとアタシのご主人様でいて"とも言いました!!!!」

「言った!!ちょっと待って!?そんなこと言ったっけ!!??」


 こっちに向き直ったマースがアタシにもトドメの一撃を仕掛けてくる。が、勢いに乗って言ったような言ってないような微妙な線を付いて来るモンだから疑問の声はあげられても強く否定が出来ない。


「言いました!!この指輪と!!その首輪を付ける時に言いました!!これはもう婚約!!婚約ですね!!間違いありません!!」

「ねえ!?それなんか違う契約じゃなかったっけ!!??」


 そう言ってアタシに右手のマスターリングを見せつけてくるマース。確かに傍から見れば婚約指輪みたいに見えるけど、それとサーヴァントチョーカーは昨日結んだ主従契約であって婚約じゃない。


「ついさっきも愛し合いましたから!!何度も心通じ合わせてますから!!!」

「言い方ァ!?って待って!!??チョーカー使ったら全部それにカウントされんの!!??」


 そう言って正面から遠慮なくグイグイアタシに抱き着いて来るマース。アタシもそんな彼を拒否しないどころか進んで抱きしめている辺り、こんなことやってるから誤解が進むのだが。因みにマースの中ではサーヴァントチョーカーの力を使ったら全部愛し合ったって事にカウントされているらしい。アタシもマースを頼りに何度か使っているので強く否定できないんだけど、言い方なんとかならないのマース?


「ぐぅっ!!俺が負けている!?こんな子供に!?」

「なんでショック受けてるんですかスリクさん!!??諦めないで!!??」


 地面に膝を付いて敗北感にがっくり項垂れているスリクさん。こんな事で負けを認めないで欲しい。って言うか諦めないでってアタシも何を言ってるのか。


「ご、御婚約おめでとうございます?」

「ロシュくん!誤解だから!!これ誤解だから!!」


 ロシュくんが赤面しながらアタシとマースが婚約したと祝辞をくれた。ロシュくんにまで誤解されてしまっている。


「ブルルッ、ブモッブモッ」


 やれやれと言った感じでグラングラが鼻を鳴らした。

 アタシに抱き着いたままアタシをスリクさんに渡すまいと強引な理論を繰り返すマース、悔しそうに項垂れるスリクさん、そんなスリクさんを見てざわつくエクウス族達、事の成り行きついていけてないロシュくん。と、完全にマースに振り回されながらも嬉しさと恥ずかしさと混ざった感情で赤面したままあわあわと混乱するアタシ。

 いろいろ耐えかねたアタシは叫ぶ。


「保留!!この件は保留です!!保留でお願いします!!!!」


 森中にアタシの先送りの叫びが響き渡った。



 そうして色々と有耶無耶にしつつもやっとみんなが落ち着いた頃。


「そうだお前ら、ブラグのヤツはどうした?」

「ブラグの兄貴ですか?俺は見ちゃいませんが……」


 スリクさんが部下達のエクウス族にブラグと言う名前の人物の行方を問う。互いに顔を合せて見ていないと答える部下達。


「ブラグさん?」

「ん?ああ、俺の弟だ。見た目は俺と逆の黒鹿毛の全身真っ黒なヤツでな、実力的には俺と同等か……いや、ヤツの方が少し上かも知れん」

「スリクさんより……?」


 アタシはスリクさんより強い弟が居ると聞いて動揺した。スリクさんの実力は吸精前に見せてもらっているけれど、アレより少し上で強いとなるといったいどんな脅威になるのか、敵に回すなんて想像もしたくない。


「あ゛っ、いってぇ……」

「ぐぉぉ……死ぬかと思ったぜ……」


 そんな折、スリクさんの後で木を失い倒れていた2頭のエクウス族が起き上がった。


「おう、パクバ、デズワ、やっと起きたか」

「ヒエッ」

「ボ、ボス、さっきはすまねえ」


 起きざまにスリクさんに話しかけられビビる2頭。さっきスリクさんがアタシに手を出した阿呆共を〆ておいたと言っていたが、その〆られた二人がこの2頭だ。今の今までずっと気絶していたらしい。


「俺に謝るよか先まずは千歳に謝っとけ」

「へ、へい。千歳さん!さっきはスンマセンでした!」

「スンマセンでしたあ!!」


 スリクさんに促されアタシに頭を下げる2頭。そんな2頭に猛烈な怒りの視線を向けている子がいた。


「お前達……よくも千歳姉様を……」


 マースだ。マースはアタシに抱かれたまま、静かに、だけど身も凍えるような冷酷な声で2頭に向けて言う。フライアを思い出す蔑むような冷たい目で2頭を睨んでいる。


「「ヒッ!?」」


 そんなマースの視線に当てられてビク付く2頭。実力的には時間を止められるエクウス族の2頭の方が上だろうに、マースの気迫が上回っていたのか、それとも他に何かあるのか、兎も角マースに睨まれた2頭は耳を伏せ怯えて身体を縮こませていた。


「……うぎゅっ?」


 アタシはそんな静かにキレるマースをさらに強く抱きしめて自分の胸の谷間に埋めて強制的に彼の怒りをクールダウンさせる。アタシの為に怒ってくれるのは嬉しいが、これ以上の揉め事は御免被りたい。


「あははは、誤解は解けたみたいだし、アタシの傷ももう治ってるし、気にしない、気にしないでー」


 もういい加減落ち着いていたアタシは軽く笑って彼らを許す。彼らはもうスリクさんから罰を受けている。アタシがこれ以上彼らを追い詰めても良い事なんか無い。


「千歳さん、ありがとうございます!俺、パクバって言います!宜しく!」

「俺はデズワです!宜しくどうぞ!」


 そう言って真っすぐな目でアタシを見てくる二人。パクバがアタシを地面に叩きつけた方で、デズワがアタシを踏んづけた方だ。二人には痛い目怖い目に会わされたけれど、最早今の彼らからは敵意は感じない。とりあえず仲良くしてみよう。


「んで、お前らブラグがどこ行ったか知らねえか?」

「ブラグさんっすか?ブラグさんなら先にルプス族のとこに向かうって言ってましたが」


 スリクさんの質問に、サラッと答えるパクバ。


「はぁ……ブラグの野郎、また一人で行っちまったのか」

「ブラグさん団体行動が嫌いっすからねえ……」


 頭のタテガミをモシャモシャ掻きながら困ったヤツだみたいな顔をしているスリクさんと、苦笑しながら答えるデズワ。

 さて、それを聞いてのんびりしていられないのがアタシ達だ。


「ルプス族のところって……シュベルホ村ですか!?」

「え?ああ、多分そこだと思いますけど?」


 焦り出すアタシの質問に、アタシが何を焦っているのかよくわかっていない感じのデズワ。


(マズい!マズイでしょ!?時間停止出来てスリクさんより強い人とか、パヤージュ達どころかキートリーもボースすらも危ない!!)


 アタシが攫われたマースを追いかけてシュベルホ村を飛び出してからもう大分時間が経っている。飛び出す瞬間にバヤール周りの結界が解除されて、中ではルプス族との乱戦になっていたハズで、ただでさえ危険なところ、そこにスリクさん以上に強いかもなエクウス族が混じれば、いくらボースやキートリーが強いからと言って無事では済まない。

 スリクさん達エクウス族はルプス族に比べればそれほどボーフォートに敵意を持っているワケじゃない。だけどアタシを害したパクバやデズワのように、何かのきっかけで敵対することはあるし、何より本気を出されたら時間停止から状況把握する暇も無く殺される可能性がある。時間停止の中、何故か動けるアタシがかなりの例外なのだ。

 元々マースを抱っこしてのんびりスリクさん達と話してる余裕なんて無かったのだ。アタシはアタシの胸の谷間で窒息しそうになってるマースを片手で引っぺがし、立ち上がってスリクさんに頼んだ。


「スリクさん!ブラグさんを止めて!あっちにもアタシの従妹がいるの!!」

「何!?」


 スリクさん達に簡潔に状況を説明したアタシ達は急遽シュベルホ村に戻る事になる。取り戻したマースと、魂だけになってしまったケリコ、前戦キャンプからやってきたロシュくんとグラングラ、そしてここで出会ったスリクさんとエクウス族の人達を連れて。

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク、★評価等よろしくお願いいたします。


主人公パートがやっと終わってやっとキートリー達の視点にいける。

三日目が全然終わらない。

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