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19.お馬さんのお嫁さん_07

「ち……せ……!!」

「ち……え……さ……!!」


 ハッキリとしない意識の中、アタシを呼ぶ誰かの声が聞こえる。野太い男の声と、若い少年の声。そして、


 -ハムハム、ベロベロ-


 大きくて生暖かいモノがアタシの顔を舐め上げる感覚。その感覚に、


「……う?」


 アタシは目を開けた。


「千歳姉様!?御無事で!」

「千歳様!」

「千歳!良かった、目が覚めたか」

「ブルルッ」


 地面に倒れているらしいアタシの視界に映るのは、緑髪の少年と栗色の髪の少年、さらに灰色の葦毛の馬獣人と、アタシの顔を舐め続けている巨大な黒い馬。


「みんな……?」


 何の気なしに身体を起こしたアタシ。だが、背中と頭に謎の違和感を感じる。触ってみると一発で分かった。


「あれ?アタシいつの間に?あれっ?傷は?あれ?」


 アタシはいつの間にか悪魔化していた。それも完全体の角有り、翼有りの全身青肌状態だ。それに地面に叩きつけられて全身打撲の血だらけだったハズのアタシの身体は、傷も無く綺麗さっぱり治っていた。

 状況を飲み込めていないアタシは、疑問でいっぱいの表情を浮かべながら自分の顔や体を手でぺたぺたと触って確かめる。

 すると目の前の緑髪の少年、マースがアタシの疑問の答えを言ってくれた。


「すみません千歳姉様、僕がこの指輪の力で千歳姉様を悪魔に変身させました。申し訳ありません……」

「あ、あー、だからかー」


 何故か申し訳なさそうな表情でアタシを見つめるマース。アタシは自分が悪魔化した事は理解した。だけど傷まで治っているのは?


「吃驚したぞ千歳、まさかお前が蝙蝠獣人だったとはよぉ。しかも傷まですげえ勢いで治っちまうし」

「蝙蝠?コウモリ……蝙蝠?ああ、蝙蝠ねー、こうバサバサッと、キィキィ鳴いて……っていや!アタシ悪魔ですからね!?」


 何故かアタシを蝙蝠獣人だと言うスリクさん。アタシはそんな彼にビシッとノリツッコミで返す。まあ確かにアタシの今生やしてる翼と青い肌に角を合わせれば蝙蝠に見えなくも無いけれど。


(そっか、アタシ、悪魔で自分で勝手に身体を再生したのか)


 悪魔化した時の自分の再生能力を思い出して納得するアタシ。プレクトの家族に風魔術で胸に大穴開けられた時も寝て起きたら再生してたのだ、ちょっと全身打撲した程度なら悪魔化してちょっと寝てればすぐに治ると言うワケだ。


「あぁ~無事でよかったぜちとせ~」

「スリクさん……」


 スリクさんがアタシに抱き着き安心したような声を上げる。アタシも彼に窮地を救って貰ったのだ、そっと抱き返すのだが、


「うう、柔らけえ~」

「ス、スリクさん、あの、人前で堂々とアタシの胸揉むのは止めてください。ほら、部下の人達の目もありますし……」


 アタシは苦笑しながら彼に言った。スリクさんはアタシに抱き着きつつ大きな蹄の手でアタシの胸を遠慮なくグニグニ触っている。スリクさんに身体を触られても不思議と嫌悪感は無いけど、他のエクウス族の人達の前でこうも堂々と揉まれると流石に恥ずかしい。

 今更だけど馬獣人のスリクさんが、人、と言うか今は悪魔化してるけど、そんなアタシの胸を揉んで楽しいのだろうか?どうなの?種族の違いとかは気にしない感じ?


「ハッ!?す、すまん、つい……どうも千歳の匂いを嗅いでいると我慢が効かなくてな」

「あー、なるほど。アタシの媚香ですか」


 スリクさんはアタシの指摘で我に返り、スッとアタシから離れる。だが、アタシから離れたスリクさんはアタシを見ながらウズウズと落ち着かない様子で、今にでもまたアタシに抱き着いてきそうである。

 今のアタシは悪魔化しており、人間体の時よりも漏れ出している媚香の力が強まっている。鼻の良い獣人には特に利くらしく、スリクさんですら油断するとすぐにアタシに抱き着いてしまう、と、まあそんなところだろう。


「スーッ、スーッ、この匂い……」

「すげえ匂いだ、頭がくらくらする」

「なんだこれ、無性に飛びつきたくなる……」


 スリクさんの後ろに座っているエクウス族の部下達も、どこか落ち着きが無く、少し興奮気味に鼻息を荒げつつアタシをチラチラと見ている。


(こりゃあ、このままだとまた襲われかねないなあ。スリクさんとの会話にも支障が出るし、早く戻ろ)


 さっき彼らに胸倉を掴まれた時とは違った意味で襲われるかもと身の危機を感じたアタシは、さっさと元の人間体に戻る事とする。

 因みに一番アタシの媚香の影響が強いと思われるのがさっきからアタシの顔をベロンベロンに舐めっ放しのグラングラ。悪魔化してるアタシをなんら怖がることも無いのは嬉しい限りだが、グラングラの涎でアタシの頬と耳と髪と角が見事にデロデロだ。アタシはキャンディーじゃないんだぞ。


「ケガも治りましたし、今人に戻りますねー」


 アタシはそう言って軽く目を瞑る。


(変身解除~もどれ~アタシ~)


 -スウゥッ-


 悪魔化を解いて人間体に戻ったアタシ。もう何度も変身と解除を繰り返しているので、戻り方もかなりスムーズだ、まあ慣れたモノである。

 目を開けてスリクさんを見てみれば、目を見開いて驚いている。悪魔のアタシが人間体に戻ったのがそんなびっくりするようなことだろうか?


「角も翼も肌と髪の色まで変わっただと?いったいどういう身体してるんだ千歳?」

「どういうも何も、アタシ悪魔ですし……」


 イマイチアタシが悪魔であると言う事を理解しきれていない様子のスリクさん。彼を吸精している時散々アタシは悪魔だと自己紹介したハズなんだけども。


「色が元に戻ったぞ?」

「匂いも消えた?」

「いや、弱くなっただけだな、まだ少し匂いがする」

「なあ、もしかして結構良さげな雌なんじゃねえ?」

「アレ、ボスの雌だろ?手出したらまたブッ飛ばされるぞ?」

「ちぇー、俺が先に見つけてりゃあよおぉ」


 アタシの変わりっぷりにエクウス族の人達もざわつく。


(よくもまあ好き勝手言ってくれる。さっきアタシを思いっきり地面に叩きつけてくれたのは忘れてないからね?痛かったし、死ぬかと思ったし、怖かったんだぞ)


 と、彼らの言動を聞きつつアタシはちょっと捻くれた目でエクウス族の人達を見る。死にそうになったのはあれで2回目とは言え、怖いもんは怖いし、慣れたくもない。


「むー」

「あっ?千歳姉様?」


 アタシは拗ねた表情で傍に居たマースを引き寄せ、地面に座ったまま両腕で後ろから彼をぎゅっと抱きしめて自分の胸元に埋める。


「ち、千歳姉様?」

「ちょっとだけ」

「あ、はい」


 ぎゅーっとマースを抱きしめて恐怖とストレスを癒すアタシ。そんなアタシにマースは黙って抱かれてくれた。マース好き。


 と、そんな人間体に戻ったアタシを見て驚いているのがもう一人居た、ロシュくんだ。ロシュくんはポカーンと口を開けたまま、アタシとマースを見つめている。


「ロシュくん、アタシの悪魔化見るの初めてだっけ?」

「え?あっ、はい、初めてです」

「まー、アタシこんな感じでコロコロ悪魔になったり人に戻ったりするから、適当に慣れてね?」

「わっ、わかりました」


 あんまりわかってない様子のロシュくんだけど、放っておけば慣れてくれるだろう。ロシュくんはなんかそんな感じがする。

 そんな折、スリクさんとその部下達が改まってアタシの前に一斉に並び座り直した。そしてスリクさんが口を開く。


「千歳、さっきはすまなかった。お前に手ぇ出した阿呆達はキッチリ〆ておいたから、どうか許してくれ」

「〆たって……?ああ~?あああ~~、あははは……」


 スリクさんの後ろ、ちょっと離れたところの地面に、胴体におっきな蹄の痕を付けられてぶっ倒れているエクウス族の人が二人ほど倒れていた。一人はアタシを吊り上げて地面に叩きつけた人、もう一人が地面に転がるアタシを踏んづけた人だろう。息はあるようだけど、二人とも口から泡を吹いて気絶している。


(ああ、あれ大丈夫なのかな?他の部下の皆さんもめっちゃ耳伏せてる。どんだけ〆られたのやら)


 流石にキッチリ落とし前を付けられていたので、彼らにボコされてちょっと拗ねてたアタシの溜飲も下がる。


「大丈夫、ほら、アタシこの通り治りましたから、大丈夫です」


 マースを胸に抱いたまま、平気だよとスリクさんに向けて片手でグッとガッツポーズを決めて見せるアタシ。


「あ~、そら良かった、ホントすまんかったな千歳。でだ、坊主、さっきの話の続きと行こうか?」


 スリクさんはアタシの返答を聞いて安心したようだ。で、そのままアタシの胸元に居るマースに話を振る。マースはアタシに抱かれたまま身体を反転させ、スリクさんの方に向き直って言った。


「む、僕は坊主じゃありません、マースです」

「おー、そうだった。じゃあマース、さっきの話だが」


(さっきの話ってなんだろ?)


 どうもアタシが起きるまでの間にマースとスリクさんの間で何かしら話を進めていたらしい。ここは大人しく二人の話を聞くとしよう。


「はい、さっきの話からエクウス族の方々がボーフォートに侵入してから、我が領地では馬の解放以外に被害を受けていなかった事はわかりました。これであればまだルプス族とウルペス族の暴走として処理する事で事態を大事にするのを避けられます。誤解があったとは言え、そこの彼らが千歳姉様を傷付けたのは非常に腹立たしくて許せませんが……」


 マースが含みを持たせた言い方でエクウス族の人達を睨んだ後、アタシに心配そうに視線を送った。マースの表情は怒っても良いんですよ、と言っているようだったが、ここでアタシが下手に突っ張っても碌な結果にならないのは理解している。

 マースに睨まれたエクウス族達もバツが悪そうな顔をしてアタシを見ている。スリクさんが殺されたと勘違いし仇を取ろうとした彼らも早合点したとは思うが、実際死ぬ寸前までスリクさんを吸精してしまったアタシにも責任はある。痛かったし怖かったけど、幸いアタシの命に別状はなかったし、ここは手打ちとしよう。

 アタシは片手をヒラヒラとエクウス族の人達に向けて振りながら、


「あっ、傷は治ったんで、気にしないでください。はは……」


 と苦笑しつつ少し上擦った声で告げた。そんなアタシの対応を見てホッと胸を撫で下ろすエクウス族達。

 アタシはそんな彼らを見つつ、またマースを後ろからギュッと抱きしめた。マースはアタシを少し見上げた後、小さな手でアタシの手を握り、


「大丈夫ですよ」


 と、アタシ以外に誰にも聞こえないよう小さな声でポツリと言った。アタシは自分でも気付いていなかったけど、どうも手も声も震えていたらしい。デカイ図体の割に相変わらず小心者でアタシは自分が情けない。アタシは抱きしめているマースの体温を両腕とお腹に感じつつ、彼の小さな頭、後頭部に顔を寄せゆっくり深呼吸する。そして、


「ん、落ち着いた」


 と、マース以外には聞こえないような小さな声で彼に言う。アタシの言葉に返答するようにアタシの手が小さな手にギュッと握り返される。不思議なモノだけど、この小さな少年はアタシをどこまでも安心させてくれる。本当に魅了されているのはどっちなのやら。当分彼から離れられそうにないし、離したくない。

 そんなアタシの手を握りつつ、マースはスリクさんに視線を戻し話を続ける。


「千歳姉様の許しを頂いたので、こちらの被害は軽微……目を瞑ります。ですが、現在進行形で父上の部隊とルプス族との戦闘が続いています。これ以上被害が及ぶようであれば、このままだとボーフォートとジェボードの全面戦争が再開してしまいます。そこでスリク王の手でなんとかこの場を納めてほしいのですが」


 アタシの両胸の谷間に挟まったまま真面目な話をするマース。話の内容に対して状況がシュールで思わず吹いてしまいそうになるが、ここは余計な茶々を入れるのはよそう。


「俺が王様ねえ?昨日この世界に来たばっかりの俺がぁ?そういうのはガラじゃないんだが……」


 そう言ってスリクさんが手で頭をポリポリ掻く仕草をする。本人の言うとおり、参ったなあと言った感じだ。


「スリクさん、アタシからもお願いします。アタシも一昨日この世界に来たばかりでまだよくわかってないんですけど、でもやらなくていい戦いは避けたいです」


 アタシもマースの話に合わせてスリクさんに頼む。この世界の情勢はまだまだよくわからないが、フライアが頑張って止めたと言っていた休戦協定だ。むざむざ破る必要も無いし、それで人死にが出るのもアタシは望まない。


「うーむ、千歳に頼まれちゃあ断れねえな。しかし、だ」


 真面目な顔をしてマースに視線を移すスリクさん。マースはスリクさんに話を振られて疑問の声を上げる。


「なんでしょう?」

「こっちも奴隷にされてる同胞の解放に来てんだ。タダじゃ帰れねえ」

「ヒヒンッ!?」


 そう言ってスリクさんはグラングラの方を見た。スリクさんに見られたグラングラはこっちみんなと言わんばかりに不機嫌そうに耳を伏せる。

 マースはそんなグラングラを見つつ難しい顔をしている。


「エペカ国及びボーフォートにおける家畜の馬達の解放ですか?うぅーん……馬は市民の移動手段として広く活用されていますし、農業・林業の働き手としても欠かせません。それを全廃しろと言われても……」

「じゃあ交渉は決裂か?」

「ちょっ!ちょっと待ってください!まだ何もしないと言ったワケでは!」


 マースがスリクさんの不機嫌そうな返答を聞き、焦ってアタシの腕から離れ、スリクさんの前に立つ。

 スリクさんは座ったままマースを見つめ、少し溜息を吐いてから言った。


「ふぅー、なあマース、お前らや他の獣人にとっては家畜かも知れんがな、俺らにとってはこの子らは同胞であり仲間なんだ。お前らだって同族が奴隷として扱われていたら文句の一つも言うだろう?」


 グラングラを見てそう言うスリクさん。グラングラはやっぱりこっちみないでと不機嫌そうだ。

 スリクさんのこの話を聞いていて、アタシは回答が難しいと思っていた。どこまでを同胞に含むか、が問題だ。


(同族が、アタシの場合は人間だけど、それが奴隷にされていたら?そりゃ解放してあげたくはなるけど、アタシ個人が責任持てるかって言われると、ね。それに、スリクさんの言っている同胞、スリクさんとグラングラ達馬の事をアタシ達人間に当てはめると……相手はお猿さん?チンパンジーとか?そりゃ虐待されていれば不愉快にはなるし、お肉として食べるとかになると引いちゃうけど、ペットとか家畜として働いているのをじゃあ解放してってなる?動物愛護?人間とお猿さんだよ?同胞?うぅーん……)


 スリクさん達エクウス族とアタシ個人の価値観の違いか、アタシはイマイチ彼らの言う同胞の扱いにピンと来ていない。それはマースも同じなハズだけれど、何故かマースが苦い顔をしている。


「エペカ本国では奴隷制度が……亜人だけでなく、人族そのモノも場合によっては奴隷労働や、その、性奴隷として売買されていて……」

「え?」


 予想していなかったマースの返答に、間抜けな声を上げるアタシ。


「なんだぁお前ら?同族を奴隷にして商売しているのか?どういう価値観していやがる?」


 益々不機嫌そうな表情をするスリクさん。彼の後ろに控えるエクウス族の人達もざわつき始める。


「同族を奴隷に?」

「同族を商品として取引?」

「この世界の連中は何考えてるんだ……」


 ドン引きしだすエクウス族達、彼らの動揺もごもっとも、アタシも動揺している。だが、よくよく考えればここは異世界だった。現代日本を生きてきたアタシに奴隷制度は全く馴染みはなかったが、アタシの世界だってちょっと年代遡れば奴隷制度なんて当たり前にあったワケで。


(そっか、ここ異世界だっけ。マース達が貴族で、エペカに王様がいるっていうなら社会制度は恐らく封建制。時代は中世、よくて近世ってとこ?だったら奴隷制度くらいあって当然か)


 技術は魔術が基本で、恐らく産業革命なんて起きていない世界だ。奴隷制度の一つや二つ残っていてもなんらおかしくない。まあアタシはまだこの世界の街を見てないからこれって断言するのもアレだけど。

 マース達との価値観の違いを、異世界と時代の違いという事で一人納得したアタシ。そんなアタシの前で、マースはスリクさんに向かって弁明を続ける。


「しかし、ボーフォートでは父上の代から奴隷制度は廃止されています!」


 スリクさんに向けてビシッと言うマース。


(へー、よかった。ボースさんやるじゃん)


 奴隷制度の廃止と言う偉業を成し遂げたボースを褒めるアタシだったが、その後に続くマースの言葉で褒める相手が違う事に気付く。


「発起人はお師匠様……あいや、伝心の魔女からですけれど」


(結局はフラ爺かい!?ボースさん褒めて損した!)


 心の中でツッコミを入れるアタシ。


「伝心の魔女?もしかして、昨日最初に俺らの島に飛んで来た金髪紫化粧のあのねーちゃんか?」

「ええと、多分そうです。黒いとんがり帽子に、今千歳姉様が着てる服と同じ格好をしていたら多分その人が伝心の魔女、フライアです」

「千歳の服?」


 スリクさん達エクウス族とマースの視線がアタシに向けられる。


「え?なに?この黒装束のこと?」


 突然アタシに注目が集まったので、アタシは立ち上がってその場で身体を左右に捻り、自分の黒装束をスリクさん達によく見せる。アタシが今来ている黒装束は、巨大悪魔化して着る服が無くなってしまったアタシにフライアが同じデザインの服をくれたモノだ。現在はプレクトとケリコの墓標に左右の袖を破って使ってしまっている為、肩出しのノースリーブになっているけど、そこ以外見た目は全く同じなので見せればわかるだろう。


「おおっ、それだ。じゃああれがフライアか」


 アタシに向かって腕の蹄でビシッと指?を差すスリクさん。彼らの確認も終わったようなので、またストンとその場に座るアタシ。


「そういやあのねーちゃんも千歳と同じくらい良い女だったなぁ……まあ嫁にならねえかって聞いたら速攻で断られたけど」

「はははは……」

「あはははは……」


(スリクさん、その人アタシとマースのお爺ちゃんです。フラ爺が男だって聞いたらスリクさんどんな顔するんだろね?)


 スリクさんのフライア評に乾いた笑いで返すアタシとマース。スリクさんもまさかフライアがあの見た目で男だとは思うまい。

 そんなスリクさんが真面目な表情に戻って話を続けた。


「話が逸れたな。それで俺達の要求の件だが」

「むう……父上に掛け合ってみます。ボーフォートに限れば、家畜の全廃は現実的ではないですけれど、待遇の改善くらいは、なんとかしてもらえるとは思います」

「おう、じゃあ交渉継続だ。ま、今のグラングラちゃんくらいの待遇であれば、こっちも矛を収められるってモンよ」

「ヒヒンッ!?」


 またアタシの顔をベロンベロン舐めていたグラングラがスリクさんにビビり鳴き声を上げる。


「ははは、グラングラちゃんさっきは悪かったって、そんなビビらねえでくれ」

「「「ハハハハ」」」


 スリクさんと一緒にエクウス族の人達からも笑い声が上がる。


(よかった、なんとか纏りそう)


 話が纏りそうで安心したアタシは、またアタシの肩に顎を乗せているグラングラの顔を撫でながら一息ついていた。

お読みいただきありがとうございます。

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