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17.獣が来りて炎を吹く_side07

  まだ続いている我がボーフォート軍のとジェボードのルプス族との戦闘。だがその形勢は我が軍の圧倒的有利のようで、このまま我々の勝利にて決着が付く、そう思われますの。そう、このまま()()()()()()


(襲撃の報を聞いた際はどうなることかと思いましたけれど、呆気ないモノですわね)


 と、ワタクシはバヤール内の前方、覗き窓から外の見える位置で両腕を組んだまま立ちながら、未だ森へ猛然と降り注ぐ氷の刃と、もうすっかり飛んで来る数も半減した火球、それらの飛び交う外の戦闘模様を見ながら思いましたわ。

 襲い掛かってきた30体のルプス族も、気づけばもうほぼ半数の壊滅状態。敵部隊はほぼ捨て身、決死の突撃を仕掛けてきた割には、対した決定打も無くそのまま瓦解していこうとしていますの。


(栄枯盛衰、一時期はジェボード国を支配していた精強なるルプス族も、それはもう過去の事。という事なのかしら)


 ワタクシは、結界に阻まれまるでこちらに攻撃の届いていない敵の火球を見ながら、かの国、ジェボード国の過去の事を思い出しましたの。

 エペカ国とジェボード国は古くから度々軍事での衝突を起こしていましたの。ジェボードの獣人がエペカ国の領土に進行しては、エペカの各領主が各々挙兵して領土の奪還を行う、と言うのがまあ常々で、当時は戦力的に拮抗していたのでしょうね。

 それが25年前、ジェボードの長がルプス族に変わった時、ジェボードの大攻勢が始まりましたわ。高い身体能力と火球を自在に操るルプス族。彼らを中核に統率の取れたジェボード軍に、隣接していたエペカ諸侯は手も足も出ずに次々と領土を奪われ、領主領民も分け隔てなく皆殺しの憂き目に。サティのマーカル男爵家が滅ぼされたのもこの時期辺りですわね。

 ここで義憤に駆られた田舎貴族なボーフォート伯爵こと若き時代のお父様が挙兵してジェボード軍に反撃を行い、滅亡したエペカ領主達の領土を奪還し、散り散りになった領民兵士諸共を保護吸収し続け、あれよあれよと言う間にボーフォートの領土と戦力を広げての快進撃。そしていつの間にやらエペカ本国から辺境伯に任命されて国境線の防衛を任されていた、と言うのが我がボーフォート家なんですけれど、まあこっちは一旦置いておくとしましょう。そもそもこの時代、ワタクシまだ産まれておりませんし。

 そんなジェボード国に、獅子の特徴を持つレオン族、彼らがオードゥスルスのジェボード国に流着。レオン族がジェボード国の王の座をルプス族から奪取し、レオン族の長であるロカが白雷帝のロカと名乗ったのが3年前。その後、戦力拮抗となったボーフォートとジェボードは約3年掛けて父上とロカの協議の元、休戦協定が結ばれましたわ。

 ロカが現れるまでジェボード国のトップに君臨し、度々ボーフォートと衝突したルプス族。戦場に出ていた当時まだ16か17歳だったワタクシは、隊を率いて何度もルプス族と戦闘し、何度も死の危険に晒されながらも何とか勝ちをもぎ取ってきたモノなんですけれど。主に闇夜に紛れての奇襲を得意とした彼らルプス族、いつ襲ってくるかわからない、いつ首を狩られるか、いつ炎に巻かれ焼かれるかわからない恐怖。彼らの強さと狡猾さ、恐ろしさはそれはそれは凄まじいモノがありましたわよ?

 でも今眼前に見える彼らの様子はもう自暴自棄、ヤケクソと言う他ありませんの。完全な防御陣地を組んだ我が軍に真正面からぶつかって来るような愚行、当時では考えられませんわね。

 そんなヤケクソ気味のまま、まるで引く気配を見せないルプス族。こちらの水魔術師達の放つ氷の刃の前に次々と葬られて行く、最早部隊の消滅すら見えてきた彼らを見つつ、ワタクシは思います。


(このまま何も無く終わるのは嬉しい事。ですけれど)


 左右の車両から聞こえてくる魔術詠唱の声。魔術の使えないワタクシが戦場で唱える事は恐らく一生無いであろうその言葉。


(悔しいですわ)


 つい思ってしまいますの。自分が必要とされていない、邪険にされているような気がして。

 今行っているのは射撃戦、主に徒手空拳での近接戦闘がメインのワタクシに出番が無いのは当たり前の事。そもそもワタクシを含むこの第4車両の人員は、元々お姉様のご友人の恵様をクラーケンから救出するために特別に編成された人員。今回は第5車両と第6車両の新兵混じりの部隊が戦力的に不安が有りましたので特別にジェームズとショーンの二人をこの車両から後ろの車両に分けましたけれど、本来であれば救出作戦までの消耗すら許されませんの。言わば護衛対象なんですから、戦闘に参加しないのは当然の事。

 それに、自軍からワタクシが必要とされていないなどと言う事もありませんわ。そうならないよう武術を身に付け、ワタクシは実戦でそれを証明してきましたから。でも、子どもの頃からのコンプレックスと言うモノは、そうそう消えるモノではありませんのよ?だからこんな呟きがつい口から洩れてしまいますの。


「どうやら、ワタクシ達の出番は無さそうですわねえ……」


 ポロッと漏らした呟きとは言え、周りへの体裁の為、あえて"ワタクシ"では無く、"ワタクシ達"と言った辺り、自分の余計な見栄みたいなモノが見えて本当に嫌になりますわね。

 そうして自分が漏らしたくだらない呟きに嫌気を感じつつも、そのまま外の戦況を伺っていた頃、


「え、ケリコ?何?」

「うにゃあ……♥千歳サマ……♥もう我慢できないにゃあ……♥グルル……♥」

「え、我慢?どういう?」


 不意に後ろから聞こえてきたお姉様とケリコの声。


「うにゃうにゃ……♥うにゃあん……♥」

「ちょっ?あっ、こらっ、ちょっと?くすぐったいって」


 ふと振り返って見てみれば、まるで発情した猫のような、と言うか完全に発情した猫な声を上げるケリコが。ケリコはお姉様に嫌らしく身体を摺りつけながら、お姉様の綺麗な顔をベロベロと遠慮も無く舐めていますの。それを見たワタクシとしては当然面白いワケも無く、非常に不愉快な気分になりましたわ。


(この雌猫、戦闘中に何を。この女は、獣人のクセにちょっと可愛いからって、ちょっと魔術を使えるからっていい気になって、お姉様に擦り寄って、あんな事を)


 嫉妬とコンプレックスの混じりあった不快感丸出しの感情を隠そうともせず顔に出してケリコに向けるワタクシ。我が事ながら本当に醜い表情をしていたと思いますわ。


(お姉様もお姉様ですわ。100歩譲ってパヤージュを抱きしめていたのはわかります、優しいお姉様の事ですから、怯えるあの子を見ればあのような行動に出るのでは無いかとは何となく想像は付きました。でもですわよ?何故ケリコにまで好き放題させているんですの?何故ちょっと嬉しそうな顔をしていらっしゃいますの?少しは抵抗しなさったらどうなんですの??ハッ!?まさかワタクシやマース、サティとパヤージュだけでは飽き足らず、ケリコまで???お姉様、貴女と言う人は、本当に、本当に)


 ワタクシの頭の中で渦巻く嫉妬と愛情がぐちゃぐちゃに合わさったどす黒い感情。思わず力が入り、ギリッと歯ぎしりするワタクシ。だけれどワタクシはここで何とか踏み留まり、自省します。


(っと、ワタクシは、ケリコ相手になんて事を思って)


 はっと思い直し、嫉妬に塗れた醜い表情を抑えるワタクシ。

 ケリコが元居たジェボード国で酷い迫害を受けていた事、ボーフォートに亡命してからも獣人であると言う事で周りの領民の奇異の目に晒され、それに耐えながらも必死に努力し魔術の勉強をして魔術師を名乗れるところまで来た事。彼女の苦労は知っていましたし、エペカ人と獣人との違いはあれどワタクシと同じく周りから奇異の目を向けられていた事に少なからず共感してもいましたから。故にワタクシ、猛省。


(ケリコを蔑むと言うことは自分がもっとも嫌っていたモノ達と同じ事をしていると言うこと。軽蔑すべき行為ですわ、恥ずべき思考ですわ、反省すべきことですわ)


 そしてケリコだけではありません。お姉様にまで向けてしまった黒い感情も、猛省。


(それに、お姉様にまでこんな感情を向けるのはお門違いもいいところ。お姉様は優しい人ですから、本当に……)


 と、黒い感情こそ治まりましたが、お姉様がいつまでたってもケリコを突き放さないモノですから、ワタクシ反省しきれません。


(でも誰にでも優しいのは、どうなんですの?ねえ?お姉様?ねーえ?)


 嫉妬の感情が残ってしまい顔に出ていましたわ。そのまま眉間に皺を寄せつつお姉様に、


(い・い・か・げ・ん、離れてくださいましっ)


 と、念を送りつつ、訴えかけるようにじーっとお姉様の目を見つめるワタクシ。

 そうしていたらお姉様はやっとワタクシの視線に気づいたらしく、ケリコと少し問答した後、興奮したままのケリコを半悪魔化した青い手でポンッと突き放しましたわ。


「千歳サマぁ~」


 お姉様に突き放された後も、未練がましくお姉様の名前を呼んでいるケリコ。彼女はお姉様に夢中でワタクシの視線に全く気付いていません。まだ戦闘は終わっていないと言うのに緊張感が無いにも程が有りますので、ワタクシはワザとケリコにも聞こえるように大きく咳ばらいをします。


「こほんっ!」

「に゛ゃっ!?」


 ワタクシの咳払いを聞き、尻尾の毛をブワッと膨らませながら吃驚した様子を見せたケリコ。彼女は直ぐにバヤールの操縦席の杖を握り戦闘態勢に戻り、ワタクシの顔を見ながら何か問題でも?みたいな顔をしていますけれど、


「はぁー……」

(ケリコもケリコですけれど、ワタクシも大概、呆れてしまいますわね)


 ケリコのお調子者っぷりと、自分の嫉妬深さの両方に長い溜め息を漏らしつつ、前に向き直ったワタクシ。


(ん?)


 その時後ろから、車両の外から何者かの気配を感じましたわ。今はまだ戦闘中、第3車両の兵達がメルジナの女神像の護衛の為に外に居るのは知っていますけれど、それが何故わざわざワタクシの車両に来るのか。緊急時以外は常に車両前方の連絡管での連絡を徹底していましたので、これはおかしい。となれば何かしらの緊急事態と考えるのが妥当なワケでして。


 -ガチャッ-


 バヤール後方の扉が外から開けられましたわ。


「何事かしら?」


 そう言いながら誰かと思って振り返ってみれば、そこに居たのは、


「って、あら?お父様?」


 いつもの見慣れたハゲ頭、お父様でしたの。


「父上?」

「ボースさん?」


 マースとお姉様が突然のお父様の登場に疑問の声を上げましたわ。戦意高揚魔術でさっきまでずっと興奮状態だったマースもいい加減戦闘も長引いてきたせいか興奮状態も収まりつつあるようで、さっきまでの獲物を狩るかのような表情はどこへやら、車両後方に乗り込んで来たお父様を見てきょとんとした顔を向けていますわね。


 -バタンッ-


 お父様は開けた扉をバタンと音を立てて閉めつつ、車両内をすっと一目確認した後、ワタクシを見ながら言います。


「おう、キートリー、もうこっちの勝ち確見てえなモンだが、どうせ戦いたくてウズウズしてんだろ?前に出て良いぞ」

「はぁ……緊急事態かと思ってつい身構えてしまいましたわ」


 お父様がわざわざ担当の先頭車両から出て、ワタクシの車両にまで伝えに来たのはただ単に、出撃していいぞとの提案のみ。そんなお父様に向け、頭に手を当てながら呆れた風に首を振りつつお父様に近づくワタクシ。


(自分であれだけ緊急時以外は連絡管を使えと言っておきながら、いざ余裕が出てくるとコレですの、ホントこのハゲは)


 と、思いつつ呆れた風を装っているワタクシですけれど、ホントのところ、ワタクシは嬉しくて目を煌かせていましたわ。だって戦えるんですもの。ワタクシが必要とされているんですもの。こんなの嬉しいに決まっています。とは言えこんな想い、お父様に真正直に伝えるワケには参りません。ワタクシにもプライドがありますし、何となくお父様相手だと気恥ずかしいので、極力表情には出しません。


「ま、それだけじゃねえけどな、そろそろ魔力補給もせにゃならん。結界が薄くなるタイミングで奴らに破れかぶれの捨て身の攻撃でもされたらたまらんからな。補給の間はそっちで攪乱してくれ、グレッグ達騎兵隊も忘れず連れてけよ?」


 そう言ってワタクシを指差しつつ指示を出すお父様。お父様によりワタクシに任せられたのは、戦闘車両及び第2車両の魔力補給中の敵の攪乱任務、騎兵隊を率いての突撃一番槍。

 我がボーフォート軍の戦力の中核を担う水魔術師。彼らの魔力は勿論無尽蔵などでは無く、今の戦闘のように雨のように氷の刃を降らせていれば当然魔力の枯渇が見えてきますの。そこで戦闘を続ける為用意してあるのが、バヤールの第3車両にわざわざ積んで来た、デカデカと重苦しい石像ことメルジナの女神像。

 毎朝の祈りを捧げて僅かな体力と共に魔力を授かるメルジナの女神像ですけれど、戦闘中でもその魔力補給は可能。となれば使わない手は無く、ボーフォート軍では進軍時はほぼ確実にこの女神像を乗せた随伴部隊がいますの。後先考えずに魔力を贅沢に使う戦いが出来るのも女神像のおかげ。この女神像を使った実質無尽蔵の魔力戦がボーフォート含むエペカ国軍のアドバンテージであり、逆にウィークポイントでもあります。もしこの女神像が壊されたら?長居は無用、とっとと撤退するしかありませんわ。魔力の尽きた水魔術師など一般人と変わりありませんから。因みにワタクシの車両の人員でこの水魔術師に当たるのは、マース、サティ、ジェームズ、ケリコになりますわね。

 水魔術師以外の例外を出すならまず、ワタクシや、ショーン、グレッグなどの白兵部隊。ワタクシはそもそも魔力はあっても魔術は使えませんし、ショーンやグレッグの様な白兵戦を行うモノ達は基本的に魔力を自身の強化魔術に回すためそこまで魔力を消費しません。お父様も分類的にはここに当たりますけれど、そもそもボーフォート軍のトップであるお父様が直接戦うって事自体異常事態ですわよ?お父様がやられたら我が軍終わりですもの。ワタクシが代替で指揮をやれと?冗談でもお断りですわ。そんなの万が一でも勘弁してほしいですわね。

 次に、風魔術師のパヤージュやエメリー。彼女達風魔術師はそもそもメルジナの女神像での魔力補給が出来ません。祈る神が、信仰先が違います。なので、よっぽどの事が無い限り戦力としては温存されますの。元々、水魔術師に比べれば数も少ないですしね。それでも水魔術師では出来ない、風魔術師独自の利点がありますから重宝されています。

 彼女達風魔術師の魔力補給はどうしているかですって?時間と共にじわりじわりと回復していくらしいですわよ?

 さて説明は戻って、お父様からの騎兵隊を連れての出撃指示を聞いたワタクシ。


「あら、ちょっと早いような気もしますけれど……」


 ワタクシはそう言いつつ、お父様に近寄り周りに聞こえないよう、小声で耳打ちします。一つ残っている重大な懸念の事を。


「お父様、スパイの件は?」

「ん?あー、あれか、全車両探したが見つからなかった」

「いない?じゃああの信号弾はいったい誰が?」

「それがな、ジェームズの報告によると、信号弾には時限式の起爆装置が付けれれていたそうだ。もしかしたら置いて来た前戦キャンプの連中の方に紛れ込んでいるのかもしれん」

「なるほど?時限式、ですか」

「ああ、だから今はこっちの事は気にせず戦ってくれていい」


 お父様のスパイ調査の結果を聞き、とりあえず現在はスパイの懸念はする必要は無いと判断したワタクシ。また何も無かったかのようにお父様から離れ、今後の事を話し合います。


「では、ワタクシは前に出てよろしいんですのね?で、この車両の指揮は?」


 因みにワタクシ、最もらしい事を最もらしい顔で言っていますけれど、内心は戦いに昂る気持ちを必死に抑えていますのよ?

 残存のジェボードの獣人達も丁度前目に森を抜け出し始め、獣人達の大半は平地に出ています。平地となれば騎兵の突撃戦術も有効に働くでしょう。馬達が火を怖がって足を止めるかもしれませんが、そこはグレッグ達騎兵隊の腕の見せ所、まあ彼らならやってのけるでしょう。

 さて後は肝心のワタクシですけれど、本心は今にだって外に飛び出したいところ。ですけれど、ワタクシは一応この第4車両の車長ですから、指揮系統を投げっぱなしで出て行くのも問題ですの。

 するとお父様は少し考えるような仕草をした後、


「あ?ああ、あー、そうだな、サティに任せればいいだろ。お前は存分に戦っとけ」


(ん?お父様、ちょっとぼんやり、と言うか、疲れていらっしゃる?)


 と、サティに視線を送りつつワタクシに言いましたの。ワタクシ、そんなお父様の素振りと話しっぷりを見ていて少し違和感を感じましたの。いつも戦場では即断即決で豪快なお父様ですが、今日は珍しく迷っているななどと。とは言えお父様も人、迷う事もあるでしょう。一昨々日のシュベルホ村出身者一団の独断先行からの全滅騒ぎから始まり、一昨日は夜通し暴走したお姉様との戦闘とフライアからのお母様の出生暴露話、昨日は恵様救出部隊の編成と悪魔化お姉様の媚香で狂った兵站のやり繰り等、それに加えて今日このルプス族の強襲。ただのゴブリン討伐隊だったハズなのに、一昨々日から今日まで大忙しですわ。ですから、ワタクシはお父様から感じた違和感をお父様の連日の精神的疲れから来るモノと推定し、


(まあ、お父様ですし、大丈夫でしょう)


 見なかった事とします。この程度で潰れる程ヤワじゃありませんわ、このハゲは。

 ワタクシはそのままお父様に視線を向けられた車両前方のサティに視線を送ってみますの。サティは自分の胸に手を当てつつ微笑みながらワタクシを見てコクリと頷き言います。


「ここは私にお任せください、お嬢様。どうかお気を付けて」


 サティを見つつ、嬉しくて思わずニッコリしてしまいそうになった口元を我慢するワタクシ。サティの気遣いは本当にありがたいこと。


(ホント、サティ、貴女は優秀で思慮深くて優しくて好きですわ。これでお姉様に対する奇行が無ければ最高なんですけれど)


 などと思いつつ、まあそこは多めに見ましょうか、お姉様に対しての態度はワタクシもあまり彼女の事を言えません。


「ふふん、であれば存分に戦わせて頂きますわ。マース、パヤージュ、エメリー、ワタクシに強化魔術を」


 ニヤけそうになる口元を我慢しつつ、後ろのマース達へ強化魔術を頼むワタクシ。


「はい、キートリー姉様!」

「わかりました、お嬢様」

「わかった!キートリー!」


 そう言ってトタトタと走り寄って来てワタクシの前で青い宝石の付いた杖を掲げるマース。同じくワタクシの側に近寄り緑色の宝石の付いた杖を掲げるパヤージュと、彼女に寄り添うようにヒラヒラと飛んできて小さな身体で小さな緑の宝石付きの杖、と言うかステッキを掲げるエメリー。

 我が弟、マースは相変わらずのチビッコっぷりですけれど、いえ、チビッコって言ったらこの子臍を曲げるので言いませんけど、こう見えてウチの軍の水魔術師としては秘密兵器クラスの扱いなんですから頼りになるやら羨ましいやら。伊達にフライアに師事していたワケじゃありませんのよこの子。滅多に弟子を取らない伝心の魔女が、珍しく弟子を取ったと思えばそれがマース。まあ後になって考えてみればそれは当然の事で、マースは自分の孫ですモノねえ?因みにワタクシもフライアの孫なワケですけれど、ワタクシは魔術が使えないから弟子に取らなかったと。あの魔女、ホントにクソですわね。

 と、弟に対してもちょっとコンプレックスと言うか嫉妬心があるワタクシ。ですがこの子自体は何も悪いワケではないですし、ワタクシによく懐いてくれていますから、羨ましいと思う心をグッと抑え込んで普通に接しますのよ?


「水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って彼らに天恵を与えよ、フルブレッシング!」


 -キィィィン-


 青く光るマースの掲げた杖。マースの天恵魔術により、ワタクシと全身が強化されますの。キラキラと光るワタクシの身体。身体の隅々まで染み渡るマースの魔力。今までの疲れが嘘のように吹き飛び、身体中に活力が湧いてきます。溢れる魔力が闘気と共に全身を駆け巡り、爽快感と共にワタクシの力を十二分に引き出していく。


(気持ちいい……この瞬間、病みつきになりますわね)

「ありがとうマース」


 マースの天恵魔術から与えられる快感とそれに溺れそうになる自分を危惧しつつ、弟に礼を言うワタクシ。マースの強化魔術である天恵魔術は非常に強力ですが、一度の効果時間はたったの10分。でも10分あれば水魔術師達の魔力補給時間としては十分、10分でお釣がじゃんじゃんばりばり貰えますわ。

 そうしてマースに続いてパヤージュ達の強化魔術がワタクシに掛けられます。


「「ケセラセラ!風の女神シレヌーよ、我らに疾風と時の祝福を与えよ、エクシードアクセル!」」


 -キィィィン-


 同時に詠唱する二人の声と共に、緑に光るパヤージュ達の杖。二人の風の強化魔術により、ワタクシの身体を薄っすらと透明な緑色の光が包みます。この風魔術の効果は、全身の速度強化。水魔術師であるマースの天恵魔術と違い時間制限こそ無いモノの、効果を続けるには魔術を掛け続けなければならないのが弱点ですわ。横やりが入って魔術を中断させられればそこで速度上昇の効果は終わり。まあ、結界とバヤールに守られている二人に横やりが入るようなことは無いとは思いますけれど。そんなそんなワケでワタクシに緑に輝く杖を向けたままの体勢を維持することになるパヤージュ達。


「二人ともありがとう、では……」


 軽く拳を握っては開いてを繰り返し、闘気と魔術の効きを確かめたワタクシ。力は入りますし、闘気の出具合も問題ありません。準備万端、そんなところですわね。

 そうしていると、隣で両腕を組んだまま座っていたお姉様から声が掛かりましたわ。


「キートリー、出るって、どっから出るの?周りは結界で囲まれてるんだよね?」


 人差し指で前の結界の方を指差しながら、ワタクシに不思議そうな表情を向けるお姉様。お姉様からすれば当然の疑問。前にお姉様に説明しましたが、水魔術をかき消してしまうお姉様や、指クルクルで結界に穴を開けられるマースと違って、ワタクシには結界をスマートに抜ける術はありません。ではどうするか?


「ええ、そうですわね」

「じゃあどうするの?」


 -ガチャッ-


 ワタクシはバヤール後方の扉を開けて外に出ながら、後ろを付いて来たお姉様に説明、いえ、実践して見せます。


「お姉様、それはもう……こうやるんですわ!」


 -ダァンッ!-

 -ビュンッ-


 闘気を込めた足で思いっきり地面を蹴って空中へ跳び上がったワタクシ。そのまま迫る結界の天井を目指し、


 「どりゃあっ!!」


 右手に闘気を集中して、天に向かって掌打を打ち込みますの。そこにある、結界をぶち壊すため。


 -パァキィィンッ!-


 ガラスの割れるような音と共に、砕け散る結界の天井。もっとも、割ったのは結界上部の一部分、ワタクシ一人が通れる程度の穴。この程度の穴なら、ワタクシと騎兵隊が敵を攪乱している間に、補給の終わった魔術師部隊が再度結界を張りなおせば問題はありません。


「騎兵隊!ワタクシについていらっしゃい!獣人狩りをしますわよっ!!」


 結界を割り、空に飛び上がったまま大声で後ろのグレッグ達騎兵隊に振り向きながらついてこいと命令するワタクシ。


「はっ!」


 ワタクシの指示に答えるグレッグの声。騎兵隊が一斉に馬の手綱を握り直すのが見えますわ。

 さて、ワタクシこのままだとまた地面に落ちて結界の中ですわね。ですからワタクシは自分の右足に思いっきり闘気を込めて、何もない空中を蹴るように右足を突き出します。


「はあっ!!」


 -ドォォンッ!-


 そして、掛け声と共にたっぷり闘気を込めた右足から一気に闘気を放出。闘気を放出した反動で空中で起動を変え、爆音と共に空中で跳ぶようにして、バヤールの前、シュベルホ村の中央に向かいます。


 -スタッ-


 着地はスムーズに。20エールト程度の高さならばケガもありませんわ。


「全騎!お嬢様に続けぇーっ!」

「「「ウオオオオオオオーーーッ!!」」」


  -ドドドドドドッ-


 後ろから聞こえるグレッグ達騎兵隊の雄叫びと大地を揺らす騎兵の蹄の音。燃えるシュベルホ村の中央、飛び交う氷の刃と火球のど真ん中で、ワタクシは一旦両手を後ろに回し、1本に縛った自分の髪の固定具合を確かめた後、胸の前で手のひらと拳を突き合わせながら、前を向き、叫びます。


「ワタクシの名はキートリー・ボーフォス!!この名を恐れぬのなら掛かってきなさい!」


 今のワタクシに恐れるモノは何もありません。ワタクシは前を向いたままニヤリと笑いながら、思います。


(存分に、戦わせて頂きますわ)

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク、★評価等よろしくお願いいたします。


さてこの辺から時系列を整理しながら書かないとワケわからんくなってまいりますわ。

あとは自分用の設定メモとかも整理したいところ。

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