15.魔女の独り言_12
私は以前、死んだことがある。カーラ達と一緒に冒険していた頃、炎龍と戦い、無様にも炎のブレスに焼かれ真っ黒な炭化死体となって地面に転がったのだ。私は身体を内側まで焼かれたのに、突然冷たく何も無い真っ暗な空間に放り出された。何も見えない、何も聞こえない、声も出せない、誰も居ない空間。誰か、誰かいないのか?誰か、誰かここから出してくれ。そんな声にならない思いを抱いていた時、あの時は仲間の敬虔なる祈りの声が聞こえ、現世に呼び戻された。
今の感覚は、あの時の暗闇の空間にとてもよく似ている。一つ違うところを上げるとするならば、身体の奥がやけに熱い事。熱くて熱くて、ゆっくり寝ていられないくらいに。
自身の身体の熱さに目が覚めた私は、自分の身体をゆっくりと眺めた。ところどころ穴の開いた修道服、その隙間から青い肌が見える。
身体を起こしまだ凍ったままの祭壇に身を照らしてみれば、そこには青い肌と紫色の鋭い爪、黒白目に、瞳の周りの虹彩は紫色、そして瞳孔が山羊のような、おおよそ人のモノではない目。頭には山羊の角の様なくるりと巻いた2本の角と、背中には修道服を突き破って出ている一対の蝙蝠のような大きな翼。
私はおおよそさっきまで戦っていたあの女悪魔のような身体になっていた。違うところと言えば、服装と、髪の毛が私の地毛の金髪なのと、顔が私のままなこと。
「青い……私?」
何故か変わってしまっている自分に理解が及ばず戸惑う私。戸惑いつつもふと、私は自分の胸元が膨らんでいるのに気付く。やたらとデカく、重い。
「……柔らかい」
両手でその膨らみを触ってみれば、ぽよんぽよんと適度に柔らかい。そう言えば酔った勢いで戯れに揉ませてもらったカーラの両胸もこんな感じだったななどと昔の事を思い出しつつ。
「えっ、まさか?」
私は自分が女悪魔そのものになったのではないかと危惧し、自らの股間を焦って弄る。
「……あるわ」
肝心のイチモツは今だ存在した。なんというか、なんだ?この男とも女ともつかないこの身体は?
イマイチ理解が及ばないまま、祭壇の氷の鏡に映る自分の姿をマジマジと観察していたところ、どこからか声が響く。
『おいテメエ!私の身体返しやがれ!』
「……?」
誰だか知らないが、私の頭の中で文句を言っているヤツがいる。気に入らない声だ、今すぐに消してしまいたい声だ。この時の私はその程度の認識だった。
『こんなところに閉じ込めやがって!第一それは私の身体だぞ!勝手に触るな!』
「……うるさい、潰れろ」
『なっ!?やめろっ!?潰れっ!!??いっ!?いやだっ!!私はあそこに帰え……あああぁぁぁぁっっっ!!??』
-グチャッ-
私は頭の中の気に入らない五月蠅いヤツをさっくり潰した。が、潰した後に気付く。これは私が喰った女悪魔の魂なのだと。後悔先に立たずで、潰れた女悪魔の魂から大量の記憶と情報が私の中に流れ込み、私は地面に四つん這いになったまま、酔って盛大に気持ち悪くなってゲーゲーと思いっきり吐いた。
そうして私は女悪魔から、身体も記憶も魔力も能力まで全て奪い取った。
酔いも気持ち悪さも落ち着いた頃、私は肥大化した魔力を持って魔力感知の魔術を発動させ、迷宮の全域を俯瞰する。悪魔となった私の魔力感知は、魔力だけではなく魔物や人間の魂すら感知するようになっていた。
迷宮には多数の魔物の魂と、いくつかの人間の魂が感じ取れた。人間の方は恐らくあの女悪魔のダミーに騙されて迷宮に迷い込んだ冒険者だろう。だが今はそんなのどうだっていい。
「いない……そうだよね」
カーラ、メリッサ、ゴードン、そして……フレーキ。彼らの魂は迷宮にはなかった。死んで女悪魔に魂を喰われたかつての仲間達。私の目の前で黒いポータルの中に消えていったフレーキ。彼らとはもう会えないのだと、また一人になったのだと悟った私は、凍り付いた祭壇の前で跪いて、自らの悪魔の瞳からボロボロと涙を流して泣いていた。
いい加減涙も枯れた頃、私は早速奪った悪魔の記憶からポータル魔法を探し当て、地上へ繋がるポータルを開いてあっさりと迷宮を脱出した。脱出前にちょこっとだけ金に換えられそうな財宝は頂いておいたけど。
「この姿のまま人前に出て行くのは……ねえ?」
自分の青い肌を見てポツリと呟く私。今の私はどこからどう見ても悪魔。このまま冒険者にでも見つかれば、迷宮から飛び出てきた魔物扱いで討伐対象まっしぐら。それは御免被りたい。
私は奪った女悪魔の記憶を辿り、人間に戻る、または化ける方法が無いか探る。
「あった、へえ、そんなんでいいの?」
私は頭の中で念じる。悪魔の力よ、去れと。
-スゥゥッ-
すると頭の角の感覚が消え、手と目以外の部分が元の人間体の姿に戻っていく。人間体に戻った私は、今度は今着ている修道服、メリッサの遺品の修道服がボロボロになっていることが気になった。なのでまた悪魔の記憶を辿る。服を修復する魔法は無いものかと。
「あったわ……ホント、なんでもあるわね悪魔って……」
-スゥゥ-
魔法で服を治した私は、そのまま敬虔な僧侶女を装い迷宮近くの町に戻る事になる。
さて町に戻ったら、町では住人の半数以上が突如として失踪したと大騒ぎになっていた。私は関係ない……と言いたいところだけど、大方あの女悪魔が迷宮の外にばら撒いたダミー人間が女悪魔の消滅と共に消えたのだろう。まあ、そうやってなんだかよく分からないモノに頼って町を発展させるのはやめましょう?ってところかしら?
そんな事を思いながら私は町中のギルドに戻って驚愕する。
「……え?10年?」
私は迷宮で10年近く過ごしていた事を知った。カーラ達はもとより、元の私、フレイ・アミティエの冒険者登録まで消息不明の死亡扱いで抹消されていたもんだがらこれは困った。迷宮に入った時が22歳の時だから、今の私は32歳になるのかしら?まあ不老不死な悪魔の身体になった私に年齢なんてもう関係なかったのだけれど。
私は迷宮からくすねてきた財宝を適当に売り飛ばして金貨に変え、冒険者ギルドに自らを再登録する。
「職業は僧侶、性別はおと……、名前は……フライア、フライア・フラディロッド、と」
登録の書類に即席で思いついた適当な名前を書き記す。流石に今の女にしか見えない容姿で元の男の名前を名乗る気は無いし、元の私のフレイ・アミティエは消息不明で偽物だとか難癖付けられるものめんどうだったから。
そうしてG等級の僧侶、フライア・フラディロッドとして再出発した私。今のところ迷宮の財宝を換金したおかげてお金はたんまりとある。さてこれからどうしよう?とぼーっとギルドの依頼票を眺めていた時、
「お姉さん、そこの僧侶のお姉さん」
「ん?私?」
なんだとふっと振り返ってみれば、屈強そうな男が3人。
「そうそう、俺達のパーティに入らない?さっき冒険者登録済ましたばっかりで何もわかんないでしょ?」
「俺達、これから悠久の迷宮に挑もうと思ってるんだけどさ、丁度僧侶が足りてなくて」
冒険者の中でも回復魔法の使える僧侶と攻撃魔法の使える魔法使いは特に人気がある。魔法を使うには才能が必要だから元々の数が少ないのだ。相手の男達を見てみれば3人とも前衛、剣士2人に斧を持った戦士が一人ってところかしら。この構成なら、初心者の僧侶でも喉から手が出る程引き入れたいところだろう。
「ふぅん……」
私としては今さっき出てきた迷宮に戻る気なんてサラサラない。あの女悪魔が居なくなって魂を喰うモノが消えた抜け殻となった迷宮。少なくとも私が魔力感知で見た限りでは魔物はまだ住み着いてはいるし、私の手足を消し飛ばしたような危険な罠もまだ残っているけれど。
「いえ、私は……あっ?」
「俺たちがきっちりガードしてあげるからさ、回復魔法だけ使ってくれればいいから」
断ろうとした時、男の一人が馴れ馴れしく私の肩を掴み、C等級と書かれた冒険者カードを見せつけながら私の言葉を遮った。
その時、私の頭の中に男達の声が響く。
『イイ女だ、ヤリてえ』
『チョロそうだし、3人で輪姦しちまおうぜ』
『絶対に逃がすなよ?宿にブチ込んじまえばあとはどうにでもなるからな』
私はこれが男達の心の声だと言う事にすぐに気付いた。どうやら目当ては私の身体らしい。初心者女冒険者を多数のベテラン男冒険者が囲い込んで乱暴するなんてのは聞いたことがあるけど、まさか自分がそれに遭遇するとはねえ。確かにぱっと見、今の私は女にしか見えない顔と身体してるし……でも、私の下の男の部分は付いたままなんだけど?
だが不思議と嫌悪感は無かった。以前なら走ってでも逃げただろう。普通の男時代私は地味顔ながらやたらとこの手の男に言い寄られるクチではあったし、実際になんどか襲われている。だけど今は違う。この身体で、悪魔の身体で、好き放題に輪姦されてみたい。そんな欲望が湧き出てくる。ゾクゾクする感触が背中を走り、気持ちが高まる私。
「私で良ければ、よろしくお願いいたします」
「うひょー!」
私の肩を掴んだままの男に微笑みながら返答する私。相手の男はなんの警戒心も持たず同行することに了承した私に喜び思わず声を上げる。
「じゃあ、俺ら今日はもう宿に戻るんだけど、お姉さんも一緒に来なよ。宿代も奢ってあげるからさ」
「ええっ?良いのですか?そんなことまでして頂いて……」
「いいのいいの!俺ら結構稼いでるから!お姉さん一人の宿代くらい安い安いって!」
「ありがとうございます……ああ、神よ、この出会いに感謝致します」
手で口を覆いワザとらしく驚き、そのまま男達と神に感謝を捧げる私。そんな私を両側から囲み、逃げ道を無くしたまま宿へと向かう男達。
宿に向かっている間、男達は我慢出来ないのか、私の肩や腰に執拗に触れて来た。そんな男達の振る舞いに私は一切の抵抗をせず、ただ騙された初心者冒険者のフリをして宿まで歩いた。
「あっ?」
-ドサッ-
宿に着くなり私は男の手でベッドの上に投げ込まれた。
-ガチャン-
部屋の鍵を閉める音が聞こえる。獲物は逃がさない、そんなところでしょう。
「終わったらさっさと交代しろよ!」
部屋の外では見張り役の男が一人。貧乏くじを引かされたのか不満そうな声を上げていた。
「ヘヘヘ、お姉さん、折角パーティ組むんだしさあ、仲良くしようよ」
「ヒヒ、大丈夫、いっぱい気持ちよくしてあげるからさぁ……」
二人の男達が私に覆いかぶさりながら気持ち悪い声で言ってきた。完全に我慢ならないと言った風で、カチャカチャと腰のベルトを外しながら私の胸を掴み、ムニュムニュと揉んでくる。男達の股間は既に膨らんでおりズボンを脱ぐのに手間取っているようだ。
そんな男に私は自ら抱き付き、唇を重ねた。
「んむっ♥」
「オオッ?」
私の積極的な行動に流石に驚いたらしい男達は少しの間動きを止める。目の前の男から唇を離した私は、ニヤリと笑みを浮かべつつ相手の目を見て言う。
「沢山愉しませてくださいな♥」
「うほおっ」
「オイオイマジかよやったぜ」
喜ぶ男達を前に、私は乱れた修道服を直しもせずに、ただ男達の好きなように身体を任せた。当然のように脱がされて行く修道服。下着を脱がされた辺りで、男達が私の身体に気付いたらしく、驚きの声を上げた。
「おっ……男ぉ?」
下着の下の私のイチモツは期待に完全に猛っていた。あの迷宮の中でフレーキと10年も目合ひ続けていた私は、男相手でも問題なく興奮できる身体になっている。
「あら?私、女とは一言も言いませんでしたけれど?」
「でっ、でも胸が……」
「それはちょっと事情がありまして」
私の事をすっかり女だと思っていたらしい男達が、私への愛撫をやめて私と少し距離を取る。全く、さっきまでの勢いはどこへやら。フレーキなら優しく激しく交わってくれるのに。
私は面倒だなと思いつつ、一つの手段を思いつき、咄嗟に男達相手に試してみる。
-キィィーン-
「うっ?がっ……」
「あっ?っ……」
私の紫色の瞳が怪しい光を放ち、男達の動きが止まる。これは私の魔眼だ、あの女悪魔から奪った能力の一つ、魔眼を見た相手の意のままに操る、傀儡の魔眼。私が許可しなければ、呼吸することすら許さない、強力な力。
「私と遊びましょう?私をいっぱい気持ちよくして?」
私に命令された二人の男達は、私への愛撫を再開する。彼らは最早私の傀儡だ。その身体と命を使って、存分に愉しませて貰おう。
「……」
「……」
「……」
「……」
「あっ♥あっ♥イッ♥イクッ♥」
大きな胸を揺らしつつ一人の男の上で自ら腰を振る私。私は尻に入っている堅い男のイチモツからの刺激に快感を覚え、ビクビクンッと身体を仰け反らせた。熱くいきり立った私のイチモツから白濁した液体が溢れ、イチモツを伝ってポタポタと男の腹の上に水たまりを作る。
私が達すると同時に、私の下の男が叫んだ。
「ア゛ッ♥ア゛~~~ッッッ♥♥♥」
-ベコッ!-
最期に大きな嬌声を上げた男。そして革袋の水筒を押しつぶしたかのような大きな音と共に彼の身体が骨と皮だけになった。
「んふっ♥ごちそうさま、これで二人」
私は男を喰った。性的にではなく、生命的に。命と魂、両方を頂いた。取り込んだ男の魂を即座に砕き、自らの魔力に変換する。
「二人じゃこの程度かな」
人間二人の魔力なんて魂を砕いてもたかが知れている、と私の中の女悪魔の記憶が示していた。。因みに二人目の男は既にもう食事済みであり、ベッド下の地面に骨と皮になって転がっていた。
「ふぅ、熱い熱い」
汗だくの私は手で自分を扇ぎながら少し涼む。気持ちよかったけどたった二人じゃ物足りない。私は骨と皮になった股下の男をベッドから蹴落とし、汗と体液で湿ったベッドの上に横になった。
「明日からどうしようかしら?」
特に目的も無く、今更冒険者をするのもなあなどとぼーっと考えていた私。
-ガチャン-
鍵の開く音がした。
「ん?」
「オイお前ら何時まで待たせ……なっ!?なんだこれ!?悪魔っ!?」
忘れていた。男達は三人居たのを。入ってきた三人目の男は、骨と皮になった二人の男達と、ついでに私の姿を見てはやたらと驚いている。
それもそのハズ、私の身体は男達と交わっている間に青い肌の悪魔の姿へといつの間にか変わっていたのだ。別に意識して変わろうとした訳じゃなく、私はただ自分が気持ち良くなろうとしか考えてなかったのだけれど。
「えーと、これは……」
しまったなぁなどと思いつつ、このまま騒がれて冒険者ギルドにでも逃げ込まれると面倒だ。私は三人目の男にも傀儡の魔眼を掛けようと体を起こして自分の目に意識を向けた。が、ちょっと三人目の男の様子がおかしい。
「なん……この……匂い……」
「うん?」
魔眼も掛けていないのに男は青い悪魔の姿の私によろよろと近寄って来る。よしんば女悪魔でも交わってみたいという好き者が居たとして、私の股間のイチモツは猛ったまま、私が女では無いと言う事は見ればわかろうものだけど……。だけど男はそんなことはどうでもいいと血走った目をして興奮状態で近づいてくる。
「私、悪魔で男だけれどいいのかしら?」
「はーっ、はーっ、か、関係ねえっ!ヤラせろっ!」
「きゃあんっ♥」
そのまま三人目の男に押し倒された私は、悦んで男を向かい入れる事になる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「んっ♥んっ♥んっ♥」
男に前から組み伏されつつ尻を犯されている私は、あの迷宮での出来事を思い出していた。
結局、あの女悪魔……ジャンヴィエだっけ?に負けた私は、アイツに身体をオモチャにされている最中に色欲の首飾りが発動して女悪魔の身体を乗っ取る事に成功、辛くも生き延びた。
完全な大敗北だった。フレーキが突然動きを止めたのも、私がアイツに睨まれて呼吸すらまともに出来なくなったもの、この悪魔の"傀儡の魔眼"の効果によるものだった。あの女悪魔の魔眼はかなり接近しなければ効果を及ぼさない不完全なシロモノで、普段は足を止めずに払い抜ける戦法が得意なフレーキに対して使うにはリスクが高くて使えなかったみたいだけれど。あの女悪魔は自分にすら危険の及ぶポータルを背にしてフレーキの足を止め、腹を手刀で貫かれながらもフレーキに魔眼を決めた。身体を張ったあの女悪魔の作戦勝ち。色欲の首飾りの効果でなんとか勝ったけど、あのまま爪でトドメを刺されたり、ポータルで亜空間に飛ばされたら負けていた。
「あっ♥あっ♥あっ♥」
男に良いところを突かれ、思わず声が上ずる私。
私はあの後、女悪魔の記憶を辿った。なんでもあの悪魔、元々別の世界からこの世界に迷い込んでしまったらしく、この世界の人間の魂を喰っては魔力に変えを繰り返し、蓄えた魔力で元の世界へ帰る手立てを探っていたらしい。私からすればはた迷惑な話だ。元居たところに帰りたい気持ちは理解できなくも無いけれど、そんなモノの為にカーラ達やフレーキの命を犠牲にされたのだから。
「はっ♥はっ♥はっ♥」
男の激しい行為に息を荒げる私。
そう、フレーキ。彼は黒いポータルに吸われ、亜空間に消えてしまった。私は迷宮を出た後、ポータルの魔法を使って亜空間でフレーキを探してみたけれど、何度やっても彼は見つからなかった。まあ当然よね、時空の捻じれた亜空間に飛ばされたんだもの、見つかる訳ないわ。
「ウオオオッッ!!ア゛~~~ッッッ♥♥♥」
男の最期の命の咆哮が響く。
「あああ~~~っっ♥♥♥」
-ベコッ!-
男の嬌声と共に私も達し、熱く猛った自らのイチモツから白濁した液を垂らしながら悦びの声を上げた。そして革袋の水筒を押しつぶしたかのような大きな音と共に三人目の男の身体も骨と皮だけになった。
「あふ……♥」
満足げな声を上げてベッドに横たわる私。三人目の男の魂はなかなかの魔力量だった。あちらから積極的に犯してくれるって状況もとても興奮して気持ち良かったし。人を喰う時は、下手に魔眼を使わずにあっちから来てくれるのを待った方が良いのかもしれない。因みに、私がこの三人目の男を魔眼を使わずに誘惑した能力を、悪魔と色欲の首飾りの能力が合わさった媚香の能力だと知るのはもっと後になるけれど。
兎も角として、私は私を満足させた三人目の男の奮闘ぶりに敬意を表し、骨と皮になった彼を抱きしめたまま目を瞑り、その日を終えた。
私はこの日から、悪魔として、悪魔の力を得た元人間として、各地を当ても無く旅をすることになる。時に喰っても大事にならなさそうな連中から吸精し、魂を喰っては魔力を貯めて腹と欲望を満たし、時に気に入った人間の魂を自らの中に取り込みながら。
何十年経った頃だったか、旅をしているうちについに世界を回り切り、もう回るところも見るところもこの世界には無いとなった私。ふとフレーキの事を思い出し、ポータルの魔法を古代語魔術と合わせて自分なりにアレンジして弄繰り回し、異世界に繋がる異世界ゲートの魔法を作り出して異世界旅行を始めた。見つかる訳も無い、フレーキを探して。
なんどか異世界を巡ったけれど、異世界旅行をするに当たって言葉の壁ってのが一番めんどくさかったのでまず伝心の魔法を作った。これも古代語魔術と悪魔の魔法の合わせ技。異世界でも、こっそり他人から吸精して魔力を頂戴して蓄えて、また私を崇拝する人の魂をこの身に取り込みつつ……なんてのは続けつつ。地道よねえ、何千年くらいこんなことやってたのかしら?
そして異世界旅行を続けていた550年前、何かの間違いでこの世界オードゥスルスに迷い込み、魂と身体をバラッバラにされて、正気に戻るまで30年くらいお貴族様の奴隷やってたってワケ。
あとはもう大体千歳達に伝えた通りで、正気に戻った後にまずはお貴族様をシバいて、メルジナ教を作ってオードゥスルスのどこかにいる私の分身を女神メルジナに仕立て上げ、古代語魔術をこねくり回して水魔術を作ってエペカ国に広めた。で今、オードゥスルスに次々現れる島々を回って伝心の魔法で人々の意思疎通を図るボランティア、伝心の魔女なんて言われてるけど、それをやってるわ。
色欲の首飾りの力はいつの頃からか私の身体が石の力のそのほとんどを吸収してしまっていて、今はたまに光っては私の色欲を刺激するオモチャになってる。この石の力を私が吸収してしまったってのがまた厄介で、今の私は悪魔の中でもかなり淫魔よりなのよねえ……。
『なんかそんな気はしてたけど、やっぱアタシらって悪魔は悪魔でも、淫魔っていうかサキュバスなんじゃん……』
「そうよ?千歳が媚香を周りにまき散らすのも、触れただけで人の精気を吸い尽くすのもこの色欲の首飾りの力を吸収した私の血を引いているから。まさか子孫に悪魔の力と色欲の力が両方とも受け継がれるとは思わなかったけど。もしかしたら後天的に淫魔っぽいことやってる私より、先天的に悪魔の力持ってる貴女の方が秘めてる淫魔としての力は上かも知れないわよ?」
『えぇ……』
ん?なんか今、今朝別れたばっかりの孫の声が聞こえた気がするんだけれど?んんん???
『ところでフラ爺、今どの辺?どこ飛んでんの?』
「ちょっと待ちなさい千歳。なんで貴女の声が聞こえるの?」
『え?ああ、ちょっと夜中に目が覚めちゃったからフラ爺の女神像にお祈りに来たんだけど……』
特に悪びれも無く言う千歳。
「……ねえ千歳?」
『何?フラ爺』
「私の話、どの辺から聞いてたの?」
『えっと……フレーキさんと同居し始めた辺りから、かな?』
私の昔話、半分くらい孫に聞かれていたみたい。数千年生きている私だって、赤裸々な昔話を孫に聞かれるのは流石に恥ずかしい。
「このおバカ!?なんでもっと早く話しかけないのよぉっ!?」
『えー!?何度も話しかけたよ?だけどフラ爺アタシの事無視してずっと思い出語ってたじゃん!』
千歳に話しかけられた事すら覚えていない。相当昔の思い出に深く浸っていたみたい。我ながら重傷だわ。
「あ、あら?そうなの?ごめんなさいね……って、もう夜?もう夜なの?」
『もう夜どころか夜中だよ。キートリーもサティさんもぐっすり寝てるよ?フラ爺今どこなの?』
気付けば周りは真っ暗だったわ。私、確かジェボード国の首都に向かおうとしてたハズなんだけど、杖で飛んでる真下を見ても真っ暗で、薄っすら波の音が聞こえる程度。
「どこって……ここどこ!?」
私はどこで方角を間違えたのか、何もない海面の上を飛んでいた。夜中の海上はホントに真っ暗で何も目印は無い。
『どこってアタシに聞かれてもわかんないよ。フラ爺は地図あるでしょ?』
「あるけどこんな何もないところまでマッピングしてないわよ!ああもうっ!マナトレース!」
-キィィィンッ-
私は右手に魔力を集め、広域の魔力感知魔術を作動させた。私の頭の中に、かなり遠いけど西の方にメルジ島らしきモノが映る。
「……なんか方角間違えてメルジ島の大分東を飛んでるみたいだわ」
『わわっ?何この光?なんか端っこの方に光がいっぱい集まってるけど?』
「ああ、それは私の魔力感知魔術ね。って言うか千歳に私の魔術感知共有しちゃってるの?」
『共有しちゃってるね。それでこの西側の光の塊がメルジ島?』
「そうよ、それが貴女の居る島のメルジ島よ。魔力を持った沢山の人が住んでるから光の塊に見えるのよ」
『へぇー、で、この東側に見える光はなあに?』
この子は何を言っているのかしら?このオードゥスルスに存在する島はメルジ島とその周りの流着する島だけで、他に島は存在しないと言うのに。そう思って魔力感知の意識を東に向けたところ、
「光ってるわね……ま、恐らくは海に居る魔物の魔力が引っ掛かってるんでしょう」
『フラ爺、今アタシのことちょっと疑ったでしょ?そう言うの聞こえてんだからね』
「ちょっ!?千歳!貴女!なんで私の心の声が筒抜けなのよ!?私にもプライバシーとか思想の自由とかあるのよ!?」
『フラ爺が勝手に喋ってんじゃない、アタシが知る訳ないでしょ』
ちょっと臍を曲げたらしい千歳。ああ、私が悪かったわよ。ってこれも聞こえてるんでしょうけど。
そんなことを想いながらふと首筋が紫色に煌煌と輝いているのに気付く。色欲の首飾り?なんで光ってるのかしら?しかもこんな強く?疑問に思いつつも私は意識を集中して色欲の首飾りの光を抑えた。
『あっ、聞こえなくなっ……頭の中の光も消えたよ?』
「なんなのよもう……」
私はブツクサ言いつつ魔力感知に映るメルジ島へ飛行する進路を変更する。本当なら夜になる前にジェボード国の獅子王に新しく流着した島の伝心の儀の終了報告を行う手筈だったのに。
「さぁー、今度こそメルジ島に戻るわよー。ほら千歳、貴女もさっさと寝なさい。私の昔話なんて大して面白くも無かったでしょ?」
『えっと、スゴ……スゴかった、です。フラ爺があんな……男の人同士だとああ言う感じに……』
何故か顔を真っ赤にしている千歳。ああ、そうね、フレーキとの情事も丸聞こえだったみたいだしね。
「あ゛ーっ!そうねぇーっ!他人のエロ話って楽しいわよねえええ!!」
『あ゛ーっ!?ごめんっごめんってばフラ爺!』
「んぎぃぃっっ!!絶対にキートリー達には言うんじゃないわよっ!!特にフレーキとのことはっっ!!」
『言わないっ!誰にも言わないからっ!!』
流石にこの話を言いふらされては私の沽券に関わる。私にだって隠したいことはいっぱいあるわよ。全部オープンおっぴろげってワケには行かないんだから。
『ん、でもフラ爺の昔の話、今度またゆっくり聞かせて欲しいかな』
「コラ千歳!貴女は……」
『やっ、違う違う、フラ爺の恥ずかしい話じゃなくて、ホントに真面目な話の方。私のおばあちゃんの話とか、昔の話、聞いてみたいから……』
「……そう、ね」
千歳の祖父、日高千代。私の子を身籠った人間の一人。そう言えば、千歳には話していなかったわね……。
「また今度、時間が出来たら話してあげるわ。貴方はそろそろ寝なさい?明日友達を助けに行くんでしょう?」
『うん、約束だよ?じゃあねフラ爺、おやすみ』
「ええ、おやすみなさい」
-ブツッ-
通信が切れた音がした。千歳が私の女神像を離れたらしい。こんな夜中に私と話したいなんて、あの子やっぱり寂しいんでしょうね。元の世界で千代に先立たれ、オードゥスルスに来て友人と離れ離れになって……。あの子の近くには私以外にも身内は居るけれど、マースもキートリーも年下だから、甘えられることはあっても甘えるのは心理的に一歩引いちゃうとか、まあそんなところかしら。
私も伝心の魔女の仕事が無ければもっと構って上げたいのだけれど、この世界に住む人々、流着する人々の事を想うと中々、手を抜いている暇が……ね。
「はぁー、誰か私の仕事手伝ってほしいわぁ~」
そんな愚痴を吐きつつ、何も無い海上を飛んでいる時だった。
-ビーーッ-
-ビーーッ-
私の魔力感知が、遥か遠方で警告を発した。場所はメルジ山、その沿革部分。そこには侵入者を妨げる結界が張ってある。現在はメルジ山の所有するエペカ国以外、容易には入れない様になっているハズなのだけれど。
『フライア様』
私の脳内に、落ち着いた女性の声が伝わってくる。私は静かに目を瞑り、彼女の声に耳を傾け返答する。
「エイール、状況を」
『はい、メルジ山の結界に、外部から何者かが接触を図ったようです』
声の主のイメージが私の脳内に投影される。茶髪のミディアムボブに、修道服を着た女性。彼女はエイール。オードゥスルスではない、別の異世界で私を崇拝していた人間。私は彼女の魂を取り込み、従者として使役していた。しばらく前から、私が伝心の魔女の仕事をしている間は彼女にメルジ山の管理を任せている。
「外部から?侵入されたの?迎撃は?」
『いえ、それが一時的に侵入はされたのですが、すぐに内側から再度脱出を図ったようで』
「何?メルジ山が目的じゃない?素通りしたって事?」
『ええ、その様です』
メルジ山には、メルジナの巫女が使用している神託の祭壇がある。ここで言うメルジナの巫女は今現在はエイールとその部下達が担っている。神託の祭壇はメルジ島の周りに流着する全ての島の出現と場所を示す機能があり、これを巡ってメルジ島の3国はちょっと前まで戦争していたのだけれど、一応エペカ国が勝利して今現在はエペカ国がメルジナの巫女の神託を受ける権利を持っている。ま、他2国には私が島の流着を告げて回ってるから神託の権利なんて形骸化しちゃってるも同然なんだけれど。
神託の情報が形骸化してるとは言え、形式的でも土地的な意味でもメルジ山を保有する旨味はまだある。なんせ島のど真ん中にデカデカと居座る山よ?あの山を抑えれば他の2国に攻め入るルートが一辺に増える訳で。勿論そんな物騒な事は私が許すはずも無く、結界に加えてエイール達メルジナの巫女で山に攻め入る不届きものは撃退してたりするのだけれど。
さて、そのメルジ山を占拠するワケでも無く素通りした、となると、狙いは他の2国に攻め入るルートの方でしょう。どうやって私の結界を素通りしたのか気になるところだけれど、それは兎も角、ルール違反をしたのだから罰は受けて貰うわ。
「その不届きモノの連中、どっから入ってどっちへ向かった?」
『東から南、恐らくはジェボード国から侵入し、エペカ国ボーフォート領へ向かったと思われます』
「ふむ……」
エペカ国ボーフォート領とジェボード国は隣国で、少し前まで戦争してた同士の国。その国境は互いに厳重に管理されており、容易には横断出来ない。下手に押し入ろうなどとしたら戦争再開だけれど、両国の首脳、ボースと獅子王だけど、それは避けたいと言っている。つまるところ、今回の結界の素通りは、上の連中の意向じゃない。
「ま、今回はジェボードの下っ端連中の暴走ってところかしら?」
『私もそう予想します。フライア様、追撃しますか?』
「ええ、お願いするわ。追撃は貴女と……そうねえ、レナを同行させなさい。貴女が抜けている間のメルジ山の管理はライトとアッシュに任せるわ」
『承知しました、フライア様』
レナ、ライト、アッシュの3人も私の従者である。3人ともエイールと同じくオードゥスルスのモノではなく元異世界の住人だ。
「エイール、気を付けなさいね?下っ端とは言え私の結界を素通りする連中よ?」
『お気遣いいただきありがとうございます。フライア様に頂いたこの身体、傷一つ付けないと約束致しましょう』
私に向かって深々とお辞儀するエイール。だが彼女は少し勘違いをしている。
「そうじゃないわエイール、身体は別に傷付いたって治せるから良いけれど、私が近くにいないときに死んで魂が抜けちゃったらオードゥスルスに喰われるのを忘れないで。私、貴女達を失いたくないの、わかるわよね?」
『ああ、フライア様♥そう仰って頂き私とても光栄です♥。私の魂はフライア様のモノ♥ええ、オードゥスルスになんて渡しはしません♥』
私の正直な気持ちを聞いて顔を綻ばせるエイール。エイールは私の従者の中でも特に忠誠心が高い方で実力も上から数えた方が早い。それだけ信用を置けるのでメルジ山の管理を任せている。ただちょっと私に関することには湿度が高いかしらね、そこ以外は良い子なんだけれど……。
「え、ええ、頼んだわよ。私はジェボードの獅子王のところに話を付けに行くから、直ぐには戻れないと思うけれど……ああ、あと、不届きモノの向かった先、南って言ったわね?」
『はい、南に向かったと思われます』
「じゃあ不届きモノの始末が終わったら、日高千歳、私の孫の手伝いもしてあげてほしいの。流着した後千歳の友人がクラーケンに捕まったらしいのよ。エイール、レナと一緒にその友人の救助を手伝ってあげて」
私はエイールに千歳の友人の救出の補助を頼む。私は魔女の仕事をほっぽり出すワケにもいかないが、だけど千歳の手伝いもしてあげたい。エイールもレナもメルジ山を出るのは久々なので、ついでだからと彼女達に頼んでみる。彼女達の実力ならクラーケン程度ワケ無い相手よ、気晴らしくらいにはなるでしょう。
『キートリー様とマース様以外にもフライア様の御子孫がいらっしゃったのですか!?』
「ええ、一昨日流着したわ」
驚く仕草を見せるエイール。そう言えば千歳の出現は伝えてなかったわね。最近忙しかったから伝える暇が無かっただけなんだけれど。
『このエイール、全身全霊を持って千歳様のお手伝いをさせていただきますっ!』
「あまり気負いはしないでね……」
しゃがんで両手を組んで、キラキラした目で私を見つめたままお祈りを捧げだすエイール。お祈りは神様相手にやるもので私相手にするものじゃないでしょうに。って、ああ、今の私は女神メルジナだったっけ。
-ブツッ-
私はお祈りを捧げるエイールを見届けた後、通信を切った。
「さぁて、私は獅子王を問い詰めに行きましょうか」
ジェボード国の下っ端の暴走は、上の連中、つまり獅子王に責任を取ってもらうのが一番。幸い、獅子王は条約違反には五月蠅い。武人気質と言うか、正々堂々と言うか、獣人としては兎に角真面目なタイプの王様だ。下の暴走と伝えれば、あのモフモフの鬣を手でくしゃくしゃにしつつ頭を抱える事でしょうよ。
私は杖の飛行速度を上げ、メルジ島、ジェボード国の首都であるジゲーレに向かった。
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過去編が思ってたよりも長くなってしまいました。