14.蜜月_05
「ねえキートリー、アタシ、マースと一緒に寝たいよぅ」
「ダ・メ・で・す・の!ヒックッ!お姉ひゃまはぁ~!ワタクシのテントでぇ~!おやすみになりますのぉっ!ヒックッ!」
「お嬢様、酔い過ぎです。ヤケ酒はいけませんよ?」
「ヤケ酒じゃあありませんわぁぁぁーっ!それにまだぁ~!そんなにぃ~酔ってませんのぉ~!ボトルぅ~!6本目でぇ~すのぉ~!ヒックッ!」
上を向けばアタシを煌々と照らす野球ボール大の丸っこい照明が見える。テントの天井に幾つか吊されているこの光る球体、これはリュミ灯と呼ばれる魔力で光るこの世界の照明器具、とさっき教えて貰った。リュミ灯の光に照らされた部屋の中央、そこのイスに座るアタシ。そのアタシのテーブル向かいで、焼酎瓶、ではなく、ワインボトル片手に飲んだくれるフリフリレースのネグリジェを着た緑髪のお嬢様が一人。そしてテーブル横に立ちそのお嬢様を窘めるメイド服のお姉さんが一人。
先刻、抱き合ってキスをしているところをキートリー達に目撃されたアタシとマース。マースはキートリーに無理やり引っぺがされ、アタシはアタシでそのままずるずるキートリーに引きずられて彼女のテントで寝る事になった。
キートリー曰く、
"お姉様!マースはまだ体力が回復しきっていませんわ!ですから念のため野戦病院で治療しつつ寝かせますの!"
"このオオカミ!ではなくてマァァァスゥゥ!!貴方!この期に及んで僕は平気とか言って駄々をこねるじゃありませんの!さっきお父様にも言われたでしょう!?お・と・な・し・く!治療に専念なさい!?ア゛ァーーッ!だ・か・ら!お姉様から離れなさいぃぃぃっ!!ふんぬっ!!"
"ああっ!お姉様一人でマースのテントで寝かせる訳には行きませんわ!今日はワタクシのテントで寝て頂きますの!さぁ此方へ!お姉様!?何故抵抗するんですのお姉様!?ふんぬっ!ぐぐぐぅっ!すぁぁぁっ!集気法ォォッ!!お゛っっお姉様ァァ!今日は!今日はマースはぁぁ!ぁぁああきらめてぇぇ下さいましぃぃっ!!"
だそうで。マースの体調に関しては確かにキートリーの言う通りまだ体力が回復したとは言い難い状態だったので、アタシは渋々マースから離れた。がしかし、アタシはマースのテントからここキートリーのテントに着くまで、いやテントの中に入ってからも未練がましく愛しのマースの名前を呼んでいた。因みにマースはキートリーにひっぺがされた後、パヤージュに回収されて野戦病院に連れて行かれたようだ。マース救援の為にキートリー達のところまで飛んでくれたヒルドとプレクトは、アタシの中で就寝済みである。
そんなワケでキートリーは自分のテントに着くなりワインボトルをポンポンポンと開け始め今この通りの酔っ払い状態と言う訳だ。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ~、マァァスゥゥ~~、貴方と言う子はぁぁぁ~~~、やはりおおかみぃぃ~~~ヒックッ!」
この飲んだくれのお嬢様は、豪快にワインボトルを直飲みし、現在6本目を飲みかけ中。時折奇声を上げつつ、ボトル片手にテーブルに肩肘ついてジト目でアタシを見つめている。
「あの、千歳様?付かぬことをお伺いいたしたいのですけれど」
「はい、サティさんなんでしょう?」
「マース様とは、どこまで?」
「えっと❤キスと軽い愛撫❤」
「ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーーーっっっ!!」
「キートリーうるさい!」
キートリーはさっきからずっとこの調子である。因みにサティさんのこの質問も6回目である。素直に答えるアタシもどうかしていると思うけど、マースの事を考えるだけで嬉しくなってくるのでしょうがない。因みにキートリーがあまりにもうるさいため、サティさんはまた張りなおしたらしい結界魔術の他に、ここのテントにも防音魔術を使った。なのでいくら叫ぼうが外にキートリーの声は漏れない。
そうこうしているうちにキートリーは6本目のワインボトルを飲み干して空っぽにし、7本目のボトルに手を付け始める。
「んぐっ、ゴクッゴクッゴクッ」
ぐいっとボトルを一気に飲みするキートリー。7本目となると流石に飲みすぎたらしく、キートリーはクラッとよろけた後、ボトルを掴んだまままたテーブルに突っ伏す。彼女の目はもう虚ろで、アタシを見ているが焦点が合っていない。
「あ゛ぁ~~~、あ゛っ?あ゛~~?おにぇ~しゃま~?おにぇ~しゃま~が3人も~?3人いたらぁ~、1人貰ってもぉ~いいですわよにぇぇ~~?ヒックッ!」
酔いが回り過ぎて言動がぶっ飛び始めたキートリー。テーブルに突っ伏してたキートリーが、席を立ってアタシの傍に寄ってくる。ただ明らかに足元がおぼつかない。フラフラと蛇行運転をしながら、アタシの傍にやってくる。こりゃ泥酔の一歩手前、酩酊というヤツだ。そろそろ止めないと急性アルコール中毒になる。
「良くないから。あーあー、キートリー、千鳥足だよぉ?あっ、もしかして酔拳も使えたりするの?」
「使えなくは~、にゃいですわ~、でもありぇは~、ほんとに酔ってやるわけでは~、にゃいのですわ~ヒックッ!」
フラッフラの足取りでそんな豆知識を言ってるキートリーだったが、いよいよよろけて転げそうになる。
「こら、危ないって。よっと、ほらここで寝ないでベッドで寝よう?」
転ぶ寸前のキートリーを支え、アタシはそのまま彼女を抱きかかえる。
「あっ」
「あ~?」
しかしキートリーがアタシに抱き抱えられた拍子にワインボトルを手から落としてしまった。
「っと!……ふぅ、大丈夫です、千歳様」
「サティさんナイスキャッチ!」
「うふふっ」
するとサティさんが咄嗟に地面に落ちる寸前のボトルを上手いこと拾ってくれた。ナイスなサティさんにキートリーを持ち上げつつ片手でサムズアップをすると、彼女も得意げにサムズアップを返してくれた。割とフランクな対応をしてくれるお姉さんである。サティさん好き。
「あぁ~?ヒックッ!世界が横に~にゃって見えますわ~」
「はいはい、ベッドで横になってね」
アタシはワインボトルの処理をサティさんに任せ、アホな事を言っているキートリーをそのまま仕切りの裏まで抱えて彼女のベッドに寝かせる。
「うへへ~おにぇーさまぁ~~ワタクシにもぉ~きぃす~~」
キートリーが両手を伸ばし、アタシにキスをせがんで来た。近くにサティさんもいるだろうに、照れ屋のキートリーがこんな無防備にせがんでくる辺り泥酔っぷりが酷い。とは言え、キートリーが恥も掻き捨てアタシにキスをせがんで来たのだ、邪険にするわけにもいかない。
「しょうがないなぁ、頬っぺたでいいよね?」
(近くにサティさんは……いるね、それなら吸精が暴発しても大丈夫、多分)
アタシは万が一を考え、ちらりと仕切りの向こうのサティさんの所在を確認してから、ベッドに横たわる従姉妹のほっぺに軽く口付けをした。
(ちょっと酒臭い、なんで伯爵令嬢が酒臭いんだ、おかしくない?この世界)
「うぃひひひ~おにぇ~さま、おにぇ~さま、おにぇ……くか~」
「キートリー?キートリー?……ありゃ?キートリー寝ちゃった?」
アタシの目の前で酔っぱらったまま満足そうにニンマリ笑顔を見せたキートリーは、そのまま寝息を立てて眠り始めた。
(こうやって黙っていれば、可愛いんだけどねぇ)
酔っ払ってだらけた表情の中にも、年相応の可憐さを見せる従姉弟の寝顔。アタシは彼女の寝顔を見つめ就寝の挨拶をかける。
「おやすみ、キートリー」
(多分明日二日酔いで酷いことになると思うけど)
アタシは心の中で明日のキートリーの心配をしつつ、サティさんのいるテーブルに戻った。
サティさんはキートリーが散らかしたテーブルの上を片付けている。空っぽのボトルが6本、よくもまあ一人でこれだけ飲んだものである。
「千歳様はあまりお飲みになりませんでしたね」
サティさんが片づけをしながらそんなことを聞いてくる。一応アタシもグラスに1杯ワインを頂いてはいたのだが、一口飲んだところで飲む手が止まってしまっていた。ワインが美味しくない訳じゃない。昨日キートリー達と飲んだ時は結構イケるななどと思っていたものである。だが味覚が変わったのか好みが変わったのか、あまり飲む気にはならなかった。ちなみに昨日出た口の中の水分を根こそぎ持って行くパンも一緒にテーブルに置かれていたが、案の定大して美味しくなかったのでこっちも一切れ食って終わっている。
「すみません、せっかく注いで貰ったのに」
「あっ、申し訳有りません。ヌールエル様も同じでしたので、つい……」
一瞬はっとした顔をしてアタシに詫びるサティさん。その表情は少し寂しそうだ。
「ヌールエルさんも?あー、そっか、ヌールエルさんも悪魔でしたね」
サティさんによるとマースとキートリーの母親、ヌールエルさんも同じくワインにあまり口を付けなかったようだ。
(ヌールエルさんはアタシと同じく悪魔、となるとアタシのこの味覚の変化は悪魔化の影響って事なのか)
どうもアタシは悪魔の力を得た代わりに、食の楽しみが奪われたらしい。どうやらタダで力が手に入るほど上手い話では無かったようだ。
(もうカツ丼食っても美味しいって感じないのかなぁ)
アタシは学生時代、空手の試合の前日、願掛けでよくおばあちゃんにカツ丼を作って貰っていた。お袋の味ならぬおばあちゃんの味だったが、兎に角美味しい美味しいと言って食っていた記憶がある。カリッと揚がった肉厚のカツに、ふわトロの半熟卵、それをアツアツのご飯の上に乗っけておばあちゃんの特性だしをかけて食べる。甘みと旨味のバランスが絶妙で、アレを食べると不思議と力が湧いてきた。
そんなカツ丼が美味しく感じなくなるってのはどこか寂しさを感じる訳で。もっともそのカツ丼を作ってくれたおばあちゃんはもうどこにも、居ないのだけれど。
と、昔を思い出しつつ寂しさを感じていたアタシ。その目の前にサティさんが寄ってくる。
「お詫びにお夜食など、如何ですか?」
そう言って彼女は後ろ髪を掻き揚げアタシにうなじを差し出した。妙に艶めかしく、手慣れた感が凄い。アタシは今のところ腹は減っていない。何せマースの命を死ぬ寸前まで喰らった後だ。がしかし、目の前に差し出されたサティさんのうなじはとても綺麗で、美味しそうだった。アタシはサティさんに促され、彼女と共に椅子に座った。そしてそっと彼女の首筋に手を触れる。
「少しだけ、頂きますね、サティさん」
「はい……ああっ❤」
-ギュゥゥゥン-
人間体のまま、サティさんの首筋から吸精する。アタシの腕を伝って入ってくるサティさんの命、濃厚な蜂蜜の甘み。だが、サティさんの吸精耐性は尋常ではない。人間体のアタシでは吸える命は僅かなモノだ。
「ん❤……ぅんっ❤」
サティさんも媚声は上げているものの、どこかもどかしさを感じているような表情。要するに刺激が弱いのだ。
アタシはここでマースを犠牲にして得た吸精の特性を試してみる事とする。こんなこと頼めるのはサティさんぐらいだし、事故っても大丈夫なのもサティさんだけだ。お腹に手を突っ込まれ内臓から全力吸精されて生還出来る人は今のところサティさんしか知らない。
「サティさん、口から吸ってみてもいいですか?」
「んぅ❤口、から?千歳様、それは接吻と言う事ですか?」
きょとんとした顔でぱちくりと瞬きをしてアタシを見つめるサティさん。
「はい、マースとしてて気付いたんですけど、手でうなじから吸うより、口で口から吸う方が強く吸えるみたいなんです。どの程度吸精の威力に差があるか調べてみたいんですけど、協力してもらうって、ダメ、ですかね?」
「……良い、ですよ」
(アレッ?なんかサティさんの表情から余裕が消えたような?)
アタシの突拍子も無い提案に乗ってくれたサティさん。だがさっきまでサティさんにあった心の余裕、それが顔から消えているように感じる。サティさんが緊張している、これは予想外だ。アタシはここでサティさんを吸精していた相手、ヌールエルさんの事を思い出し、もしやと思い聞いてみる。
「あの、ヌールエルさんに口から吸精して貰ったことって?」
「ありません。私は従者で、ヌールエル様は主人ですから、その、恋人同士がするような接吻は、一度も……」
「oh...」
思わず外国人風の驚きの声が出てしまった。アタシはヌールエルさんがやったことの無い事をサティさんにしようとしているらしい。だがここで尻込みしてても始まらない。アタシとマースのため、サティさんに協力願おう。
「サティさん、その、いきますよっ?」
「あっ、千歳様っ、あの、一つお願いが」
「はい?なんですか?」
「サティ、愛してるわ、って言ってからして貰ってもよろしいですか?」
真剣な顔でアタシを見つめるサティさん。協力して貰ってる以上文句は言えないのだが、アタシ達は何か怪しい方向に走り出した気がする。
「わかりました。こほん、では行きます。……サティ、愛してるわ」
「あぁーっ❤ヌールエルさまぁっ❤サティも、あむぅっ❤……んっ❤」
サティさんの期待を裏切る訳にもいかない。アタシは至って真面目にご希望のセリフを言い放った。アタシのセリフを聞くやいなや、すぐに少女のような表情をして喜びだすサティさん。そんな事だろうとは思っていたけど、やっぱりヌールエルさんの名前を呼んでいる。アタシはそんなサティさんに構わず抱き寄せ口付けをした。目を瞑り感無量と言った感じで喜び出すサティさん。大方、アタシの声を聞いてヌールエルさんの姿を重ねてイメージプレイを楽しんでいる、というところだろう。
(まだ吸精してないのに喜ばれると、なんか変な気分になるなあ)
また吸精しておらず同性で口付けしてるだけなのだが、こうも喜ばれると調子が狂う。
そんなサティさんは完全にアタシに身体を預け無抵抗、と思いきや、アタシの身体は彼女にがっしりと掴まれた。
(めっちゃ抱き付いて来てるし、めっちゃ口吸われてる。ちょっと待ってサティさん、アタシ、マースにだってまだここまでされてないんですけど)
サティさんはアタシ相手になんの遠慮も無しにグイグイ来る。そういえば先刻マースが言ってた親切な人、それがサティさんだったか。マースに指導できるくらいだ、この手の経験は豊富なのかもしれない。対してアタシは経験こそあるもののぶっちゃけ寝技はあまり得意な方ではない。さっさと吸精を始めないとアタシの方が参ってしまう。
「んーん、んんんんんーんんんっ」
(サティさん、吸精始めますからね)
アタシはサティさんにアイコンタクトと発音出来てない言葉で吸精の開始を伝える。
「んっ❤んっ❤んんんっ❤」
が、サティさんには伝わってない。サティさんは口を吸いながら胸に手を這わせてくる。吸精にアタシの胸は関係と思うんですけど。
もうこうなったら吸精始めて大人しくなってもらうしかない。アタシはサティさんの同意を待たずに吸精を発動させた。
-ギュゥゥゥン-
「んっ❤んんんーーーっっっ❤」
(おっ?効果有りかな?)
サティさんが身体をビクビク震えさせ始めた。と同時に流れ込んでくる濃厚な蜂蜜の味、サティさんの命の味。
悪魔化してる時の吸精ほどじゃないが、十分に悦んでくれているようで、サティさんの目がとろんとして焦点がぼやけて行く。アタシを抱きしめるサティさんの腕の力が、次第に弱まっていく。
「んん……❤んんん……❤ぅんんっっ❤❤❤」
そして一回り大きめの呻き声を上げたサティさん。彼女の全身の力が抜け、ついにはアタシを抱きしめていた彼女の腕が緩み、だらりと垂れ下がる。サティさんは完全に気絶したらしく、目を瞑り脱力したままアタシに寄りかかった。
「んぷっ、勝った!人間のままでサティさんに勝ったぁ!」
アタシは気絶したサティさんから唇を離し、ガッツポーズをして勝利宣言をした。少し時間は掛かったものの、人間体の吸精でサティさんに有効打を与えたのだ、アタシの勝利に違いない。がしかしだ、
「勝ってどうすんのさァァァーーーっ!?」
思わず叫びつつ自分で自分にツッコミ入れた。人間体の吸精でサティさんの吸精耐性を突破したと言う事は、それだけ口吸精の威力が高いと言う事である。アタシが悪魔化して口吸精したら、サティさんでも耐えられるか怪しい。さっきはアタシの吸精の暴発でマースを呼吸停止まで追い込んでしまったが、この口吸精の威力見る限りマースはよく耐えた方だと褒めてあげるべきだ。ゴブリンのように骨と皮だけになって魂ごと吸い出されなかっただけマースは相当に耐えている。人間体のアタシの口吸精がこの威力で吸精の暴発の危険性があるなら、マースの魔力解きでアタシの悪魔化を防いでいてもまるで安心出来ない。さらにそれ以上深く繋がり合うことを考えれば、こんなんじゃ二人きりでじっくり愛しあうなんて危なっかしくて無理。
「アタシはマースとじっくりたっぷり愛し合いたいだけなのにぃぃ!」
そう叫びつつ両手で頭を抱えるアタシ。アタシがマースと愛を育むには、まず吸精そのものの暴発を抑える必要がある。自分のことだが相変わらずワケの分からない身体だ。これもアタシが悪魔として未熟なせいなんだろうけど。
(いや、落ち着けアタシ。とりあえず明日フラ爺になんとか出来ないか聞いてみるんだ。そうすればなんとか、なんとかなってほしい)
なんとか気を取り直したアタシは、顎に手を当てて考える。
(フラ爺は悪魔の大先輩で、アタシのお爺ちゃん。つまりのアタシのおばあちゃんとの間にアタシのお母さんをもうけているわけで、相手を吸精しきってしまわないように愛を育む方法を知っているハズ、だよね?)
先刻のマースとの時はショックで思わず取り乱して忘れてしまっていたが、この手の事はフライアに予め聞いておくべきだった。アタシはフライアに一縷の望み賭けて、心を落ち着かせる。
「……ぅうっ?千歳様?」
「あ、サティさん、起きました?」
気絶していたサティさんが目を覚ました。相変わらず吸精気絶から復活までの時間が短い。ただまだ身体の火照りが収まってないようで、アタシを見る目に若干艶っ気があるのが気になるが。
「すみません千歳様、サティは少し熱が入り過ぎてしまったようで……」
サティさんはそう口に手を当てつつ喋った。そのまま頬を上気させ潤んだ目でアタシを見つめている。
(いかん、サティさん完全に乙女の顔になってる。話題を、話題変えなくては)
口吸精によってサティさんの中の変なスイッチが入ってしまったらしい。このままズルズル行くとアタシもサティさんも眠れなくなりそうだ。アタシは危険を感じ強制的に話題を変えることにする。
「あはは、ちょっと吃驚しましたけどそう言う事もありますよねー。ところでサティさん、そう言えばヴァルキリーどこ?」
まだぼーっとアタシを見つめているサティさんに、キートリーに預けた黒い翼のヴァルキリーの所在を聞く。アタシの魔眼がヴァルキリーにまだ効いているなら、キートリーの命令を聞いて近くに居るはずだ。
「……あ、はい、あちらに」
サティさんは名残惜しそうな顔をしつつテントの隅っこ指差す。そこには黒い翼を生やした女性が一人、微動だにせず静かに椅子に座っていた。
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