13.アタシの報連相_05
「キートリー様、失礼いたします」
「あら」
キートリーが席を立ちあがり両腕を軽く上げた。そしてヒルドがキートリーの両脇下に腕を突っ込んで抱きかかえる。キートリーもヒルドの首元に両腕を絡ませ抱き着いた。
「準備はよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。でも落とそうなどとは考えない様にしてくださいましね?貴女の首、いつでも締め千切る事が出来ましてよ?」
「ヒエッ。で、では、いきます」
-バサバサバサッ-
キートリーに脅されつつも全力で羽ばたくヒルド。そして次第に浮いていくキートリーの身体。
「あら?あらあらあら?これはなかなか……」
ドレスのスカートを抑えつつ、浮遊感に感心しているキートリー。ゆっくりではあるが、確実に上昇しているキートリー達。10メートルくらいの高さまで上昇した後、ヒルドはその空中で羽ばたいたまま待機して見せる。
「おおー、飛んでんな」
「キートリー姉様、いいなぁ」
「さっすがヴァルキリー、キートリーぐらいなら余裕かぁ」
飛んでいる二人を見上げつつ、感心するアタシ達3人。上空にはキョロキョロとアタシ達やキャンプの様子を見まわしているキートリーが見える。
-バッサバッサ-
「どうでしょう、キートリー様?」
「合格ですわ。ワタクシ一人抱いてここまで飛べるなら何の問題もありませんの」
「では、降ろさせていただきます」
羽ばたきつつゆっくりと降りてくるヒルド達。翼を持った女騎士がドレスのお嬢様を抱えて空から降りてきた、幻想的な光景だ。スマホを持っていれば記念写真を撮っているところだ。傍から見れば、という注釈付きだが。中身はゴブリンの集合体と、それを一撃で粉砕するパワー型お嬢様。いや、アタシから見ればどっちも良い子なんだけどね。
-バッサバッサ-
-とんっ-
地面に降り立ち離れた二人。キートリーは緑の長い髪を靡かせて、ヒルドを見つめる。その表情はニッコリ笑顔でご満悦だった。どうやらヒルドはキートリーの御目に適ったらしい。
「素晴らしいですわ、ヒルド」
「ありがとうございます、キートリー様」
(キートリー、空を飛べて楽しかったのかな)
アタシがそんなことを思っていると、キートリーはすぐに真顔に戻り、ヒルドに明日の役割を伝える。
「その力で、落水者の救助をお願いしたいですの。ロープを渡しておきますから、明日の作戦中、もし落水者が出たらロープを垂らして海上から落水者を拾い上げてくださいな。ただし触手には気を付けて、アレ、かなり高い位置まで飛んできますわよ?なるべく低空は飛ばないよう高空で待機しているようにしてくださいまし」
「承知しました、キートリー様」
キートリーに向かってカーテシーを決めるヒルド。どうやらヒルドのキートリーからの心証は上がったらしく、キートリーもヒルドに向かってカーテシーを返している。ヒルドの中のアイツは兎も角、これでヒルドがキートリーに殴られる心配もしなくて済むだろう。
と、ふと視線をマースの方へ向けてみると、いつの間にか鎧を脱ぎ捨てたプレクトがマースの隣りにいた。
「おいマース!こっちもやるぞ!」
「はあっ!?ええっ!?」
威勢よくマースに語り掛けるプレクト。その表情は鼻息も荒く誰かに対抗して自分の力を見せびらかしたい、そんな顔だ。プレクトは座っているマースの手を引っ張って椅子から下ろし、マースの両脇に手を突っ込み抱きかかえる。マースは突然羽交い締めにされて困惑の声を上げている。プレクトの身長は大きい方ではないが、小さいマース一人抱えるのは楽勝だろう。
「ちょっ!?ちょっと待て!お前何をする気だ!?」
「俺らも飛ぶんだよ!準備は良いかマース!?」
「言い訳ないだろ!待て!待って!」
「よしっ!行くぞマース!!」
-バサバサバサッ-
「うわぁぁぁぁっっ!?」
「ヒャッホー!!」
マースはプレクトに抱えられたまま、あっという間に上空に飛んで行った。そしてプレクトはマースを抱えたまま、宙返り、エルロンロール、インメルマンターンと好き放題飛んでいる。プレクトの飛行能力はヒルドを上回る。全力で飛ぶ彼を止める術を持つものここには誰にも無い、アタシの命令を除けば。
「わぁぁーーーーっっ!?おぉぉぉーーーーっっ!?うぇぇぇーーーーーっっ!?」
マースの悲鳴だけが辺りに響いている。。
(プレクトめ、ヒルドに対抗して飛んで見せたかったんだろうけど、あれはやりすぎでしょぉよ)
「はは、すげえのはわかったんだがよ、そろそろマースを降ろしてやった方がいいんじゃねえかな?」
「ええ、マースのあんな顔、初めてみましたわ……」
ボースとキートリーが上の二人を見上げたまま、あっけに取られている。上空のプレクトは自信ありげに飛んでいるのだが、抱えられているマースが初めて絶叫マシーンに乗った子どものように恐怖で引きつった顔になっていた。そりゃそうだ、アタシだってあの勢いで空中を飛ばされたら怖い。そして絶叫マシーンと違って安全性の保障が全くない。マースはプレクトに両脇を羽交い締めにされているだけで、いつすっぽ抜けて空中に放り出されるかわかったものじゃないのだ。流石にこれ以上ほっとく訳にもいかないのでアタシはプレクトを止めに入る。
「プ、プレクトーーッ!戻って来なさーいっ!!」
-バサァッ!-
-とんっ-
「あいよっ!千歳、戻って来たぞ!」
アタシが焦りつつ声を掛けると、プレクトは瞬時に地面に降りてきた。急ブレーキってレベルじゃねーよプレクト。案の定、プレクトから解放され地面に降ろされたマースが、放心状態でその場から動かない。
「あれ?おいマース、どうした?……あ、やべっ」
横からマースの顔を覗き込んだプレクト。どうやらプレクトは自分のやらかしたことを今更気づいたらしい。
「プレクト!お座り!」
「ごめん千歳っ、座るっ」
アタシの指示に従って素直に座るプレクト。そしてアタシはすぐさまマースへ向き直る。
「あぁー……マース、怖かったよね?大丈夫?大丈夫、じゃあないね……はーい、いい子いい子」
アタシは白目をむいて立ち尽くすマースを抱きかかえ、赤ん坊のようにあやす。すると放心状態だったマースは、アタシの胸の谷間に顔を突っ込んだ状態で意識を取り戻した。
「柔らか……はっ!?僕は一体何を?」
「よかった、マースが平気で。ごめんね、あの子ちょっと調子に乗り易くて」
意識を取り戻したマースだが、なんだか顔が青ざめている。
「いっ、いいえっ!僕は平気で……うう、気持ち悪……う゛え゛え゛え゛っ!?」
-びちゃっ、びちゃびちゃっ-
アタシの謝罪に平気だと答えるマースだったが、喋っている最中に嘔吐してしまった。プレクトの無茶な飛行に突き合わされ、酔ってしまったのだろう。アタシの胸元は今マースの吐しゃ物でいっぱいだ。
「うっ、うええっ……あ、ああっ!?ごめっ、ごめんなさい千歳姉様!千歳姉様の服に……ううえっ」
「ううん、平気平気、ほら我慢しないで全部吐いちゃお?」
アタシは一旦マースを隣に降ろした。マースはまだ酔いが治らないらしく、地面に向かって吐いている。そんなマースの様子を見つつ、さてアタシはこの黒装束の上のマースの吐しゃ物をどうしようか?と思っていると、
「千歳様、これをお使いください」
「セルジュさん?これいいんですか?ありがとうございます」
いつの間にかセルジュさんがアタシの隣りに来て、濡れタオルのようなものを差し出してくれた。アタシはセルジュさんから濡れタオルを受け取って自分の胸元を拭くこととする。マースの吐しゃ物からは胃液の酸っぱい臭いと共に、パンの溶けたモノと豆らしきもの、後は干し肉と野菜の葉っぱのような固形物が混ざっているのが見える。恐らくは今日の夕飯だ。マースがよく噛んで食べているのはわかる。分かるのはいいが、アタシはなんでマースの吐しゃ物をマジマジと見ているのだろう。いくらマースの事が好きでも、吐しゃ物に興奮する趣味は持ち合わせていないぞ。
「酔ってしまったんですのねマース。まだ気分は悪いかしら?」
「すみません、キートリー姉様、まだ、少し……」
アタシが胸元をタオルで拭いている間、キートリーが濡れタオルを持ってマースの側で屈み込み、容態を聞いていた。マースはまだ具合が悪いらしく、ハアハアと呼吸を荒げながら胸元に手を当てて苦しそうにキートリーに返答している。
「では手を出しなさい。治してあげますわ」
「は、はい姉様、お願い、します」
(治す?)
濡れタオルをマースに渡したキートリー。アタシがキートリーの酔いを治す発言を不思議がっていると、キートリーの両手が闘気で橙色に染まっていく。だがそれは闘いの時の闘気と違い、ほんのり柔らかな輝きだった。そしてキートリーは両手でマースの手を掴み、手の付け根あたりを指でぐっぐっと押している。
(なるほど、ツボ押しで酔い覚ましをするのか。でもなんで闘気?)
酔い覚ましのツボ、それを押しているのは分かるのだが、わざわざ闘気を出す意味が理解できなかった。だが次の瞬間、その意味を理解する。
-ピリッ-
(えっ?キートリーの闘気が、マースの腕の中に入って行った?)
キートリーの橙色の闘気、それが彼女の指からマースの腕の中に入り込み、そのままマースの身体中を駆け巡っている。キートリーがマースの手から手を離すと、マースの身体中の闘気は光を失い見えなくなった。
「次は頭、少し刺激が有りますわよ?目を積むって」
「はい、姉様」
今度はマースの耳たぶの裏当たりの凹みを指でぐぐっと押し始めるキートリー。マースはキートリーに言われた通り目を瞑る。
-ピリリッ-
そして彼女の闘気がやはり指を伝いマースの耳たぶ裏から中に入り込み、頭を駆け巡っていった。そしてやはり、キートリーがマースの耳たぶの裏から両手を離すと、マースの頭の闘気は光を失い見えなくなる。
「マース、深呼吸を」
「すーっ……はーっ……」
「さあ、もう平気ですわね?」
「はいっ、ありがとうございます、キートリー姉様」
マースは深呼吸をした後、すっかり元気な顔に戻った。そして立ち上がったキートリーは彼に優しく微笑む。
(あっ、良い、尊い、優しいお姉ちゃんなキートリー好き)
胸元の吐しゃ物を拭き終わっていたアタシは吐しゃ物まみれのタオルをセルジュさんに返し、二人の様子を見ていた。剛腕と身体に幾つかある傷跡でおおよそ普通のお嬢様とは言えない見た目のキートリーだが、弟を想い微笑むその優しさと凛々しい佇まい、間違いなくアタシの理想とする気品あるお嬢様の姿だ。
それはそれとして、今の技が気になったのでキートリーに聞いてみる。
「キートリー、今のって?」
「お姉様?ええ、これはマースの魔力路に闘気を送り込み、体調を整えたのですわ」
「すごいね、闘気で治療まで出来ちゃうんだ?」
「あくまで内面的な体調を整えるだけで、ワタクシの集気法と違って外傷その他もろもろは治せませんけれど」
キートリーはそう言って右手の人差し指を自分の左の手のひらに合わせ、一瞬ピリッと闘気を流して見せた。アタシは拳に闘気を纏わせブン殴る事は出来ても、指先から一瞬だけ闘気を流すなんて器用な真似は出来ない。キートリーの闘気コントロールの上手さあってのモノなんだろう。
そんなことを考えていたら、キートリー何かを思い出したかのようにアタシに言ってくる。
「あっ、お姉様、闘気治療は身体と魔力路に関する深い知識、闘気の繊細な操作が必要ですわ。見様見真似は相手の身体を損傷、下手をすると相手を死に至らしめる危険な技ですの」
「うん、生兵法は大怪我の基ってやつだ。やるにしてももっと勉強してからにするね」
「ええ、それでお願いしますわ」
闘気治療、また新しい技だ。アタシではすぐには使えそうにない高度な技術らしい。キートリーの忠告ももっともだ。半端な知識で真似したら身体が中からパーンと爆発なんて、経絡秘孔か?冗談じゃない、危なくて今のアタシには仕えたモノじゃない。
さて、そんなことをキートリー聞いていたら、ざざざっとアタシの後ろにやってきてまた座った、血の気が引いたような顔のプレクト。
「千歳っ、マースっ、ごめんっ!調子に乗り過ぎたっ!ホントごめんなさいっ!」
初手謝罪。まあマースが酔って嘔吐してしまったのだ、いくらプレクトでもやらかしてしまったってのは気づく。
さて、プレクトの今の保護者はアタシだ。アタシは彼を叱らなければならない。プレクトは根は悪い子ではないのだが、若干考え無しで動く悪癖がある。少し釘を刺しておく必要があるだろう。そんなわけでそのまま地面に座るプレクトの前に立ち、少し屈んでプレクトに顔を近づける。
「プ・レ・ク・トぉ~?勝手に人を掴んで空に飛び上がっちゃダメ!まずは相手に同意を取って!それと一人で飛んでいるなら兎も角、誰かと一緒に飛んでるのにあんな飛び方しちゃダメ!まず危険だし、有翼人の貴方は平気かもしれないけど、アタシらはあんな飛び方されたら酔って吐くからダメ!わかった!?」
「はい、ごめんなさい……」
アタシに叱られしょんぼり項垂れるプレクト。流石にやらかしすぎてしまった事は分かっているらしく、いつもの調子は無い。アタシとしてもすっかり弱ってしまっているプレクトをこれ以上追及するのは気が引けたので、
「ん、じゃあほら、アタシじゃなくてマースにもう一回謝っておきなさい」
彼から一番被害を被ったであろうマースへ謝罪をさせて終わりにすることとする。マースはアタシの隣りでプレクトが叱られているのを黙って見ていた。そんなマースへ向き直り、本当に申し訳なさそうに謝罪を始めるプレクト。
「マースごめんっ、俺、ちょっと調子に乗っちゃって」
「ふぅ……」
「ご、ごめんなさいっ……」
プレクトはマースの溜息を聞き、より強く怒られると思ったのか敬語で謝罪を言った。彼は少し震えていて、今にも泣きだしそうだ。これじゃどっちがやらかしたのかわかったものじゃない。
「次からは気を付けてほしい。できればゆっくり飛んでくれるとありがたい、かな?」
「へっ?」
以外にもマースは割とあっさりプレクトを許した。今までのマースのプレクトへの態度を振り返るに、もっと激烈に怒るモノだと思っていたのでアタシは拍子抜けしたものの少し安心した。当のプレクトが一番驚いたらしく、素っ頓狂な声を上げて困惑している。
「次?また飛んでいいのか?」
「まあ最初は少し楽しかったから……最初だけ、最初だけね」
何故か恥ずかしそうに指でポリポリと頭を掻くマース。マースは飛ぶこと自体は嫌いではなかったらしい。
「ありがとーマース!ありがとおっ!」
「っ!?おいプレクトっ!?こっ、こらっ抱き着くな!?」
プレクトはマースに許されたのがよほどうれしかったらしく、そのままマースに抱き着いた。マースは赤面しつつプレクトを手で離そうと押しているが、イマイチ強く押し返していない。マースのプレクトへの態度がヤケに軟化しているような気がするが、さて何が原因か。
(あっ、プレクトが女の子……両性具有なの、気づいたかな?)
プレクト達が飛び上がる時、マースの背中とプレクトの胸が密着していた。プレクトは飛行の邪魔になるからか鎧を脱ぎ捨てており、着ているのは薄いワンピース一枚。マースがプレクトの胸の膨らみに気付いた可能性は十分に考えられる。
(ふーん、女の子には優しいんだー?マース?)
アタシはちょっと嫉妬心を湧き上がらせながら黙って二人を見ていた。
「あー、もういいか?」
「あっ、はい、ボースさん」
完全に待ちぼうけを食らっていたボースから声が掛かった。彼は話を纏めに入る。
「で、話は纏ったし?ホレ、ちょうど俺のテントも張りなおったところだ」
ボースが親指で後ろのテントを指した。アタシが滅茶苦茶にしたテントは従者さん達の頑張りによりすっかり元通りに張られなおされている。アタシが千切って破いた跡を除けば、だけど。
「パヤージュ達には再度俺から作戦を伝えておくから、今日はもう解散だ、解散、寝ろお前ら。明日は早ええぞ?」
両手でシッシッと戻れと言う仕草をするボース。アタシも帰って寝たいところだったが、さっきの話で上がった、船が故障しているかもしれない件、これを予め確認しておきたい。
「あのっ、ボースさん。一ついいですか?」
「おう、なんだ千歳、言ってみ?」
「アタシの船の状態、今の内に確認しに言ってもいいですか?ちゃんと動くか確認しておきたくて……」
アタシの船が故障して居たら、救出タイムリミットまでの無駄時間が格段に増える。救出開始がボーフォートの船が来る夕方開始になってしまう。アタシが招いた事態とは言え、それでは困る。だから今のうちに出来ることはやっておくべきじゃないかと思ったのだ。
「あー、あれだ、明日にしとけ。どうせお前の船が動かなかったらボーフォートからの船を待つことになるんだ。それにマースを連れて行かなきゃ船の水抜き出来ねえし、夜のシュダ森を抜けるのは危険だ。飛んでいくにしてもマースは……あー、マースは今ちょっとキッツイだろ?」
「僕は、僕は平気です」
マースはボースの問いかけに毅然とした態度で返答する。ボースはそんなマースの前でしゃがみ込み、目線を合せて諭しだした。
「マース、平気じゃねえヤツほど虚勢を張って平気って言うモンなんだよ。特にお前はそうだろ、マース?」
「う……」
「自分の現在の状況を包み隠さず正確に伝えるのも大切な事だ。ダメそうな時はダメそうだって言わねえと余計に周りに手間掛けちまうんだぜ?よーく覚えておけな?」
「はい、父上、申し訳ありません……」
確かに、マースはさっきのプレクトの無茶な飛行で酔って吐いてしまっているので平気とは言い難い。酔いこそキートリーの闘気治療で治してもらったが、夕飯丸ごとアタシの胸に吐いたのだ、相応に体力を消耗しているだろう。それはそれとして、ボースがすごく父親っぽいこと言っている。マースを見つめるボースの顔はただのハゲおやじではない、ちゃんとした人の親の顔をしている。父親の居ないアタシとしては正直マースが少し羨ましい。
そんなことを思っていたら、ボースが今度はアタシの前に立ってアタシを諭してくる。
「あー、そんなわけでな千歳、お前の気持ちも分かるがよぉ、焦るんじゃあねえ、今日は休め?お前も疲れてんだろ?今日はしっかり休んで今日の分明日じっくりやるんだ、いいな?」
ボースに言い聞かせられるアタシ。アタシが変に焦ってしまっているのは確かだ。アタシが無駄に先行して、マースを危険に晒すのはアタシも望まない。だからアタシは大人しくボースの提言に頷く。
「はい……」
萎びた植物みたいに項垂れるアタシ。キートリーがそんなアタシの傍により、アタシの手を握ってきた。
「お姉様、恵さんはワタクシ達が必ず助けますわ。このボーフォートの紋章とギアススクロール誓って。だから心配なさらないで?」
「……うん、お願いね、キートリー」
キートリーがまたどこから取り出したのか、扇を広げてボーフォートの紋章を見せ、アタシを元気づけてくれた。
「よっし、もうねえな?もうねえよな?」
ボースがアタシ達をキョロキョロ見ながら話が終わりか確認してくる。まあ何度も横道にそれたので彼の気持ちもわかる。
「はい、ありません」
「ないです」
マースと一緒にもう心残りは無いとボースへ告げるアタシ。
「じゃあ今度こそ解散だ、解散。寝ろ、休め、明日に備えろ」
シッシッとアタシ達を追い払うような仕草をしてみせるボース。そうして、アタシ達の夜の作戦会議は終了したのであった。
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