13.アタシの報連相_03
アタシがそのままヴァルキリーを見つめていると、段々とヴァルキリーの目が虚ろになり今までしていた瞬きも回数が少なくなっていく。
「なんだぁ?魔眼効いたのか?」
「わかんない。ちょっと確かめてみる」
ボースに促されつつも、アタシは魔眼の効果を確かめるため、ヴァルキリーに幾つか命令をする、と言っても彼女はまだ痺れ毒が効いていて身体は動かせない。なので目線だけでコミュニケーションを取る事となる。ヴァルキリーの前にしゃがみ込んだアタシは彼女の目を見つめて言う。
「ヴァルキリー、右見て」
アタシの言う通り、スッと右を見るヴァルキリー。
「ヴァルキリー、左見て」
ヴァルキリーは今度は左を見た。
「ヴァルキリー、アタシを見て5回瞬きして」
ヴァルキリーはアタシに言われた通り、アタシの目を見つめたまま5回、ぱちぱちぱちぱちぱちと瞬きをした。
「よっし!効いてるっぽいっ!あ、ヴァルキリー、普通にしてていいよ」
アタシに言われ、今まで通りぱちぱちと普通に瞬きをしだすヴァルキリー。魔眼の効果は確かに効いているらしい。これで明日砂浜にヴァルキリーを放置するなどという可哀想な事をせずに済む。アタシは軽くガッツポーズを決めた。
「ほぉー、見事なもんだ」
「あら、面白いですわね」
「凄いですね千歳姉様、これなら毒も枷もいらないです」
「へへへー」
ボース達は三人揃ってアタシの魔眼に感心している。アタシは褒められて嬉しい、と言っても魔眼自体はフライアに教えて貰ったモノな上に、英雄弓ゴブリンやボースみたいな相手には簡単に抵抗されてしまうような未熟な代物なのであまり喜んでもいられないのだが。
「ねえマース、毒を治す魔術とかある?ヴァルキリーに掛けてみてほしいんだけど。この子、きっともう暴れないと思うし解放しちゃおうかなって」
魔眼が効いてアタシの命令に従ってくれるなら、このまま拘束しておく必要もない。痺れ毒も必要ないだろう。このままヴァルキリーを地面に転がしておくのも可哀想なので、アタシはマースに彼女の解毒を出来ないか頼んでみる。
「解毒ですか?ありますよ、掛けてみますか?」
「お願い」
あっさり解毒魔術を使えると言うマース。マースが治癒魔術に長けているのは昨日のアタシの暴走事件で知っていたが、ケガだけでなく解毒まで行けるとなると、見た目のその白いローブと合わさって某ゲームの白魔導士そのものだなと思う訳で。ただマースが使うのは白魔法ではなく水魔術って言う大きな違いがあるし、白いローブにもフードが付いてる訳じゃないので、厳密には見た目も同じわけじゃないんだけれど。
さてとアタシがそんなことを思っていると、マースは早速ヴァルキリーの前で杖を掲げ、詠唱を始める。
「水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って彼の者の肉体を浄化せよ、クリアランス!」
-キィィィン-
マースの杖が青く輝き、黒いヴァルキリーの身体を眩い光が包んだ。光が収まった後、ヴァルキリーは寝そべった状態からすっと上半身を起こし、じーっとアタシを見つめ出す。
「毒は浄化されました。これで自由に身体を動かせるでしょう」
杖を降ろしたマースがアタシに向かって振り向いてそう言った。
「ありがと、マース」
「えへへ」
アタシはそんな彼の頭を感謝の気持ちも込めて青い手で撫でる。マースはアタシに頭を撫でられて嬉し恥ずかしいと言った顔をしている。本当に頼りになる子だと思うし、アタシに撫でられて照れるその顔はたまらなく愛おしい。
そんなマースをアタシの後ろで興味深げに見つめている子がいる、プレクトだ。
「へー、へー、今の何?魔法?魔法?」
プレクトは興味津々と言った感じでアタシの横から身体を乗り出し、魔術を使ったマースと使われたヴァルキリーをキョロキョロ見ていた。
「これは魔術だ、僕は魔法を使えない」
ムッとした顔でプレクトに振り返り答えるマース。その態度からして、身長の事を揶揄われたのをまだ許していないらしい。それでもプレクトの質問を無視しないあたり、マースの律義さが現れていて面白い。
「へぇー、これも魔術なんだ?魔術が使えるって事は、実はお前スゴイヤツなの?」
「魔術なんてこの世界じゃ大体誰でも使える、そんな珍しいものじゃない。それとお前って言うな、僕の名前はマースだ」
「マース、へぇ、マースか、へっへへ」
「なんだよ」
何故か楽しそうな表情をしているプレクトと、それを見て釈然としない表情をしているマース。
(魔術が珍しいのかな?って、プレクトのお母さんも風の魔術を使っていたような気がするけど?)
アタシは今日プレクトの母親に風魔術でどでかい風穴を開けられたばっかりだ。プレクトも母親が風魔術師なら魔術なんて見慣れているだろうに、この反応はなんだろうか?もしかしたら水魔術が珍しいだけなのかもしれないけれど。
それは兎も角とアタシは二人を放って黒いヴァルキリーに目線を戻す。するとヴァルキリーの隣りにはキートリーがしゃがみ込んでおり、物珍しそうにマジマジとヴァルキリーの顔を覗き見ていた。
「改めて、容姿は見事ですわねぇ、羨ましいくらい」
「確かに可愛いよねー、でもキートリーだって負けてないと思うよ?可愛い可愛い」
アタシもキートリーの隣りにしゃがみ込み、彼女の小さな瞳を見つめつつ微笑みかける。これは別にお世辞で言ってる訳じゃなく本心だ。よく三白眼は凶相だなんだと言われるけれど、アタシは彼女の朱色の瞳の魅力を知っている。この瞳に秘められた優しさと意志の強さを知っている。そしてその弱さも、昨日少しだけ。
「あっ、あら?そ、そうですのお姉様?」
「そうそう、可愛いよキートリー」
「あっ、あー……」
アタシに容姿を褒められて赤面するキートリー。彼女は周囲の目もあるからか、口元をプルプル震えさせながら笑ってしまうのを我慢している。
(そういうところが可愛いって言ってんの。また喰っちゃうぞこのツンデレ従姉妹ちゃんめ)
周りにはボースも従者さん達の目もあるので、アタシはそれ以上キートリーにツッコミは入れず、思うに留める。あまり追い詰めるとまたボース辺りがキートリーの恥ずかしさ逸らしの八つ当たりを喰らうだけだ。
そんな訳でヴァルキリーに向き直ったアタシは、ヴァルキリーをの目を見て命令をする。
「ヴァルキリー、当分ここのキャンプ内で大人しくしていてくれる?ここの人達の言う事ちゃんと聞いて。暴れたりしちゃダメだよ?それ以外は普通にしていていいから」
「はい……」
こっちを見つめたまま、静かに返事をした黒いヴァルキリー。もう暴れる心配もないだろうと判断したアタシはヒルド達にヴァルキリーの解放を頼む。
「ヒルド、プレクト、ヴァルキリーを縛ってるロープ外しちゃってくれる?」
「わかりました、ご主人様」
「おっけー、千歳」
ささっとヴァルキリーの拘束を解いた二人。自由になったヴァルキリーはすっと立ち上がり、姿勢正しく直立したまま、しゃがんだままのアタシをじーっと見ている。このまま見下ろされているのも何なので、アタシもヴァルキリーに合わせて立ち上がった。するとヴァルキリーは立ち上がったアタシを見上げ、そのまままたじーっとアタシを見つめてきている。
「なんか、やたら大人しくねえかこのヴァルキリー?」
「わかんないけど、この子の普通がこうなんでしょ?」
ボースがヴァルキリーの様子を見ながら言った。アタシにもなんでこんな大人しいのかわからないが、普通にしててと命令した以上、ヴァルキリーとはそう言うモノなんだろう。と思おうとしていたら、マースがアタシ達を見て言う。
「父上、千歳姉様、恐らく"ここのキャンプで大人しくしていてくれる?"の部分もキッチリ守っているのではないかと思います」
「「なるほど」」
マースの解説を受けて、アタシとボースの同意の言葉が被る。どうもヴァルキリーが大人しいのはアタシの命令のせいらしい。
(この魔眼、使うときはかなり言葉を選ばないといけない?そういや、言葉一つで大惨事になった作品があったっけ。アタシも気を付けよう)
昔、他人に強制的に命令出来る力が暴走し、言葉一つで大惨事になった、なんてアニメを見た事がある。アタシがその二の舞になるのはゴメンだ、使うときは注意して使おう。もっともアタシの場合、解除と命令すれば魔眼効果は切れるので、間違った命令をした場合はさっさと解除すればいいのだが。
それはそれとして、アタシはさっきの命令の"ここの人達の言う事ちゃんと聞いて"の部分を確かめたかったので、まだしゃがみ込んだまま赤面してプルプル震えているキートリーにヴァルキリーに対して何か言いつけるように頼んでみる。
「ねえ、キートリー」
「ひゃぃっ!??お姉ひゃまっ!?」
アタシが声を掛けると、キートリーはビシッと勢いよく立ち上がり若干セリフを噛みつつアタシに返事をする。
「ヴァルキリーが言う事聞くか試してみて?さっきのアタシの命令通りなら、キートリー達の言葉も聞いてくれるはすだから」
「わ、わかりましたわ。コホン……ヴァルキリー、そこの椅子に座りなさい」
「はい……」
キートリーは軽く咳ばらいをした後、近くにあった椅子、さっきまでキートリーが座っていた椅子、それを指差してヴァルキリーに座れと命令した。するとヴァルキリーはキートリーの指示に従いその椅子に大人しく座り出す。相変わらず姿勢正しく背筋をピッと伸ばして座るヴァルキリー。
「大丈夫そうですわね」
「そうだね、良いみたい、じゃあ改めて」
黒いヴァルキリーが大人しくなったので、アタシはボース達に改めてプレクトとヒルドの紹介をする事とする。
と、その前に自分の手が青い事に気が付いたので、この悪魔化の中間形態を解除して人間体に戻っておく。
(元に戻れ、アタシ)
-スゥゥッ-
アタシの青い手が元の色に戻る。黒白目の目も同じく元の黒目に戻った。
(戻っちゃってからなんだけど、これで魔眼の効果切れたりは、しないよね?)
ちらっと椅子に座っているヴァルキリーを見てみたが、彼女は大人しく座っている。どうやら魔眼の効果は人間体に戻っても続いているようだ。
ほっと胸をなでおろしつつ、ヒルドの紹介から始める。
「こっちのヒルド、中身は昨日と今日アタシが喰ったゴブリン達の集合体」
「は?ゴブリンの?」
「昨日戦った個体とは違うんですの?」
ヒルドが中身ゴブリンと聞いてあっけにとられるボース。そしてキートリーはすぐさま両拳に闘気を纏わせ構えを取り、ヒルドに敵意を向けた。この様子だとヒルドを殴る気満々だ。
「ひっ」
礼儀正しく待っていたヒルドだったが、流石にキートリーの行動には恐怖を覚えたらしく、軽く悲鳴を上げてアタシの後ろに隠れる。
「待って待ってキートリー、この子は悪い子じゃないから殴らないであげて」
「お姉様がそう言うなら、まあ、いいですけれど」
すぅっと両拳の闘気を消し構えを解いたキートリー。キートリーに殴られたらヒルドが一撃で死んでしまう。キートリーの肘打ちを喰らったヴァルキリーがどうなるかは昨日の白いヴァルキリーで証明済みだ。ヒルドは元ゴブリンではあるが、今はアタシの庇護下にある。それに中の英雄弓ゴブリンは兎も角、ヒルドは悪い子じゃない。殴るのは勘弁してあげて欲しい。
「それで、こっちのプレクトが、新しい流着の民の子らしくて」
「流着の民?今日は新しい流着の島の話は聞いていませんが……」
「おかしいですわね?領内に流着の島が現れたら、本国かフライアから通知が来るはずなんですけれど?」
マースとキートリーが首を傾げている。アタシも首を傾げそうになったが、プレクトの家族にボッコボコにされた後、魂のみのプレクトとこの世界に来たばっかりかどうかを話したことを思い出す。
「あれ?あっそうだ、プレクト、貴方がこの世界に来たのって昨日なんだっけ?」
「んー?そうだよ?昨日の夜にこの世界に来て、夜中にケバメイクな金髪黒服のねーちゃんに伝……なんちゃらの儀?をしてもらったけど」
「あら、じゃあフライアには会ってますのね」
(フラ爺がケバメイクな金髪黒服のねーちゃん……いや確かにそうだけど)
フライアは紫色のアイメイクと口紅の化粧をしており、瞳の色と合わさって良く言えば妖艶、悪く言えば顔面紫色だ。プレクトの言う通り、ケバメイクと言われれば否定のしようが無い。
「でも昨日?領内に流着の島が出たらフライアが何か言っていくハズなんですけれど」
「うーむ、やっぱりおかしいですね、今日の昼頃、本国から千歳姉様の島が流着したという話は来ましたが、彼の島の話はありませんでした。それにお師匠様が領内に現れた新しい流着の島の事を何も告げずに出て行くなんて」
マースとキートリーはやっぱり首を傾げている。話を聞く限りでは、どうも新しく島が現れた時の手続きがいつもとは違うらしい。プレクトの島には何か事情があるのだろうか?と言ってもアタシにはその辺はまだよくわからない。
「ありゃ?なんでだろ?まあプレクトはいいや。とりあえずヒルドは対外的にはどこかの流着の民な有翼人ってことにしておいてほしいんだよね。ほら、この子そのままヴァルキリーだって名乗るとこの世界的に弊害がありそうだし、かといって中身はゴブリンですって正直に言う訳にもいかないし」
ヒルドはヴァルキリーの身体を乗っ取っている訳で、ぱっと見は髪色と翼の色以外モロにヴァルキリーだ。ヒルドをゴブリンだと言ってすぐに信じる人もそういないだろう。因みにプレクトもヴァルキリーの身体を乗っ取っているけどぱっと見は少年だし、少年のヴァルキリーとか聞いたこともないので多分セーフ。
「まあ、それはこっちで誤魔化すけどよ。しかしまあこのヒルドが中身ゴブリンか、わからねえもんだな。完全にただの亜人のねーちゃんだぞ?」
ボースがヒルドに近寄って信じられないと言った感じでマジマジと眺めている。アタシもこのヒルドが中身ゴブリンと言う事はたまに忘れそうになる。肝心のヒルドは、アタシの後ろでボースに向かって手を合わせしなを作って微笑みかけている。
(だからナチュラルにそう言う仕草をするから中身ゴブリンだって事忘れそうになるんだって)
ヒルドの女性のような仕草に心の中でツッコミを入れつつ、ヒルドの中のアイツを思い浮かべ、アタシはボースを見つつ言う。
「わかるようにする手段もあるんですけど、ちょっと危険なのでこのままにしておいて下さい」
「おお?」
今はヒルドの中で眠っている英雄弓ゴブリン。あれを起こせば中身ゴブリンだという事は皆にも理解してもらえるだろう。けど、アイツは呼び出せば絶対に暴れる。まだ満足とは言えないアタシの飛行能力じゃあ空中で弓をマシンガンの如く連射するアイツの相手は厳しいし、周辺に与える被害も尋常じゃないだろう。アタシはもうさっさと寝たいので面倒事は勘弁だ。
「お姉様、そちらの二人の事は分かりましたけれど、こちらのヴァルキリーはどうするんですの?」
キートリーが椅子に座りっぱなしの黒いヴァルキリーを指差して聞いてくる。
「その子は~、剣とか鎧とか全部外してもらったら、普通の有翼人で通らないかな?」
「うーん、そうだな……まっ、通るんじゃねぇか?ヴァルキリーの顔をじっくり見た事あるやつもそういないだろ?」
アタシの自信なさげな提案に、ヴァルキリーの顔を眺めているボースから肯定意見が飛んでくる。ヴァルキリーの役割を考えればボースの言う通り、ヴァルキリーが居ることは知っていても、実際にヴァルキリーと会ったことがある人間はそう多くないだろう。ヴァルキリーが現れるのは英雄の前だけだ。このボーフォートのゴブリン討伐隊でヴァルキリーに英雄認定されてるのはボースとキートリーだけ。あとヴァルキリーの顔を見た事あるのはマースとサティさんとパヤージュ。マースとサティさんはもちろんの事、パヤージュもお願いすれば黙っていてくれるだろう。
「ではこのヴァルキリーはワタクシが引き取りますわ。一応女性の様ですのでワタクシのテントに泊めるのがいいでしょう?それに無いとは思いますけれども、万が一暴れ出してもワタクシなら止められますわ」
キートリーがそう言いつつ、闘気を纏わせた右腕を一瞬伸ばしてすぐ降ろした。いつでもヴァルキリーを仕留められるぞ、というキートリーなりのパフォーマンスだ。軽く腕を振ったように見えるが、アレに当たれば大の大人でも身体ごと吹き飛ばされるだけの威力がある。
(昨日アタシをキートリーのテントに泊めるって言った時は最初かなり渋ってたのにねぇ)
アタシはそんなキートリーのパフォーマンスを見つつ、昨日初めてキートリーと会った時もの凄い勢いで泊めるのを断られたのを思い出す。あの時のアタシはいきなりキートリーに怒鳴り詰め寄られてビビッて震えてしまった。勿論キートリーとはすぐに仲良くなれたのだけれど。
「まあキートリーがいいんなら俺ぁそれでいいが」
ボースも異論は無いらしい。
「では、ヴァルキリー、ワタクシの隣りにいらっしゃい」
「はい……」
キートリーはヴァルキリーを側に呼びつける。ヴァルキリーもキートリーの命令に素直に従って彼女の隣りに立った。そしてキートリーはヴァルキリーの姿を一瞥した後、
「ま、このまま彼女をここに置いておいたら、お父様にどぉ~んな悪戯をされるか?わかったものではありませんですのよ?」
キートリーはそんなことを言いつつアタシとマースに一瞬視線を合わせた後、ジト目でボースを見つめ出す。その目はとても冷ややかなモノだ。
「おいキートリー、なんで俺がそのヴァルキリーに手を出す前提なんだよ?俺がそんなスケベ野郎に見えるかぁ?」
「あらお父様?ワタクシがお父様とそこの、あの娘との関係を知らないとでも思っていまして?」
そう話すキートリーがテントを片付けている最中の従者さん達の一人に厳しい視線を向けた。するとそのキートリーに睨まれたらしい従者さん達の一人、アタシに椅子を出してくれたシェリーさんがビクッと身体を跳ねさせたのが見えた。
「げっ!?なんでそれを……あっ」
「語るに落ちましたわねお父様?英雄色を好むと言うのはよく聞きますけれど、自分の従者に手を出すのも程々にして頂きませんと」
キートリーは汚物を見るような目でボースを睨みつけて言う。
「えーと?あの娘で何人目?ワタクシが知ってる範囲だと、4人?5人目くらいでしたかしらぁ?」
「ちょっ、キートリーっ、おまっ、声が大きいっ」
そしてワザと後ろの従者さん達、取り分けシェリーさんに聞こえるよう声を大にして言った。ボース相当焦っているらしく、慌ててキートリーの口を塞ごうと手を出す、が、
「せいっ!」
-バシィッ-
「うおっ!?」
キートリーはそんなボースの手を平手で容赦なく叩き落として見せる。女癖が悪い父親を持つ子供の気持ちがどう言うモノなのか、自分の父親の顔を見た事が無いアタシには想像が付かない。が、キートリーがボースの所行にいい感情を持っていないのは丸分かり。
「ああそうですわ、言っておきますけれど、もしサティに手を出したらワタクシ本気でお父様を殴りますわよ?」
「父上、その時は僕も父上を本気で殴ります」
キートリーは右手に橙色の闘気を纏わせ、握り拳を作ってボースを威嚇する。マースも冷たい目で自分の父親を見ながら、握った杖を頭上に掲げてボースを威嚇している。二人に威圧され冷や汗をかいて後ずさりするボース。自分の子ども二人に成敗される父親、見てみたいような、止めておいた方が良いような。
「だっ!出さねえ!サティはマーカル家のお嬢さんだぞ!?出すわけねえ!!だからキートリー!その手を下げてくれ!マース!お前も魔術はやめろ!!お、おい千歳!こいつら止めてくれ!!」
「ボースさん、アタシの国には因果応報って言葉がありまして、悪行には悪い結果が付いて回るってのが世の常なんですよ?あ、あともしヒルド達に手を出したらアタシが本気で殴りますから」
「千歳ぇ!?」
キートリー達に脅されてついにはアタシに助けを求めるボース。だがアタシとしては自業自得なボースに掛ける情けは無く、キートリーを真似て右拳に橙色の闘気を纏わせて、真顔でボースに釘を刺す。昨日助けて貰った恩はあれど、それで全てを許せる程アタシは出来た人間な訳でもない。
(フラ爺がヌールエルさんの件でボースにブチ切れてた理由が分かってきた気がする。こりゃキレますわ)
と、自分の義理の叔父の女癖の悪さに呆れつつも、アタシは明日のメグ救出の件を切り出してキートリー達を止める事とする。放っておいてもボースの自業自得ではあるが、親子で話が拗れて喧嘩でもされたらメグの救出に支障が出てしまうのでそれは阻止しておくべき、という算段だ。ともあれアタシの中のボースの好感度は大幅ダウン。アタシは闘気で燃える右拳を降ろしつつ、ボースに助け舟を出す。
「ボースさん、それで明日の件なんですけど」
「んんー!?そうだな!明日の話しておかないとな!!なあキートリー!マース!そうだな!?」
ボースはアタシの助け舟を受け取って、キートリー達に大げさに手を振って話題を変えて見せる。汗だくで必死になって子どもに訴えるボース、父親の威厳なんてもうどこにもありゃしない。
「ふん、お父様、お姉様に感謝することですわね」
キートリーはアタシの提言もあってか渋々手を降ろした。
「父上、もし千歳姉様に手を出したら父上のイチモツにインプリズン掛けてロックしますからね?」
「ヒエッ」
マースも杖を降ろしたが、笑顔で何かスゴイえげつない事を言い放ったような気がする。
マースの言葉を聞いて青ざめた顔をしているボースを放ったまま、アタシ達は明日のメグ救出作戦の話を開始した。
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