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10.悪魔の力の使い道_03

 どれくらい気絶していたのだろう?


「……はっ!?」


 アタシはゼフィー達家族の連続攻撃を受け、木にもたれ掛かったまま気絶していたらしい。アタシはさっと起き上がり、自分の身体の損傷を確認してみる。


「痛み、無い、お腹、穴空いて無い、胸、穴空いて無い、肩から胸、切り傷無い、背中、切り傷無い。服……なんで戻ってんの?」


 アタシの身体は悪魔化したまま、傷は全て治っていた。何故か切り裂かれ穴だらけにされた黒装束も、プレクトの墓標に使った右腕の袖以外は元に戻っている。爪は長く伸びっぱなし。そして周りを見渡したが、もうゼフィー達家族の姿はなかった。


(プレクトの羽は、無いか)


 気絶する直前、アタシの身体を離れ地面に落ちたプレクトの羽。それはもうそこには無かった。

 恐らくプレクトの仇であるアタシを殺し復讐を遂げたゼフィー達は、プレクトの羽を、彼の遺品を持って帰って行ったのだろう。


 空を見上げてみればもう日が傾き始めている。


(アタシ、人を殺した罰が当たったのかなぁ?)


 今日も今日とて散々な一日だった。ゴブリンに連れ去られたプレクトを助けるハズが安楽死とは言え殺してしまい、そしてその家族に敵討ちとして身体中穴だらけにされたのだ。

 アタシは首のチョーカーを触り、マースを想う。


「はぁ……帰ろ……帰ってマースに背中ぽんぽんしてもらお……」


 ぐったりとしたまま元来た道を歩くアタシだったが、ゼフィー達との闘いの途中からプレクトがアタシの意識の表に出てこなくなっていたのが気になっていた。なのでアタシの中のプレクトの魂にもう一度語り掛けてみる。


(プレクト、プレクト、聞こえる?)

(……うん)


 静かに返事をしたプレクト、彼女の魂は引っ込まずにアタシの意識の前に立ち続けていた。どうもプレクトはアタシと会話を続けてくれるようだ。


(大丈夫、じゃあないよね……ごめ……)

(ごめんっ!)


 アタシが謝ろうとした先に、食い気味にプレクトの方から謝ってきた。


(プレクト?)

(勝手に身体使っちゃって、ごめん。俺が殺してって千歳に頼んだんだ。千歳は何も悪くないのに、姉さん達はそれで勘違いしてちゃって、こんなことになって、本当に、ごめん)


 真摯にアタシに謝り続けるプレクト。プレクトのその声色と言うか喋り方は、女性と言うより男性に近い感じだった。


(どうしてアタシの身体、勝手に使っちゃったの?)

(どうしても姉さんと、父さんと、母さんと、もう一度話したかった……話したかったんだ……)


 プレクトの魂に映る彼女の表情と、もう一度家族と話したかったと言う彼女の言う言葉に、どことなく悲哀を感じ同情してしまった。もう一度家族と話したい、その気持ちはアタシもよくわかる。アタシだっておばあちゃんともう一度話せるなら他人の身体を乗っ取ってでも話に行ってしまうかもしれない。そしてその他人が強く止めないなら猶更だ。故に、彼の暴走には強く止めなかったアタシにも責任がある。もうアタシは彼女を責める気にはなれなかった。


(そっか。うん、それじゃあ、しょうがないね、しょうがないよね)

(お、俺を、許してくれるのか?)


 アタシはあっさりとプレクトを許した。アタシの許しを聞いてプレクトは不思議そうに聞き返してくる。


(キミをしっかり止めなかったアタシにも責任があるし、それに最初からキミを救えていれば、こんな事にはならなかったんだし)


 なぜマースと一緒に来なかったのか、なぜスタミナ回復薬だけでも持ってこなかったのか。なぜ彼女の死に責任を取れるなどと驕り高ぶってしまったのか。アタシは後悔ばかり思い浮かぶ。


(アタシは何一つ出来てない、これじゃあきっとメグの事も……)


 一度ネガティブな思考に陥ったアタシはどんどんと悪い考えへと転がり落ちて行く。


(いや千歳は、俺を助けてくれただろ?)


 だがプレクトはそんなアタシのネガティブ思考を否定する。


(ちょっと前まで痛くて、寒くて、見えない、聞こえない、動けない、またいつアイツラに蹂躙されるかもわからない、最悪のオンパレードだったからな。怖くて怖くて気が狂いそうだったよ。特に何も聞こえない暗闇の中放って置かれるのが本当に怖かった。死にたいって思ったのは初めてだったよ。そう思ってたら千歳が俺の手を握ってくれただろ?そしたら苦しいのも怖いのも全部飛んでっちゃってさ、暖かかった、あ、俺天国に行くんだなって思ったよ。まあ、気付いたら千歳の中に居てびっくりしてたんだけど。ここが天国なのかな?なーんて、ははっ)


 プレクトは強がりなのか呑気なのかわからないがアタシに笑って見せる。


(でもアタシは、プレクトを、キミを殺してしまったわけで)

(それって俺を苦しいのから解放してくれたわけじゃん?俺的にはすっげー感謝してるんだぜ?それに俺今こうやって千歳と話せてるから、あんまり死んだって気がしないし。あ、姉さん達ともう一度話せて俺嬉しかったよ。まああんなことになっちゃったけど、声聞けただけでも儲けものさ。だからさ、そんな辛そうな顔しないでくれよ。ほら、千歳はきっと笑ってる方が可愛いぜ?)


 ちょっと前に殺して欲しいと願っていたプレクト当人は、やたらサバサバとアッサリした性格をしていた。どうもアタシ程深刻には受け取っていないらしい。さらに見た目こそ中性的であるが、中身と口調はどうも男性に近い。プレクトの家族たちもプレクトの事を息子と言っていたし、両性具有と言っても元は男の子扱いだったのだろうか。

 そしてアタシは今、頭の中に居る自分が殺した死人に口説かれると言うよくわからない事態に陥っている。このまま自分を責めようにも、被害者当人が庇ってくれてしまうので責めきれない。元気を出そうにも、被害者が自分の中にいるので元気が出し切れないと言う板挟み。頭がどうにかなりそうだ。


(それにしても、千歳の身体ってすげえな!あれだけ姉さん達にグサグサ刺されたのに生きてるし、治るのもスゴイ早いし。母さんに開けられた身体の穴、もう完全に治っちゃってるじゃん。)


 プレクトはキラキラした目でアタシの悪魔の身体を褒め始める。かなり興味津々な様子だ。


(え?まあ、アタシ悪魔だから、多少の傷は治っちゃうんだけど)

(悪魔?本物の?すっげー!そういやさっき姉さん達をバンバン弾き飛ばしてたよな!?足もすっげー早かったし!?爪も伸びるし!?なあ、その爪ってどこまで伸びる!?どんな魔術使えんの!?千歳ってどこに住んでる!?この世界って他にも千歳みたいな悪魔っている!?他にはどんな奴がいんの!?)


 今度は質問攻めだった。珍しい物を見つけた、と言うよりは今まで見たことの無い物を見てはしゃいじゃっている子ども、そんな感じだ。


(爪?爪はどこまで伸びるかやってないから知らないけど、う、うーん、爪伸びろ~)


 アタシはプレクトに聞かれた爪の長さを測るため、一旦外に意識を戻して、右の手のひらを前に開き爪を伸ばせるところまで伸ばしてみる。


 -にゅぅぅぅー-

 -ドスッ-


 アタシの爪は10メートル程度伸びた辺りで、その先にあった木の幹に突き刺さり止まった。


(これくらい?)

(うおおおー!すげー!魔術は!?魔術は使えんの!?)


 アタシは伸びた爪を元に戻しながら、プレクトの質問に答える。


(アタシは魔術使えないよ。闘気なら使えるけど)

(闘気?闘気って何!?見たいっ!!)


 余計なことを口走ってしまったようで、プレクトは闘気の話に喰いついてきた。

 アタシは右拳を握り、闘気を集めるイメージをする。すぐに右手が熱くなり、橙色のオーラがアタシの右拳を覆う。


(うわああぅっ!?何これ!?これが闘気!?これどうなんの!?どうなんの!?)

(えぇっと、これはまだアタシも使いこなせてないんだけど、とりあえずこんな)


 アタシは闘気を纏った右拳で近くの木の幹を軽く叩いた。


 -トンッ-

 -バギャァッ!-

 -グシャアッ!-


 アタシが軽く叩いたところから盛大に折れて遠くへ吹き飛ぶ木。予想以上の威力にアタシが一番驚いている。


(あちゃー、悪魔状態で闘気纏うとこうなるのか)

(すっげ!すっげぇパワー!あれ、なんでこれ姉さん達には使わなかったんだ?)

(え、もともとプレクトのお姉さん達と戦うつもりなかったし、これ使ってたらお姉さんを傷つけてしまってただろうし、まあすっかり忘れてたってのもあるんだけど)


 一番の本音は忘れていただけなのだが、今の自分の闘気の力を見て改めて使わなくて良かったと思う。軽く叩いだだけで木が幹ごと折れて吹っ飛んでいった。これを人の身体に打ち込めばどうなるか、想像できないアタシではない。

 

(ご、ごめん、俺が勝手に千歳の身体動かしちゃったてたのに、いろいろ変な事聞いちゃって。俺まだこの世界の事よくわからなくて)


 プレクトはアタシの身体を乗っ取ってしまった事を思い出したらしく、高かったテンションが元気無く萎んでいく。


(いや、いいんだけど。ん?プレクトってもしかしてこの世界来たばっかりだったりする?)


 まだこの世界の事をよく知らないと言うプレクトの言葉を聞き、アタシは彼らの島がまだこの世界に流着して間もない可能性を感づく。


(あ、うん、俺達は昨日の夜この世界に来たんだ。そしたらちょっとケバ目の化粧な黒服のねーちゃんがやってきてさ、ここは異世界のオードゥスルスだって言うから、俺ワクワクしちゃって探検しようって思って夜のうちに島を抜け出したんだ。そしたらあの緑色の連中に捕まっちゃって)

(あー、そう言う事)


 どうも彼はかなり無鉄砲な性格らしい。有翼人故に飛べるからいつでも逃げられると言う考えがあったのかもしれない。探検気分で軽率に夜の森の中に入り、そこをちょうど英雄弓ゴブリンの毒矢にやられ捕まった、そんなところだろう。


(そういやあの黒服のねーちゃんと千歳の服似てるけど知り合い?)

(あ!?うん、ち、ちょっとねー?)


 アタシのお爺ちゃんです、だなんて素直に答えられるハズも無く、答えを濁す。服も似てるどころかフライアから直々に貰ったサイズ違いの同じ服である。違いはプレクトの墓標を縛るのに破いて使った右袖が無いくらい。

 それにしても、アタシに喰われて死んでおきながらここまで物事に囚われない感じでけろっとして居られると、悩んでいるアタシの方がバカバカしくなってくる。


(ねえ、アタシ、悩まなくていい事で悩んでた感じ?)

(えっ?なんか悩んでんの?よっし!俺で良かったらなんでも聞くぜっ!?)


 サムズアップしつつ屈託のない笑顔で答えるプレクト。話して見て悪い感じはしない良い子ではあるのだが、無鉄砲でポジティブ、この世界じゃそりゃあ死にますわこの子。


(っと、そろそろ帰る感じ?俺邪魔でしょ?ちょっと下がるわっ)

(あ、プレクト、そっちゴブリンの魂ばっかりだけど……)


 下がると言ったプレクトの魂が向かった方向、そっちはアタシが喰ったゴブリンの魂がいっぱい密集している方だった。プレクトの魂はアタシの忠告を聞いて動きを止める。


(えっと、しばらくこの辺漂ってていいかな?)


 申し訳なさそうにアタシの意識の傍に戻ってくるプレクト。どうもゴブリン自体は苦手なようだ。まああの惨状を考えれば致し方無い事ではある。


(どうぞ、あ、勝手に乗っ取るのはやめようね?)

(はっはっはー、もうしないって)


 彼の笑い声を聞きつつ、アタシは意識を外の世界に戻す。


「あぁ~」


 どっと疲れが押し寄せ、その場にしゃがみ込む。余計なことで深刻に悩むのはアタシの悪い癖だろう。


「あほくさ、んーっ!帰ろ、かーえろー」


 アタシはもう悪魔化を解くのもめんどくさくて、立ち上がって両腕を上げて伸びをした後、そのままトコトコと道を戻る。

 そして日も落ちて暗くなり始めた、そんな時、


 -ヒュウウッ-


 何かが空から近づいてくる気配がした。アタシはその気配に気が付き、上空を舞う黒い翼の神の使い風の女性ををぼーっと見ていた。


(ああ、ヴァルキリーね。フラ爺は当分出てこないとか言ってたけど思いっきり二日連続で出て来てんじゃん)


 フライアの話によれば、黒いヴァルキリーはすぐには来ないと言う話だった。だが今現に目の前にヴァルキリーが飛んでいる。が、ここで一つ変な事に気づく。


(あれ?黒いヴァルキリー、二人……いや、三人いない?アタシ一人なのに?今日フライアいないんだけど?おー?三人はキッツイぞ?)


 ヴァルキリーは一人ならどうとでもなると思っていたが、二人を飛び越して三人となると流石にキッツイ。数の暴力はさっきプレクト家族に喰らったばかりだ。特にヴァルキリーの弓の性能を考えれば、殴り合っている最中に横から弓でバンバン撃たれると本当にキツイのだ。さらに全回こそ飛ばれなかったが、今回こそ空に逃げられる気がする。と言うか今絶賛飛んでいる。一度降りて来てもらわないと攻撃すら届かない。アタシは翼は出せても空を飛べない、ホント空に逃げられると困るのだ。


(黒い翼!?姉さ……んじゃないや、ごめん騒がしくて)

(いや、別にいいけど)


 プレクトが翼の色だけ見てヴァルキリーをゼフィーだと思ったらしい。彼の始め嬉しそうだった声が露骨にテンションが下がって行く。

 そんなプレクトの声を聞きつつ、アタシは悪い考えが浮かび出す。


(……ねえプレクト、腹いせとか八つ当たりとかしたくならない?あの黒いの相手にさ)


 彼に悪魔の囁きをする。


(腹いせって、あの黒い羽の女の人に?そんなことしちゃっていいの?)


 プレクトは当然の疑問を返してくる。そんなプレクトに、アタシは答える。


(あれは人形だからねぇ、喰って壊しても良いんだよねぇ)


 -ゴキゴキッ-


 準備体操をして首と指を鳴らすアタシ。アタシも相当鬱憤が溜まっていたので、遠慮しないで良い相手が来たのはとても都合がいい。


(相手がヴァルキリーなら人形だから人間じゃない。存分に壊していいし喰っていい。だから三人いようがが関係ない。全力で叩き潰すッ!)


 落ち込んでいた気分が、やる気が一気に上がっていく。すると鉛のように重く感じていた身体が、羽のように軽くなっていく。


「すーっ、はーっ」


 深呼吸し、両手で拳を握ったアタシ。


(悪魔の力と闘気、両方同時に使った時の本気、試してみたいんだよねぇっ!)

お読みいただきありがとうございます。

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