20.続・獣が来りて炎を吹く_side&enemy03
ここはシュベルホ村の中央、ボーフォート軍の防御陣地。
千歳が攫われたマースを追いかけてシュベルホ村を脱出してしまった後、ボーフォート軍はサティの機転により結界を張り直したモノの、結界を張り直すまでの間に防御陣地の内に四人のルプス族の侵入を許してしまった。ルプス族の一人は西から、三人は東から。
「ガルゥッ!」
東側の三人のルプス族は灰色の毛並みを揺らしながら結界の中に滑り込み、鉄の荷車ことバヤールの天井に着地した。
「「「ギャインッッ!?」」」
彼ら三人の後に続いていた残りのルプス族は、サティが張り直した結界に阻まれ、その身体を焼かれ地面に崩れ落ちる。
「お前ら!?クソっ!ダメか!?おいパオロ!」
「ジーノ!ラケーレ!結界内に入れたのは俺達三人だけか!?」
「バカ!四人だよ!ガレリアの姉御があっちで戦ってくれてる!!」
三人のルプス族は一斉に西側を見た。そこにはボーフォート軍相手に一人で戦っているガレリアが見える。
「姉御なら一人でもやってくれるさ!パオロ!ジーノ!あたしらは早く結界を張った魔術師を殺して結界を解くんだ!!行くよっ!!」
「「ガルルアァ!」」
三人のルプス族は女神像近くに展開しているボーフォートの魔術師達に狙いを定め、襲い掛かった。
・・・・・・
防御陣地の内の西側、そこでは片目の雌の灰色狼獣人、ルプス族リーダーのガレリアが大柄のハゲ頭の男と複数の魔術師に囲まれながらも、たった一人で大立ち回りを演じていた。
「ボースッ!!アンタがァァッ!!」
「チィッ!?流石に速えぇっ!!」
ボース相手に青い炎を纏わせた爪を次々と振り下ろすガレリアと、奇襲を受けたため剣を抜く暇も無かったのか鞘でガレリアの攻撃を防御しているボース。
「ボース様っ!!今援護を!!」
「俺の事はいい!!お前らは騎兵隊とサティの援護をしろっ!」
「は、はっ!!」
ボースは部下達にそう言い放ち、橙色の闘気を纏わせた足で組み付いて来たガレリアを蹴り退ける。
「グッ!?やらせるかいっ!!コォォォッッ!!」
ボースに蹴られ間合いの開いたガレリアだったが、瞬時に口内に炎を溜め、ボースの周りに居た部下の魔術師達に向かって青い炎のブレスを吹きつけていく。
「うわっ!?」
「うわああああっっ!?」
「ぎゃああああっっ!?」
次々とガレリアの青い炎のブレスに焼き尽くされ、ただの黒い炭になっていくボーフォートの魔術師達。
「ガレリア!!てめえっ!!」
やっと鞘から剣を抜いたボースがガレリアに斬りかかった。だかボースの剣撃は空を斬る。
「ツッ!?」
ガレリアが瞬時に体勢を地面に付くほど低く取り、ボースの一撃を躱した。
「だらぁぁっ!!」
「ガァァッ!!」
ボースは地面近くのガレリアに追撃の斬撃を振り下ろすが、彼女は低い体勢から瞬く間に後ろに跳び退いてボースの攻撃を躱した。そのままバヤールの壁を蹴ってボースの側面を四つ足で走る。
「喰らいなよハゲ野郎!!コォォォッッ!!」
ガレリアが側面から青い炎のブレスをボースに吹きつける。
「うおおおっ!?おりゃあっ!!」
ボースは焦った表情をしながらも、手に持った愛刀でガレリアのブレスを斬りつけた。するとガレリアのブレスは真っ二つに切れて霧散していく。
「デュランダルっ!?ホンット!忌々しい剣だよっ!!お前にやられたこの右目の事っ!!忘れちゃいないからねぇっ!!」
ガレリアは片目でボースの持つ剣を苦い顔をしながら睨みつける。
「わりぃな!ガレリア!俺ぁ女の顔を斬りつけるのは趣味じゃあねえが、お前相手じゃ手加減なんてしてらんねえからなぁっ!!どりゃあぁっっ!!」
ボースはそう言ってガレリアに斬りかかった。
「よく言うよっ!!このっっ!?」
ガレリアもボースの動きに即座に反応し、回避を続ける。
そうしてボーフォート辺境伯ボースとルプス族族長ガレリアの戦いは続いていく。
・・・・・・
「ショーンさん!マース様が攫われてっ!!」
「千歳!ケリコ!追ってる!!」
「パヤージュ!?エメリー!?マース様がか!?」
防御陣地の中央、メルジナの女神像の前で青い杖を掲げるサティ、彼女の周りに集まったパヤージュとエメリーとショーンが混迷の続く戦場の中、戦況の把握に努めていた。
ルロイの氷柱魔術によって大量の魔術師が絶命し、ガレリアの手によって一度は破られた結界。サティの短縮魔術によって結界は張り直されたモノの、結界内に四体のルプス族の侵入を許してしまっており、状況は芳しくない。
「各員!短縮で結界を張った私はこの場を動くことが出来ません!結界維持のため護衛を!!」
「「は、はいっ!!」」
サティを守るように囲むバヤール6両目に乗っていた十数人の魔術師達。だが彼らは皆若い初陣の新兵達、まだ十代の若者の集まりだ、少年と言っていい年齢もモノも多い。そんな彼らが突然の接近戦に巻き込まれている。それも相手はゴブリンなどと言う雑魚相手ではない。相手はルプス族、それも恐らくはボーフォート領主のボースを暗殺するために送り込まれた精鋭達。これに立ち向かえ言うのだ、となれば当然、
「なんでルプス族なんかが……」
「し、死にたくない……」
「か、かーちゃんっ」
不安と恐怖に目に見えて浮足立つ新兵達。彼らには酷な話ではあるが、状況は予断を許さない。
「とりあえずマース様は千歳のねーちゃんに任せるしかねえ!今はサティ様を守んのが先だ!!おいジェームズ!?ジェームズ!?どこだ!?5両目の連中はどうしてんだ!?なんで出てこねえ!?」
バヤール5両目のジェームズ達がまるで動きを見せない事に不審がるショーン。だが無理もない、彼はジェームズがどうなったかなどまるで知らないのだから。
「居たっ!あの女だっっ!!」
三人のルプス族がバヤールの上を走りながら杖を掲げるサティを見つけ叫ぶ。
「クソッ!来やがったっ!!新兵共!防御魔術を張れ!!」
ショーンが背中のバトルアックスを構えながら新兵達に指示を飛ばす。不安に駆られつつも上官であるショーンの指示を聞いて杖を掲げる若い魔術師達。
「「「はっ、はいっ!水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って我を……」」」
だが、迫るルプス族が魔術詠唱などと言う隙を許すハズも無く、
「詠唱させるな!殺せぇぇっ!!」
「「ガルルアァァ!!コォォォッッ!!」」
バヤールの上の三人のルプス族の口から放たれる真っ赤な炎。その炎のブレスは眼下のサティを含む若い魔術師達に吹きつける。
「ひぃっ!?」
「わああっっ!?」
自らに吹きつけられる炎のブレスを見た若い魔術師達は、詠唱中だと言うのに恐怖に悲鳴を上げて詠唱を中断させてしまう。彼らと彼らが守っているハズのサティの前に迫る炎のブレス。
「くっ!?」
サティは目の前に迫る炎をを見て、直撃は必至であることは分かっていた。しかし結界魔術を解いて結界を解除するワケにも行かない。結界の外にはまだ大勢のルプス族が残っているのだ。自分が結界を解いてしまえば一時的に炎を回避することは出来るかもしれない。だけど炎を回避するには今自分を囲んでいる若い魔術師達を見捨てる事になる上に、残りのルプス族全員と結界無しでの正面戦闘をすることになる。サティは最早どうしようもない状態に陥っていた。
そんなサティの耳に聞こえてくる凛とした若い女性の声。
「ショットブラスト!!」
砂塵混じりの突風が下から上に吹いた。ルプス族の炎のブレスを彼方の空へと吹き飛ばして行く強烈な風。
「「「なにっ!?」」」
突然の突風に自らの炎のブレス吹き飛ばされて驚きの声を上げるルプス族達。
サティは自らを守ったその若い女性が誰かを察し、彼女の名前を叫ぶ。
「パヤージュ!!」
「はいっ!」
緑色に輝く杖を掲げたパヤージュ。彼女が風魔術でルプス族の炎のブレスを吹き飛ばしていたのだ。パヤージュは間を置かず彼女の肩に乗る小さな友人、ストームフェアリーのエメリーに向けて追撃を頼む。
「エメリー!!」
「うん!!ケセラセラ!風女神シレヌー!暴歌!烈風! 打ち寄せ!アッサルト!ウェーブ!!」
エメリーが詠唱しつつ爪楊枝大の大きさの杖、先端に小さな緑の宝石の付いた杖を掲げた。彼女の小さな杖が緑色の輝きを放つ。すると彼女の小さな身体のどこにそんな力があったのか、猛烈な風の波が起こり前方の三人のルプス族に吹きつけた。
「うおっ!?」
「ガッ!?ガアァッ!?」
「キャッ!?」
エメリーの起こした暴風が三人のルプス族と、ついでに彼らの足元の4両目のバヤールごと、前の方へ、結界の縁まで吹き飛ばして行く。
吹き飛ばされた4両目のバヤールが結界に激突し、轟音と共に火花を散らした。
「キャアアッ!!ギャッッ!!」
「「ラケーレ!?」」
三人のルプス族は風に吹き飛ばされながらも、暴風から脱出しようとしていた。二人の雄のルプス族は吹き飛ばされるバヤールを蹴って左右に跳び、暴風から脱出するのに成功した。だが一人のルプス族、ラケーレと呼ばれたは雌のルプス族は暴風からの脱出に失敗し、悲鳴を上げつつバヤールと結界の間に挟まれて飛び散る火花と共に押し潰された。
「サティ様!今のうちに!」
「助かりますパヤージュ!皆!今のうちに防御魔術を張るのです!」
「「「はいっ!水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って我を守り賜え、プロテクト!」」」
サティに急かされた若い魔術師達は、杖を掲げて魔術を発動させた。すると彼らの前方には僅かに光る四角形の半透明な壁が現れる。彼らの未熟さ故なのか、壁の大きさは半身を覆えるかどうか程度の頼りないモノではあるが、無いよりはマシと言ったところ。
「ラケーレ!?よくもっ!!ジーノ!お前は右から行け!」
「パオロ!おおっ!」
残った二人のルプス族が、倒れた仲間を横目に見つつ、左右に分かれて地を走る。
それを見ていたショーンが懐から取り出した小さな黒いステッキを掲げて魔術を詠唱する。
「俺が前に出る!パヤージュ!エメリー!新兵共!お前らはサティ様の守りに徹しろよ!水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って我が身体を強化せよ、ストロングボディ!」
青く輝くショーンのステッキ、僅かに光る彼の身体。身体強化魔術で自らを強化したショーンは、バトルアックスを手に右から迫るルプス族に飛びかかった。
「うおおりゃああっっ!!」
「ぬぐぉっ!?このっ!ボーフォートの雑兵如きぃぃ!ガルルアァァッッ!!」
ショーンの振り下ろしたバトルアックスをすんでのところで後退し躱したパオロ。パオロはショーンの大振りの一撃の隙を見逃さず、即座に爪での反撃に転じる。
「うおっ!?させっかよぉぉっっ!!」
「クッ!?コイツっ!!」
パオロの素早い接近に、振り下ろしたバトルアックスを無理やり振り上げて反撃するショーン。ショーンの強引な動きにパオロは身体を捩らせて振り上げの一撃を躱すモノの、無理な体勢で躱した為に咄嗟に引くことが出来ない。
「だっりゃああっっ!!」
「ゴッホォッ!?」
ショーンは振り上げた斧をそのままに、右足を突き出してパオロの腹を思いっきり蹴った。ショーンの強烈な蹴りを受け、呻き声を上げながら後方へ吹き飛んでいくパオロ。
ショーンとパオロが戦っている反対側で、ジーノと呼ばれたルプス族と、サティを守る6両目の魔術師達が戦っていた。
「サニンツ!そのままでは壁を抜かれます!密着してプロテクトを重ねなさい!!」
「は、はいっサティ様!皆!プロテクトを重ねて防御を固めろ!!1列目はしゃがんで下段防御!2列目は上段防御!!落ち着いて!訓練通りに!」
サティの指示を受けつつ、若い魔術師、6両目車長のサニンツが冷や汗をかきながら他の魔術師達に指示を飛ばす。魔術師達はサニンツの指示に従い、1列目はしゃがみ込み、2列目は立ったまま、密着しながら半身を覆う程度の魔術の壁を上下左右に重ね合わせて防御を固める。その様相は古代ローマで用いられた重装歩兵の密集陣形の戦術、ファランクスに近い。
「コォォォッッ!!」
ジーノが炎のブレスをサティ達に吹きつける。
「「「わああっ!!」」」
若い魔術師達は魔術の壁で防御しつつも、炎に巻かれ焦げ死ぬ自分を想像して恐怖の声を上げた。そんな中、一人皆に激を飛ばすサニンツ。
「慌てるな!!この陣形ならこれぐらいの炎!耐えられる!!」
彼の言う通り、ジーノの炎のブレスは重ね合わせた魔術の壁に阻まれてサティ達には届かない。そんなサニンツ達に攻撃を防がれジーノは苛立つ。
「チィッ!ガキどもがっ!!調子に乗っ……」
「そこですっ!シャープウィンド!」
「うおっ!?」
「そっち!シャープウィンド!」
「くっ!?こいつらっ!?」
新兵達の防御壁にまぎれたパヤージュとエメリーが次々とジーノに向けて風の刃を放つ。ギリギリのところで回避するジーノだったが、短縮魔術で素早く風の刃を連発してくるパヤージュ達のせいでサティに近づくことすらできない。
「オラッ!狼野郎!どうしたぁっ!?この程度かぁっ!」
「ぐっ!?こいつぅぅっっ!?」
サニンツ達の反対側ではショーンがパオロ相手に優勢に戦いを進めていた。ショーンの頭突きをモロに受けたパオロが頭部から真っ赤な血を流して怯んでいる。
「い、いい!いいぞ皆!これなら僕らでも勝てるかもしれないっ!!」
サニンツが状況に光明が見えてきたことに喜び、希望の声を上げた。
だが、状況がそれを許さない。
「コォォォッッ!!」
「!!??」
サニンツ達の側面、4両目のバヤールが吹き飛ばされた方向から、唐突に何モノかの炎のブレスが吹きつけて来た。これに素早く気付いた二名の魔術師がそちらの方向へと魔術壁を向けるも、
「わああっっ!!」
「熱っ!?燃えっ!?俺の身体がぁぁっっ!!??」
たった2枚の魔術壁では炎のブレスを防ぎきれなかった。魔術壁を突き破り襲い掛かってきた燃え盛る炎に自らの身体を焼かれ、炎にのたうち回る若い魔術師二人。
その彼らを前に、即座に走り寄って来るもう一人のルプス族。
「これぐらいで……あたしをやれると……思うなぁっ!ガルルアァァーーーッッッ!!!」
側面から炎のブレスを放ったのは、結界とバヤールに挟まれて圧死されたと思われていたラケーレだった。結界に背中を焼かれ体毛を焦がしつつ、正面からは血を流しながら、ラケーレは崩れたサニンツ達の防御陣形の側面に即座に迫る。
「皆さんっ!!」
迫るラケーレの前に、咄嗟に防御陣形の側面に入ったのはパヤージュだった。杖を掲げて詠唱をしようとするパヤージュだったが、
(間に合わないっ!?)
素早く迫るラケーレを見てもう詠唱では間に合わないと察する。彼女は素早く持っていた杖を手放し、腰に下げていた鞘付きの長剣を抜き前に出してラケーレの爪での一撃を防ごうとした。だが彼女も分かっていた。自分に剣術の心得は無い。ルプス族の、それも精鋭相手の一撃を防げるほどの腕はない。
(兄さんっ!シレヌー様っ!どうか私達をお守りくださいっ!)
一昨日、自分をゴブリンの毒矢から庇って死んだ兄の剣を構えながら、パヤージュは兄と自らの信仰する女神に祈った。
そして振り下ろされるラケーレの爪、響く金属音。
(……??)
思わず目を瞑っていたパヤージュは、いつまでもラケーレからの一撃が来ない事を不思議に思いつつ、ゆっくりと目を開けた。するとそこに居たのは、真っ白な翼に、片手に取り回しの良さそうなショートソードと円形の盾を持った黒い鎧を纏った天の使い、戦乙女の背中。
「パヤージュ・パヤヴェール、これより対象の護衛戦闘に入ります。指示を」
「ぐぅっ!?」
パヤージュを守ったのはヴァルキリー・アリアーヌだった。彼女は涼しい顔で相変わらずの無機質な物言いをしながら、円形の盾、ラウンドシールドでラケーレの爪を防ぎつつ、シールドを押し出してラケーレを奥へと吹き飛ばす。
「アリアーヌさんっ!!」
「アリアーヌ!?」
突然のアリアーヌの登場にパヤージュとサティが驚きの声を上げる。
「ヴァルキリー!?なんでここにもヴァルキリーがいるのさ!?なんでヴァルキリーがエルフを守る!?なんでヴァルキリーがボーフォートに協力してる!?」
同じく疑問の声を上げるラケーレ。ラケーレは天の使いであるヴァルキリーがボーフォート軍に味方していることを不思議がっているようだが、まさかアリアーヌが千歳の魔眼の効果によって傀儡となっているだけとは思うまい。
「パヤージュ・パヤヴェール、指示を」
「えっ?」
「指示を」
アリアーヌはパヤージュに背中を向けたまま、無機質な声で彼女に指示を仰ぐ。突然指示を仰がれたパヤージュは戸惑いの表情を見せる。
「アリアーヌさんっ!た、戦えるのですか!?」
「各部異常なし、戦闘可能です」
パヤージュの質問にさらりと戦えると答えるアリアーヌ。パヤージュは少し迷ったが、左右で続いている戦闘を見て直ぐに真面目な表情に持ち直し、アリアーヌへと指示を飛ばす。
「ア、アリアーヌさんっ!ここに居る皆さんを守りつつ、ここのルプス族の人達を無力化してくださいっ!……出来ますか?」
少し自信なさそうにアリアーヌへと指示を飛ばしたパヤージュ。そんなパヤージュの指示を聞き、アリアーヌはショートソードとラウンドシールドを構えながら答えた。
「パヤージュ・パヤヴェールよりの指示を了解。対象の無力化を最優先。前方のルプス族を第一目標に設定。左右のルプス族を第二、第三目標へと設定。行動開始」
そう言ってアリアーヌは剣と盾を構えたまま前方のラケーレへと突撃する。
「こいつっっ!?あたしだってもう少しで英雄なんだっ!!ヴァルキリーぐらいっ!!」
ラケーレは迫るアリアーヌに対して吠える。ラケーレの言う通り、彼女もそこそこ腕に自信があったのだろう。両手の爪を構えたまま、正面からアリアーヌを迎え撃つ形になるラケーレ。そんなラケーレにアリアーヌは盾を前面に押し出したまま突っ込んで行く。
「そんな盾がなんだってのさぁぁっっ!!」
「閃光盾」
突如アリアーヌの円形の金属盾が眩く光輝いた。
「くっ!!??」
ラケーレはアリアーヌの盾の光によって一時的に視覚を奪われ怯む。そしてその隙はこの戦いでは致命的なモノになる。
この隙を見逃さなかったアリアーヌが、怯んだラケーレの手足を手に持ったショートソードで素早く斬りつけた。
「あぐっ!?ぎゃあっ!!??」
両手両足から血を流しながら仰向けに倒れるラケーレ。そんな倒れたラケーレに手を向けながらアリアーヌは無機質な声で言う。
「筋の戒め」
「うあ゛っ!?」
アリアーヌの手から出現した刺付きの紐。それがラケーレの身体に巻き付き、彼女を大地へと縛り付けた。
「これぐらいでぇぇっ!!もがっ!?ん゛ん゛っ!?ん゛ん゛~~~っっっ!!??」
縛られたまま暴れるラケーレであったが、アリアーヌの放った刺付きの紐がラケーレの口までも縛り上げ、完全に動けなくしてしまう。
アリアーヌはそんなラケーレの姿を見届けた後、パヤージュへと振り向いて言った。
「第一目標の無力化を確認。続いて第二目標の無力化を開始します」
お読みいただきありがとうございます。
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脇キャラ奮闘回。