表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

 9話


 日が沈む直前、オレは迷宮都市の門前に到着した。


「やっと着いた、疲れた~」


 身体強化で半日走り、4対1の戦闘をして、また身体強化で今度は半日以上走って戻る。いくらマジックバッグに詰め込んであるとはいえ、行きのように手ぶらじゃない分走りにくい。

 それにこのマジックバッグ、重さまでは軽減されないみたいでクソ重かった。そのうえ、帰り道はあやふや。

 とにかく、尋常じゃなく疲れた。やっぱり訓練と実践は違う。


「そうか、そんなに疲れたか。だが、身分証が無いなら都市内には入れられないな」

「身分証?

 ・・・・・・・・

 あ! 持ってる持ってる! はいこれ!」

「・・・・・・・・ 確かに。

 ・・・・・・・・ 迷宮都市へようこそ」


 門番のおじさん、めっちゃ軽蔑の目で見てくる。やっぱり途中の川で体洗うべきだったかなぁ。汗と泥と返り血でドロドロ。

 オレだって逆の立場だったら、こんなドロドロの奴街に入れたくないって思う。


「おじさん、衛兵の詰所ってどこ? これ持ってく約束なんだ」


 夜明け前に出てきたけど、結局着いたのは夕方頃。でもみんな待ってるだろうし、早く届けた方がいいよね。


「ああ、なるほど。お前が竜騎士のなり損ないか」

「!? 何でそれを!?」


 確かに事実だけど、何でこのおじさんが知ってるの!? 誰が言いふらしてるんだ!


「聞いたぜ~? この間まで騎士学校の竜騎士科通ってたんだって?

 それが今の時期こんな所ふらふらしてたら、馬鹿でも分かるぜ。

 お前、竜騎士団入れなかったんだろ?」


 だったら何だって言うんだ! おっさんには関係ない!


「・・・・・・・・ それより衛兵の詰所教えて」

「教えるまでもねぇ。オレも衛兵だよ、オレに預けな」

「やだ、自分で持ってく」


 なんかこのおっさんやだ。いまいち信用できない気がする。


「チッ! おい! 誰か案内してやれ!」


 舌打ちしやがった。やっぱり横流しとか着服とか横領とか考えてたんだ!


 オレは荷物をしっかり持って案内人の後を着いて行き、詰所の衛兵に事の顛末を話した。御者のおじさんの話と概ね同じだと言ってた。

 その衛兵によると、手続きやら何やらで少し時間が掛かるとの事で、隣の宿舎に泊まっていけと言われた。宿とってなかったからラッキーって思ったのは、あてがわれた部屋を見るまでだった。

 扉は金属で補強され、窓には鉄格子。部屋は狭く、半分がベッドという有り様。おまけに壁は石造りと、まるで牢獄だ。

 これは、オレ疑われてる?


「ホントにこの部屋?」

「ああ、宿泊費は気にしなくていい。こちらの都合で待たせるんだ、払う必要はない。

 手続きや書類の確認はもう少し掛かるそうだ。

 まぁ、朝までゆっくり休むといい」

「晩ごはんと朝ごはんは? それとお風呂とトイレ」

「飯は後で届ける。風呂はないが便所は声掛けてくれれば案内する。他には? 無いなら俺はこれで」


 容疑者だ! いつのまにかオレ容疑者になってる! ご飯もきっと扉のあの小窓から渡されるんだろうなぁ。何もしてないから大丈夫だと思うけど。

 あ! ララ連れてくるの忘れた!


「待って! あの荷物の中にアラクネ居るんだ! オレのき、ペットの! ちょっと行ってくる」

「待て! 俺らも同行しよう。君だけだと説明に時間が掛かるだろう」


 両脇を衛兵に固められている。

 これ完全に容疑者だ。いやむしろ既に犯人扱いなんじゃ? でも手錠かけられてないしなぁ。

 まぁ、何もしてないし、堂々としてよう。


 荷物を広げてララを拾うと、また部屋に戻された。こいつまだ寝こけてやがる。周りが暗いうちはずっと寝てるのかなぁ?

 オレも寝よう。

 思えば、昨日の朝から1度も休んでいない。ネクロマンサーのねぐらを見張ってた時は、気を張ってたからむしろ疲れたし。お腹もすいてるけど晩ごはんはいいや。

 なんだか、休もうと思ったら急に眠くなってきちゃった。

 おやすみなさい。




 牢みたいな部屋だったけど、ベッドの質は最悪って程じゃなかったし、頑丈な造りだからすきま風もなかった。

 たぶん監視も居たんだろうけど、扉越しじゃ気にならないし、何より、疲れてたからぐっすりだった。案外、快適な夜だったんだ。

 だけどその分、朝が酷かった。


「イタッ! イタイ! 何!?」

「ギャー!!」


 痛みで飛び起きると、ララがオレのお腹の上で地団駄踏んでた。鼻噛まれてめっちゃ痛い!


「ギャー!!」

「なんなの? もぉ!」

「ギャー!!」


 しょぼしょぼの目でよく見ると、ララはお腹を押さえていた。確かこれは、『お腹すいた』のポーズだ。そういえばオレもララも、3日前の晩から何も食べていない。

 それに気づいたら、オレも急にお腹すいてきた。


「ねぇ、朝ごはん食べたいんだけど、」


 案の定、扉の横には監視の衛兵がいた。


「あん? 朝メシだあ? いつまでも寝てっから食いっぱぐれんだよ」

「じゃあ、どこかで食べてくる」

「駄目だ。今手続きの最中だからもうちょっと待ってろ」


 ララは賢い。

 まだちっちゃくて、たぶん生まれたばっかりなんだろうけど、賢いんだ。人の言葉分かるみたいだし。

 だから、今の衛兵の言葉でご飯食べれない事を悟ったんだと思う。


「ギャー!!」

「いやー!!」


 オレはララが疲れて眠るまで、八つ当たりで噛まれまくった。

 昨日の晩、ララと一緒に干し肉も取ってくるんだった。そしたらこんなに噛まれなかったのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ