9話
日が沈む直前、オレは迷宮都市の門前に到着した。
「やっと着いた、疲れた~」
身体強化で半日走り、4対1の戦闘をして、また身体強化で今度は半日以上走って戻る。いくらマジックバッグに詰め込んであるとはいえ、行きのように手ぶらじゃない分走りにくい。
それにこのマジックバッグ、重さまでは軽減されないみたいでクソ重かった。そのうえ、帰り道はあやふや。
とにかく、尋常じゃなく疲れた。やっぱり訓練と実践は違う。
「そうか、そんなに疲れたか。だが、身分証が無いなら都市内には入れられないな」
「身分証?
・・・・・・・・
あ! 持ってる持ってる! はいこれ!」
「・・・・・・・・ 確かに。
・・・・・・・・ 迷宮都市へようこそ」
門番のおじさん、めっちゃ軽蔑の目で見てくる。やっぱり途中の川で体洗うべきだったかなぁ。汗と泥と返り血でドロドロ。
オレだって逆の立場だったら、こんなドロドロの奴街に入れたくないって思う。
「おじさん、衛兵の詰所ってどこ? これ持ってく約束なんだ」
夜明け前に出てきたけど、結局着いたのは夕方頃。でもみんな待ってるだろうし、早く届けた方がいいよね。
「ああ、なるほど。お前が竜騎士のなり損ないか」
「!? 何でそれを!?」
確かに事実だけど、何でこのおじさんが知ってるの!? 誰が言いふらしてるんだ!
「聞いたぜ~? この間まで騎士学校の竜騎士科通ってたんだって?
それが今の時期こんな所ふらふらしてたら、馬鹿でも分かるぜ。
お前、竜騎士団入れなかったんだろ?」
だったら何だって言うんだ! おっさんには関係ない!
「・・・・・・・・ それより衛兵の詰所教えて」
「教えるまでもねぇ。オレも衛兵だよ、オレに預けな」
「やだ、自分で持ってく」
なんかこのおっさんやだ。いまいち信用できない気がする。
「チッ! おい! 誰か案内してやれ!」
舌打ちしやがった。やっぱり横流しとか着服とか横領とか考えてたんだ!
オレは荷物をしっかり持って案内人の後を着いて行き、詰所の衛兵に事の顛末を話した。御者のおじさんの話と概ね同じだと言ってた。
その衛兵によると、手続きやら何やらで少し時間が掛かるとの事で、隣の宿舎に泊まっていけと言われた。宿とってなかったからラッキーって思ったのは、あてがわれた部屋を見るまでだった。
扉は金属で補強され、窓には鉄格子。部屋は狭く、半分がベッドという有り様。おまけに壁は石造りと、まるで牢獄だ。
これは、オレ疑われてる?
「ホントにこの部屋?」
「ああ、宿泊費は気にしなくていい。こちらの都合で待たせるんだ、払う必要はない。
手続きや書類の確認はもう少し掛かるそうだ。
まぁ、朝までゆっくり休むといい」
「晩ごはんと朝ごはんは? それとお風呂とトイレ」
「飯は後で届ける。風呂はないが便所は声掛けてくれれば案内する。他には? 無いなら俺はこれで」
容疑者だ! いつのまにかオレ容疑者になってる! ご飯もきっと扉のあの小窓から渡されるんだろうなぁ。何もしてないから大丈夫だと思うけど。
あ! ララ連れてくるの忘れた!
「待って! あの荷物の中にアラクネ居るんだ! オレのき、ペットの! ちょっと行ってくる」
「待て! 俺らも同行しよう。君だけだと説明に時間が掛かるだろう」
両脇を衛兵に固められている。
これ完全に容疑者だ。いやむしろ既に犯人扱いなんじゃ? でも手錠かけられてないしなぁ。
まぁ、何もしてないし、堂々としてよう。
荷物を広げてララを拾うと、また部屋に戻された。こいつまだ寝こけてやがる。周りが暗いうちはずっと寝てるのかなぁ?
オレも寝よう。
思えば、昨日の朝から1度も休んでいない。ネクロマンサーのねぐらを見張ってた時は、気を張ってたからむしろ疲れたし。お腹もすいてるけど晩ごはんはいいや。
なんだか、休もうと思ったら急に眠くなってきちゃった。
おやすみなさい。
牢みたいな部屋だったけど、ベッドの質は最悪って程じゃなかったし、頑丈な造りだからすきま風もなかった。
たぶん監視も居たんだろうけど、扉越しじゃ気にならないし、何より、疲れてたからぐっすりだった。案外、快適な夜だったんだ。
だけどその分、朝が酷かった。
「イタッ! イタイ! 何!?」
「ギャー!!」
痛みで飛び起きると、ララがオレのお腹の上で地団駄踏んでた。鼻噛まれてめっちゃ痛い!
「ギャー!!」
「なんなの? もぉ!」
「ギャー!!」
しょぼしょぼの目でよく見ると、ララはお腹を押さえていた。確かこれは、『お腹すいた』のポーズだ。そういえばオレもララも、3日前の晩から何も食べていない。
それに気づいたら、オレも急にお腹すいてきた。
「ねぇ、朝ごはん食べたいんだけど、」
案の定、扉の横には監視の衛兵がいた。
「あん? 朝メシだあ? いつまでも寝てっから食いっぱぐれんだよ」
「じゃあ、どこかで食べてくる」
「駄目だ。今手続きの最中だからもうちょっと待ってろ」
ララは賢い。
まだちっちゃくて、たぶん生まれたばっかりなんだろうけど、賢いんだ。人の言葉分かるみたいだし。
だから、今の衛兵の言葉でご飯食べれない事を悟ったんだと思う。
「ギャー!!」
「いやー!!」
オレはララが疲れて眠るまで、八つ当たりで噛まれまくった。
昨日の晩、ララと一緒に干し肉も取ってくるんだった。そしたらこんなに噛まれなかったのに。