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 8話


「ハハハハハ! 酷いなぁ!

 僕だけなら兎も角、愛する妻たちまで!!」


 さっきまでの頭沸いてる感じじゃない!

 凄まじい気迫の男がそこにいた。魔術師特有の、感情に触発され暴走気味の魔力が 部屋中に渦巻いている。

 いやそれよりも、奴は殺した筈だ!


「僕はねぇ、故郷の街で迫害にあってから身体の1部が死んでいるんだ。

 シンゾウとかねえ!!」


 死体でこの魔力量!


「リッチ!」


「ハハハハハ!! 言っただろう?? 死んでいるのは1部だけ!! 僕はニンゲンだあ!!」


 死んでるのに生きてるって事?

 ヤバい!

 意味が、と言うよりタネが分からない。そのからくりが分からないと対処のしようがない!


「ハハハハハ!! 焦ってるねえ!! 僕が何か分からなくて恐ろしいかい?? 答えは簡単さあ!!

 僕はネクロマンサーだ!!」


 ネクロマンサー!? そうか! そう言う事か!


「そう!! 僕はネクロマンサーの力で止まった心臓に代わり、全身に魔血を巡らせているのさ!!」


 魔血ってたしか、


「死体に入れる錬金化合物」


 こいつ、そんなもの身体に入れてるのにまだ自分が人間のつもりか!


「ハハハハハ!! よく知ってるねえ!!

 心臓が止まれば血は固まり、人は動けなくなる!! だから魔血を用いる!!

 そして僕は!! 僕が死なない限り永遠に行き続けられる!! 永遠に愛しあう事ができる!!

 さあ!! もう動けるだろう?? 僕の愛する妻たちよ!!」


 斬り殺した筈の女達が立ち上がった。

 たしか、いくらネクロマンサーと言えど白骨化してない死体をいきなり動かすのはできない筈だ。そうじゃなければ魔血の存在理由がない。

 つまり、あの3人の女も元々死んでたんだ。


「ああ!! 酷い姿だ!! 耐えられない!! ドレスアップだよ!! みんな!!」


 死体から傷が消えた。いや、消えたと言うより、巻き戻った? 床には血の一滴も落ちていない。

 そのうえ、魔装を使いやがった。一見すると只のドレスなのに、感じられる魔力量がえげつない。

 あれは骨が折れる。ってか相手したくない。


「ああ!! あああ!!

 綺麗だ!! みんなとっても綺麗だよお!! 我慢できそうにないよお!!

 ああ!! ああ!! 今すぐ愛しあいたい!!

 速く!! 速くそいつ殺してよお!!」


 出しっぱなしの股間を弄りながら、もじもじ身もだえる全裸男。気持ち悪い。

 さっさと殺そう。もうためらいとか、後悔とか、罪悪感はない。ただただ気持ち悪い、あの男も、あの女も、あの女を友達だと思ってたオレ自身も。ひたすらに気持ち悪い!


 オレは死体に斬りかかった。

 魔装は堅いし、死んでるから致命傷も無い。どんなに傷ついてもネクロマンサーが再生してしまう。奴を直接狙えれば良いのに、3体のうち1体が常に、奴とオレの間に位置どっている。

 それでもやりようはある。今のオレは、身体強化に加えて、おばさん冒険者の補助魔法を受けている。4対1でも、奴らをうまく出し抜いてみせる。


「ハハハハハ!! 君は強いなあ!! でも僕の愛する妻たちはもっと強い!! そおおれええ!!」


 !?

 死体の動きが変わった。

 今までは素人剣術だったのに、明らかに何処かの流派の動きだ。このままじゃまずい。

 1度距離をとろう。


「ハハハハハ!! 驚いたかい?? ネクロマンサーは死体を操るだけじゃない!! 死者の魂を呼びだし憑依させられるんだあ!! ハハハハハ!!」


 やっかいだ、こいつ!


「因みに彼女達は元A級冒険者さ!! ダンジョン奥で彷徨っていたのを失敬したんだ!! 君のお友達は紫の子だよ!! ハハハハハ!!」


 挑発だって事くらい分かっている。でも頭に血が登っていくのを感じる。

 紫の魔装の死体が手を振ってくる。他の2体も目があうとウインクや投げキッスをしてきた。

 彼女達は、もう死んでるのに、こんなクズに使役されてるのに、明るかった。

 明るく、馴れ馴れしく、適度に下品、彼女達はまさしく冒険者だった。

 彼女達が可哀想になってきた。登った血が降りてくる。


「あんたらパーティーだったの?」

「そ~よ~。私らは冒険者クラン『レディパンサー』!」

「結構有名だったよね~。取材受けたりさ!」

「モテたよね~? どこ行ってもファンがいたりでね!」

「レディパンサー。覚えておく」


 パーティーをクランって言うのは、確か隣の国だった筈。さっさとネクロマンサーを殺して彼女達を開放してあげよう。


 どんな傷も奴が即座に再生させるというなら、バレない傷を着ければいい。

 今彼女達が憑依させられている身体は、痛覚が機能していない。その方が戦闘に有利と考えて、奴がわざと痛覚を切ってるんだと思う。死体だからこそできる無茶苦茶な戦術だ。

 つまり、手足の腱をバレないように斬る作戦。

 これならいけるはず!


 先ずは1人目! 一瞬だけ身体強化を強めて、手足の腱を浅く断つ。そして彼女にバレて奴に報告される前に、思いっきり蹴っ飛ばす!


「ハハハハハ!! これくらいの傷、すぐ直せるよお!! 

 あれ?? あれあれあれ??

 どおした!! 何故立たない!! 速く立って戦えよお!!」


 奴が魔力をけちって分かりやすい傷しか直さないのは、何度か試してもう分かっている。


 奴が混乱している隙に、2人目も同様に斬って蹴っ飛ばす! 壁にぶつかる音で気づかれたが、もう遅い。3人目もとらえた!


「まだまだだよお!! ここからさあ!!」


 奴は再生を一旦保留し、3人目に力を注いでいく。

 だが3人目は馴れない強い力に初動をしくじった。立て直しを計り力をセーブしたその隙を突き、奴が取り乱すように3人目の首をはねてやった。

 最後は奴本人だ!


「ハハハハハ!! 無駄さあ!! 僕はネクロマンサーだ!! 首が飛んだくらいじゃ取り乱さないよお!!」


 だが、もう奴を守るものは何もない。とった!


「ハハハハハ!! ザァンネン!! 僕には魔装がある!! 3人に使っていた力を!! 僕1人でえええ!!!!

 僕の鉄壁の魔装!! 君の力は届かないいい!!!!」

「オレにだって魔装はある!!」


 竜騎士には魔法の指輪が与えられる。それは学生も例外ではない。オレも貰った。

 この指輪は、魔力とイメージを込めればどんな武器でも再現できる。ただし、武器だけだ。奴のように、ドレスに鎧に武器といった風にはできない。

 だが、今この場においては関係ない! あの鎧を砕いて、奴を殺しきる武器があればそれでいい!


「ハハハハハ!! 君の魔装なんて屁でもなあい!!!!」

「くたばれぇええええ!!!!」


 オレは手の平から破城槌を出現させ、奴の心臓目掛けて撃ち出した。

 魔力で作られた破城槌が奴の上半身ごと壁にめり込み、役目を終えて消えた。消えた破城槌の跡には大きな穴が残っている。

 オレの魔装を直接くらった上半身は、原形を残さず壁の染みになっており、壁に打ち付けられただけの下半身も、破城槌が消えると同時に倒れ汚い尻を晒した。

 3体の死体ももう動かない。それに腐敗が急速に進み、嫌な臭いが漂いだしている。速く荷物を取り戻して迷宮都市に向かおう。


「!!!! あれだけでかい音したのにこいつまだ寝てんの!?」


 ララは、戦闘の余波で荷物の上から転がり落ちていたが、相変わらず幸せそうに寝こけていた。 


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