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 5話


「おじさ~ん! この馬車って迷宮都市行く?」

「おう! 迷宮都市行きだ。乗るか? 乗るなら切符買ってきて来な」

「もう持ってる、はい」

「まいど。向こうまで5日は掛かるからよ、準備があるなら今のうちに済ませてきな」

「大丈夫、全部できてるから」


 元々孤児院育ちだし荷物は少ないんだ。リュックには毛布と保存食、腰には小太刀と短剣、バスケットには騎竜のアラクネが入って居る。


「もう乗っても良い?」

「おう」


 幌つきの馬車だ。大勢乗れて安い分、乗り心地は良くない。

 でもそんなのは貴族とか金持ちの理屈であって、オレら庶民には普通の乗り心地だ。まぁオレは初めて乗るんだけど。


「時間だ。出すぞ! 良いか?」

「おー! 頼むぜ! おっさん」


 御者のおじさんの問いかけには、最後に乗った人が答える。うん、師匠から聞いていた通りだ。これ知らなかったらたぶん、オレ、返事しちゃってたな。


 馬車は何事もなく進んでいく。天気が良いからって幌の脇を捲ったくらいで、1日目は終わった。隣に座ったお姉さんと仲良くなった。


 2日目はちょっと曇ってた。それでついにバスケットのアラクネがバレた。最初はみんなビビってたけど、オレやお姉さんが噛まれても大したことないって分かると、安心したみたいだった。噛まれたかいがあるってもんだ。


 3日目はみんながちょっとずつお菓子や干し肉をくれた。もちろんアラクネにだ。こいつ食いもん貰うときは愛想が良いんだ。


 4日目、昼頃からついに降りだした。朝からずっとどんよりしてたからな。雨がうるさくておしゃべりできない。


「今日は此処までだな。夜営の準備だ!」


 御者のおじさんの掛け声でみんな一斉に動きだす。乗客って言っても皆で準備する。協力すると早いし、屋根代わりの幌を木々の間に張り渡すのは、大勢居ないと大変だ。

 それに料理当番を順番でやるといろんなのが食べれるんだ。これが楽しい。同じ料理でもちょっとずつ違ったり。家庭の味ってやつだ。


「おじさん、明日はいつ頃着くの?」

「道の具合にもよるな。ひどけりゃ着くのは明後日だ」


 明日は晴れますように。それと、いいかげんアラクネに名前着けてやらないと。

 う~ん、そうだ! オレがルルだからララでいいや。

 おやすみなさい。




 5日目の朝はとってもうるさく始まった。


「あ! 俺のもねえ!!」


 誰かの叫び声で目が覚めた。中々ひどい目覚めだ。

 どうしよう、寝ボケ頭が全然動いてくれない。なんか、皆がワチャワチャしてるけど、何があったんだろ? さっぱり分からない。誰かに聞くか。


「何? 何の騒ぎ?」

「あの女が居ねえ! そうだ! てめえあいつと仲良かったろ! てめえもグルか!」

「オレと仲良かった? ・・・・ あのお姉さん? 居なくなったの? 何で?」

「盗賊! どろぼう! 盗っ人! 持ち逃げ! こんだけ言や分かるだろ! てめえの荷物調べさせてもらうぞ! あの女とグルかも知れねえ!」


 見られて困る物はない。でも何となくやだな。でも抵抗したらヤバいのは分かる。


「ち! 何もねえ! おい! そのバスケットも見せろ!」


 これにはアラクネ、じゃなくてララが入ってるだけだ。


「おい! あの蜘蛛はどうした!」

「居ないの?」


 そんな筈はない。ララは小さいからか、オレより寝坊助だ。これだけの騒ぎだと一旦起きるかもだけど、自分に関係無いって分かるとまた寝ると思う。

 だから居ないって事はない筈なんだ。

 でも確かにバスケットは空だった。探さないと。


「おーい! ララー! アラクネのララー!」

「蜘蛛ちゃんも盗まれちゃったの?」


 護衛で乗ってきた冒険者の1人、魔術師のおばさんもいろいろ盗まれたみたいだ。杖の先端に付いてた宝石が無くなってる。


「ねえ、あんた達。蜘蛛ちゃん見てない? 蜘蛛ちゃんも盗まれちゃったみたいなの」


 おばさんの一言で、皆がララ探しを手伝ってくれた。


「ララは人望があるなぁ」

「そりゃあね。馬車旅は娯楽が少ないし皆のアイドルだったもの。それに、物よりも命の方が大事よ」


 そっか、命の方が大事、か。軍人は場合によっては死んでこいって命令も出るらしいし。

 冒険者と軍属の竜騎士とじゃ、結構違うんだなぁ。


 ん? 竜騎士? 


 何か引っ掛かる。こういう時の事、習った気がする。

 う~ん?


「ほらほら、首かしげてないであなたも探す! 契約者でしょ?」

「契約者!」


 思い出した! 感応力だ!


「そうだった! これがあるんだった! 寝起きにしたってボケ過ぎだ!」

「な、何? 急に大声出して」

「感応力だよ!感応力! 竜騎士はどんなに離れても騎竜の位置が分かるんだ! 感応力を使えば!」


 オレはあまり得意じゃなかったから忘れてたんだ、きっと。


「あの蜘蛛も盗まれたってんなら、犯人も捕まえられるか?」

「あのお姉さんが戦闘訓練受けてないならできると思う」


 早く迎えに行かないと、今も少しずつ遠ざかっている。


「じゃオレ行ってくる。たぶん今日中には戻れないけど、何処に届ければ良い? みんな此処で待ってる?」

「もう迷宮都市が近い。門のすぐ側に衛兵の詰め所があるからよ、そこに届けてくれ。俺らが先行って説明しとくからよ。

 頼むぜ?」


 御者のおじさん、こうゆうの慣れてんのかな? すらすらって説明してる。


「あたしらは馬車の護衛だから行けないよ。1人じゃ無理そうな時はちゃんと戻るんだよ? 命あっての物種だからね」


 うん、分かってる。オレは自分の実力をわきまえてるし、逃げ回るのに何の恥も感じない。だからきっと、1人でも大丈夫。

 それからオレは、激励されたり、念を押されたり、おばさんに補助魔法を掛けてもらったりしながら、ララの居るっぽい北の森に突入した。


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