主役級脇役男子
「竜騎士とは野生のドラゴンを捕まえて調教したり、人が孵したドラゴンを譲り受けたりする訳ではない。特殊な召喚陣で騎竜を召喚するのだ。
故に竜騎士とは、騎士であり、サモナーであり、テイマーでもある」
今のは、オレが師匠の弟子になって最初の言葉だ。
オレは騎士学院の竜騎士科に進み、そこで師匠に出会った。竜騎士科は徒弟制度が用いられ、1人1人に先輩竜騎士が師匠としてつけられる。
そしてオレは師匠の元で3年間、竜騎士になるための厳しい修行を積み、今日、騎竜召喚儀式にのぞむ。期せずして、今日はオレの16歳の誕生日でもある。バースデーパーティーを盛り上げる為にも、最高の結果を出さねばならない。
「竜騎士と言っても、俺のように竜族以外が召喚される可能性がある。それだけは覚悟するように」
「師匠の騎竜はワイバーンでしたね」
どんな生き物が召喚されようと、竜騎士が乗れば、それは騎竜と呼ばれる。それが例えブタであろうと、また、背に乗れないイヌやネコであろうとも、だ。
「そうだ。だが例え、どんな騎竜が来ようとも乗りこなして見せる、それが竜騎士だ。
それではおさらいといこう。
騎竜召喚儀式の魔法陣は、三位一体になっているタイプだが、その内訳と優先順位を答えよ」
「はい! 師匠!
3つの陣はそれぞれ相性、サイズ、竜族を司っています。優先順位は高い順に、相性、サイズ、竜族です」
「そうだ。
つまり、相性がとてつもなく良ければ他の2つは無視されてしまう。
と言っても大概は竜族に近いのが召喚される。亜竜や蛇などだ。人間が召喚された、なんて与太話もあるが、君は気にしないだろう?」
「はい! 師匠!」
「よし! その意気だ! 尻込みする必要はない!」
尻込み? オレがこの程度でビビる訳がない!
1対1の徒弟制度が敷かれている竜騎士科の中でも、オレは常に1番だった。そしてオレの師匠も講師達の中で1番の実力者だ。
そう、オレ達師弟はこの3年間、常に1番だった。
竜騎士科の教師達だけではなく、騎士学校、さらにその先の騎士団までも、全員がオレに期待をしている。
そんなこのオレが、しくじる訳がない!
「ではそろそろ行こうか。成績順だろう?
皆に君の力を見せつけて来い!」
「はい! 師匠!」
オレはこの日の為に努力してきた。そして昨晩は『世界ドラゴン図鑑』を読み込んできた。どんなドラゴンが来てもオレなら乗りこなせる!
だが欲を言えば、オレもに来てほしいドラゴンが3種いる。
不死鳥を喰らいその力を身に宿した『不死竜』
全属性の魔法適性を持ち神に最も近いとされる『魔天竜』
金属と宝石の身体を持ち攻防ともに最強の『金剛竜』
分かっている! この3種が『幻想種』と呼ばれている事くらい! お伽噺の中の存在だって事くらいオレも分かっている!
だから言ったじゃないか! 欲を言えばって。
「流石に緊張しているようだが、大丈夫か? 手順は覚えているか?」
「・・・・ 大丈夫です。
まずは魔法陣の中央に立ち、3つの陣に順番に血を垂らす。それから地面を強くノックする!」
「強く程度ではダメだ!
全身全霊!! 後先考えず、思いっっきり叩け!! 弱いノックじゃ弱いドラゴンしか来てくれない!!」
「はい! 師匠!!
うぉおおおおオオオオアアアアアアアア!!!!」
オレは師匠の助言通り、大地を思いっきりノックした! 陣の数だけ、3度だ!
1度目で右拳の骨が砕けた。
2度目で左拳の骨が砕けた。
3度目は両手を組んで叩きつけた。
足元の魔法陣が光り、連動して、離れた位置にあるドラゴンが召喚される魔法陣も光り出す。
だんだん強くなる光が、最後に一際輝くと、その中に巨大なシルエットが現れた。
光がおさまると、オレのドラゴンが力強く吼えた。
『ゴォオオオオオオオオン』
スゴイ! 凄いぞ!! 予想以上だ!!!
「あ、ありえない」
馬鹿な教師が現実を見れずに腰を抜かしていた。
「ありえない! 1度に3体ものドラゴンを召喚するなんて!」
ありえない? あり得るんだよ! このオレなら!!
「そ、それに3体とも幻想種だと? あり、
ありあり、え、」
クソザコ教師はそこで失神した。雑魚が!!
オレが手を差しのべると、不死竜、魔天竜、金剛竜の3体が近寄って来た。
「よしよし、よく来てくれたオレのドラゴン達。今から名前を、うぐあ!」
あまりの結果に忘れていた。オレの手はぐちゃぐちゃになっていたのだった。
だが魔天竜の1舐めで治ってしまった。
「フハハハハ!! いいぞ!! 最高だ!!」
「おめでとう。よくやったな!」
「師匠!! 見てくださいよ!! オレのドラゴン達を!! 師匠のお陰ですよ!! 師匠の助言のお陰で、最高の結果が得られた!!
ありがとうございます!! 師匠!!
クハハハハハハハ!!」
「俺も師匠として鼻が高い。
お前なら、お前達なら、歴代最高の竜騎士も夢じゃない!」
師匠は間違ってる。師匠はオレにとって最高の師匠だが、唯一の欠点はオレを過小評価している事だ。
オレはこの時点で既に歴代最高最強なのだ!! それは疑いようがない事実だ。
そして伝説の存在を従えたオレは、
今!! この瞬間から!! 伝説の竜騎士としての道を歩み始めたのだ!!
「はい!! 師匠!! 必ずや歴代最高の竜騎士になってみせます!!」
だが、謙虚さは大事だ。それに師匠の顔も立てねばなるまい。
「ねえマスター、何時までこうしてるの? ボクお腹空いちゃったよ」
「しゃっ、喋った!? ド、ドラゴンが喋った!? う~ん」
また別のクソザコ教師が失神した。
どうやら幻想種は人語を解するらしい。今話したのは不死竜だが、魔天竜と金剛竜も頷いている。確実に話せるだろう。
「幻想種が3体か。餌代が大変だな」
「頭の痛い話です」
師匠の言う通りだ。軍属になれば騎竜の餌代が支給されるが、それまでまだ1ヶ月ある。いくら公爵家嫡男といえど、常に大金を持っている訳ではない。今の手持ちでは1週間持つかどうか。どうしたものか。
「マスター困ってる。大丈夫、こうすれば解決」
魔天竜の一言でドラゴン達が縮んでいく。縮む過程で徐々にシルエットが変わり、人になった。
「マスター、これで食費問題解決?」
「ああ、バッチリだ!」
オレの目の前には、3人の美少女が立っていた。それぞれの個性を表すような服を着ている。どうせなら全裸だったら良かったのに。
「マスター、あたしらはマスターと繋がってる。だからある程度考えてること分かるんだ。
今エッチぃこと考えてたろ? なら早く部屋行こうぜ?」
「待って、まずは食事が先。腹が減っては戦はできぬ」
「マスターマスター! ご飯もエッチもボクが1番だからね!」
無条件に美少女から好かれる!! 悪くない!! 悪くないぞ!!
「初見でここまで好かれると言うのは、まず無いんだがな。規格外な奴だよ、君は」
師匠もやっとオレの過小評価を改める気になったか。
「はい!! ありがとうございます!! 師匠!!
それではこれで失礼します!! オレはこいつらの腹を膨らませに行ってきます!!」
「意味深な発言だな」
そしてオレは食堂で料理を大量に買い込み、暫く部屋から出なくてもいい体勢を作った。
書いてるうちに「こいつ嫌い!」となり主人公からおろしちゃいました。今回限りの主人公であり、2話目からはほぼ出ません。